目次
基本を押さえる:通常の枠張り(生地を挟む方法)
Brother SE1900のような単針機に限らず、まず現場の現実として受け止めたいのはこれです。枠張りは作業の8割。刺繍の「土台づくり」です。ソフトや糸が良くても、枠張りが甘いとデザインが動き、アウトラインが合わず(位置合わせ不良)、最悪は製品を戻せなくなります。
このガイドは手順の丸暗記ではなく、生地を動かさないための管理(ファブリックコントロール)を身につける目的でまとめています。扱うのは業界でよく使われる3つのワークフロー:通常の枠張り(生地を挟む)、フローティング(スタビライザーのみ枠張り)、そして現場で標準になりつつあるマグネット刺繍枠です。

狙いはシンプルですが厳密です。変数を固定する。刺繍アームに対して、生地が相対的に動かない状態を作ります。

枠の構造と「矢印チェック」(ここを飛ばさない)
動画内でJeanetteが強調している、初心者が見落としがちなポイントが「矢印(△)の向き」です。刺繍枠は基本的に 内枠(インナー) と 外枠(アウター) の2パーツ。上側(機械に装着する側)に、成形された矢印や三角マークがあります。
なぜ重要か(物理的な理由): プラスチック枠は完全な左右対称ではなく、1方向で噛み合うように作られています。向きを間違えて無理に押し込むと、クリップ部に負荷がかかり、張りムラや破損の原因になります。刺繍ミシン 用 枠入れの基本動作として、最初の安全手順がこの「矢印チェック」です。合っていなければ、無理に閉めないで向きを直してください。
「ドラムのように張る」が効く理由(効きすぎる場面もある)
よく「太鼓みたいにピンッと張る」と言いますが、感覚指示はブレやすいので基準を合わせます。張りすぎると、繊維が潰れて白っぽい輪が残る 枠跡(枠焼け) の原因にもなります。
- スタビライザー: これは“太鼓”でOK。爪で軽く弾くと、張りのある「パチン」という音が出るのが目安です。
- 生地: こちらは「シワが消える程度にフラット」かつ「目(地の目)を伸ばさない」ニュートラル張り。
失敗のメカニズム: 伸縮するTシャツを“太鼓張り”にすると、繊維を引き伸ばした状態で刺繍します。枠から外すと生地は戻りますが、糸(刺繍)は戻りません。結果、周囲が寄って シワ(パッカリング) が出ます。
手順:通常の枠張り(生地+スタビライザーを一緒に挟む)
標準のBrother 5x7枠を使う教科書的な方法です。コットンなどの伸びない織物、デニムなどに向きます。

- 外枠ネジを“軽く”締めておく: 最初からガバガバにしないで、内枠が「少し抵抗を感じつつ入る」程度に。
- サンドイッチ: 硬く平らな台に外枠を置き、スタビライザー→生地の順に重ねます。
- 押し込み: 内枠を真上からまっすぐ押し込みます。
- チェックポイント: 片側だけを押さず、両手の手のひら(付け根)で均等に。
- 座り確認: 内枠が外枠の縁より“わずかに下”まで入っていることを確認します。

- 最終張り: 生地端を軽く引いてシワだけを取ります(目を伸ばさない)。
- 固定: 指で締まるところまで締めます。
- 矢印チェック: 装着前に、矢印が合っているか最終確認。
チェックポイント(感覚での検証):
- 見た目: 生地に“波打ち”や“ふくらみ”がない。
- 触感: 手のひらでなでると机のようにフラット。
- 音: 軽く叩いたときに、頼りない空洞音ではなく締まった音。
期待される状態:
- 生地+スタビライザーの一体サンドイッチができ、角を軽く引いてもズレない。
注意: 挟み込み(指を噛む)リスク。 標準枠をパチンと閉めるとき、指を側面に置かず、内枠の上面を押してください。リング同士に挟まれると血豆になりやすいです。
フローティングとは?(スタビライザーだけ枠張り)
「フローティング」は、趣味の延長から“作業としての刺繍”に寄せるときに必ず出てくる手法です。生地を枠で挟まず、スタビライザーだけを枠張りし、生地は上に“載せて”スプレー糊やピンで固定します。

プロが好む理由は明確です。
- 枠跡が出にくい: 枠が触れるのは基本的にスタビライザー側。
- 段取りが速い: 毎回ガーメントを挟み直すより、スタビライザー側の運用が楽。
- 無理が減る: 厚物や段差をプラ枠の溝に押し込む“力技”を避けられる。
フローティング用 刺繍枠の考え方では、「プラスチックの摩擦で掴む」より「生地の状態を守る」ことを優先します。
フローティングが“位置合わせ”に強い理由
通常の枠張りは、内枠を押し込む動作で生地が数mm動きやすく、狙ったライン(ポケット位置など)からズレがちです。フローティングなら、先にスタビライザーを枠張りしてから基準線を作り、その上に生地を置けます。微調整がしやすく、位置合わせの再現性が上がります。
スタビライザー補足(動画の内容と、選び方の判断)
動画ではティアアウェイ(tearaway)でデモしていますが、現場での安全側の考え方は次の通りです。
- 織物(伸びない): ティアアウェイでも可。
- ニット(Tシャツ等): 基本はカットアウェイ(cutaway)を推奨。ニットにティアアウェイだと、針穴で裂けやすく、歪みが出やすくなります。
スプレー糊でフローティング(手順)
一時接着スプレー(動画ではKK 2000)で、スタビライザー表面を“軽く粘着”させて固定します。

手順:スプレー糊フローティング
- スタビライザーだけ枠張り: まずはドラム張り。
- スプレーは“軽く”: 動画でも「やりすぎない」と明言されています。ベタ塗りは不要です。
- 生地を置く: 生地を上に載せ、手でならします。

- 押さえ込み: 中心から外へ、手のひらでシワを追い出すように密着させます。
チェックポイント:
- 枠のプラスチック部分に糊が付いたら、作業性が落ちるので拭き取りを検討。
- 枠を軽く持ち上げても、生地がめくれない。
期待される状態:
- 枠で挟まないのに、横ズレ(シフト)しにくい固定ができる。
よくある質問(コメントより要約):合皮にスプレー糊は使える?
コメントで「合皮(フェイクレザー)にスプレー糊で刺繍できるか」という質問があり、投稿者は「可能。ティアアウェイを推奨」と回答しています。合皮はピン穴が残りやすい素材でもあるため、固定方法としてはスプレー糊フローティングが選択肢になります。
注意:スプレー糊は針に付着しやすい
動画内でも触れられている通り、スプレー糊は針に付着してトラブルの原因になります。
- 症状例: 糸が毛羽立つ/切れやすい。
- 対処: 針を交換する、針を清掃する(投稿者は「針をよく替える・よく掃除する」と述べています)。
ピン留めでフローティング(いつ使う?)
換気が難しい環境、スプレーを使いたくない場合の機械的固定がピンです。

手順:ピン留めフローティング
- スタビライザーを枠張り: ドラム張り。
- 生地を置く: フラットに。
- 外周で固定: 枠の外周寄りにピンを打ち、布とスタビライザーを一緒に留めます。
チェックポイント:
- 干渉チェック: ピン頭が刺繍範囲に入らない位置に置く。
期待される状態:
- 糊残りなしで固定できる。
注意: 衝突リスク。 針がピンに当たると針折れの原因になります。動画でも「刺繍範囲をトレースして、針がピンに当たらないように」と強く注意しています。開始前に必ず範囲確認を行ってください。
ピンを避けたい素材:穴が残る
動画でも例としてレザーが挙げられています。ピンは穴が残るため、レザー等ではピン留めを避け、スプレー糊フローティングが選択肢になります。
よくある質問(コメントより要約):Tシャツを金属/マグネット枠に載せるのが難しい
コメントで「金属の枠を買ったが、Tシャツをどう載せればいいか難しい」という声があり、投稿者は「フローティングで」と短く回答しています。Tシャツの余り布が邪魔になりやすいので、まずはスタビライザー側を安定させてから、Tシャツ本体を“上に置いて固定する”発想で組むのが前提になります。
厚物に強い:マグネット刺繍枠が効く理由
タオルなど厚物を標準枠で押し込むのが大変な場合、動画では5x7のマグネット刺繍枠が紹介されています。家庭機の作業を、より“現場寄り”にしてくれる道具です。

刺繍枠 brother se1900 用を探すと分かりますが、標準のプラ枠は「摩擦+力」で固定します。一方、マグネット刺繍枠は「上から押さえる力」で固定します。

マグネット刺繍枠が標準枠と違う点
- 出し入れが楽: 動画でも、標準枠より薄くて装着がしやすい点が語られています。
- フローティング前提: 上側の“押さえ”がマグネットになるため、運用は基本的にフローティングの考え方。
- 厚物に強い: タオルのような厚みで標準枠が閉じにくい場面に向く。
手順:マグネット刺繍枠の使い方(フローティングベース)
- ベースを置く: 金属の下枠を平らな場所に置きます。
- 重ねる: スタビライザー→生地(タオル等)の順に置きます。

- 位置合わせ: まだ固定されていないので微調整が可能。動画では定規で中心を見ています。

- マグネットで固定: 強力マグネットを縁に置いて押さえます。

- 固定確認: 厚手タオルなどでも、まずはマグネットだけで保持できるか確認します(必要に応じて補助固定を検討)。
チェックポイント:
- 余った生地が刺繍アームの動線に入らないよう、外側へ逃がします。
期待される状態:
- 標準枠で“閉まらない/押し込めない”厚物でも、無理なくセットできる。
なぜ厚手タオルは標準枠で難しいのか(動画の文脈)
動画では「厚いタオルは標準枠だと押し込みが難しい」ことが語られています。マグネットは上から押さえるため、押し込み動作の負担が減り、位置ズレのストレスも下がります。
道具のアップグレード判断(現実的な目安)
- 少量: 標準枠でも対応可能。
- 厚物が増える/枠跡を避けたい: マグネット刺繍枠 brother se1900 用のようなマグネット刺繍枠が作業性を上げます。
注意: マグネットの挟み込み。 動画でも「マグネットは強い」と説明があります。指を挟まないよう、置くときはゆっくり位置を決めてから下ろしてください。

現場のコツ:先に枠を複数用意して“回す”
動画でも、投稿者は「このマグネット枠が標準枠の代わりになった」と述べています。作業効率を上げたい場合は、刺繍中に次の枠張りを進められるよう、枠を複数運用する発想が有効です。
準備(Prep)
見えない準備が、見える仕上がりを決めます。枠張り前に作業台を整えます。
忘れがちな消耗品と事前チェック
- スプレー糊: 使うなら周囲に飛散しない工夫を。
- 刺繍針: 針の状態は仕上がりに直結(糊付着時は交換・清掃)。
- 下糸(ボビン糸): 残量確認。
- 枠の清掃: 糊やホコリがあると張りが不安定。
判断フロー:スタビライザー+枠張り方法の選び方
- 生地が伸びる(ニット等)?
- YES: カットアウェイ+フローティング(スプレー)を優先。
- NO: 次へ。
- 厚い/かさ高い(タオル等)?
- YES: マグネット刺繍枠、またはフローティング。
- NO: 次へ。
- ピン穴が残る素材(レザー等)?
- YES: ピンは避け、スプレー糊フローティング。
- NO: 通常の枠張りも可。
準備チェックリスト
- スタビライザーを選定: 伸びる素材はカットアウェイを優先。
- 針の状態: 新しい/清掃済み。
- 下糸残量: 十分。
- 枠の状態: 糊残り・汚れなし。
- 向き: 矢印チェック完了。
セットアップ(Setup)
枠張りを“手順化”して再現性を上げます。
通常の枠張り
- 内枠を均等に押し込む。
- 生地はシワ取りまで(伸ばさない)。
フローティング(スプレー)
- スタビライザーをドラム張り。
- スプレーは軽く。
フローティング(ピン)
- ピンは外周寄り。
- 刺繍範囲に入らない配置。
マグネット刺繍枠
- 定規等で中心を確認しながら位置合わせ。
- マグネット刺繍枠 使い方の要点は、マグネットを“滑らせず”に置くこと(シワの原因になるため)。
運用(Operation)
刺繍開始前の確認で事故を減らします。
開始前チェック(押す前に)
- 装着感: 枠をアームに装着したら、軽く揺すってガタつきがないか確認。
- 範囲確認(トレース): ミシンの範囲確認機能で、ピンやマグネットに当たらないかを見る。
- 最初は見守る: 最初の数十〜100針は特に糸絡み・ズレが出やすいので離れない。
縫製中の観察ポイント
- 音: リズムが一定。異音が出たら一旦停止して原因確認。
- 動き: 生地がバタつく(フラッギング)なら、固定不足の可能性。
運用チェックリスト
- 枠ロック: 確実に固定。
- 干渉物: 背面や側面に当たるものがない。
- 範囲確認: 安全経路を確認。
品質チェック(Quality Checks)
仕上がりを見て、枠張りを改善します。
かんたん品質確認
- 位置合わせ: アウトラインが塗りに正しく乗っているか(ズレなら固定不足)。
- パッカリング: 周囲が寄っていないか(張りすぎ/スタビ不足)。
- 枠跡: 輪が残るなら、次回はフローティングや マグネット刺繍枠 を検討。
トラブルシューティング
当てずっぽうではなく、症状から切り分けます。
| 症状 | 主な原因 | 現場での対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 糸絡み(下で団子) | 上糸の掛け違い等 | 上糸・下糸をかけ直す | 開始直後は糸端を押さえる |
| 針折れ | ピン/枠への干渉 | 針交換、干渉箇所の見直し | 開始前に範囲確認 |
| 針の糊付着/目飛び | スプレー糊の付着 | 針の清掃・交換 | スプレーは軽く、針をこまめに管理 |
| 枠が閉まらない/セットが大変 | 厚物で標準枠が厳しい | フローティング/マグネット枠へ切替 | 厚物は最初から方法を選ぶ |
| 中心ズレ | 押し込み時の生地移動 | フローティングで位置合わせ | スタビ側で基準を作る |
コメント由来の補足:別機種での針棒の振動について
コメントに「Brotherの別モデルで針棒が振動する」という相談があり、投稿者は該当機種に詳しくないためサポート連絡を案内しています。本動画の文脈で言える範囲では、固定不足で生地がバタつくと振動の体感が増えることがあるため、まずは枠張りとスタビライザーの見直しが基本になります。
まとめ(Results)
3つの枠張りを、用途で使い分けられるようになりました。
- 通常: コットンなど安定した素材の基本。
- フローティング: 枠跡回避・位置合わせ重視・厚物対策。
- マグネット: 厚物のセット性と作業性を上げる選択肢。

次の一歩は「道具」より先に「手順の再現性」です。張りの基準とチェックポイントを固め、標準枠で苦戦する厚物や枠跡が課題になったら、対応する brother 5x7 マグネット刺繍枠 のような選択肢を検討してください。
