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中厚ティアアウェイ・スタビライザーの基本
同じ「中厚ティアアウェイ(tear-away)」でも、仕上がりがシャープに決まるものと、端が反って枠張り(フーピング)中にズレやすいものがあります。これは気のせいではなく、スタビライザーの“作り(構造)”と“包装形態(シート/ロール)”が、作業性と安定性を大きく左右するためです。
参照動画では、定番の2種類を比較しています。Amazonの汎用プレカット(8x8インチ)と、Pellon Stitch-N-Tear ロール(Style 806)です。ここでは単なる製品比較ではなく、日々の枠張り工程を安定させるための「段取り設計」として読み解きます。
このガイドで分かること:
- 「反り(メモリーカール)」の正体: ロール保管の“巻き癖”が枠のテンションに与える影響
- 裂け方の違い: 紙のように切れよく裂けるタイプと、繊維が残りやすいタイプの実務差
- ムダの考え方: 面積単価だけでなく「枠張りにかかる時間」で評価する
- 素材別の目安: 綿〜厚手は中厚ティアアウェイが使いやすい/タオル地は上面フィルムが必要



Amazonプレカット:メリット/デメリット
動画で扱われているAmazon側は、8x8インチのプレカットが100枚入りで、価格は約$9(少し下)という条件です。現場目線では「すぐ使える=段取りが短い」タイプです。

プレカットが“ラク”に感じる理由
最大の利点は、取り出した瞬間にフラットで、すぐ枠張りに入れることです。ロールのように反り戻ろうとする力がないため、手元で材料が暴れません。小さなロゴやワンポイントを回す運用では、この“余計な一手がない”ことが品質の安定に直結します。
また、同じサイズが続くので、作業者の手順が固定化しやすく、枠張りの再現性が上がります。標準的な brother 4x4 刺繍枠 を使う場合、8x8インチは枠より一回り大きく、つかみ代を確保しやすいのも利点です。
代償:サイズ固定とムダ
一方で、プレカットには制約があります。
- サイズ固定: 8x8インチ前提なので、枠サイズが変わると使い回しが難しくなります。
- 小柄デザインでムダが出やすい: 2インチ程度の小さな胸ロゴなどでは、必要以上に余りが出ます。余りをずらして再利用することもできますが、枠張りのテンションや平滑性が落ちると、ズレの原因になります。
補足: 動画内では「中厚同士なら仕上がり差は大きくない」という趣旨で語られています。したがって、ここでの比較軸は“刺繍結果の差”よりも“段取りと扱いやすさの差”に置くのが実務的です。
Pellon Stitch-N-Tear ロール(Style 806):ローカル調達の選択肢
もう一方は、Pellon Stitch-N-Tear Style 806(中厚ティアアウェイ)です。ロールなので、必要サイズに合わせて切り出せるのが売りです。

ロールの強み:必要寸法に切れる
ロールは、枠サイズやデザインに合わせて必要な分だけ切れるため、在庫管理やムダ削減の面では理屈上有利です。小さなモノグラムから大きめのデザインまで混在する場合、材料の取り回しは良くなります。
現場で効く弱点:反り(メモリーカール)
ただし動画で強調されているのが、ロール特有の強い巻き癖(反り)です。取り出すとすぐ丸まり、枠張り中に端が浮きやすくなります。
反りが厄介なのは、枠の中でスタビライザーが“バネ”のように戻ろうとする力を持つことです。縫製中に針穴が増えるほど保持力が落ち、スタビライザーが生地から離れようとして、結果的に位置ズレ(アウトラインと塗りの隙間など)につながりやすくなります。
このタイプを安定運用するには、反りを弱める工程(アイロンでならす等)が追加になりやすい、というのが動画の結論です。



よくある質問(コメントより要約): アイロンを使わずに反りを弱めたい
- コメントでは、ロール材を“逆方向に巻いて”反りを戻す方法が挙げられています。完全にフラットにはならなくても、枠張り時の「戻ろうとする力」を減らす目的には有効です。
動画内のスプレー接着剤について
動画では、スタビライザーを生地に仮固定するために刺繍用スプレー接着剤を使っています。ティアアウェイ運用では、縫製中のバタつき(生地が上下に動く状態)を抑える目的で使われることがあります。
注意: スプレーはミストが飛散します。機械の近くで噴霧すると、ボビン周りやセンサー部に付着しやすく、汚れ・不調の原因になります。噴霧は換気した場所で、段ボールなどを使って飛散を抑えて行ってください。
取り回し比較:反り vs フラット
初心者ほど「材料価格」に目が行きがちですが、実務では「枠張りにかかる時間」と「ズレの再発率」が効いてきます。
反りが刺繍品質に与える影響
枠の中は、生地とスタビライザーの“テンションのサンドイッチ”です。
- フラットなシート: 余計な力がなく、均一に押さえやすい
- 反ったロール材: 戻ろうとする力が残り、押さえが不均一になりやすい
反りが強いと、ズレを恐れてネジを締めすぎ、枠跡(枠の圧痕)が出やすくなることもあります。
どちらを選ぶか:簡易判断
判断の目安(運用ベース):
- 主に使う枠サイズは?
- 4インチ中心 → プレカットの段取り短縮が効きやすい
- 枠サイズが頻繁に変わる → ロールの切り出し自由度が効きやすい
- 反り対策の段取りが組める?
- アイロン台が遠い/準備が面倒 → プレカットがストレスになりにくい
- 作業台・アイロン工程が組み込まれている → ロールでも回しやすい
- 枠張りの安定に課題がある?
- 反りやズレで枠張りのやり直しが増えるなら、まずは材料形態(フラット/反り)を見直すのが近道です。
質感と裂け方:紙っぽい vs 繊維質
動画では、Amazon側は「紙(パーチメント)っぽい」、Pellon側は「繊維っぽい」と表現されています。裂け方の違いは、後処理のしやすさに直結します。



裂け方が実務で効くポイント
- 紙のように裂けるタイプ(Amazon側の印象): 端が比較的スパッと切れやすい
- 繊維質で毛羽立つタイプ(Pellon側の印象): 端がフワッと残りやすく、細かい文字周りは残りを拾う作業が増えることがある
仕上げの基本: ティアアウェイを剥がすときは、刺繍を指で押さえながら、デザインから“横方向に逃がす”ように裂くと、サテン縫いなどの変形を起こしにくくなります。
価格と価値:面積だけで決めない
動画の結論は「面積あたりではAmazonプレカットのほうが得」という方向です(どちらも約$9だが、得られる面積が大きい)。


現場の“真のコスト”
- 材料費: 1枠あたりは小さい
- 失敗コスト: 服や素材をダメにすると一気に高くつく
- 段取りコスト: ロールをならす・切る・反りと格闘する時間が積み上がる
標準的な 刺繍枠 刺繍ミシン 用 運用では、毎回同じ条件を作りやすいこと(再現性)が、結果的に最も安い選択になることがあります。
どの素材にどれを使うか:動画内容を実務に落とす
動画では「薄い素材ほど、より強い支持が必要」という一般則が示されています。また、綿〜厚手には中厚ティアアウェイが使いやすい一方、タオル地(テリー)では上面に水溶性フィルム(トップ用スタビライザー)を重ねるのが有効、と説明されています。


「中厚の生地って何?」(初心者の疑問)
コメントでも「中厚とはどの程度か」という質問が出ています。動画内で厳密な定義は示されていないため、ここでは“言葉の置き換え”として整理します。
- 迷ったら、まずは手元の生地が「綿などの安定した織物か」「タオルのように毛足があるか」を基準に考えると判断しやすくなります。
スタビライザーと芯地(インターフェーシング)の違い
コメントに「スタビライザーと芯地は違うの?」という質問があります。用途が別物です。
- スタビライザー: 刺繍中の生地の動きを抑え、縫い品質を安定させるための補強材
- 芯地: 服の張りや形を整えるための材料
準備:見落としやすい消耗品と事前チェック
刺繍の成功は、スタートボタンを押す前に決まります。
- 接着(仮固定): 動画のようにスプレー接着剤を使う場合は、薄く均一に(噴霧場所は機械から離す)
- タオル地: 上面に水溶性トップ(フィルム)を重ねる前提で段取りする
準備チェックリスト
- スタビライザー形態の確認: ロールなら反り対策(逆巻き/ならし)を実施
- 仮固定の段取り: 噴霧は換気下で、機械から離して実施
- 素材の表面対策: タオル地は水溶性トップを用意
セットアップ
ズレの多くは、枠張り工程で起きます。
4インチ枠を想定した基本手順
手順1:貼り合わせ(必要に応じて)
- 平らな台でスタビライザーを広げる
- 必要なら仮固定を行い、生地をシワなく置く
- 手でなでて、波打ちがないか確認する(ここで出たシワは縫製中に固定化しやすい)
手順2:枠張り
- 外枠のネジを十分に緩める
- 生地+スタビライザーをセットして押し込む
- ネジは締めすぎない(枠跡の原因)
注意: 枠の装着時は、針棒周辺に指を入れないこと。袖や余り布が駆動部に巻き込まれないよう、下側のクリアランスも確認してください。
セットアップチェックリスト
- つかみ代: スタビライザーが枠外に十分出ている
- 平滑性: 反りや浮きがなく、枠内が均一
- 装着: brother ミシン 用 刺繍枠 を使う場合、キャリッジへの固定が確実
縫製中(オペレーション)
スタート後も、最初の挙動で不具合の芽が見えます。
縫製中に見るポイント
- 序盤: 反りが残っていると、縫い進むにつれて浮きやすくなります
- ズレの兆候: アウトラインと塗りの間に隙間が出るなど、位置合わせが崩れたら一旦止めて原因を戻って確認します
オペレーションチェックリスト
- ズレ: アウトラインと塗りが合っている
- 清掃: ティアアウェイの紙粉が出る場合は、作業後にボビン周りを軽く清掃する
品質チェック
仕上がりを見て、次回の段取りを改善します。
- 輪郭のズレ(隙間): 反りや浮きによる位置ズレの可能性
- シワ/波打ち: 支持不足、または枠張り時のシワ固定
- 枠跡: ネジ締めすぎ、反り材を押さえ込もうとして過加圧になっている可能性
トラブルシューティング
症状:ロール材が反って枠張りしづらい
- 原因: ロール保管による巻き癖(メモリーカール)
- 対処: 逆方向に巻いて反りを弱める(コメントで挙げられている方法)/必要に応じてならしてから使う
症状:小さなデザインでスタビライザーがムダになる
- 原因: 8x8インチを小柄デザインに使っている
- 対処: 余りをテスト縫い用に回す、またはロールで必要寸法に切り出す
症状:タオル地で糸が沈む
- 原因: ループ(毛足)に糸が埋もれる
- 対処: 水溶性トップ(フィルム)を上面に重ねる(動画の説明どおり)
結果まとめ
比較の要点は次のとおりです。
- Amazon 8x8プレカット: フラットで段取りが短く、4インチ枠中心の運用でストレスが少ない
- Pellon 806ロール: 必要寸法に切れてムダを抑えやすいが、反り対策(ならし/逆巻き等)の一手が増えやすい
最終的には「面積」よりも、「枠張りが安定して、やり直しが減るか」を基準に選ぶのが、現場ではいちばん効きます。
