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Baby Lock Solaris Visionのアップグレードとは?
すでにBaby Lock Solaris(Solaris One / Two)をお持ちの場合、「ソフトのアップグレードに投資する価値があるのか」で迷いやすいところです。動画の主旨はシンプルで、買い替えで大きく目減りさせるのではなく、アップグレードで機能を最新に寄せて“戦力を延命”する考え方が提示されています。
この実演での目玉はカウチング。カウチングは、太い毛糸(ヤーン)を生地表面に置き、ミシンが自動で細い糸(タックダウン糸)を上から縫いかぶせて固定していく技法です。
なぜ刺繍の仕事に効くのか? 通常の刺繍糸だけで同等の“盛り上がり(立体感)”を出そうとすると、3Dパフを重ねたり、高密度のサテンを多層で入れたりして、硬さ・糸切れ・縫い時間が一気に増えがちです。カウチングは「面を埋める」のではなく「毛糸そのものの太さで見せる」ため、少ない針数で強い存在感が作れます。
コメントでは費用面の質問も出ていました(アップグレードは支払いが必要か?)。動画内ではアップグレードが“注文できる”ものとして語られています。現場目線の考え方: これは消耗品ではなく設備投資として扱い、販売している方は「カウチング入りの高単価アイテムを何点で回収できるか」を先に計算しておくと判断が早くなります。

紹介されている作例(バッグ、デニムジャケット、クッション)を見ると価値が分かりやすく、カウチングは大きめの文字や幾何学モチーフを、密なフィル刺繍のように長時間回さずに“見栄えする面積”へ持っていけます。

カウチングの要点:毛糸刺繍は「送り・ガイド・固定」の物理
Solarisのカウチングは魔法ではなく、「送り(Feed)+ガイド(Guide)+固定(Trap)」の制御です。ここを理解すると、毛糸絡みや縫いムラの原因が切り分けやすくなります。
- 送り(供給): 毛糸は外部から供給され、専用のマグネット式スレッドスタンドを通して引き出されます。毛糸は刺繍糸より抵抗が大きいので、引っ掛かりにくい経路が重要です。
- ガイド(整列): 毛糸をミシン上部のガイドに通し、最後にカウチング押えの穴へ落とします。
- 固定(縫い止め): 針に通した通常の上糸が、毛糸の上をジグザグ等で縫いかぶせ、毛糸を生地に“縫い留め”ます。
実演ではRed Heart(Walmartで入手できる毛糸)が使われています。手軽で検証には十分ですが、毛糸は太さや撚りのムラが出ることがあり、引っ掛かりの原因になり得ます。縫いが不安定なときは、まず「毛糸が一定に出ているか」を疑うのが近道です。

なぜ「大きい文字」が速く感じるのか
密なサテンで大きい単語を作ると、往復で面を埋めるため縫い時間が伸びます。一方カウチングは、見た目の“面積”を毛糸が担い、ミシンはその上を一度なぞるように固定していくため、同じサイズ感でも縫い時間が短くなりやすい、という理屈です。
現場のコツ:アルファベットを「文字」ではなく「形」として使う
動画のクリエイティブな学びは、発想の切り替えです。数字の「2」を繰り返して回転させ、ハート/ケルト風のモチーフに見せる例が紹介されています。

文字を“線の部品”として見ると、カウチングは太いコード状の縁取りやフレームを短時間で作る手段になります。
手順:カウチングを失敗しにくく立ち上げる
ここでは、動画の流れを「押す前に潰すべきポイント(準備不良が原因の失敗が多い)」として組み直します。
準備(材料+見落としがちなチェック)
見える材料:
- Baby Lock Solaris Vision(Solaris 3相当のアップグレード)
- マグネット式スレッドスタンド(アップグレードキット付属として紹介)
- カウチング押え(アップグレードキット付属として紹介)
- 中太程度の毛糸(実演ではRed Heart)
- タックダウン用の通常刺繍糸(上糸)
- 樹脂製のネジ締めタイプ刺繍枠
チェックポイント:
- 毛糸の引き出し経路が床や椅子脚に干渉していない(引っ掛かり=即トラブル)
- 上糸/下糸(ボビン糸)が十分に残っている(途中交換は位置合わせが面倒になりやすい)
- 押えがカウチング押えになっている
注意: 稼働中は針周りに手や道具、毛糸の余りを近づけないでください。毛糸は一瞬でループしやすく、針周りに巻き込むと針折れにつながります。

セットアップ:毛糸を通す+カウチング用アルファベットを呼び出す
1) マグネット式スレッドスタンドで毛糸を通す
実演の順序が重要です。
- 毛糸をマグネット式スレッドスタンドのガイドに通す
- ミシン上部のガイドへ通す
- 最後にカウチング押えの穴へ通す
チェックポイント: 押えの穴を通した毛糸を軽く引いて、引っ掛かりがないこと。抵抗を感じる場合は、毛糸玉側の結び目や絡みを先に解消します。


2) 毛糸だけでは縫えない:タックダウン用の通常糸が必要
動画でも強調されている通り、毛糸を固定するのは針に通した通常糸です。仕上がりを自然に見せたい場合は、実演のように見やすいコントラスト色ではなく、毛糸に近い色を選ぶのが基本です(デモは見せるためにあえてコントラスト)。
3) 画面でカウチングのアルファベットを選ぶ
- 画面で刺繍をタップ
- カウチングカテゴリ(毛糸のアイコン/アルファベットのアイコン)を選択
- フォント(実演ではSans Serif)を選ぶ
- 文字 「I」 を選択


枠張り前チェック:
- 毛糸がスムーズに供給される(途中で止まらない)
- タックダウン糸の経路と毛糸がねじれていない
- 縫い始め位置を把握した(最初の数針で毛糸端を支えるため)
生地→スタビライザー→枠張りの考え方
カウチングで“ヨレる”最大要因は、生地が毛糸の抵抗で引っ張られて動くことです。枠張りが甘いと波打ちが出やすくなります。
- 安定した布帛(綿/キャンバス/デニム):ティアアウェイ・スタビライザーで実演のように進めやすい
- 伸びる素材(Tシャツ等):伸び止めが弱いと、毛糸の抵抗で歪みやすい
- 厚物(ジャケット背中/バッグ):縫いは成立しても、枠張りが難所になりやすい
クリエイティブ応用:アルファベットを幾何学パーツとして組む
動画では「2」の反復や「P・O・V」の組み合わせで結び目風のモチーフを作っています。カウチング用アルファベットは“線を見せる”構造なので、部品として組みやすいのが特徴です。
補足(設計時の注意): 毛糸の経路が交差すると、押えが段差を乗り越える形になり、引っ掛かりや針の逃げにつながることがあります。最初のテストは交差を避け、単純な形から始めると安定します。
最初のテストを複雑にしない手順
- まず「I」など単体で1つ縫う
- タックダウンの見え方を確認(毛糸になじむか/目立つか)
- 問題がなければ配置やサイズ変更へ進む
作例から読む:バッグ/クッション/ジャケット
紹介作例は、実務目線でも相性が良い順に並びます。
- クッション:平らで縫いやすく、季節もの・ギフトにも展開しやすい
- トート:大きい文字や縁取りが映える
- ジャケット:枠張り難度が上がり、工程の差が出やすい





つまずきポイント: デニムジャケット背中の枠張りは定番の難所です。縫い自体よりも、厚い縫い代や段差を含めて“安定して固定する”ところで時間が溶けます。
複数枚やる予定があるなら、ここが工具・治具の見直しサインになりやすい工程です。例えば マグネット刺繍枠 babylock 用 を使うと、厚みのある箇所でも強い力でネジを締め込まずに固定しやすく、段取り時間の短縮につながります。
実運用:サンプルを縫う(動作手順+チェックポイント)
動画の動きに沿って、失敗しにくい順序に整えます。
- 枠張り: 生地+ティアアウェイ・スタビライザーを重ねて枠張りし、たるみをなくす
- 装着: 刺繍枠を刺繍アームに差し込み、ロックされるまで入れる
- 確認: 押えを下げ、毛糸が押え穴へまっすぐ落ちているかを見る
- 毛糸端を支える: 縫い始めの数針だけ、毛糸端を軽く外側へ逃がして保持する(引っ張らず、絡まないようにする)
- スタート: 縫い始める
- 固定を確認: 最初の数針で毛糸が縫い留められるのを確認
- カット: 固定できたら毛糸端を適切にカット
- 完了まで縫う
チェックポイント(稼働中の見方)
- 目視: 毛糸が止まっているのに針だけ動いている場合は、すぐ停止して供給側の引っ掛かりを確認
- 供給: 毛糸玉が転がって引っ掛かる、床の物に絡むなど“外部要因”が最頻出
仕上がりチェック(縫い後):
- 始点・終点がしっかり固定されている
- 毛糸の上にタックダウン糸が不自然に目立っていない(色選定の見直し)
- 周囲が波打っていない(枠張り/スタビライザーの見直し)
枠張りの速度と再現性:工具を見直すタイミング
単発の作品なら樹脂枠でも十分ですが、枚数が増えると枠張りがボトルネックになりやすいです。
- 判断基準: 「枠張りにかかる時間>縫い時間」になってきた
- 不良基準: 枠跡(枠跡のテカり)や歪みでやり直しが出る
改善案として、位置合わせと固定を標準化するなら 刺繍用 枠固定台(治具付きの枠固定台)で作業を揃える方法があります。さらに運用規模が上がる場合は、 刺繍用 枠固定台 対応の治具や、 マグネット刺繍枠 用 枠固定台 のようなセットアップで工程を規格化しやすくなります。
注意: マグネット刺繍枠は強力な磁石を使用します。指を挟むと強く痛める可能性があります。ペースメーカー、機械式時計、磁気カード等の近くでは取り扱いに注意し、保管時はスペーサーを挟んでください。
トラブルシューティング
よくある症状はパターン化できます。まずは「供給(毛糸)」「固定(上糸/下糸)」「保持(枠張り)」のどこかを疑います。
| 症状 | ありがちな原因 | その場の対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 毛糸がループして絡む | 毛糸が外部で引っ掛かり、供給が止まった | 一度停止し、経路を解いて通し直す | 毛糸の経路を整理し、床で転がらないようにする |
| タックダウンされず毛糸が浮く | 上糸切れ/下糸切れ(ボビン切れ) | 再スレッド、ボビン確認 | 縫い始め前に残量確認を徹底 |
| 生地が歪む/波打つ | 毛糸の抵抗+枠張り不足 | スタビライザーと枠張りを見直す | 厚物や歪みやすい素材では babylock マグネット刺繍枠 のような保持力の高い方法を検討 |
| ミシンが重そうな音/引っ掛かり感 | 毛糸が太すぎる、またはガイドで詰まっている | すぐ停止して原因確認 | 毛糸の太さと押え・ガイドの適合を確認 |
コメント由来の注意:互換性の質問
コメントではBrother Luminaireでも同様のアルファベットがアップグレードに含まれるか、という質問があり、投稿者側の返信では「含まれる」と回答されています。一方で、押えなどのパーツは機種間で常に互換とは限りません。導入時は必ずご自身の機種に対する部品番号・対応表を確認してください。
結果の目安
実演では、完成後に画面上で文字「I」のサイズが 2.83" x 0.90" と表示されています。これは再現テストの基準になります。もし仕上がりが明らかに小さく出る場合は、縫製中に生地が引かれて縮む(保持不足/安定不足)可能性があるため、スタビライザーと枠張りを優先して見直します。
まとめ: カウチングは、準備(供給経路・糸・枠張り)さえ押さえれば、短時間で“差がつく立体表現”を作れる技法です。まずは単体文字で安定させ、次に配置・サイズ・素材を広げていくのが安全です。
厚物や段差のある素材に進むほど、樹脂枠の限界が作業時間と不良率に直結します。必要に応じて マグネット刺繍枠 のような保持力の高い選択肢を組み込み、「ミシンと格闘する時間」を「生産に回せる時間」へ置き換えていきましょう。
