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なぜ「パラメータのバックアップ」が必要なのか
こんな状況を想像してください。火曜日の14:00、明日納品の企業ポロシャツ50枚が残っているのに、落雷や瞬停のあとでミシンがフリーズ。再起動したら動くものの、針棒の動きやX/Yのリミット、色替えの動作がいつもと違う——「自分の機械」ではなくなった感覚になります。
業務用刺繍では、機械の「パラメータ」はいわばDNAです。CMOS電池の消耗やソフトの再読み込みで設定が飛ぶと、単にデータが消えるだけでなく、現場の調整時間(=生産時間)を丸ごと失います。
このチュートリアルの流れは、そのための保険です。USBへパラメータを書き出して保管し、操作パネルの更新(ソフト+パッチ)を安全に行い、最後にパラメータを確実に戻します。
現場の視点(重要): パラメータ消失で現場が止まるのは珍しくありません。頑丈な Butterfly 刺繍ミシン のような業務用多針機でも同じです。大きな変更(更新・初期化・基板交換など)の前には必ずバックアップを取り、日付と用途が分かる形で保管してください。

手順1:Debugメニューに入る
動画では、メイン画面からDebugメニューへ入っています。ここは一般ユーザー向けではなく、保守・点検用の入口です。
ここでやること
- 移動: メイン画面で 手(Hand) アイコンを押します(手動操作/設定系の入口)。
- 選択: Debug をタップします。
- 認証: テンキーが出たら、セキュリティコード 8-2-3-4-5-6 を入力します。
- 確認: 画面が切り替わり、システム系の一覧が表示されます。
一覧の中に 「Parameter Driver Import Export」 が見えれば、正しい場所に入れています。

チェックポイント
- 操作: 823456 を入力。
- 確認: 画面がファイル/項目一覧に切り替わり、パスワードエラー表示が出ない。
- 到達条件: Parameter Driver Import Export が一覧に存在する。

注意(現場で起きがちな落とし穴)
忙しい現場ほど「枠が付いたまま」「周りで作業者が糸切り中」の状態で設定画面を触りがちです。こうした保守メニュー操作は、機械側の初期動作(原点復帰など)につながることがあります。
注意:挟まれ危険。 パンタ(X/Y駆動部)や針棒周辺に手・工具・刺繍枠を近づけないでください。Debug系の操作中に、予告なく原点方向へ動く可能性があります。
手順2:USBへパラメータを書き出す(エクスポート)
ここがバックアップ工程です。設定が壊れた/飛んだときに復旧できる「命綱」になります。
手順(動画の流れ)
- USBを挿す: 本体のUSBポートにUSBメモリを挿入します。
- 補足: 動画では容量やフォーマットの指定はありません。まずは機械が認識するUSBを使用してください。
- 移動: Debug内で Parameter Driver Import Export を開きます。
- 選択: Param Export を選びます。
- 待つ: USBの一覧が出るまで数秒待ちます(動画でも、一覧が表示されてから選択しています)。
- 保存先: USBデバイスを選択します。
- 実行: チェックマーク を押して確定します。
成功すると、動画では緑色のメッセージで 「Export param data success」 が表示されます。



チェックポイント
- 表示: USBが一覧に出て選択できる。
- 完了: 緑の成功メッセージが出る。
- 運用: 後でPCに挿して、バックアップファイルが作成されていることを確認できる。
現場のコツ:あとで“使えるバックアップ”にする
動画でも「あとで必要になるから取っておく」と強調しています。実際に復旧で困るのは、技術よりも「どれが正しいバックアップか分からない」運用ミスです。
その場でやること:
- 識別: PC側でフォルダ/ファイル名を「機械が特定できる名前+日付」にします。
- 保管: USBは紛失しやすいので、別媒体にもコピーしておきます。
手順3:更新用のメンテナンスモードで起動する
通常画面ではなく、更新用の起動メニュー(保守画面)に入ります。動画では、電源投入時に物理ボタンを押し続ける方法です。
手順
- 電源OFF: 主電源スイッチを OFF にします。
- ボタン長押し: 画面下の物理ボタン(メインボタン)を 押し続けます。
- 電源ON: 押したまま主電源を ON にします。
- 画面が切り替わるまで保持: 画面表示が完全に変わるまで離しません。
動画では A15-PLUS ロゴが出た後、青い保守メニュー画面に入ります。



チェックポイント
- 操作感: ボタンを押したまま電源操作できている。
- 表示: 通常の刺繍画面とは異なる、簡素な保守メニュー画面になる。
- 到達条件: 更新(書き換え)を実行できる状態に入っている。
補足(なぜここが重要か)
このモードは、誤操作で消去しないために日常運用と分離されています。更新中に電源が落ちると復旧が難しくなる場合があるため、作業中は電源環境を安定させてください。
手順4:ソフト更新とパッチ適用(順番厳守)
動画のポイントは「ソフト本体 → 再起動 → パッチ」の2段階です。順番を崩すと失敗しやすいので、動画通りに進めます。
手順(動画の順序そのまま)
- 言語: 保守メニューで言語を確認/選択します。
- 更新開始: Update Program をタップします。
- USB選択: 一覧からUSBを選び、ソフト本体のファイルを選択します。
- 実行: チェックマークで確定し、完了表示まで待ちます。
- 再起動(必須): 完了後、電源を切り、再度「ボタン長押し起動」で保守メニューへ入ります。
- 再度Update Program: もう一度 Update Program を開きます。
- パッチ選択: Install Patch を選択します。
- 実行: チェックマークで確定し、成功表示を確認します。
動画でも「ソフトとパッチの間に再起動が必須」と明言されています。


チェックポイント
- 受理: ファイルを選べて更新が開始できる。
- 順序: ソフト更新後に、必ず電源を入れ直してからパッチへ進んでいる。
- 完了: どちらも完了表示まで到達する。
注意:USB内のファイル管理
更新用USBには、更新に必要なファイルだけを入れておくと選択ミスを減らせます。保守メニューは通常の刺繍データ一覧と見分けがつきにくいことがあります。
手順5:パラメータを戻す(インポート)
ソフトが更新されても、機械固有の調整値(パラメータ)が空のままだと動作が不安定になります。USBに保存したパラメータを戻します。
手順
- 通常起動: ボタン長押しはせず、通常通りに起動します。
- 移動: 手(Hand) → Debug → コード 823456。
- 開く: Parameter Driver Import Export を開きます。
- 選択: Param Import を選びます(Exportと間違えない)。
- ファイル選択: USB内のバックアップファイルを選びます。
- 重要: 動画の通り、保存されている全パラメータ項目が選択(チェック)されていることを確認します。
- 実行: チェックマークで確定します。
成功通知が表示されます。



チェックポイント
- 表示: 手順2で作成したバックアップが一覧に出る。
- 確認: すべてのパラメータ項目が選択されている。
- 完了: 成功通知が出る。必要に応じて再起動します(動画でも最後に再起動しています)。
補足:「全項目チェック」が重要な理由
動画では「保存した全パラメータを選択する」ことがポイントになっています。一部だけ戻すと、動いてはいるのに挙動が変、という不具合の原因になり得ます。復元時は“全部戻す”を基本にしてください。
手順6:更新後の動作テスト(刺繍枠/色替え/帽子装置)
動画の最後は、安全で実務的な確認手順です。ここを飛ばすと、枠の衝突や帽子装置の設定ズレに気づけません。
動画で行っているテスト(そのまま)
- 色替えテスト: 色替え(例:針1→針2)を実行し、針棒/針ケースの移動が正常か確認します。
- 刺繍枠センタリング確認: 何も枠張りしない状態(空の状態)で、画面上で刺繍枠サイズを選択し、パンタがその枠の中心へ動くか確認します。
- 帽子装置(ハットシステム)確認: 帽子装置を取り付け、デザインを読み込んで トレース(Trace) を実行します。
動画でも、刺繍枠の確認は 「何も枠張りしない状態」 で行うように勧めています。衝突回避のため、必ずこの順で確認してください。

何を確認しているのか(事故防止の観点)
- 色替え:機械が針位置を正しく認識し、スムーズに移動できるか。
- 刺繍枠センタリング:ソフト上の枠定義と、実機の可動範囲(X/Y)が一致しているか。
- 帽子装置のトレース:帽子装置の設定が正しく、危険な干渉が起きないか。
作業チェックリスト(セクション末)
- 色替え: 色替え動作がスムーズで異音がない。
- X/Y移動: 選択した刺繍枠サイズで、パンタが不自然に端へ突っ込まない。
- 帽子装置: トレースが最後まで通り、干渉しそうな動きがない。
注意: トレースやセンタリング確認は、必ず「空の状態(何も枠張りしない)」で先に行ってください。パラメータがズレていると、刺繍枠が針棒側へ突っ込み、重大な破損につながります。
事前理解(Primer)
これから行うのは、刺繍そのものではなく「刺繍を制御するシステム」の保守作業です。ソフトを更新し、機械固有の“性格”(パラメータ)を戻して、最後に物理動作で安全確認します。
目的:
- パラメータのバックアップをUSBに作る。
- 操作パネルのソフト更新(ソフト+パッチ)を正しい順序で行う。
- パラメータを復元し、色替え/刺繍枠/帽子装置で動作確認する。
対象者: 業務用刺繍機のオーナー、保守担当者、または保守メニューを扱う必要がある上級ユーザー。
準備(Prep)
安全な更新は、作業環境の整理から始まります。ソフト不調に見えても、現場では接触不良や作業環境が原因のこともあります。
忘れがちな準備チェック
- USBメモリ: 更新ファイルとバックアップ用に使用(動画ではUSBを使用)。
- 清掃: USBポート周りの埃を軽く除去してから挿入します。
- 記録: 作業日と実施内容(ソフト更新/パッチ/復元)をメモしておきます。
- 動作スペース: パンタが大きく動くため、周囲の刺繍枠や工具を片付けます。ミシン刺繍 用 枠固定台 を使っている場合も、テスト時に干渉しない位置へ移動しておきます。
準備チェックリスト(セクション末)
- 機械は停止中で、実行中ジョブがない。
- 作業エリアから刺繍枠・帽子装置・ハサミ等を退避した。
- USBには更新に必要なファイルが入っている。
- 電源が安定している。
- パスコード「823456」を控えた。
セットアップ(Setup)
この段階は「どの画面を通るか」を整理して、迷いを減らす工程です。
使用するメニュー経路
- 手(Hand)→ Debug →(コード 823456)→ Parameter Driver Import Export
- 保守起動メニュー → Update Program →(ソフト選択)→ 再起動 → Update Program → Install Patch

判断の目安:枠まわりの作業効率を見直すタイミング
更新後のセンタリング確認は、作業効率(枠張りのしやすさ)を見直す良い機会でもあります。
| 困っていること | 主な原因 | 対処の方向性 |
|---|---|---|
| 枠跡(枠焼け) | 通常枠の圧迫・摩擦による生地ダメージ。 | 対策案: マグネット刺繍枠 のような方式を検討。 |
| 手首が痛い/枠張りが遅い | ネジ式枠の締め込み作業が負担。 | 対策案: 位置決めを安定させる マグネット刺繍枠 用 枠固定台 の導入を検討。 |
| 帽子の位置ズレ(位置合わせ) | 帽子装置側の固定やテンションの問題。 | 対策案: 刺繍ミシン用 キャップ刺繍枠 の固定状態を点検し、トレースで干渉がないか確認。 |
| 設定が飛ぶ/挙動が不安定 | メモリ消失や再読み込み。 | 対処: 本ガイドの手順でバックアップ→更新→復元を実施。 |
注意:マグネットの安全性。 マグネットは強力です。指を挟む危険があり、医療機器等への影響も考慮が必要です。取り扱いは十分注意してください。
セットアップチェックリスト(セクション末)
- Debugに入り、Parameter関連の項目が見える。
- 青い保守メニュー画面で起動できる。
- 「ソフト→再起動→パッチ」の2段階を理解している。
- バックアップはUSBに保存できた。
運用手順(Operation)
ここからは手順通りに実行します。順番を変えないことが重要です。
手順(チェックポイント付き)
- バックアップ(保険):
- 操作: Param ExportでUSBへ書き出し。
- 確認: 緑の成功メッセージ。
- 注意: 成功表示が出るまでUSBを抜かない。
- ソフト更新(書き換え):
- 操作: 保守メニュー起動 → Update Program → ソフト本体をインストール。
- 確認: 完了表示。
- 必須: 電源を切って再起動(動画通り)。
- パッチ適用:
- 操作: 再度保守メニュー起動 → Update Program → Install Patch。
- 確認: 成功表示。
- 復元(パラメータ戻し):
- 操作: 通常起動 → Debug → Param Import。
- 確認: 全項目がチェックされている。
- 動作確認(安全テスト):
- 操作: 色替え → 刺繍枠センタリング(空の状態)→ 帽子装置トレース。
- 確認: 異音や不自然な動きがない。
更新後に刺繍枠の中心が毎回ズレる場合、ソフトだけでなく刺繍枠側の歪みや個体差も疑う必要があります。生産用の 刺繍枠 刺繍ミシン 用 は、保管方法も含めて一定品質を保つことが重要です。
運用チェックリスト(セクション末)
- Export: パラメータをUSBへバックアップした。
- Update: ソフト本体をインストールし、再起動した。
- Patch: パッチをインストールした。
- Import: パラメータを全項目チェックで復元した。
- Verify: 色替えテストが正常。
- Verify: 刺繍枠センタリングを空の状態で確認した。
品質確認(Quality Checks)
業務用では「電源が入る」だけでは不十分です。更新後は“動き”を必ず見ます。
見るべきポイント
- 色替えの動き: 針ケース/針棒の移動が引っかからず、止まり方が安定している。
- センタリングの再現性: 同じ刺繍枠定義を選び直しても、同じ位置に戻る。
- 帽子装置のトレース: 走行経路が不自然でない(干渉しそうなら即停止)。
現場引き渡しの最低ライン
- 更新用USBを抜く。
- 画面や周辺を軽く清掃する。
- 空の状態で動作確認が完了していることを伝える。
トラブルシューティング
問題が起きても慌てず、まずは「手順の抜け」と「順番違い」を疑います。
| 症状 | 原因の可能性 | 対処 |
|---|---|---|
| USBが表示されない/選べない | USBが認識されていない。 | 対処: USBを挿し直し、一覧が出るまで待つ(動画でも表示を待ってから選択)。 |
| 更新後に設定が消えた | パラメータ復元(Import)をしていない。 | 対処: Debug → Param Import でバックアップを戻す。 |
| パッチが入らない | ソフト更新後の再起動が不足。 | 対処: 電源を切り、保守メニューに入り直してからInstall Patch。 |
| 刺繍枠が危険な方向へ動く | パラメータが正しく戻っていない可能性。 | 対処: すぐ停止し、Param Importをやり直す。まずは空の状態で再テスト。 |
システム効率チェック
更新で機械が安定しても、段取りが遅いならボトルネックは枠張り工程かもしれません。作業を標準化する 枠固定台 の考え方は、段取り時間の削減に直結します。
まとめ(Results)
これで、機械の「神経系」にあたる保守作業を一通り完了できます。
- 保護: パラメータをUSBへバックアップした。
- 更新: 操作パネルのソフトとパッチを正しい順序で適用した。
- 検証: 色替え/刺繍枠センタリング/帽子装置トレースで安全確認した。
生産に戻れます。もし更新作業がスムーズでも、段取り時間が課題なら、スタビライザーの見直しや 刺繍ミシン 用 枠入れ の工程改善(治具化・枠固定台の導入など)を検討すると、現場の伸びしろが見えてきます。
