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Sew Art 64の作業準備:アップリケの「安全域(セーフゾーン)」を先に決める
基本アップリケは、少ない針数で面積をしっかり埋めた“見栄えのする”仕上がりを作れる、マシン刺繍の定番ワークです。特に4x4のような小さめ枠では、全面塗りつぶし(フィル)に比べてステッチ数を抑えやすく、作業時間と糸トラブルの両方を減らせます。
ここではSew Art 64でアップリケ用データを作り、Brother SE425で実際に刺し切るまでを一連で確認します。基本の刺し順は業務でも通用する次の3段階です。
位置縫い(置き位置を出す)→ 仮止め(固定する)→ サテン縁(端を封じる)
さらに、デジタイズの入口が2通りある点も押さえます。
- 方法1(塗りつぶし形状/シルエット向け): Applique Border を使う
- 方法2(線画/中が抜けた形向け): Applique Center Line を使い、二重縫いを防ぐ

設定を触る前に、まず作業環境を“枠に合わせて”整えます。刺繍は準備で8割決まります。
- グリッド表示をON: 画面上でサイズ感が掴めないと、枠当たりの原因になります。
- 枠の上限を確認: キャンバス(画像サイズ)の制約を先に固定します。
95mmセーフティルール(「枠当たり」を避ける)
初心者がよく疑問に思うのが「4x4枠は100mm×100mm相当なのに、なぜ100mmで作れないの?」という点です。
結論はシンプルで、枠ギリギリまで攻めると危険だからです。針が高速で動く状態でデザインが枠(プラスチック)に干渉すると、針折れだけでなく、枠破損や機械側の不具合につながるリスクがあります。
この手順では、最大 95×95mm を「安全域の上限」として設定します。
- ポイント: 縦横どちらか一方だけ調整すれば比率的に収まる場合でも、幅・高さのどちらも95mmを超えないのがルールです。
- 画面での確認: Sew Art上でデザインが作業領域の端に触れて見えるなら、実運用では危険域に入りやすいと考えてください。
標準の brother 4x4 刺繍枠 を使う場合は、まず95mmを“天井”として固定してから作業すると失敗が減ります。
アップリケの考え方:これは「押さえて、切って、封じる」工程
ソフト設定だけでは仕上がりは安定しません。アップリケ品質は、次の3つの物理要因を管理できるかで決まります。
- 安定(Stability): 位置縫いが狙い通りに落ちること
- 保持(Grip): 仮止め中に素材(グリッター等)がズレないこと
- トリム精度(Trim Accuracy): 糸を切らず、台布やスタビライザーを傷めず、縫い際まで切れること
方法1:塗りつぶし(シルエット)からアップリケを作る
ハート・星・今回の四角のように、中が塗りつぶされた単純形状に向く方法です。
手順1 — 形状を「1つの塊」にまとめる
Sew Art 64では、輪郭線があって中が白い形は“別オブジェクト”として扱われやすく、縫い順が不安定になります。バケツ(塗りつぶし)ツールで、輪郭も中も同じ1色(例:紫)にして、ソフトに「1つの形」と認識させます。

チェックポイント: 形が“ベタ塗りの一枚板”に見える状態が正解です。ドーナツ状の抜けや、縁だけ別色が残っていると、意図しない縫い経路になりやすくなります。
手順2 — トリミング(クロップ)して最大化する
余白が多い画像は、枠の有効面積を無駄にします。色ブロックの外周ギリギリまでクロップし、その後に95mmまで拡大し直します。4x4枠で作れる“パッチの最大サイズ”を取りにいくための手順です。
手順3 — 重要な選択:「Applique Border」
Stitch Image に移動します。 重要: 「Outline」を選ぶと“1本線”になりやすく、アップリケに必要な停止(色替え)を含む工程になりません。アップリケは、位置縫い→仮止め→仕上げ縫いの流れを前提に組みます。
- 選択: Applique Border
- スタイル: Satin

チェックポイント: 形の内側をクリックしたとき、外周に太めの“糸のプレビュー”が出ればOKです。
サテン設定の要点:Height(幅)とLength(密度)
ここが初心者のつまずきポイントです。サテンが細すぎると布端が見えてしまい、密すぎると糸詰まり(鳥の巣)や硬化につながります。
使いやすい基準値(動画の設定)
この手順では、パッチ用途として扱いやすい次の値を使います。
- Satin Height:50
- Satin Length:3

この数値が扱いやすい理由:
- Height(幅): トリムが少しラフでも、幅があると端を覆いやすく、見た目が安定します。
- Length(密度): 3は詰めすぎず、隙間も出にくいバランスです。詰めすぎると素材によっては縫い目が潰れて硬くなりやすいので、まずは3を基準にします。
Sew Art 64の「設定が反映されない」不具合に注意
Sew Artでは、メニューでHeightを50にしたつもりでも、右側のプロパティ表示が20のままになっていることがあります(見落としやすい不具合)。

対処手順:
- 右側パネルの数値表示を確認する
- 数値欄をクリックして
- 50 を手入力する
- 重要: 入力後、欄の外(何もないところ)をクリックして確定させる
画面チェック: プレビューの縁が“明らかに太く”なれば反映されています。細い線のままなら、設定が刺さっていません。
ミシン側の準備:Brother SE425 と材料セット
ここからは実機工程です。
保存と転送(ファイル名に設定を残す)
Brother互換の PES で保存します。 現場のコツ: ファイル名に設定を残すと後で再現できます。例:Square_Satin50_Len3.pes のように、Height/Lengthが分かる形にしておくと便利です。

画面で刺し順(停止回数)を確認
データを読み込むと、Brother SE425側で3ステップ(色替え表示で停止させる形)が確認できます。
- 位置縫い(置き位置)
- 仮止め(ジグザグ等)
- 仕上げ(サテン)

スタビライザーの考え方:「ガーデンファブリック」使用について
動画では、練習用としてガーデンファブリック(防草シート系)をスタビライザー代わりに使っています。 補足: 実際の製品や着用物では、生地に合わせてカットアウェイ/ティアアウェイ等を選ぶのが基本です。ただ、練習用途としては安価で腰があり、テンション確認にも使いやすい素材です。

スタート前チェック(押す前に確認)
- 針: 刺繍針が正しく付いているか(摩耗・曲がりがないか)
- 糸色: 位置縫いが見えるコントラスト(例:黒い下地に明るい緑)
- 下糸: 下糸(ボビン糸)が正しくセットされているか
- ハサミ: 小回りの利くハサミ/スニップが手元にあるか
- 可動域: 枠がアームや本体に当たらないか(事前に動きを確認)
注意:安全面
枠に張ったままトリムする場合、針周りに手を近づけます。必ずミシンが停止状態であることを確認し、誤作動しない状況で作業してください。
刺し工程(実行フェーズ):位置縫い→仮止め→トリム→サテン
手順1:位置縫い(Placement Line)
スタートすると、まずスタビライザー上に“置き位置”の線が1周縫われます。

合格ライン: 角が閉じていて、線が途切れず、ループが出ていないこと。
手順2:素材を置く(カバーしてズレを防ぐ)
位置縫いの上にアップリケ素材(動画ではグリッター生地)を置きます。縫い線が完全に隠れるように被せます。

ズレやすい素材の注意点: グリッター、ビニール、厚手フェルトなどは、押さえや針の動きで動きやすい素材です。標準枠で強く締めると枠跡が出ることもあります。ズレや枠跡が気になる場合は、段階的に対策します。
- 対策(基本): テープ等で端を軽く固定して、縫い中にめくれないようにする
- 対策(作業性アップ): マグネット刺繍枠 のように、押さえ込みで保持するタイプの枠に替えると、素材を無理に押し込まずに固定しやすくなります。
- 互換性の注意: Brother SE425で探す場合は、アーム幅や取り付け形状に合う マグネット刺繍枠 brother 用 を前提に検討してください。
注意:マグネットの取り扱い
マグネット刺繍枠は強力な磁力で吸着します。指を挟まないよう、着脱は必ずゆっくり行ってください。
手順3:仮止め(Tack-Down)
2色目(2ステップ目)を縫います。動画の環境では、仮止めはジグザグで素材を固定します。

チェックポイント: 縫い中に素材が波打つ/押さえの前で盛り上がるようなら、一度停止して素材がフラットに置けているか見直します。
手順4:トリム(縫い際まで、糸は切らない)
枠をミシンから外します。ただし、枠からスタビライザーや素材は外さないでください。固定が崩れると、仕上げサテンがズレます。 仮止めの縫い目ギリギリまで、余分な素材をカットします(仮止め糸を切らない)。

作業のコツ:
- 裏から切る: 動画では、枠を裏返して裏側から切る方法を推奨しています。台布(下の生地)を切り込みにくくなるためです。
- 上から切る場合: 小さなモチーフなら上からでも視認できるため可能ですが、刃先が下の生地に入らないよう注意します。
手順5:サテン仕上げ(端を封じる)
枠を戻し、最後のステップを縫います。
画面・仕上がりチェック: サテンが素材端をしっかり覆い、キラキラ素材の端が“毛羽立ち”のように見えていなければOKです。端が見える場合は、トリムが甘いか、Heightが細い可能性があります。
方法2:線画(中が抜けた形)で作る場合
中が白く抜けたアウトライン形状(落書き風の線、枠線だけの図形など)は、方法1のままだと失敗しやすいです。

「二重ボーダー」になりやすい落とし穴
線画に Applique Border を使うと、線の内側と外側の“2つのエッジ”を形状として拾い、結果として二重に縫われるような見た目になりがちです。
解決:Applique Center Line を使う
線画の場合は次の手順にします。
- Stitch Image へ
- Stitch Type:Applique Center Line を選ぶ
- 設定は同様に(Height 50 / Length 3)を基準にする

これにより、線の太みを“面”として扱わず、線の中心をトレースする形になり、二重縫いのリスクを下げられます。
トラブルシューティング(症状→原因→対処)
| 症状 | 物理的な原因 | ソフト側の原因 | 対処 |
|---|---|---|---|
| 端が見える/布端が出る | トリムが控えめで布が残りすぎた | サテン幅(Height)が小さい | 次回は縫い際までトリム、またはHeightを50以上に |
| 糸詰まり(鳥の巣) | 上糸の掛け直し不足、下糸セット不良 | 密度が高すぎる(Lengthが小さすぎる) | 再糸掛けして、Lengthを3〜4へ |
| 枠跡が気になる | 標準枠を強く締めすぎた | なし | 浮かせ貼り(フローティング)を検討、または マグネット刺繍枠 |
| サテン設定が戻る/反映されない | なし | Sew Artの不具合 | 右パネルに手入力→欄外クリックで確定 |
| 枠に当たりそう | なし | サイズが95mm超 | 最大95×95mmにリサイズ |
作業の判断基準(練習→実用→量産)
作業目的に合わせて、道具と段取りを切り替えると安定します。
ケースA:「端材で練習したい」
- スタビライザー: ガーデンファブリック等でコスト優先
- 枠張り: 標準枠
- 目的: ソフト設定と刺し順の理解
ケースB:「Tシャツなど伸びる素材に刺す」
- スタビライザー: 生地に合わせて選定(伸縮対策を優先)
- 枠張り: 伸ばしすぎない段取り(必要に応じてフローティング)
- 目的: 着用感と歪み防止
ケースC:「パッチを50枚など、同じ工程を繰り返す」
- スタビライザー: 安定重視
- 段取り: 枠の付け外し回数が増えるほど、枠張りの再現性が重要
- 効率化: ミシン刺繍 用 枠固定台 の導入で、位置決めと枠張りのばらつきを抑えやすくなります。定番の 刺繍用 枠固定台 のような治具思想は量産で効きます。
- 事前確認: 厚物や背の高い枠を使う場合は、アームのクリアランスも含めて マグネット刺繍枠 使い方 の手順を確認し、干渉がない運用を前提に組みます。
95mmの安全域と、Height 50 / Length 3の基準値を押さえるだけで、アップリケは一気に安定します。小さなBrother SE425でも、段取り次第で“見栄えのする面”を効率よく作れます。
