業務用刺繍ミシンの基本糸調子:ボビンのドロップテスト、上糸つまみの「手の感覚」、15本針バー/Hテストの読み方

· EmbroideryHoop
業務用刺繍オペレーター向けに、糸調子の3つの要点(上糸つまみ2か所+ボビンケース)を実務手順として整理。ボビンケースの「約1/4インチずつ落ちる」ドロップテスト、ボビン調整ネジを安全に微調整するコツ、上糸の引き抵抗を「クォーター硬貨3枚分」の感覚で判断する方法、さらに15本針のバー/H形式テストスウォッチを見て“ボビンを触るべきか/特定針の上糸だけを触るべきか”を切り分ける読み方までを解説します。
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目次

マシン刺繍の糸調子を安定させる:「手の感覚」から作る多針機の基準

多針の業務用ヘッドを回していると、糸調子の乱れは「見た目が悪い」だけで終わりません。高価な糸が無駄になり、製品を廃棄することになり、結果として“針の子守り”に時間を取られて生産が静かに落ちていきます。

現場で押さえるべきポイントはシンプルです。糸調子は勘ではなく、摩擦と引っ張り合い(バランス)で決まります。

ここでは、上糸つまみが2か所(上側+中間)あり、ボビンケースが独立している「標準的な回転釜(ロータリーフック)系」の業務用ヘッドで使える、再現性の高い基準出し手順をまとめます。デモは tajima 刺繍ミシン を例にしていますが、考え方自体は多くの多針機に共通です。

手順の優先順位は次の通りです。 1) ボビン(全針共通の土台)→ 2) 上糸(針ごとに変動する要素)→ 3) テスト縫い(結果で確定)

Ryan standing in front of a green Tajima embroidery machine introducing the topic.
Introduction
Side view of the Tajima machine head showing the tension assembly.
Machine Overview
Ryan pointing to the rotary hook area where the bobbin case goes.
Locating Bobbin

予備知識:「良い糸調子」とは何か(感覚と見え方)

初心者がやりがちなのは、糸調子を「強く締める/緩める」の話だと思い込むことです。実際は締め具合ではなく、上糸と下糸(ボビン糸)のバランスです。

サテン柱(バー/Hテスト)のようなテスト縫いでは、次を基準に見ます。

  • 見た目の基準: 刺繍を裏返し、下糸(白)が中央に“細い帯”として出ているか。目安は「1/3ルール」=色糸 1/3・白(下糸)1/3・色糸 1/3。
  • 触感の基準: 糸が生地に食い込みすぎない(締まりすぎ)/裏でループがだらっと出ない(緩すぎ)。

量産の鉄則: 針ごとの微調整に入る前に、必ずボビンを疑ってください。下のボビンケース1つが原因なのに、15本分の上糸つまみを触り始めると、あっという間に時間が溶けます。


Part 1: ボビンのドロップテスト(基礎の基礎)

ボビン糸調子は土台です。多針機では、全ての針が同じボビン糸と引っ張り合うため、ここがズレると全針に同じ傾向の不具合が出ます。上糸つまみをいくら触っても、ボビンが緩すぎれば裏でループが出やすく、締まりすぎれば糸切れや引き込みが増えます。

Close up focusing on the bobbin case in hand.
Holding Bobbin Case
Threading the thread through the slit on the side of the bobbin case.
Bobbin Threading
The bobbin drop test: The bobbin case suspended in mid-air by the thread.
Gravity Tension Test

Step 1: ボビンケースに正しく糸を通す

テスト前に、まず「糸道が正しいこと」を作ります。糸調子バネの下に糸くずが噛むと、調子が狂っているように見えます。

  1. 清掃: 糸調子バネ周辺の糸くずを取り除きます(エアやブラシ等)。
  2. ボビン装填: 新しいボビンをケースに入れます。
  3. スリットに通す: ボビン糸を側面のスリット(隙間)に滑らせるように入れ、抵抗が出る位置まで引き出します。
    • チェックポイント: まったく抵抗なくスルスル抜ける状態はNGです。引くと「抵抗が乗る」感触が必要です。

Step 2: 「ヨーヨー」ドロップテスト(重力で確認)

このテストは、手の力加減のブレを減らし、重力で摩擦の状態を見ます。

  1. 吊るす: ボビン糸の端を持ち、ボビンケースが空中にぶら下がるようにします(落下しても安全な場所で)。
  2. 軽く揺らす: 手首を小刻みに、一定のリズムで“トントン”と揺らします。
    • チェックポイント: 強く引っ張って落とすのではなく、ヨーヨーのように「軽く揺らして、少しずつ動く」状態を狙います。

合格の目安:

  • 適正: 揺らすたびに、ボビンケースが約1/4インチずつ下がる。
  • 締まりすぎ: ほとんど落ちない。
  • 緩すぎ: すぐにストンと落ちてしまう。

「1/4インチ」基準を採用する理由

この手法では、落下量を「約1/4インチ」に寄せて、ややコントロール寄りの基準を作ります。多針の業務用運用では、まずこの“基準点”を作ってから、必要に応じて上糸側で追い込みます。


Part 2: ボビン調整ネジを安全に微調整する

ドロップテストが外れたら、ボビンケース側のネジで調整します。初心者が失敗しやすいのは「回しすぎ」です。

Detail view of the flathead screw on the bobbin case.
Identifying Adjustment Screw
Ryan using a tiny screwdriver to make a micro-adjustment.
Adjusting Bobbin Tension
Wrapping the thread tail through the corkscrew pigtail guide.
Final Bobbin Prep

「極小」調整ルール

  1. ネジの確認: ボビンケース側面の大きめのマイナスネジを使います。
  2. 微調整: ほんのわずかずつ回します。
    • チェックポイント: デモでも強調されている通り、1/4回転は大きすぎです。まずは“ほんの少し”を繰り返し、都度ドロップテストで戻り確認します。

注意: 機械が動作中に調整しないでください。回転釜周辺は危険です。ネジ溝に合ったドライバーを使い、溝を潰さないようにします。

Step 3: ピッグテール(コイル状ガイド)に通す

ドロップテストで基準が出たら、ボビン糸をボビンケース上部のコイル状ガイド(いわゆるピッグテール)に回してから機械に戻します。

  1. 通す: ボビン糸をコイル状ガイドに回します。
  2. 戻す: ボビンケースを所定位置に装着します。

Part 3: 上糸は「クォーター硬貨3枚分」の引き抵抗で合わせる

ボビンが基準に入ったら上糸側です。狙いは引き抵抗が一定で、引っ掛かりがないこと。上糸つまみが2か所ある機種では、片側だけ強くすると糸が引っ掛かったり、擦れて毛羽立ちやすくなります。

Pointing at the upper tension knobs on the machine head.
Top Tension Explanation
Demonstrating how to turn the top tension knobs.
Adjusting Top Tension
Pulling the thread manually near the presser foot.
Manual Pull Test

Step 1: 2つの上糸つまみを「同じだけ」動かす

  1. 前提: まず正しい糸掛けができていることを確認します。
  2. 均等: 調整が必要なときは、片方だけを大きく動かさず、両方を同じ量だけ動かす意識で合わせます。

Step 2: 手で引いて「抵抗の質」を覚える(手の基準作り)

  1. 引く: 押さえ周辺で上糸を手で引き、スムーズに引けるか確認します。
  2. 感覚の基準: デモの表現が分かりやすいです。「USクォーター硬貨を3枚重ねて糸で縛り、ツルツルの面を引きずる」程度の抵抗を目安にします。

引いたときの診断:

  • 引っ掛かる/ガサガサする: 糸道のどこかで引っ掛かり、またはつまみのバランスが崩れている可能性。まずは糸掛けとつまみの均等を見直します。
  • 抵抗がほぼ無い: 糸がテンション部から外れている可能性。糸掛けをやり直します。

Part 4: 15本針のバー/Hテストで「どこを触るべきか」を確定する

手の感覚は重要ですが、最終判断はテスト縫いです。バー(サテン柱)やHテストのようなスウォッチを縫い、裏面を見て判断します。

Showing the 'Bar Test' swatch to the camera (front side).
Sewout Analysis
The back side of the test swatch showing white bobbin columns.
Inspecting Tension Result
Ryan summarizing the process in front of the machine.
Conclusion

Step 1: 見る場所を決める(裏面が真実)

スウォッチを裏返し、各バーの中央に下糸(白)がどれくらい出ているかを見ます。

Step 2: 裏面の出方で原因を切り分ける

  • 下糸(白)が多すぎる(白い帯が太い): 上糸が締まりすぎ。
  • 下糸(白)が少なすぎる(色が支配的): ボビンが締まりすぎで、上糸が引き込まれている可能性。

判断ロジック:全体(グローバル)か、特定針(アイソレート)か

業務用刺繍ミシン の現場で時間を節約するコツはここです。

  1. 列全体をざっと見る。
  2. パターンA: どの針も同じ傾向で崩れている。
    • 判断: グローバル要因(ボビン側)を疑う。
    • 対応: 上糸つまみを大量に触る前に、ボビンケースに戻ってドロップテスト。
  3. パターンB: ほとんどの針は良いのに、特定の針だけ崩れている。
    • 判断: アイソレート要因(その針の上糸側)を疑う。
    • 対応: その針の上糸つまみで微調整。

トラブル対応:症状→原因→その場の対処(早見表)

機械の前で迷わないための簡易マトリクスです。

症状 チェックポイント ありがちな原因 その場の対処
引きがガクガクする 手で引くと引っ掛かりがある 上糸つまみのバランス不良/糸道の引っ掛かり 2つのつまみを均等に見直し、糸掛けを確認する
裏がループだらけ 裏面がモジャモジャ 上糸テンション不足 上糸つまみを締め方向へ。糸がテンション部に入っているか確認
下糸が表に出る 表面に白が出る 上糸が締まりすぎ/ボビンが緩すぎ まず上糸を緩める。改善しなければボビンを見直す
糸切れが増える 連続して切れる 締まりすぎ/糸道の抵抗過多 糸掛けを再確認し、上糸を緩め方向へ
糸が絡んで止まる 針板下に糸だまり 上糸がテンションを失っている いったん糸掛けを最初からやり直し、引き抵抗を再確認

どの調整を先に触る?(判断手順)

上から順に確認します:

  1. 全ての針で同じ症状か?
    • YES: ボビンケースを外し、ドロップテスト→ボビンネジを微調整。
    • NO: 次へ。
  2. 特定の針だけの症状か?
    • YES: その針で手引きテスト→上糸つまみを微調整。

準備:機械の横に置く「糸調子キット」

つまみを回し始める前に、必要なものを機械の横に固定します。探し物が減るだけで、調整の再現性が上がります。

必需品

  • 小型のマイナスドライバー: ボビンネジは微調整が前提です。溝に合うものを用意します。
  • 清掃用品: 糸くずは糸調子不良に見える原因になります。
  • 予備針: 針穴の傷や曲がりは糸切れの原因になります。

準備チェックリスト

  • 回転釜周辺の糸くずを除去
  • ボビンがスムーズにほどける状態か確認
  • 糸掛けがガイドから外れていないか確認

セットアップ:基準出しプロトコル(順番固定)

変数を減らすため、順番を固定します。精度が求められる Tajima 刺繍ミシン の運用ほど、この順番が効きます。

セットアップチェックリスト

  • 1. 清掃: ボビンケース周辺を清掃
  • 2. ボビン: 糸通し→ドロップテスト(約1/4インチずつ落ちる)
  • 3. 上糸: 手引きで「クォーター3枚分」の抵抗を基準にする
  • 4. テスト縫い: バー/Hテストで裏面を確認

運用:フィードバックループ(回しながら監視)

スタートを押して放置せず、短い間隔で確認します。

音での監視

  • チェックポイント: 一定のリズムで安定しているか。
  • 注意: いつもと違う高い音や不規則さが出たら、糸がガイドから外れた/テンションが崩れた可能性があります。

品質確認

定期的に裏面を見て、下糸(白)の帯が安定しているか確認します。

運用チェックリスト

  • テスト時は低〜中速で開始
  • 途中で一度停止し、裏面を確認(1/3ルール)
  • 問題があれば「判断手順」に戻る

まとめ:迷ったら「ボビン→上糸→テスト」の順

この手順は、当てずっぽうではなく物理(摩擦)と手の基準で再現性を作るためのものです。

  1. ボビンが先: ドロップテスト
  2. 上糸が次: 手引きテスト(クォーター3枚分)
  3. 最後に確定: バー/Hテストの裏面

量産で安定させるほど、調整は「大きく動かす」より「小さく、戻り確認を挟む」方が速くなります。手順を固定し、糸道を清潔に保ち、感覚とテスト結果を一致させていきましょう。