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Bernina 7 Proシリーズの概要
「縫い自体は悪くないのに、位置がズレる/生地が動く/枠張り(フープ)で時間が溶ける」——この手のロスは、作業者の腕前というより物理(摩擦・層ズレ・テンション)で起きることが多いです。層が滑る、枠が地の目を歪める、針落ち位置を“勘”で決める。結果として、見た目は“縫い不良”でも原因は段取り側にあります。
このBernina 7 Proシリーズ(735/770/790 Pro)の解説は、カタログ的な紹介ではなく、オペレーター向けの現場ガイドとして読み進めてください。自動糸通し・レーザー・デュアルフィードといった「ズレと疲労を減らす仕組み」を、どの順番で使うとミスが減るか、どこを見れば“成功の状態”かを、手触り・音・画面表示の手掛かりで整理します。

新モデルの位置づけ
動画では 735 Pro/770 Pro/790 Pro が紹介されています。型番の違いは主に筐体仕様やステッチ幅(5.5mm と 9mm)などに現れますが、ここでの「Pro」は作業者目線ではスループット(段取り時間の短縮)と精度に寄った設計、と捉えると理解しやすいです。
本記事は「設定→縫う→ズレる→原因が分からない」を防ぐための、トラブルシュート型の流れで進めます。
“スイス設計”を現場に翻訳すると
動画ではスイス設計の系譜が語られます。オペレーターにとって重要なのは、これは要するに公差(精度の詰め方)だという点です。きちんと段取りすれば非常に綺麗に出ますが、スタビライザー不足や糸掛けの甘さなど、前準備が雑だと結果に出やすいタイプでもあります。精度が高いほど、段取りの精度も要求されます。
精度を上げるための主要機能
レーザーや自動糸通しは「贅沢機能」と見られがちですが、現場では疲労低減=ミス低減です。長時間作業では視認性の低下がそのままズレや糸トラブルに繋がります。機能は“上手くなる”ためではなく、“ブレない”ために使います。
自動糸通し(オートニードルスレッダー)
動画では、ボタン操作で糸をカットし、針穴へ通す自動糸通しが実演されています。刺繍で色替えが多い運用、あるいは頻繁に糸を替える作業では、段取りのストレスが大きく減ります。
手順(感覚で確認する流れ):
- 糸掛け: 上糸をガイドに沿って通します。テンション周りで“スカスカ”ではなく、軽い抵抗感がある状態を目安にします。
- カット: 側面のカッターに糸をしっかり掛けて切ります。
- 作動: 自動糸通しボタンを押します。
- 待つ: 作動音が収まるまで糸に触れません(途中で引くと失敗の原因になります)。
チェックポイント(成功状態の見分け):
- 作動が最後まで完了し、異音(引っ掛かり音)がない。
- 目視: 針穴の後ろ側に小さな糸ループが見える。
期待される結果:
- 針に上糸が通った状態になる。

注意: 自動糸通し作動中は針周りに手を入れないでください。機構が強い力で動くため、指を挟む危険があります。ボタンを押したら「手を離す」動作をルール化すると安全です。
補足(失敗しやすい原因): 糸通しが針穴を外すとき、よくある原因は針の曲がりです。見た目では分からない程度でも、機構はシビアに影響を受けます。何度も外れる場合は無理に繰り返さず、まず針交換を優先してください。
ピンポイントレーザー(Pinpoint laser)による針落ち位置の可視化
動画では、レーザーの赤い点で「針が落ちる位置」を示し、さらに画面で針位置を動かすとレーザー点も追従することが示されています。これは“だいたいこの辺”の勘を排除するための機能です。
手順(目視で確定する流れ):
- 画面上でレーザーアイコンを有効化します。
- 目視: 生地上に赤い点が出ることを確認します。
- 追従テスト: 画面操作で針位置を左右に動かし、赤点が即座に追従することを確認します。
- 位置合わせ: チャコ線や基準線(地の目)に赤点を合わせるように生地側を調整します。
チェックポイント:
- 赤点がボヤける場合は、レンズ面の汚れを疑います(まず清掃)。
- 針を下げたときの針先位置と、赤点の位置関係が一致していること。
期待される結果:
- 針落ち位置の“当てずっぽう”がなくなる。

現場のコツ(位置合わせの考え方): レーザーが解決するのは開始点(針落ち点)の精度です。一方で、枠張りや生地セットが斜めだと、開始点は合っても全体が傾いて縫い上がります。
- レベル1: 開始点だけでなく、別の基準点でもレーザーを当てて角度を確認します。
- レベル2: まっすぐセットできないのが常態なら、作業者の“癖”が原因になりやすいので、治具や枠の運用(後述のマグネット枠など)を検討します。
Total Stitch Control(7インチ画面でのステッチ調整)
動画では、7インチ画面でステッチの幅・長さ・針位置などを調整できることが紹介されています。
動画内で示された仕様:
- 735 Pro: 最大幅 5.5mm
- 770/790 Pro: 最大幅 9mm
手順:
- ステッチを選択します。
- ノブ操作で幅/長さを調整します。
- 目視: 画面上のプレビューが変化することを確認します。
- メモリー(ハートアイコン)に保存します。
期待される結果:
- 調整したステッチが保存され、再現性が上がる。

補足(幅広ステッチの“つれ”に注意): 幅が広いジグザグ等は、生地への負荷が増えます。薄手素材でスタビライザーなしだと、縫い目の間が持ち上がるような“つれ”が出やすくなります。幅を広げるほど、裏側の支え(スタビライザー)を厚く・安定させる必要があります。
ジャンボボビン(作業の流れに効く)
動画では、糸量が多いジャンボボビン(容量が約70%増)と残量アラートが紹介されています。
実務で効く理由: 連続作業では、下糸交換が入るたびに集中が切れます。特に同じ工程を繰り返す運用ほど、交換頻度が生産性に直結します。
- 目安: 下糸交換が頻繁で流れが止まるなら、ジャンボボビンの恩恵が大きいです。
- 段取り: 作業前にボビンを複数本巻いておくと、途中停止が減ります。
扱いにくい素材・多層への対策
通常の送りは下側の送り歯が主体です。綿の平織りなら問題になりにくい一方、滑りやすい素材や多層(キルト等)では上層が遅れて層ズレが起きやすくなります。
内蔵デュアルフィード(Built-in Dual Feed)
動画では、内蔵デュアルフィードをアームで噛み合わせて上層も送る様子が示されています。いわゆる上送り(ウォーキングフット相当)を筐体側で行う仕組みです。
手順(噛み合わせを確実にする):
- 重要: 背面に切り欠き(ノッチ)がある「D」対応押さえを装着します(動画でも、対応フットでないと噛み合わない旨が示されています)。
- 本体背面からデュアルフィードのアームを下ろします。
- 押さえ側のノッチにアームを噛み合わせます。
チェックポイント:
- 噛み合わせが確実で、外れそうな浮きがない。
- 押さえを上げるとアームも連動して上がる。
つまずきポイント: 対応していない押さえで無理に噛み合わせようとすると破損リスクがあります。まず「D」対応かを確認してから操作します。
期待される結果:
- 多層や滑り素材での層ズレが減る。


補足: 大物(キルト等)は、テーブルから垂れた重量が送りに抵抗として掛かります。デュアルフィードがあっても、作品の重みが強いとズレ要因になります。作業台の支持(作品を持ち上げる/支える)も合わせて考えると安定します。
フリーモーションを安定させる BSR
フリーモーションは手の移動速度=縫い目長さになりやすく、一定に保つのが難しい作業です。BSR(Bernina Stitch Regulator)は、布の動きを検知して針の動作を制御し、縫い目長さを揃える方向に働きます。
BSR(Bernina Stitch Regulator)の基本
動画では、BSRフットの接続、送り歯を下げる指示、画面上で認識される流れが示されています。
セットアップ手順:
- BSRのケーブルをミシンヘッドの指定ポートに接続します。
- BSRフットを装着します。
- 必須: 送り歯を下げます。
- 目視: 画面でBSRが認識され、案内が出ることを確認します。
チェックポイント:
- 画面がBSR接続を認識している。
期待される結果:
- 手の動きが多少変わっても、縫い目が揃いやすくなる。


BSRモードの使い分け
動画では、Mode 3(しつけ)と Mode 2(針が一定で動く挙動)が示されています。
- Mode 1: 布の動きに合わせて針が動き、止めると止まる(基本運用)。
- Mode 2: 布を止めても針が一定で動く(細かい動きでリズムを切りたくない場面向き)。
BSR Mode 3(しつけ)
動画では、ピンやスプレーを使わずにキルトサンドを仮固定する用途として Mode 3 が紹介されています。
手順:
- BSR Mode 3 を選択します。
- しつけ用に長い縫い目設定にします。
- 布を動かしながら、一定距離ごとに大きな縫い目で留めていきます。
期待される結果:
- 後で外しやすい、長く粗いしつけ縫いになる。


刺繍(モジュール)側の高度機能:BQMと4点配置+モーフィング
刺繍で一番の不安は「位置が合っているか」です。ズレたらやり直しが効きにくい工程ほど、位置合わせの仕組みが価値になります。
スケーラブルなBQMファイル
動画では、刺繍モジュールがBQM(Bernina Quilting Machine)形式を読み込み、密度を崩しにくくスケーリングできる点が紹介されています。
動画の実演内容:
- BQMデザインを 100% → 50% に縮小。
- 画面上で比率変更を行う。


4点配置(4-Point Placement)+モーフィング
動画では、レーザーを使いながら実物のブロックに対して4点を合わせ、画面上で形状に追従(モーフィング)させる流れが示されています。実際のキルトブロックは完全な正方形にならないことが多く、そこに合わせ込むための機能です。
作業フロー:
- デザインを読み込みます。
- 編集画面で必要ならサイズ調整を行います。
- モーフィング/4点ツールを選択します。
- レーザーを目印にしながら、実物側の4つの角に対応する点を画面上で設定します。
チェックポイント:
- 画面のグリッドが、実物の歪みに合わせてわずかに傾いた形で表示される。
期待される結果:
- 実物の形に合わせてデザインが追従し、狙った範囲に収まる。



補足(枠張りの物理は別問題): 4点配置は“幾何学的なズレ”を補正しますが、枠跡(枠の圧痕)や生地のたるみなど、物理的な固定不良は別軸です。通常の内枠/外枠で強く挟む方式は、素材によっては白っぽい枠跡が残ることがあります。
ツールのアップグレード:マグネット刺繍枠 厚物やデリケート素材で枠張りに時間が掛かる、枠跡が気になる、といった場合は、摩擦で押し込む枠の限界に当たっている可能性があります。
- 発生条件: 厚い多層、毛足のある素材、繰り返し作業。
- 解決レベル1(運用): スタビライザー運用の見直し(浮かし等)。ただしズレリスクは残ります。
- 解決レベル2(道具): マグネット刺繍枠 を検討します。リングに押し込むのではなく、上から保持するため枠跡を減らし、段取りを短縮しやすくなります。
- 適合の考え方: 7シリーズ向けとしては bernina マグネット刺繍枠、または bernina 刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠 のように、対応機種表記があるものを選ぶのが安全です。
注意: マグネット枠は強力な磁力で急激に吸着します。
* 挟み込み: 指をリングの間に入れない(端を持って操作)。
* 医療機器: ペースメーカー等がある場合は近づけない(距離を取る)。
* 磁気影響: カード類や磁気記録媒体に近づけない。
小規模でも作業を“ライン化”したい場合は、ミシン刺繍 用 枠固定台 や 刺繍用 枠固定台 のような治具で、毎回同じ位置に枠張りできる環境を作ると再現性が上がります。
ワイヤレス転送
動画終盤では Bernina V9 ソフトウェアによるWi-Fi転送に触れられています。運用時は、ミシンとPCが同一ネットワーク(2.4GHz)にいることを確認します。
Proにアップグレードする理由(現場の判断軸)
Proの価値はレーザー単体ではなく、段取り短縮が積み上がる点にあります。
速度・静音性
動画では、動作の滑らかさや静音性にも触れられています。共有空間での作業では、音と振動のストレスが減るだけでも稼働時間が伸びます。
アクセサリー適合の考え方
BSRやデュアルフィードは、アクセサリー前提の機能です。
- ルール: デュアルフィードを使うなら、押さえが「D」対応であることが必須です。対応していない押さえでは機能が成立しません。
バンドルとサポート
動画ではギフトバンドルにも触れられています。刺繍は設定項目が多いので、導入時のトレーニングやサポートが付く販売形態は、結果的に立ち上がりが早くなることがあります。
プライマー(機能を“連鎖”で見る)
各機能をバラバラに捉えると、どこで失敗したか分からなくなります。現場では連鎖で管理します。
連鎖: 前準備(安定化)→ セットアップ(糸/押さえ/モジュール)→ 操作(レーザー/BSR)→ 品質確認
前準備
画面を触る前に、物理を整えます。
消耗品と下準備チェック
- 針: Organ または Schmetz Topstitch 90/14(一般的な刺繍用途の例)。
- スタビライザー: ニット/衣類はカットアウェイ、布帛はティアアウェイ。
- 仮固定: 一時接着スプレーでバッティングを仮止め。
- 印付け: 水溶性ペンやチャコ。
前準備チェックリスト(完了判定)
- 針の状態: 新しい針に交換したか(目安:新しい案件=新しい針)。
- ボビン: ジャンボボビンが適正に巻けているか、正しくセットされているか。
- 作業環境: テーブルが水平で、刺繍アーム可動のスペースが確保できているか。
- 手元: ハサミ、糸切り、必要なら bernina マグネット刺繍枠 が手の届く範囲にあるか。
セットアップ
機械側の構成を決めます。
セットアップA:デュアルフィード(通常縫い)
- 「D」対応押さえを装着。
- デュアルフィードアームを噛み合わせる。
セットアップB:刺繍(モジュール)
- 刺繍モジュールを装着(機械状態は画面の案内に従う)。
- 画面の指示に従ってキャリブレーション(アームが左右に動く)。
セットアップC:BSR(キルト)
- BSRを接続。
- 送り歯を下げる。
- 画面がBSRを認識しているか確認。
セットアップチェックリスト(完了判定)
- 押さえ確認: 実物の押さえと、画面メニューで選択されている押さえが一致しているか。
- 送り歯状態: BSR/刺繍は下げる、デュアルフィード縫いは必要に応じて上げる。
- 糸掛け: 上糸が天秤に確実に入っているか(目視)。
- 針板: 針板が用途に合っているか。
操作
実行フェーズです。
操作1:レーザー位置合わせ
- レーザーアイコンをタップ。
- 針を下げて、赤点と針先の関係を確認。
- モーフィング使用時は4点を順に合わせる。
操作2:ステッチ調整
- 幅/長さを調整。
- 試し縫い: 本番と同じ「生地+スタビライザー」の端材で必ず確認。
操作3:実行
- 最初の数針は糸端を押さえて糸絡みを防ぐ。
- スタート。
操作チェックリスト(完了判定)
- 初動: 最初の針落ちがレーザーの基準に合っているか。
- 糸調子: 下糸が表に出すぎない/上糸が裏でループしない。
- 音: 異音がなく、一定の動作音で回っているか。
品質確認
- 枠跡: 枠の当たりが出ていないか。出る場合は運用見直しや マグネット刺繍枠 用 枠固定台 のような固定環境も検討。
- シワ・波打ち: スタビライザー不足、固定不足の可能性。
- 位置ズレ(位置合わせ): アウトラインとフィルが合わない場合は、固定中のズレを疑う。
判断ツリー:安定化とワークフローのアップグレード
- 状況: 枠跡が出る/厚物の枠張りに時間が掛かる(タオル・キルト等)。
- 診断: 摩擦式の枠で素材を潰している可能性。
- 選択肢A(運用): 浮かし(スタビライザーのみ枠張りし、上から仮固定)※ズレリスクあり。
- 選択肢B(道具): dime 刺繍枠 bernina 用 などのマグネット系フレームを検討。
- 状況: 量産(50枚以上)で枠張りがボトルネック。
- 診断: 手合わせの再現性不足。
- 選択肢A(治具): hoopmaster 枠固定台 システムで位置を固定。
- 選択肢B(設備): 量がさらに増えるなら、多針刺繍機で色替えロスを減らす方向も検討。
トラブルシューティング
コストの低い順に切り分けます。
| 症状 | 可能性が高い原因 | クイック対処(低コスト→高コスト) |
|---|---|---|
| 糸絡み(針板下で団子) | 上糸の糸掛けミス。 | 1. 上糸を掛け直す: 押さえを上げて(テンションが開く状態で)再糸掛け。 <br>2. 針交換。 |
| 目飛び | 針のたわみ/針の劣化。 | 1. 針交換: 奥まで差し込む。 <br>2. 素材に合う針種を確認(ニットはボールポイント等)。 |
| 糸切れ/糸がささくれる | 糸道の引っ掛かり/速度過多。 | 1. 糸道に引っ掛かりがないか確認。 <br>2. 速度を落とす: 600 SPM に下げる。 <br>3. 針穴向き等を確認。 |
| レーザーは点くが位置がズレる | 位置合わせ後に生地が動いた。 | 1. 縫い工程ならデュアルフィードを使う。 <br>2. 刺繍では マグネット刺繍枠 用 枠固定台 などで固定を強める。 |
| デュアルフィードが噛み合わない | 押さえが非対応。 | 1. 「D」対応押さえ(背面ノッチ)か確認。 |
| 画面に「押さえを上げて」等が出る | 安全センサー作動。 | 1. 押さえを上げる。 <br>2. 糸噛み等で手回しが重くないか確認。 |
まとめ(結果)
Bernina 7 Proシリーズは、レーザーの視認、デュアルフィードの層ズレ抑制、BSRの一定化、そして4点配置(モーフィング)による位置合わせといった“ズレの原因”に対する手段が揃っています。
ただし、機械が精度を出せるほど、スタビライザー運用や枠張りの物理が結果を左右します。段取り(固定と安定化)を整え、必要なら マグネット刺繍枠 や治具で再現性を上げる——この積み上げが「家庭作品」から「業務品質」へ近づく最短ルートです。
