目次
Bernina 990の主要機能(刺繍・キルティングの実務視点)
Bernina 990を「縫製も刺繍も全部こなせる一台」として検討している方は、自由度の高さに惹かれているはずです。紹介動画では“簡単に高精度”という印象が強い一方、現場目線で見ると、この機種は物理(重さ・引きずり・振動)をどう管理するかに軸足を置いた設計に見えます。
「小さなワッペン」から「大判キルトトップ」へスケールした瞬間に効いてくるのが、まさにこの物理管理です。刺繍ミシン 用 枠入れ

この記事でわかること(+現場編集として補うポイント)
動画で強調されている要点は次の3つです。
- 針右側に14インチのスロートスペース
- 重い作品を支える脚付き拡張テーブル
- フリーモーション作業の安定に効く Bernina Integrated Stitch Regulator(BISR/内蔵ステッチレギュレーター)
ただし、機械は「使う人の段取り」で性能が決まります。本稿では“ユーザー”ではなく“オペレーター”として判断できるよう、次を実務化します。
- 振動の管理: 拡張テーブルの脚が「支え」になる置き方/逆に揺れを増幅させる置き方
- 引きずり(ドラッグ)の管理: スペースが広くても、作品の重みが針落ちに影響するケース
- 安定の三点セット: 生地+スタビライザー+枠張りを一体の構造物として考える
14インチのスロートスペース:実作業で何が変わるか
小型機では、作業時間のかなりの割合が「布をさばくこと」に取られます。990の14インチは単なる快適さではなく、作品を“平らに保つための余裕”です。キングサイズのキルトトップや、ジャケット背中の大柄刺繍のように嵩が出る案件ほど差が出ます。

現場のコツ(感覚チェック): 14インチあっても、重力は敵です。キルトがテーブル端から垂れて引っ張られると、モーター音が重く感じたり、縫い目の詰まり方が変わることがあります。
- 対処: 作品の重みが「針」ではなく「テーブル」に乗るように、右側・手前側に支持面を作ります(拡張テーブルを活かす)。
脚付き拡張テーブル:安定は“品質機能”
大きい作品はテコのように振る舞います。バッグなど重量物がアームから垂れるとトルクがかかり、枠がわずかにねじれて位置ズレ(アウトラインとフィルが合わない)の原因になります。脚付き拡張テーブルは、ここを抑えるための装備です。

チェックポイント(机のたわみ確認): 一般的なテーブルはたわみます。密度の高い部分に入ったとき、台が弱いと振動が増えやすくなります。
- 確認: 拡張テーブルの脚が確実に接地しているか、ガタつきがないかを先に潰します。脚が浮いていると“支え”ではなく“バネ”になりやすいので、設置面は固い方が有利です。
BISR(内蔵ステッチレギュレーター):何が大きいのか
動画では BISRが機構に内蔵されている点が触れられています。フリーモーションキルティングでは、手の動きに合わせて縫い目長さを安定させる方向に働きます。

補足(音で見る機械の状態): レギュレートが安定していると、一定のリズムで滑らかに動作します。逆に、音が不規則に荒く感じる場合は、手の動きが速すぎる/負荷が高いなどでリズムが崩れているサインになり得ます。手の動きを落として、音が整うか確認します。
ステッチ機能の革新:Jumbo Stitchと拡大(最大500%)
動画の次の軸は、装飾ステッチを大きく扱える Jumbo Stitch です。ここは「ソフトの計算」と「素材の耐性」がぶつかる領域です。ミシン刺繍 用 枠固定台
Jumbo Stitchの拡大:動画で示されていること
標準の装飾ステッチを最大500%まで拡大できる例が示されています。小さな装飾が、面を作る要素に変わります。


最大500%拡大:効く場面と、失敗しやすいポイント
拡大自体は機械にとって計算処理ですが、生地にとっては負担が増えます。たとえば、細い幅の想定だったステッチが大きくなると、糸渡りが長くなりやすく、引っ掛かりや生地の寄り(トンネル状のつれ)につながります。
チェックポイント:
- 試し縫いを必ず作る: 同じ生地・同じスタビライザーで、200%→500%の順に並べて比較します。
- 裏面の触感: 裏が硬い“塊”のように感じる場合、テンションが強すぎる/素材に対して負荷が高い可能性があります。
- 仕上がりの平坦性: 500%側が波打つ・盛り上がる場合は、スタビライザーの見直しが先です。
ステッチを刺繍モードへ:動画で触れられている流れ
装飾ステッチを保存して刺繍モードへ持ち込む流れが示されています。縫製側のパターンを刺繍的に扱えるのは、試作や表現の幅を広げます。

チェックポイント(画面での確認): 刺繍として動かす場合、開始・終了の処理(ほどけ止め)がどう入るかは仕上がりに直結します。画面を拡大して、始点・終点の処理が不安なときは、洗濯や摩擦が入る用途では特に試験片で確認します。
注意: 極端な拡大は、押さえや針板との干渉リスクを上げます。縫い始める前に、手回しで一周分動かしてクリアランスを確認する運用が安全です。

大枠での刺繍を攻略する:Giant Hoop(16×12インチ)
大面積刺繍は、最後は段取り勝負です。動画では Giant Hoop(16×12インチ) が紹介されます。面積が増えるほど、枠張りは“力技”になりやすく、そこで品質が崩れます。bernina mega hoop 刺繍枠
16×12インチのGiant Hoop:できること
16×12のフィールドがあると、ジャケット背中やキルトブロックなどを一回で回せる範囲が広がります。


つまずきポイント(枠張りの物理): 幅が大きい枠ほど、均一テンションで張るのが難しくなります。従来の内枠・外枠タイプでは、素材によっては枠跡が出たり、厚みのあるキルトサンドイッチが保持しきれないことがあります。
- 感覚チェック: 枠張り後に軽く叩いて、張りが均一かを見ます。音や反発が弱い箇所があると、走行中にズレやすくなります。
大判キルトの枠張り: “テンションマップ”で考える
原則: 布を「引っ張って固定する」のではなく、「歪ませずに支える」意識が重要です。
- よくある失敗: 枠を閉じた後に強く引っ張って整えると、地の目が歪み、外したときに形が戻って柄がズレます。
- 対処: 枠を閉じる動作と同時に、親指で面をならして“その位置で固定”します。
枠張りの再作業を減らす:量が増えたときの考え方
10枚のキルトブロック、50枚のロゴシャツのように回数が増えると、標準枠はボトルネックになりやすいです。手首の負担が増え、張りムラも出やすくなります。
道具を見直す判断基準:
- 症状: 「枠と格闘している時間の方が長い」「厚物が枠から抜ける」
- 条件: 厚物(キルト等)やデリケート素材を日常的に枠張りする
- 選択肢: ここで検討に上がるのがマグネット刺繍枠です。
- 狙い: 摩擦で締め込むのではなく、磁力で垂直に保持する考え方のため、厚みのある素材でも保持しやすく、枠跡の軽減につながる場合があります。
注意: マグネット刺繍枠は指を挟みやすいので、閉じるときに指を挟まない位置取りを徹底します。医療機器に関する注意: 強い磁石は植込み型医療機器に影響する可能性があるため、取り扱いは各製品の安全指示に従ってください。
位置合わせ技術:内蔵カメラのスキャン
990には、枠をスキャンして位置合わせを助ける内蔵カメラが搭載されています。枠張りがわずかに斜めになった“人為誤差”を、画面上で補正できるのが強みです。刺繍ミシン 用 枠入れ
内蔵カメラのスキャン:できること
枠に張った状態の生地を撮影し、画面上でデザインを重ねて確認できます。

枠が斜めでも画面で補正(動画で示されている流れ)
Tシャツなどで「枠に入れた後に、数度だけ斜めに気づく」はよく起きます。
- 従来: 外して枠張りし直す
- 990: スキャンして、画面上でデザインを回転させて合わせる

現場のコツ: 画面上のガイド(グリッド等)が使える場合は、布側の基準線(チャコ線など)と平行を取ってから確定すると、ズレの再発が減ります。
よくある位置ズレの罠:カメラは“表面”しか見ない
カメラは表面の見え方を整えるのに強い一方、作品の重みで引っ張られる“動的なズレ”までは解決しません。テーブルから垂れている重量物は、刺繍中に枠の動きへ影響します。
- 対処: カメラ合わせ+拡張テーブル(支持)をセットで運用します。
BQM内蔵キルティング:200個のファイルを活用
本体には BQM(Bernina Quilting Machine) のファイルが200個内蔵されています。コメントでも質問が出ていますが、内蔵分を使うために追加ソフトを購入する必要はない旨の回答が付いています。hoopmaster 枠固定台
200個のデザイン:動画で述べられていること
動画ではコースターの例で紹介され、サイズ調整や設定のカスタマイズに触れられています。
コースターのような小物:テストベンチとして優秀
小物は、密度や糸調子の差が出やすく、短時間で検証できます。設定を変えて比較する用途に向きます。

SPI(stitches per inch)の調整:品質と時間のトレードオフ
SPIは仕上がりと負荷を左右します。
- 高SPI(12+): 線が締まりやすい一方、素材によっては穴が連なりやすい
- 低SPI(8–10): 柔らかく速い一方、カーブが荒く見える場合がある

チェックポイント(触感): 縫い線を爪でなぞって引っ掛かるならSPIが低すぎる可能性があります。逆に板のように硬いなら、SPIが高すぎる/負荷が高い可能性があります。
Bernina 990はあなたに向く?(用途別の現実的な判断)
990は強力ですが投資額も大きい機種です。用途を現実の作業に落として判断します。bernina マグネット刺繍枠
向いているケース
- キルト用途が主軸の方: 14インチの懐とBQMの内蔵は大きな武器です。
- 一点物の表現を詰めたい方: カメラ位置合わせとJumbo Stitchは試作の回転を上げます。
量産の壁(色替えと停止回数)
量産目的(例:スタッフユニフォーム等)で導入する場合は注意が必要です。
- ボトルネック: 990は単針機のため、多色ロゴでは色数分だけ停止し、手動で糸替えが発生します。
- 考え方: 量が伸びたら、単針の上位機よりも多針刺繍機を併用する発想が現実的です。990はキルトや高精度の作業に寄せ、ロゴ量産は多針で回す、といった役割分担がしやすくなります。
判断ツリー:生地+スタビライザー+枠(枠張り)
失敗を減らすための考え方です。
- 生地が不安定(Tシャツ、ジャージ、ニット)?
- はい: カットアウェイ系のスタビライザーが基本。枠張りで伸ばしやすい素材なので、張り方(引っ張り過ぎない)を優先し、必要ならマグネット刺繍枠も検討します。
- いいえ(デニム、キャンバス等): ティアアウェイでも成立しやすく、標準枠でも運用しやすいです。
- そもそも枠に入れにくい形状(バックパック、キャップ、厚手ジャケット等)?
- はい: 標準枠だけで無理に解決しない方が安全です。スタビライザーのみを枠張りして貼り付ける(フロート)など、現場で一般的な回避策を検討します。
- いいえ: 標準の段取りで進めます。
- 表面が起毛・凹凸(タオル、ベルベット、フリース)?
- はい: 目落ち防止に水溶性トッパーを併用します。
Prep(事前準備)
成功は段取りで決まります。縫い始める前の“プレフライト”を省略しないのが最短です。
見落としやすい消耗品と事前チェック
必要になりやすいもの:
- 針: キルト用/刺繍用で適正を選び、摩耗したら交換
- 仮止め: 一時接着スプレーはズレ防止に有効な場面があります
- トッパー: 起毛素材用に水溶性を用意
Prepチェックリスト
- クリアランス: 右側スペースは確保できている?(14インチ目安)
- 安定: 拡張テーブルの脚は確実に接地している?
- 針: 針先は新しい?
- 下糸: ボビン周りに糸くずが溜まっていない?
- 試験片: Jumbo Stitch用の同条件テスト布(生地+スタビライザー)を用意した?
Setup(セットアップ)
1) 設置面と機械の“占有面積”を作る
- 固い作業台に設置します。
- 拡張テーブルを取り付け、脚のガタつきをなくします。感覚チェック: テーブル右端を押して、たわみが出ないこと。
2) テスト内容を決める
- Jumbo Stitch: 見やすい糸色で比較サンプルを作る
- Giant Hoop: 中肉コットン+カットアウェイ系スタビライザーで枠張りの基準を作る
Setupチェックリスト
- スロートスペースが塞がれていない(動画:14インチ)
- 拡張テーブル脚が安定している
- カメラのレンズ面が汚れていない(汚れはスキャン精度に影響)
- 糸掛けが正しい(テンション部に確実に入っている)
Operation(運用手順)
Step 1 — 作業スペースの余裕を確認
- 作品を通してみて、引っ掛かりがないか確認します。
- 成功基準: 作品が無理なく滑り、機械側に引っ張られない。
Step 2 — Jumbo Stitchの比較サンプルを作る
- 装飾ステッチを選び、200%→500%で並べて縫います。
- 成功基準: 500%側が極端に波打たず、面が落ち着いている。つれが出るならスタビライザーを見直します。
Step 3 — 大枠刺繍の段取り
- Giant Hoopで枠張りします。
- 感覚チェック: 張りムラがないか、軽く叩いて確認します。弱い箇所があれば枠張りをやり直します。
Step 4 — カメラスキャンで位置合わせ
- カメラ機能でスキャンし、画面上で位置を確認します。
- 枠がわずかに斜めなら、画面上で回転補正します。
- 成功基準: 画面の基準と、布側の基準線(印)が矛盾しない。
Step 5 — BQMファイルでキルトを試す
- コースター等の小物デザインで試します。
- 成功基準: カーブが破綻せず、糸切れが出ない。
Operationチェックリスト
- Jumboの比較テストを実施(つれ/波打ち確認)
- Giant Hoopの張りを確認(ムラなし)
- カメラ位置合わせを画面で確定
- 最終クリアランス確認(手回しで干渉がない)
- スタート
Troubleshooting(トラブルシュート)
不具合が出たら、コストの低い順に切り分けます。bernina 用 マグネット刺繍枠
| Symptom | Likely Cause | The Quick Fix |
|---|---|---|
| 鳥の巣(裏で糸が団子になる) | 上糸テンション不良。糸が正しい経路から外れている。 | 上糸を最初から掛け直す。 押さえを上げてテンションを開放し、糸を確実に入れてから押さえを下げる。 |
| デザインの位置ズレ(アウトラインとフィルが合わない) | 枠内で生地が動いた。枠張り保持が弱い。 | 保持力を上げる。 スタビライザーを見直し、必要なら仮止めを併用。枠の方式(マグネット等)も検討。 |
| 糸がささくれる/切れる | 針の傷。何かに当たってバリが出ている。 | 針交換。 状況により針穴の大きいタイプへ変更も検討。 |
| 枠跡 | 摩擦・圧迫で繊維が潰れた。 | 仕上げで回復を試す(素材によりスチーム等)。予防として、圧迫が出にくい方式(マグネット等)を検討。 |
| Jumbo Stitchで針折れ | 負荷・たわみ。長いステッチで引っ張られやすい。 | 速度を落とす。 まずはスピードを下げ、試験片で安定する条件を探る。 |
Results(まとめ)
Bernina 990は、家庭用の縫製機と本格キルティングの間を埋める設計思想が見える一台です。
- スペース: 14インチの懐が“嵩との戦い”を軽くする
- 表現: Jumbo StitchとBQM内蔵で試作の幅が広がる
- 精度: カメラ位置合わせが枠張りの小さなミスを救う
現場結論: 予算が許すなら、技術的な障壁をかなり下げてくれます。ただし、最後に勝つのは段取りで、機械が物理を消してくれるわけではありません。
- 枠張りの負担や枠跡が課題なら:標準枠に加えて、用途に応じて bernina マグネット刺繍枠 や bernina 用 マグネット刺繍枠 のような選択肢を検討すると、作業性が改善する可能性があります。
- 速度と色替えが壁なら:990は“制作ステーション”として強く、量産は多針刺繍機の併用が現実的です。

