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Bernina Sock Hoop Insertsとは(靴下刺繍が難しい理由)
靴下への刺繍は一見シンプルに見えますが、実際は「伸びる筒」を枠張りしようとした瞬間に難易度が上がります。伸ばしすぎて柄が歪む、位置がズレる、縫っている途中で生地が動く——この3つが典型的な失敗パターンです。
このチュートリアルでは、LindaZ’sの動画手順に沿って、Bernina B 990でBernina Sock Hoop Insertsを使い、Bernina Medium Hoopを外枠だけ使って、くるぶし丈ソックスに小さなデザインをきれいに刺繍する流れを解説します。
他の bernina 刺繍ミシン で平物中心の運用から移行する場合、ここでの最大のポイントは「力学が変わる」ことです。インサートが“内枠”の役割を担うため、2枚のリングで生地を太鼓のように挟むのではなく、靴下を“型”に通して形状を作ります。狙うのは最大テンションではなく、コントロールされたテンションです。
この記事を読み終えるとできること
- 刺繍可能範囲から、Mini/Standardのどちらを使うべきか判断できる
- 消えるペンに頼らず「安全ピン」で位置決めできる
- 粘着水溶性スタビライザーで“滑り”を止め、デザインの流れ(ドリフト)を防げる
- B 990のフープ選択と位置合わせ(Y=20)を再現できる
- 仕上げで裏面のゴワつきを減らし、履き心地まで整えられる

使用スタビライザーと下準備
動画では Floriani Wet N Gone Tacky(粘着タイプの水溶性メッシュ)を使用しています。代替として OESD AquaMesh Plus も言及されています。
素材選びの理由(ここが重要) 靴下はニット(ループ構造)なので、全方向に不安定です。粘着のないスタビライザーだと、針の摩擦で生地が表面を“滑って”しまい、輪郭が波打ったり、塗りがズレたりします。粘着タイプは一時的な接着として働き、縫製中にニットのループをその場に固定してくれます。

事前に揃えるもの&作業前チェック(失敗を減らす段取り)
靴下刺繍はサイズが小さいぶん、許容誤差も小さくなります。枠に触る前に、次を確認してください。
- 安全ピン:位置決め用(動画の方法)
- ハサミ:仕上げでスタビライザーを細かく切れるもの
- 作業台の清掃:粘着スタビライザーは糸くずが付きやすいので、テーブル面を軽く拭いてから始める
- 糸の通り:小物は引っ掛かりが出ると即トラブルになるため、上糸の通り道を一度目視

「裏返し」で枠張りする理由(動画のやり方が合理的な点)
動画では靴下を完全に裏返してから枠張りします。これは好みではなく、次の2点で合理的です。
- グリップが上がる:裏側のほうが表面に凹凸があり、粘着スタビライザーに食いつきやすい
- 干渉を減らす:かかと・つま先の縫い代や履き口の余りが針周りに入り込みにくくなり、押さえや針棒への引っ掛かりリスクが下がる
補足(テンションの考え方) ニットは引っ張りすぎると、枠から外した瞬間に戻ってシワ・波打ちになりやすいです。インサート+スタビライザーで“支える”のが正解で、太鼓張りは避けます。
下準備チェックリスト(枠張り前)
- インサート選択:デザインサイズに合わせてMini/Standardを選ぶ
- 裏返し:靴下を完全に裏返す
- 位置決め:刺繍中心に安全ピンを刺して目印にする
- スタビライザー裁断:インサート開口部より四方に余裕を持たせて切る(動画のように扱いやすいサイズで)
- 機械側の準備:フープ選択ができる状態か(表示がない場合はアップデートが必要)
注意: 仕上げでスタビライザーを縫い目ギリギリに切るとき、指先が刃先に近づきやすくなります。作業は必ずミシン停止状態で行い、無理な姿勢で切らないでください。

手順:靴下を裏返して枠張りする(動画の順番どおり)
ここからは動画の流れをそのまま再現しつつ、現場で役立つ「チェックポイント」を追加します。

Step 1 — フープの準備(内枠を外す)
箱に記載の刺繍可能範囲は次のとおりです。
- Standard Sock Hoop Insert:1.8 x 2.3 in(4.6 x 6 cm)
- Mini Sock Hoop Insert:1.3 x 1.6 in(3.4 x 4.2 cm)
やること: Bernina Medium Hoopの内枠(内リング)を外して脇に置き、外枠だけを使います。黒いプラスチックのインサートが内枠の役割になります。
チェックポイント
- 手触り:外枠のネジがスムーズに回る
- 見た目:内枠を作業台から外し、誤って組み込もうとしない状態にする

Step 2 — 安全ピンで位置決め(消えるペン不要)
靴下を裏返し、刺繍したい中心位置に安全ピンを刺します。
補足: 動画では水溶性ペンではなく安全ピンを使用しています。ニットは凹凸があり、インクがにじんだり見えにくいことがあります。安全ピンは物理的に目立つので、位置合わせが安定します。あとで外しやすい向き(留め具側が手で触れる側)にしておくと作業がスムーズです。

Step 3 — インサートに靴下を通す
黒いインサートを、裏返した靴下の中に差し込みます。
重要: インサートの高いリップ(段差)を靴下の内側方向に向けます。
この段差が“止まり”になり、縫製中に靴下の伸縮で生地がずり落ちるのを抑えます。
チェックポイント
- 触感:きつすぎず、しかしダブつかない
- 見た目:編み目が極端に開いているなら伸ばしすぎです

Step 4 — 粘着水溶性スタビライザーを貼る
Floriani Wet N Gone Tackyの台紙をはがし、粘着面を使います。動画では、インサート開口部にスタビライザーを当て、靴下の刺繍部が動かないように前後からしっかり押さえて密着させています。
作業のコツ: 台紙はゆっくりはがします。勢いよくはがすとメッシュが反って自分自身に貼り付き、扱いづらくなります。
チェックポイント
- 見た目:シワ・気泡が少なく、面がフラット
- 感覚:軽く触っても生地が滑らない

Step 5 — 外枠にロックして固定する
靴下とスタビライザーをセットしたインサートを、Medium Hoopの外枠(グレー)に入れて固定します。
やること: 外枠のネジを指で可能な限り強く締めます。動画でも「動かないこと」が最重要として強調されています。さらに、余った履き口側の生地はフープの上端に折り返して、刺繍エリアにかからないよう逃がします。
チェックポイント
- 揺すり確認:インサートが外枠内でカタつかない
- 生地の逃がし:余り布が針周りに入り込まない

Bernina B 990の画面設定(フープ選択と位置合わせ)
ここを飛ばすと、フープ形状の認識違いで針がフレームに近づきすぎる原因になります。必ず実際のインサートに合わせて設定します。

Step 6 — 「Mini Sock Hoop Insert」を選択する
B 990での操作(動画の流れ):
- 左下のフープアイコンをタップ
- 下へスクロールして 「Mini Sock Hoop Insert」 を選択
表示がない場合は、動画内でアップデート(USB経由)が必要と説明されています。
位置合わせの調整: 動画ではデザイン位置を編集し、Y軸を20に設定しています。
理由: 靴下は厚みや折り返しが出やすく、中心のままだと押さえが布の段差に触れやすくなります。少し上げることで干渉リスクを下げる意図です。

注意:フレーム干渉(押さえが当たる)を防ぐ
コメントでは、Bernina 790 Plusで26L押さえがフレーム上部に当たるという相談がありました。筒物+厚みがあると、押さえや周辺部品がフレームに近づきやすくなります。
対処の考え方(まず安全確認)
- 最初は低速で開始:動画でも最初はゆっくり縫い、途中で速度を上げています
- 音と感触で異常検知:カチカチ当たる音や引っ掛かりを感じたら即停止
- 位置合わせを再確認:フープ選択が正しいか、Y位置を上げすぎ/下げすぎていないかを見直す

縫い〜仕上げ
Step 7 — 縫う(最初はゆっくり)
フープを刺繍ユニットに装着し、縫製を開始します。動画では最初は低速で入り、問題がなければスライダーで速度を上げています。
チェックポイント
- 縫い始めの数十針で、布が引っ張られていないか/余り布が巻き込まれていないかを確認
作業設計の補足: 量産では枠張りがボトルネックになりやすいので、手順を固定化して「毎回同じ条件」で枠張りできるようにするのが近道です。刺繍ミシン 用 枠入れ の考え方で段取りを揃えると、左右の靴下で位置が揃いやすくなります。

Step 8 — 枠から外してトリミング→すすぎ
- インサートを外枠から外します
- スタビライザーをハサミでできるだけ縫い目近くまでトリミングします(動画でもカットしてから見せています)
- このスタビライザーは水溶性なので、残りはすすいで溶かす前提で仕上げます
履き心地の基準: 裏側を指で触って、ザラつきが強いと足首に当たって気になります。トリミングを丁寧にし、必要に応じてすすぎをしっかり行います。

仕上げチェックリスト(作業後)
- 見た目:輪郭と塗りの間にズレがない(ズレは生地移動のサイン)
- 触感:裏面にスタビライザーの角や硬い残りがない
- 次の1足の準備:ペアで作る場合、2足目も同じ高さに安全ピンで位置決めできている

道具とスタビライザーの選び方(判断の目安)
ここでは、動画の方法を基準に「どこで悩みやすいか」を整理します。
1. 靴下が一般的な綿のスポーツソックスか?
- はい: 粘着水溶性スタビライザーが扱いやすい
- いいえ(薄手・ドレス寄り): 同様に粘着水溶性が有効だが、引っ張りすぎないことを優先
2. ネジ締めが負担/作業時間が伸びる?
- はい: 量が増えるほど“締める作業”が効率を左右します。作業の標準化や治具化を検討します。
3. 購入価値があるか迷う?
- コメントにも「コンセプトは良いが、用途が十分あるか迷う」という声がありました。まずは、靴下以外にもポケットや小さめの部位など、筒物・小面積での使用頻度を想定して判断すると現実的です。
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | ありがちな原因 | 優先する対処 |
|---|---|---|
| 柄が波打つ/歪む | 枠張り時に靴下を伸ばしすぎ | テンションを緩める:編み目が開くほど引っ張らない |
| 針が当たりそう/干渉音がする | フープ選択違い、位置が端に寄りすぎ、厚みの逃がし不足 | フープ選択とY位置を再確認、余り布を確実に逃がす |
| 縫っている途中でズレる | 粘着が弱い/再利用で粘着が落ちた | 毎回新しい粘着スタビライザーを使う |
まとめ:靴下刺繍は「段取り」と「固定」がすべて
靴下刺繍がうまくいくかどうかは、デザインそのものよりも「裏返し」「安全ピンでの位置決め」「粘着スタビライザーでの固定」「正しいフープ選択とY=20の位置合わせ」という段取りで決まります。Bernina Sock Hoop Insertsは、筒物を“型”で安定させる発想なので、靴下のような小さな筒物で特に効果が出やすい方法です。
一方で、作業量が増えるとネジ締めや段取りが負担になります。用途と頻度を見極めつつ、必要なら工程を標準化して、同じ品質を繰り返せるワークフローに寄せていくのが最短ルートです。
