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生産で効く「2頭(デュアルヘッド)」の強み
CamFive EMB HT 1502 の概要動画を見ている時点で、趣味機の買い替えというより「納期を守って安定生産したい」「まとまったロットで取りこぼしを減らしたい」という課題があるはずです。つまり、発想を“クラフト”から“製造(量産)”へ切り替える段階にいます。
動画で最も強調されているのは 2頭(デュアルヘッド)。2点を同時に刺繍できるので、同一案件の処理能力(スループット)が上がります。ただし、スループットは「精度」と「段取り」が揃って初めて武器になります。

「2頭」が現場にもたらす本当の変化
動画では「2点同時に縫える」と説明されています。もちろん正しいのですが、実務上のインパクトはもう一段大きく、最初は少し怖さもあります。
- ボトルネックが一瞬で移動します。 1頭機では“ミシン待ち”が発生しがちですが、2頭になると今度は“人待ち”になりやすい。2頭を止めないために、枠張り・位置合わせ・段取り替えを一定の速度で回す必要が出ます。
- 再現性は「個人技」ではなく「仕組み」になります。 2頭は小さなズレを増幅します。枠張りの位置が5mmズレる、角度が2度傾く——そのミスが1着ではなく2着同時に発生します。高単価のジャケット等では損失が一気に大きくなります。

同時刺繍で生産を倍速化(ただし、ここで失敗しやすい)
2頭運用が最も効くのは、次のような条件が揃うときです。
- 同一仕様のアイテムを2点並べられる(例:ポロシャツ左胸ロゴを50枚)
- 位置が固定化しやすい(同サイズ・同位置・同じ刺繍枠で回せる)
一方で、次の運用は事故が起きやすくなります。
- サイズ/厚みを混在させる: 1頭目にSサイズTシャツ、2頭目にXXLパーカーのような組み合わせは避けてください。生地の伸び・厚み・沈み込みが違い、片方だけシワ(パッカリング)や糸切れが出るなど、同時運用のメリットが崩れます。
- 目測で位置を決める: センターや基準点を“なんとなく”で合わせるのはNGです。
ここで効いてくるのが hooping station for embroidery machine です。贅沢品というより、2頭の強みを品質に変えるための「標準化ツール」です。物理的なグリッドや基準点があることで、位置合わせのブレを抑え、2倍速が“2倍の廃棄”に化けるのを防ぎます。
量産の制服案件に向く理由
動画では HT 1502 を「中〜大規模生産向け」と位置づけています。実務で利益が出やすいのは、例えば次のような受注構成です。
- 企業ユニフォーム(社名ロゴ、ネーム)
- 学校・チームのまとめ生産(20点以上をバッチ処理)
- イベント物販で同一ロゴを反復
逆に、1点物の名入れ(ベビーブランケット→タオル→…のように毎回段取りが変わる)中心だと、2頭の段取り時間が重くなり、体感では遅くなるケースもあります。
注意: 本機は高速・高トルクで動作します。家庭用と違い、触れた瞬間に止まる前提ではありません。運転中は手・ハサミ・ゆるい服や髪を可動域(アーム/パンタグラフの移動範囲)に入れないでください。開始前に必ず枠の干渉(クリアランス)を確認し、Trace/Contour で刺繍枠が針棒周辺に当たらないことを確認してからスタートしてください。
現場で効く工業スペックの読み方
動画で強調される「現場の生産力」を決める数値は、各頭15本針、最大1200SPM、各頭22" × 14" の刺繍エリアの3つです。ここでは“数字が意味する運用”に落とし込みます。
多色ロゴに効く「各頭15本針」
HT 1502 は 15本針 刺繍ミシン として紹介されています。各頭に15色をセットでき、頻繁な糸替えを減らせます。

チェックポイント: 15本針は「色数」だけでなく 段取り短縮 のための仕組みです。
- 針1〜3: 黒・白・赤など“よく使う基本色”
- 針4〜15: 案件ごとの指定色
基本色を常設しておくと、朝イチの糸替えが減り、立ち上がりが速くなります。一方で、15本針は糸道が15系統あるということでもあります。普段使わない針(例:針12)で糸切れが出るのは、糸の劣化だけでなく、糸道にホコリが溜まっていたり、通しが甘かったりすることもあります。
現場のコツ: 週に一度、全針で数インチ分だけ糸を手で引き出し、糸道がスムーズに動くかを確認します(“使っていない糸道”ほど詰まりやすい)。
最大1200SPMの「速度」の扱い方
動画では最大 1200SPM とされています。

速度で失敗しやすいポイント: 最高速は“常用速度”ではありません。素材・データ・枠の安定性に合わせて使い分けます。
- 1200SPM: 条件が揃ったときの高速域(安定した素材・単純な面埋めなど)
- 850〜950SPM: 多くの現場での実用域(生産性と品質のバランス)
- 600〜700SPM: 安全側(繊細な素材や細かい文字など、まずはここから)
なぜ速度が品質を落とすのか: 高速では振動と熱が増え、枠ズレや糸トラブルが起きやすくなります。テーブルや架台が不安定だと、一定のリズムで「ドスドス」と打音が出ることがあります。音が荒いときは速度を落とし、安定した「一定の唸り音」に近づけるのが基本です。
各頭22×14インチの大判エリア
動画では 各頭22" × 14" と明示され、ジャケット、バナー、ホームデコ用途に向くとされています。

このサイズが生む現場メリットは、大判を“分割せずに”一発で回せることです。小型機で起きがちな「分割→再枠張り→位置ズレ」のリスクを減らせます。
生産向けの操作性(タッチパネル/USB/センサー)
動画では、タッチパネル操作、USB/内蔵デザイン、各種センサーにより、生産環境で回しやすいことが強調されています。
タッチパネル(操作パネル)
タッチパネルは、データ設定と運転中の調整の中心として紹介されています。

運用の要点: 画面は“絵”だけでなく“情報”を見ます。
- 色順(糸順)の整合: 画面の「Color 1」が青でも、実機の針1に赤が掛かっていれば事故になります。正しさは画面ではなく、最終的に人が合わせます。
- 向き(左右/上下)の確認: 画面上の向きと、枠張りした製品の向きが一致しているかを必ず確認します。
USB と内蔵デザイン
動画では、内蔵デザインライブラリとUSBでのデータ投入が紹介されています。

注意(運用ルール): 工業用機に、普段ネット閲覧に使っているUSBを挿さないでください。ウイルス等でシステムやデータが破損するリスクがあります。刺繍データ転送専用のUSBを用意し、PC→USB→ミシンの流れを固定化します。
糸切れ検知などのエラー検知
動画では、糸切れセンサーを含むエラー検知で停止ロスを減らすと説明されています。

チェックポイント: センサーは“切れてから”知らせます。現場では、切れる前兆を拾えると停止ロスが減ります。
- 目視: テンション周りの動きが不自然(止まる/暴れる)ときは要注意
- 音: 正常時と違う詰まった音がしたら、センサー待ちにせず停止して確認
素材対応と枠張り(フーピング)の幅
動画では、軽いシルクから重いレザーまで対応できること、チューブラー枠やキャップ対応が示されています。

キャップ、レザー、シルクへの刺繍
動画内でシルクとレザーが例として挙げられています。

補足: 「縫える」と「安定して量産できる」は別です。標準のチューブラー枠(刺繍枠)だけで無理に回すと、品質事故が増えます。
- シルク/サテン: 強く張ると 枠跡 が残りやすい
- レザー: 針穴が戻らないため、やり直しが効きません。表面を傷めない固定方法を前提に検討します。
判断フロー:素材 → スタビライザーと枠張り方針
開始前に、次の順で判断すると事故が減ります。
1. 伸びる素材か?(例:Tシャツ、機能素材ポロなど)
- はい: 洗濯後の歪みを避けるため、スタビライザー選定を慎重に。枠張りは“引っ張って伸ばす”のではなく、自然な状態でフラットに。
2. 毛足/厚みで沈みやすいか?(例:タオル、フリース)
- はい: 上面の沈み込み対策(トッピング)と下面の支持を組み合わせ、縫い目が埋もれないようにします。
3. 枠跡が問題になりやすいか?(例:デリケート素材)
- はい: 標準枠の締め付けを前提にしない運用を検討します。
チューブラー枠とキャップ枠への対応
動画の情報として、チューブラー枠とキャップフレームが挙がっており、キャップ刺繍例も示されています。

キャップは難易度が高い理由: 曲面で素材が跳ねやすく、固定が甘いと針折れやズレにつながります。
- 対策: 専用の 刺繍ミシン用 キャップ刺繍枠 を前提に段取りします。
マグネット刺繍枠が“アップグレード”として効く理由
動画では標準枠での枠張りが示され、マグネット枠へのアップグレードが人気だと触れられています。

マグネット刺繍枠は、単なるアクセサリーではなく、現場によっては 作業負担と品質ブレを減らすための改善策 になります。
- 作業負担: 標準枠のネジ締めを繰り返す作業は手首に負担が出やすい
- 段取り: マグネット刺繍枠 は着脱が速く、厚み差への追従もしやすい
- 固定の安定: 厚手・デリケート素材など、標準枠で無理が出るケースの選択肢になります
- 運用の標準化: 刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠 によって締め付けの“作業者差”を減らしやすくなります
注意:マグネットの安全管理
マグネット刺繍枠は強い磁力で吸着します。
* 挟み込み注意: 合わせ面に指を入れない
* 医療機器: ペースメーカー等には近づけない(距離を取る)
* 電子機器: USB等の記録媒体や磁気カードに近づけない
投資額とROI(回収)の考え方
動画では価格帯が $19,000〜$21,000(パッケージにより変動)と見積もられています。

$19k〜$21kの価格帯をどう捉えるか
ここで買っているのは「単なる速度」ではなく、量産で重要な 稼働(止まらないこと) です。
工業用機では、
- ROI要素1: 生産速度(同じ案件を早く回せる)
- ROI要素2: 量産耐久(連続運転を前提にした構造)
- ROI要素3: 資産性(設備としての価値)— 業務用刺繍ミシン は消費財より設備に近い考え方になります
糸切れ検知で停止ロスを減らす
動画では糸切れセンサーがダウンタイム低減に役立つとされています。
補足: センサーがあると、糸品質や針状態の悪さが“見える化”されます。糸が不安定だと停止が増え、結果的に生産が止まります。
高速機ほど重要になる「刺繍データ」
動画の締めでは、高速機を安定稼働させるには適切な刺繍データが重要だと強調されています。

プロ品質の刺繍データが必要な理由
画像(JPG等)をそのまま刺繍に変換しても、量産で安定するデータにはなりません。縫い順・下縫い・密度などを前提に設計されたデータが必要です。
工業用速度に合わせた密度の考え方
動画内に密度の具体数値は出ていないため、ここでは“考え方”に留めます。
- 密度を上げすぎると硬くなり、素材に負担が出ます
- カバーは密度だけでなく、縫い方向や下縫いの設計で安定させます
準備(見落としがちな消耗品と事前確認)
量産は「準備で勝つ」仕事です。運転前に、消耗品と状態を揃えておきます。
- 針: 素材に合う種類を用意
- 注油: 日次の基本作業として実施
- 仮止め: 浮かし(フローティング)や位置固定に必要になる場合あり
- 清掃: ボビン周りの糸くず除去
事前チェックリスト(電源ON前)
- 注油: 指定箇所の状態確認
- ボビン: ボビンケース清掃、残量確認
- 針: 先端の欠け/曲がりがないか確認
- クリアランス: 可動域に障害物がないか、台が安定しているか確認
セットアップチェック(データ/実機)
- データ投入: USBで読み込み、向きを確認
- 色合わせ: 画面の色順と、糸立て/針番の実色を突合
- Trace/Contour: 枠干渉がないか確認
- テンション: 引き出し感に極端な引っ掛かりがないか確認
運転チェック(立ち上げ手順)
- 開始速度: 最初は低速で安定確認
- 音: 異音が出たら停止
- 糸切り: 色替え時の糸切りが安定しているか確認
- 増速: 安定後に実用域へ
トラブルシュート(症状 → 主因 → 対処)
| 症状 | 主な原因 | まずやる対処 |
|---|---|---|
| 糸がささくれる/切れる | 針の摩耗、糸道の不具合 | 針交換、糸道の通し直し |
| 裏糸が絡む(鳥の巣) | 上糸の通し不良、テンション不適 | 上糸を最初から通し直す(押さえ上げ状態で) |
| 枠跡が残る | 標準枠の締め過ぎ | 素材に合う固定方法を検討(締め付けを前提にしない) |
| 針折れ | 枠干渉、キャップのバタつき | Trace/Contourで干渉確認、固定の見直し |
| 上面に下糸が出る | 上糸テンション過多、下糸テンション不適 | 上糸テンションを少し緩めて再テスト |
まとめ:最終的にできるようになること
これらを押さえると、「ミシンを動かす」から「工程を管理する」へ移行できます。 最終的に、次を判断・実行できる状態を目指します。
- ボトルネックの特定: 枠張りが遅いのか、糸切れが多いのかを切り分ける
- 安全運用: 高速・高トルク機としての危険域を理解する
- 増産: 2頭の能力を“速さ”だけでなく“標準化”で活かす
