目次
素材選び:Flexfitキャップと3mmフォームを基準にする
キャップの3Dパフは、マシン刺繍の中でも難易度が上がりやすい工程です。見た目はシンプルでも、量産スピードに近づくほど、素材の硬さ・フォームの密度・糸の摩擦といった“物理”が仕上がりに直結します。
動画では、白い Flexfit 6277 キャップに黒糸で3Dデザインを刺繍しています。なぜこのボディにこだわるのかというと、刺繍は「再現性=利益」だからです。制作者は、安価なキャップ(特に芯が弱い/作りが不安定なもの)だと針下で挙動が読めず、空振り(不良)でボディを捨てる確率が上がる点を強く示唆しています。

ボディ(無地キャップ)の差が、仕上がりを決める理由
キャップ前面は、芯(バックラム)入りのカーブ面にテンションをかけて刺繍する“曲面パネル”です。ここが柔らかいと、縫いテンションに負けて面が沈み、位置合わせがズレたり、3Dが「潰れて見える」原因になります。
- 触感チェック(現場で即できる): 前面パネルを軽く押して、すぐに反発して戻る硬さがあるか確認します。くしゃっと潰れる場合は、スタビライザー増量や速度を落とすなど、工程側での救済が必要になりがちです。

フォーム厚:このワークフローでは3mmが標準
この手順では 3mmのパフフォーム を使用し、キャップ用途の標準として扱っています。
- “ちょうど良い”厚み: 3mmは立体感が出やすい一方で、機械側のクリアランスや負荷が過度になりにくい厚みです。
- 厚くするリスク(4〜6mm): さらに盛り上げたくて厚手フォームを選ぶと、押さえや針周りの干渉・摩擦が増え、針折れや縫い不良の原因になります。動画でも、厚手にする場合は機械調整が必要になり得る旨が示されています。
制作者の結論は明確で、「調整を避けたいなら3mmに留める」です。

色合わせ:穿孔跡(穴目)を目立たせない最短ルート
3Dパフで一番効く“簡単な対策”が、フォーム色を糸色に合わせることです。
理屈: パフは針でフォームを穿孔して成立します。サテンの角やエッジでは、どれだけ詰めても微細な隙間が出ることがあります。
- 例A: 黒糸 × 白フォーム → 隙間が白点に見えて「ミス」に見えやすい
- 例B: 黒糸 × 黒フォーム → 影に溶けて視覚的に目立ちにくい

スタビライザー:2.5ozティアウェイ(tearaway)を使う理由
動画では 2.5ozのティアウェイスタビライザー を使用しています。
- 役割の捉え方: Tシャツの平物刺繍のように「スタビライザーが主役」ではなく、構造のしっかりしたキャップはボディ自体が安定要素になります。ティアウェイは、針板との摩擦を抑えたり、わずかな“バタつき(フラッギング)”を抑える補助として効きます。
工程を標準化するなら、まずはこの組み合わせを基準にすると判断が早くなります:Flexfit 6277 + 2.5ozティアウェイ + 3mmフォーム。
事前に揃えておく消耗品・小物(作業が止まる原因を潰す)
- マスキングテープ: フォーム固定に必須(安全面にも直結)
- ピンセット(先細): 文字内側のフォーム除去に使用
- ヒートガン: 仕上げの“締め”に使用
枠張りの成否が品質を決める:Gen 2キャップ枠の使い方
キャップ刺繍は、枠張り(枠入れ)でほぼ勝負が決まります。データが良くても、斜め・緩い・歪んだ状態で固定すると、位置ズレや潰れが一気に出ます。動画では、Gen 2のキャップ枠システムで、クリップ〜クランプまでの流れを見せています。

枠張りのゴール(“物理”を簡単に言うと)
狙いは、カーブ面に「太鼓の皮」のような張りを作りつつ、センターシーム(中央の縫い目)を無理に引っ張って歪ませないことです。
- 緩いと起きること: フォームの抵抗で生地が引きずられ、アウトラインと埋めがズレる
- 締めすぎると起きること: 生地目が歪み、枠から外した後に直線が曲がって見える
ステーションでの枠張り手順(動画の流れ)
1) スタビライザーをステーションクリップにセット ティアウェイをクリップ下に差し込み、シワなくフラットにします。ここで波打つと、縫っている最中も波打ちます。

2) キャップの下準備:スウェットバンドを外側へ逃がす 触感チェック: 内側の縁を指でなぞり、スウェットバンドが縫いエリアに噛んでいないか確認します。噛んだまま固定すると、厚み段差で縫いが乱れやすくなります。
3) ドライバーに被せ、ツバ(ブリム)を持ち上げてセット ツバを上げた状態で入れることで、クラウンが先に当たってズレるのを防ぎ、溝にきちんと座らせやすくなります。
4) 背面ストラップをポストに密着させ、テンションを作る 前面が金具カーブに沿って滑らかになるまで引き、サイドのシワが消える状態を目安にします。

5) Gen 2の金属バンドをシーム上にかけ、確実にロック ここが一番重要です。バンドをツバ側へ回し、サイドのフック位置を合わせてロックします。 触感・聴覚チェック: しっかり掛かると、明確な「カチッ(クリック)」感が出ます。手応えが弱い場合は、完全にロックできていない可能性があります。

コメント由来の現場ヒント:枠固定台は“立派さ”より“剛性”
視聴者から「どんな台(ステーション)を使っているか」という質問があり、制作者は「普通のPCデスク」と回答しています。つまり重要なのは見た目ではなく、押し込むときに台がグラつかないことです。
ただし、平物(ポロやジャケット等)で枠張り回数が増えてくると、作業姿勢や再現性の面で専用の 枠固定台 に移行するショップも多いです。キャップは専用ドライバーが必要ですが、その他の枠張り工程を安定させることで、難しいキャップ作業に手首の余力を残せます。
ミシン側の段取り:トレースとフォーム固定で事故を防ぐ
枠張り後は、ミシン段取りが「枠に針を当てない」ための最後の防波堤です。

枠を装着したら、縫う前に必ずトレース(位置合わせ確認)
枠をドライバーに装着します。 安全の要:トレース キャップは特に、トレースなしでスタートしないでください。トレースで確認するのは次の3点です。
- デザインが前面センター(シーム)に対して適正位置か
- 針が金属フレームに当たらないか(当たると機構破損につながります)
- 押さえがツバ周りに干渉しないか
コメント由来:キャップ時の下糸テンション目安
フォームは抵抗が大きく、テンションの出方が平物と変わります。制作者はコメントで、Towaゲージで下糸テンションを200〜250に設定していると述べています。また、上糸テンションは「測っていない」としています。
- 現場的な解釈: 上糸が不要という意味ではなく、数値管理ではなく縫い状態(テスト縫い)で追い込んでいる、という運用です。フォーム上では上糸が立体を包むため、極端に締めすぎると潰れやすく、緩すぎるとループが出ます。
注意:テンション以前に確認すること(機械的な原因潰し)
* 糸掛け経路: 糸がテンションディスクに正しく入っているか
* 針の状態: 先端に欠け・バリがないか(フォームは引っ掛かりやすい)
* 針の取り付け: 取り付けが甘いと縫いが乱れやすい
フォームをカットして置き、ブラケットにテープで固定
デザインより少し大きめにフォームを切り、マスキングテープで固定します。ポイントは、布面だけに貼るのではなく、金属ブラケット側にアンカーすることです。

なぜブラケット固定が効くのか 布だけに貼ると、縫い中の微振動や引きずりでフォームが一緒に動きやすくなります。金属側に固定すると、フォームがフレーム基準で安定し、縫いズレを抑えやすくなります。
縫い中に起きていること(音で判断する)
動画の例では、デザインは約5,392針で完了しています。 聴覚チェック: ミシン音は重要な情報源です。
- 規則的に刺さる音が続く → 針が安定して貫通している可能性が高い
- 叩きつけるような音が増える → フラッギング(バタつき)や干渉の疑い。いったん停止して枠張りや固定を見直します。

セクション終わりのチェックリスト
- トレース完了: 金属フレームに接触しないことを目視で確認
- フォーム固定: テープがブラケット側に効いている
- 下糸残量: 途中で下糸切れを起こさないだけの残量がある
- ツバ干渉: ツバが機械側に引っ掛からない位置にある
刺繍後の仕上げ:フォーム除去とヒートガンで“売り物”にする
「家庭感」と「店頭品質」の差は、停止後の数分で出ます。

フォーム除去:「バターみたいに剥がれる」の意味
余分なフォームを、縫い目に沿ってやさしく剥がします。動画では「バターみたいに(スッと)取れる」と表現されています。

状態で分かる診断ポイント
- スムーズに切れて剥がれる: 密度・テンションが適正
- 伸びて切れにくい: 密度不足で穿孔ラインが弱い可能性
- 糸を引っ張ってしまう: 密度過多、またはフォームが厚すぎる可能性
ピンセットで“島”を抜く
「A」「O」「P」などの内側に残る小片(島)を、先細ピンセットでつまんで抜きます。

現場のコツ: 押し込まず、上に引き抜きます。押し込むと、縫いの下にコブが残りやすくなります。
枠を外し、裏のスタビライザーを丁寧に除去
Gen 2枠を解除してキャップを外し、内側のスタビライザーを破り取ります。 重要動作: 表側の刺繍を手で支えながら、内側を少しずつ破ります。勢いよく引くと、縫いが歪む原因になります(動画でも強く引かない注意が示されています)。

ヒートガン:立体を締めて、表面を整える
ここが仕上げの決め手です。動画ではヒートガンを中(ミディアム)設定から使い、刺繍面に軽く当てています。
- 狙い: フォームをわずかに収縮させ、糸に沿って“締まる”状態を作る/細かなフォーム片や毛羽を整える
- 運用: 近づけすぎず、同じ場所に当て続けない


注意:ヒートガンの安全
* 当てすぎ厳禁: 高温で近距離・長時間は、糸やキャップ素材を傷める原因になります。動画でも、高温側を使うなら距離を取る旨が示されています。
3Dキャップ刺繍で起きやすい失敗と対処
初心者が焦りやすい症状を、「症状→原因→対処」の順で整理します。
失敗1:表面にフォームの穴目(穿孔跡)が見える
症状: サテン端に点々が見える/別色の粒が出る 主な原因(動画): フォーム色と糸色が合っていない 対処(動画): フォーム色を糸色に合わせる(カモフラージュ)
失敗2:フォームが文字内に残る/きれいに切れない
症状: ゴムのように粘って剥がれない 主な原因(動画の示唆): データの密度不足で穿孔ラインが弱い 対処: 穿孔が“ミシン目”になるよう、ステッチ間隔を詰める方向で見直します。
失敗3:下糸側が鳥の巣(バードネスト)になる
症状: 針板下に糸の塊ができて詰まる よくある原因(コメントの質問に沿った典型): 上糸の糸掛け不良(テンションディスク外れ等) 切り分け手順:
- 無理に引かず、糸を切って除去
- 押さえを上げてから、上糸を最初から再糸掛け
- ボビンの向き・セットを確認
- 下糸テンションを200〜250(Towa)に戻して基準化(コメントの目安)
失敗4:3mmを超える厚みを“ノープラン”で使う
症状: 針折れ/押さえが引っ掛かる 原因(動画): 厚手フォームは機械側の調整が必要になる場合がある 対処(動画の方針): まず3mmに戻して安定化。厚手を使うなら、機械のクリアランス調整が前提になります。
判断フロー:キャップ用スタビライザーの選び方
消耗材を迷ったときは、まずキャップの“構造”で分けます。
START:キャップ前面はしっかり硬い?
- 芯がしっかりした構造(例:Flexfit 6277)
- 質問: かなり硬い?
- YES: 2.5ozティアウェイ(動画の標準)
- NO: 3.0ozティアウェイ、または薄手を重ねて補強
- 質問: かなり硬い?
- 芯が弱い/柔らかい構造(いわゆるアンストラクチャー)
- 質問: 引っ張ると簡単に歪む?
- YES: ティアウェイはリスクが出やすいので、形状保持を優先して別構成を検討
- NO: 3.0ozティアウェイ+速度を落として安定化
- 質問: 引っ張ると簡単に歪む?
工具・設備のアップグレード指針(“痛いところ”から改善する)
動画の手順は、少量(数枚〜十数枚)なら十分実用的です。ただ、枚数が増えるとボトルネックが変わります。
シナリオ1:作業台・枠張りの再現性が不安定
- 症状: 台が揺れて枠張りが毎回変わる
- 改善: まずは剛性の高い台に固定。必要に応じて 枠固定台 の導入で姿勢と再現性を揃えます。
シナリオ2:設備情報を調べたい(初心者が検索しがちな軸)
- 状況: 機種検討や運用情報を集めたい
- 検索軸: ricoma 刺繍ミシン や ricoma 刺繍枠 といったキーワードで、枠・ドライバーの仕様や運用事例を確認します。
シナリオ3:キャップ枠の適合でつまずく
- 症状: 汎用品を買ったが装着が不安/外れそう
- 対策: 刺繍ミシン用 キャップ刺繍枠 は機種ごとにドライバーやブラケット条件が絡むため、購入前に適合確認を徹底します。
事前チェックリスト(ミシンに触る前)
- ボディ確認: Flexfit 6277等、前面がしっかりしたキャップ
- フォーム: 3mm、上糸色に合わせた色
- スタビライザー: 2.5ozティアウェイを必要サイズにカット
- テープ: マスキングテープをすぐ取れる位置に
- 小物: 先細ピンセット、ハサミ、ヒートガン
段取りチェックリスト(ミシン前)
- 枠張り: スウェットバンドを逃がし、ロックの「カチッ」を確認
- 装着: ドライバーに確実に固定
- トレース: 金属接触なしで完了
仕上がりとまとめ
動画の仕上がりは、センターが揃った約5,392針の3Dデザインで、工程を守れば同じ品質を狙えます。
再現の要点は3つです。
- ボディの物理を信じる: 構造がしっかりしたキャップを使い、枠張りテンションを安定させる
- 材料の定番を使う: 3mmフォーム+2.5ozティアウェイを基準にする
- トレースと仕上げを省かない: トレースで事故を防ぎ、フォーム除去とヒートで“締める”
最後にもう一度トレースしてから、スタートしてください。
