目次
部品と工具の確認
スタンドの組立動画は、画面上だとボルトが次々入っていく「早回し」に見えがちです。しかし実際のボディスタンドは、2頭機の稼働で発生する振動と荷重を受け止める“骨格”そのものです。ここがねじれていたり、締結が甘かったりすると、後から原因が見えにくい不具合(振動増大、糸切れ、位置合わせのズレ、作業者の疲労感)として出てきます。
この作業は「台を組む」のではなく、機械の振動を受け止める基礎を作る工程です。最初に意識してほしい合言葉は 「直角優先、増し締めは最後」。先に締め切ってしまうと、フレームがわずかにひし形のまま固定され、天板や本体固定で無理が出ます。
このガイドで分かること
- 白い金属フレーム(ボディスタンド)の正しい向き(「丸穴」の向きで迷わない)
- 天板を反らせないための「仮締め→位置出し→本締め」手順
- 糸立てを“揺れる棒”にしないための固定の考え方(ワッシャーの挟み込み)
- 重量物の本体を安全に載せ、下面4点の固定ボルトで確実に一体化する方法

動画内で確認できる部品
- 白い金属製の脚・横桟(ボディスタンドのフレーム)
- 各種ネジ/ボルト類(長さ違いが混ざるとトラブルになるため、最初に分けて管理)
- 木製の天板(テーブルトップ)
- 糸立て一式:縦ポール、ベース金具(ブラケット)とナット、ワッシャー/ナットセット、上部の糸ガイドラック(フォームパッド付き)
- 2頭式の業務用刺繍ミシン本体(※持ち上げ前に重量と搬送手順を必ず確認)
動画内で使用している工具
- 六角レンチ(ヘックスキー)
- レンチ(糸立て根元のナット締め)
- Tハンドル六角レンチ(構造ボルトの本締めに有効)
準備しておくと作業が止まらないもの(現場向け)
動画では省略されがちですが、実作業ではあると助かるものがあります。
- 小物トレー(磁石付きだと便利):ネジの紛失防止
- 明るいライト:後半で天板の下から固定穴を探すため
- 床養生(段ボール等):塗装面の傷防止と膝の負担軽減
注意:挟まれ・落下の危険
金属部材と本体は重量があります。合わせ面に指を入れたまま位置合わせしないでください。本体を載せる工程では、吊り上げ・持ち上げ中に手足を荷重の下に入れないことを徹底してください。
ボディスタンド(フレーム)の組立
動画冒頭は床でフレームを組み始めます。ここで多い失敗は、最初から強く締めてしまうことです。先に締め切ると、フレームが微妙にねじれた形で固定され、後工程で穴位置が合いにくくなります。
この工程の基本は 「仮締めで形を作り、直角を出してから本締め」 です。

手順1 — 脚と横桟をつないで外周を作る
動画の動き: 六角レンチで白い金属部材をつなぎ、長方形の外周フレームを作ります。
仮締めの基本(噛み込み防止)
- 配置: 脚と横桟を床養生の上に、完成形に近い向きで並べます。
- 手でねじ込み開始: まずは手で回してネジ山を“素直に”噛ませます。最初から重い抵抗が出る場合は斜めに入っている可能性があるので、一度戻してやり直します。
- 締め具合: 六角レンチで軽く当てる程度まで。ここではフレームが少し動く状態を残します。
チェックポイント: 角を軽く持ち上げたとき、他の角が不自然に浮いたり、ガタつきが強い場合は、どこかが先に締まり過ぎています。
この段階の狙い: “つながっているが、まだ追い込んでいない”長方形を作ること。

手順2 — 向き合わせ(「丸穴は外側」ルール)
動画の要点: 脚部の特定の「丸穴」を指し示し、外側に向けるように明示しています。
なぜ重要か: この穴は見た目のためではなく、後付けの部材や作業環境に合わせた取り回しのために使われることがあります。向きを内側にしてしまうと、アクセス性が落ち、後からやり直しが必要になるケースがあります。将来的に作業導線を整える際、例えば 刺繍用 枠固定台 のような周辺設備を検討する場面でも、スタンド側の“使える穴”が外に向いている方が扱いやすくなります。
ここでやること
- 確認: 丸穴のある脚を見つける
- 向き: 丸穴が“部屋側(外側)”を向くように脚を回す
- 左右: 反対側の脚と対称になっているか、床で見比べる
チェックポイント: 床に置いた状態で、周囲を一周して見て、丸穴が外側に揃っていることを確認してから次へ。

手順3 — 下側の横桟(下部補強)を取り付けて剛性を出す
動画の動き: 脚から下側の横桟へボルトを通し、六角レンチで締めていきます。
締め順の考え方(偏りを作らない)
- まずは全箇所を“同じくらい”の仮締めで入れ、フレームが自然に収まる余地を残します。
- その後、対角を意識して順番に締めていくと、ひずみが入りにくくなります。
チェックポイント: 横から押したときにフレームが「ぐにゃっ」と動かず、きしみ音が出ないこと。音が出る場合は、どこかのボルトが座っていない可能性があります。
この段階の狙い: 刺繍ヘッドの往復動で出る横揺れに負けない下回りを作ること。

天板の取り付け(仮締めが重要)
木製天板は、金属フレームとミシン本体の間に入る“面”です。ここで無理に締め込むと、天板がねじれたり、穴位置がずれた状態で固定されやすくなります。

手順4 — 天板を載せ、ネジは最初は締め切らない
動画の指示: 天板を入れ、ネジは入れるが最初は締め切らない。
手順(仮締め→位置出し→本締め)
- 載せる: 天板をフレームに落とし込みます(指挟みに注意)。
- 穴位置を確認: ライトで金属側の穴と天板側の受け(ネジ穴)が合っているか見ます。
- 全数を手で入れる: まずは全てのネジを手で回して“掛かり”を作ります。
- 軽く動くか確認: 締める前に天板を軽く揺すり、どこかが突っ張っていないか確認します。
- 本締め: 全数が素直に入ったのを確認してから、均等に締めていきます。
チェックポイント: 天板とフレームの当たり面に大きな隙間がないこと。角だけ浮く場合は、フレームが直角に出ていない可能性があります。
現場のコツ: 天板ネジがどうしても噛まないときは、工具で無理にねじ込まず、周辺のフレーム側ボルトを少し緩めて“逃げ”を作り、噛ませてから全体を締め直します。
糸立て(スレッドスタンド)の組立
糸立ては「糸を掛ける棒」ではなく、上糸供給の安定に関わる部位です。ここがぐらつくと、糸の引き出し抵抗が一定にならず、糸切れセンサーの誤検知や縫い目の乱れにつながることがあります。
業務用の現場(業務用刺繍ミシン)では、糸立ての剛性も“品質の一部”として扱うのが安全です。

手順5 — 縦ポールを取り付け、根元ナットをレンチで締める
動画の動き: 縦ポールをベース金具にねじ込み、根元のナットをレンチで締めます。
やること
- ねじ込み: まず手で最後までねじ込みます。
- 固定: 根元のナットをレンチで締め、ポールが回らないようにロックします。
チェックポイント: ポールを横から軽く叩いたとき、いつまでもビリビリ振動せず、すぐ止まること。止まらない場合は根元が緩い可能性があります。

手順6 — ワッシャー/ナットの「挟み込み」(上に1つ、下に1つ)
動画の指示: 金属プレートを、上側と下側から1つずつで挟み込む。
ここが重要な理由: 上側にまとめて入れてしまうと、振動で緩みやすく、ポールが傾く原因になります。プレートを上下から挟むことで、面で固定され、ガタが出にくくなります。
確認方法
- 目視: プレートの“上側”にも“下側”にも金具が当たっている状態になっているか。
- 手で触って確認: プレートを手で回そうとしても動かないこと。
チェックポイント: プレートに遊び(ガタ)がないこと。

手順7 — 上部の糸ガイドラック(フォームパッド付き)を組む
動画の動き: 糸ガイドとフォームパッドの付いた横バーを縦ポールに取り付け、Tハンドル六角レンチで側面ネジを締めます。
位置合わせの要点
- 高さ: 糸がスムーズに上へ抜ける高さに設定します。
- 水平: 斜めだと、外側の糸だけ抵抗が変わることがあります。
チェックポイント: フォームパッドが上向きになっていること(糸コーンの振動を抑える意図)。


本体の載せ替えと固定(最重要)
ここからが最大の山場です。精密機器であるミシン本体を、スタンドに正しく載せ、最後に下面からボルトで一体化します。
手順8 — 本体をスタンドに載せる(まず位置決め)
動画の動き: 本体をスタンドに載せ、適切な位置を探して合わせます。
安全手順(必須)
- 複数人で持ち上げる: 最低2名で対応します。
- 持つ場所: メーカーが想定するシャーシ部を持ち、刺繍枠アームや糸立てを持って持ち上げない。
- 置き方: 天板上を引きずらず、静かに“置く”。
チェックポイント: 置いた後に本体が斜めにガタつかないこと。ガタつく場合は、天板の反りや脚の接地不良、ゴム足の欠落などを疑います。
手順9 — 下面の固定穴を探し、ボルト4本で締結する
動画の指示: フレーム四隅付近の下面4か所の固定穴を見つけ、下からボルトを入れて上方向に締め込みます(合計4本)。


下からの“見えない”締結を成功させるコツ
- 照らす: ライトで下から照らし、穴位置を見つけます。
- 上で微調整してもらう: 上側の補助者に本体を数mm単位で動かしてもらい、穴を合わせます。
- 手でねじ込み開始: まずは手で回してネジ山を噛ませます。
- 4本とも掛けてから本締め: 1本だけ先に締め切らず、4本すべてが入ってから均等に締めます。

チェックポイント: 本体(シャーシ)を両手でしっかり揺すっても、スタンドと一体で動き、天板上で本体が滑らないこと。少しでもズレるなら固定不足です。
注意:挟まれ(指つぶし)
本体が天板に載っているが未固定の状態で、穴位置確認のために指を差し込まないでください。本体が動くと指を挟みます。位置確認は工具などで行います。
組立後に考える「作業性の底上げ」
スタンドが安定すると、次に効いてくるのは枠張りの再現性です。量産で詰まりやすいのは、スタンドではなく枠張りのばらつきです。
スタンド高さが決まった今、作業姿勢と導線を見直してください。
- レベル1: 近くに下準備用の作業台を置く
- レベル2: 枠跡(枠の締め跡)や厚物で苦労しているなら、マグネット刺繍枠の導入を検討する
- レベル3: 量産で位置合わせを標準化したいなら、刺繍用 枠固定台(治具化された枠張り環境)を組み合わせて、毎回同じ位置に決められるようにする
事前チェックリスト(組立前)
- 部品確認: 脚、横桟、天板、糸立て、金具一式が揃っている
- 安全: 本体載せ替え要員が2名以上いる
- 作業環境: 床面スペースが確保できる
- 工具: 六角レンチ、レンチ、ライトが使える
組立中チェックリスト
- 向き: 脚の「丸穴」が外側を向いている
- 直角: フレームを本締めする前に、床でねじれが出ていない
- 天板: 全ネジを手で掛けてから本締めした
- 糸立て: ワッシャー/ナットがプレートを上下から挟んでいる
- 剛性: 糸立てポールがぐらつかない
設置後チェックリスト(稼働前)
- 固定: 下面の固定ボルト4本が確実に締結されている
- 異音: 低速で試し縫いし、ガタ・きしみ・共振音がない
- 増し締め: 運用開始後、一定期間でボルトの緩みを再確認する
- 作業導線: ミシン刺繍 用 枠固定台(使用する場合)の配置が無理なひねり動作を生んでいない
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | ありがちな原因 | すぐできる対処 |
|---|---|---|
| スタンドがガタつく/片足が浮く | ねじれた状態で先に本締めした | 一度ボルトを緩め、床で接地を出してから対角を意識して締め直す |
| 天板がきしむ | ネジの締結不足/当たり面の偏り | 緩い箇所を特定して締め直す。必要なら当たり面の状態を再確認 |
| 糸立てが傾く | ワッシャー/ナットの挟み込みが誤り | いったん外して、プレートを上下から挟む形に組み直す |
| 下面ボルトが噛まない | 穴位置がずれている/斜めに入っている | 上側で本体位置を微調整し、手でねじ込み開始してから締める |
| 振動が大きい | 本体固定ボルトの締結不足 | 下面4本の締結状態を再確認し、確実に締める |
次の改善判断(導入の優先順位)
スタンドが組めたら、次に何を改善すべきかを状況別に整理します。
ケースA:「厚物(ジャケットやタオル等)がやりにくい」
- 原因:通常の刺繍枠だと保持が不安定、手の負担が大きい
- 対策:マグネット刺繍枠の検討
ケースB:「シャツのロゴ位置が毎回ズレる/傾く」
- 原因:枠張り時の位置合わせが作業者依存
- 対策:枠固定台 や hoopmaster 枠固定台 のような治具化で再現性を上げる
ケースC:「投入が追いつかず、ミシンが待ち時間になる」
- 原因:枠張りがボトルネック
- 対策:刺繍枠を追加して“二重回し”(片方縫製中に次を枠張り)
仕上がり基準(“正しく組めた”状態)
この手順どおりに組めていれば、次の状態になります。
- 天板の収まりが均一:フレーム内で不自然な隙間がない
- 叩いたときに締まった音:ガタ・ビビりがない
- 糸立てが垂直で安定:糸供給が安定しやすい
- 本体が一体化している:手で押しても天板上で滑らない
この“土台の品質”が、趣味運用と量産現場の差になります。安定したスタンドは、位置合わせの安定と作業効率の改善にも直結します。
