手順でわかる:多針刺繍機の糸掛け(テンションのチェックポイント付き)

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この実務向けガイドでは、多針刺繍機の糸掛けを「糸立て(コーン)→針穴」まで一連の流れとして組み立て直し、各工程のチェックポイント、期待できる状態、つまずきやすい失敗とその直し方を整理します。上部の糸立て(スレッドツリー)から、プレテンションガイド、主テンションディスク、チェックばね/センサー周り、天秤(テイクアップレバー)、針棒ガイドを通して、最後にワイヤー式糸通しで針穴へ。さらに2色目でも同じ手順を再現できるよう、段取りの考え方も解説します。

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目次

マスタークラス:多針ヘッドの「糸道」を理解する

正直なところ、家庭用の1本針から多針機に移ると、同じ「糸を通す」でも難易度が一気に上がります。多針機の糸掛けは、単なる作業ではなく、テンションを安定供給する仕組みづくりです。

業務用刺繍ミシンのヘッドで行っているのは、穴に糸を通すことではありません。コーンが抵抗なくほどけ、プレテンションで糸の暴れを抑え、主テンション(テンションディスク)が必要な抵抗を作り、センサー/チェックばね周りで糸の張りと検知を成立させ、天秤(テイクアップレバー)で縫いサイクルを成立させる——この一連が「糸道」です。

「急に糸切れが出る」「枠の裏で鳥の巣(ボビン側の糸だまり)が出る」「糸切れ検知が誤作動して止まる」。こうした症状で悩んでいる場合、ソフト設定をいじる前に、まず糸道の理解と再現性を固めるのが近道です。

このガイドでは、針位置1(Needle Position 1)の糸道を分解し、手触り・見た目で判断できるチェックポイントに置き換えます。さらに、2色目でも同じ品質で再現できるよう、段取りの考え方もセットでまとめます。

考え方:糸道は「車線」

多針ヘッドは、6車線(または10/12車線)の道路のようなものです。各コーンには、それぞれ決まった車線(針1〜6/10/12)があります。

  • ルール: 車線をまたがない。
  • 結果: 上部の糸立て(ツリー)で車線を跨ぐと、糸同士が擦れて発熱・摩耗し、途中で糸切れの原因になります。
Adjusting the thread tree guide sliding tab on an embroidery machine
Sliding the numbered tab on the thread tree to align the path for the first spool.
Placing a thread spool on a multi-needle machine holder
Placing a large cone of embroidery thread onto the spool pin.
Threading through the initial metal square guide
Looping the thread through the initial square metal guide at the rear of the thread stand.
Passing thread through the upper arm eyelet numbered 1
Guiding the thread through the numbered eyelet 1 on the overhead arm.
Threading the pre-tension guide above the machine head
Passing the thread through the metal pre-tension clips above the main head.
Wrapping thread around the main tension knob
Wrapping the thread firmly around the main tension knob to ensure proper stitch formation.
Guiding thread past the thread break sensor wheel
Routing the thread under the check spring and past the thread break sensor wheel.
Threading the take-up levereye
Inserting the thread through the eye of the take-up lever.
Routing thread through the middle guide on the needle bar
Securing the thread into the middle guide on the needle bar assembly.
Threading the small hole above the needle clamp
Passing the thread through the final small guide hole just above the needle clamp.
Using a wire tool to thread the embroidery machine needle
Using a manual wire tool to pull the thread through the eye of the needle.
Pressing the thread cut button on the control panel
Pressing the manual thread trim button on the machine's control panel.
Adjusting the guide slider for the second thread spool
Adjusting the upper guide for the second thread color position.
Preparing wire tool for second needle
Preparing the thread loop with the wire tool for the second needle.
View of multiple threaded needles on the machine
A final detailed view of the needle bar area showing multiple properly threaded needles.

重要ポイント:初心者が落ちる「3つの失敗箇所」

手順に入る前に、失敗が集中する場所を先に押さえます。ここを外すと、設定を変えても安定しません。

6本針 刺繍ミシン

1) 主テンションディスク(「ブレーキ」)

ここがテンションの心臓部です。2枚の金属ディスクで糸を挟み、抵抗を作ります。

  • よくある失敗: 糸を「そっと」挟んだつもりで、実はディスクの上に乗っているだけ。テンションがほぼゼロになります。
  • チェックポイント: 糸を上下に動かして“フロス(糸をこすり入れる)”し、溝に落ちた感触を作ります。
  • 手触りテスト: 針側で糸を引いたとき、明確な抵抗が出ます。スルスル引けるなら、ディスクに入っていません。

2) チェックばね(「ショックアブソーバー」)

テンションノブ付近(センサーの手前後)にある小さなばねで、針が下がる瞬間のたるみを吸収します。

  • よくある失敗: 糸がチェックばねの効くルートを外れている。
  • 見た目の確認: 縫製中、チェックばねが動く前提の構造です。動きが不自然なら糸道を疑います。

3) 天秤(テイクアップレバー)

上下する金属レバーで、縫いサイクルを成立させる要です。

  • よくある失敗: 天秤の穴を通し忘れる。
  • 結果: 針から糸が抜けたり、開始直後に糸だまりが出やすくなります。

注意:機械安全。 針棒周りで作業する前に、必ず機械を停止状態にしてから行ってください。指先が針穴付近にある状態で誤って動作すると危険です。

手順:針位置1(Needle Position 1)の糸掛け

ここからは「目的 → 作業 → 確認」の順で進めます。確認が取れてから次へ進んでください。

フェーズ1:供給側(糸立て〜最初のガイド)

目的: コーンからヘッドまで、引っ掛かりのない糸の流れを作る。

作業:

  1. 糸立てのスライダー調整: 上部のガイド(番号付きのスライダー)を、針位置1のレーンに合わせます。
  2. コーンをセット: コーンをピンに差し込みます。
  3. 最初の金属ガイド: 糸立て後方の金属四角ガイド(またはループ)に通します。

チェックポイント: コーンから糸がスムーズにほどけること。引くときに引っ掛かりがある場合は、コーン下部に糸が噛んでいないかを先に解消します。

フェーズ2:上部糸道(番号穴〜プレテンション)

目的: 上部アームからヘッドへ、正しいレーンで糸を落とす。

作業:

  1. 番号穴(1)に通す: 白い上部アームの「1」番の穴に通します。
  2. ヘッド上部へ誘導: 糸をヘッド側へ下ろします。
  3. プレテンションガイド: ヘッド上部の金属クリップ(プレテンション)に通します。

チェックポイント: 「1」番の穴に入っていることを目視で確認。レーン違いは、後工程で原因不明の糸切れ・誤検知につながります。

フェーズ3:テンションとセンサー(最重要)

目的: 主テンションディスクに確実に糸を座らせ、センサー/チェックばねのルートを成立させる。

作業:

  1. 主テンションノブにしっかり掛ける: 糸をテンションノブ周りに回し、ディスクに“フロス”して深く入れます。
  2. チェックばね/センサー周り: 糸をチェックばねの効く位置に通し、糸切れセンサーのホイール(搭載機の場合)を通過させます。
  3. 天秤へ向けて上へ: 機械のガイドに沿って、天秤方向へ糸を上げます。

チェックポイント: テンションディスクに入っているかを、糸を軽く引いて抵抗で判断します。抵抗が弱い場合は、いったん糸を戻して“フロス”し直します。

フェーズ4:天秤〜針棒ガイド

目的: 縫いサイクルが成立する糸道に仕上げる。

作業:

  1. 天秤(テイクアップレバー)の穴: 天秤の穴に確実に通します。
  2. 針棒上部ガイド: 針棒上のガイドに通します。
  3. 針元直前の小ガイド: 針クランプ直上の小さな穴(小ガイド)に通します。ここは見落としやすいので、必ず目視で確認します。

チェックポイント: 糸が針棒の前面に沿って素直に下り、どこかに巻き付いていないこと。

フェーズ5:針穴(糸通し)

作業:

  1. ワイヤー式糸通しを使う: ワイヤーを針穴に通し、糸を引っ掛けて引き戻します。
  2. 糸端を整える: 余り糸を適度にカットします。

チェックポイント: 糸が針先に絡んでいないこと。針穴を通った後、糸が素直に後方へ抜ける状態が理想です。

複数色の段取り:2色目も同じ品質で再現する

針1ができたら、次は2色目(例:赤)です。多針機は「再現性」がそのまま生産性になります。

brother pr680w 6針 刺繍ミシン

「コピー」する考え方

2本目以降は、手順を変えずに同じ動きを繰り返します。

  • 動作を固定: 立ち位置、手の動かし方、糸を引く方向を毎回揃える。
  • 見た目で照合: 針1の糸道と、針2の糸道が同じ形になっているかを見比べる。
  • 上部スライダーを対応させる: 2色目は、上部ガイドのスライダーも「2」に合わせてから通します。

トラブルシュート:症状から逆引きする診断表

当てずっぽうをやめて、症状から糸道を疑う場所を絞ります。

業務用刺繍ミシン

症状 起こりやすい原因 対処(チェック方法)
裏側の鳥の巣(糸だまり) 上糸テンションが効いていない(ディスクに入っていない) 主テンションを“フロス”し直し、針側で引いて抵抗が出るか確認
糸切れが多い コーンで引っ掛かり/上部でレーン違い コーンから引いて引っ掛かりがないか確認し、上部の番号穴が正しいか目視
針から糸が抜ける 天秤を通し忘れ/針穴の糸が安定していない 天秤の穴を再確認し、針穴を通した後に糸が素直に後方へ抜けるか確認
糸切れ検知の誤作動 センサーのホイールに糸が正しく当たっていない テンション後の糸道を確認し、センサー周りのルートを通っているか見直す
糸が毛羽立つ/切れそうになる 針元直前の小ガイドを飛ばしている 針クランプ直上の小ガイドを通しているか再確認

まとめ

多針機の糸掛けは、慣れではなく「糸道の再現性」で安定します。上部のレーンを守り、主テンションに確実に座らせ、チェックばね/センサーを成立させ、天秤と針元の小ガイドを落とさない——この順で組み立てれば、糸切れ・誤検知・鳥の巣の多くは減らせます。