Wilcomで複雑なフローラル・ダマスクを手動デジタイズ:Fusion Fill、角度ラインエラー修正、Mirror Merge、量産向けシーケンスまで

· EmbroideryHoop
この実践的なWilcom EmbroideryStudioの手順解説では、左右対称の複雑なフローラル・ダマスクを手動でデジタイズする流れを、現場目線でまとめます。Fusion Fillで形状をきれいに作り、主要パラメータ(ステッチ長 2.00 mm、最小長 0.40 mm、間隔 0.40 mm)を設定し、よく出る角度ライン系エラー2種を解消。左半分を仕上げてからMirror Mergeで反転複製し、最後は色順(シーケンス)を整理して、ジャンプやトリムを減らしながら安定して縫える「生産用データ」に仕上げます。途中で、確認ポイント/やりがちなミス/実機での結果(シワ、糸切れ、トリム増)につながる判断基準も押さえます。
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目次

Wilcom Fusion Fill入門:ソフト上の形を「縫える形」にする

デジタイズは、見た目の作図ではなく「縫製の設計」です。画面上では豪華に見える複雑なフローラル・ダマスクも、実機では糸が張力を生み、光を反射し、生地を引っ張ります。再現性のある流れはシンプルで、左半分をきれいに作る → 早い段階でステッチ方向(物理)を決める → 反転して左右対称を完成 → 量産向けに最終調整です。

このチュートリアルでは、Fusion Fillで葉とスクロール(蔓)を手動作成し、ステッチ角度を整え、実際の衣類でもシワや歪みが出にくい状態まで詰めていきます。

刺繍用 枠固定台

Selecting the Fusion Fill tool in Wilcom
Starting the center leaf by selecting the Fusion Fill tool to define the shape geometry.

複雑形状のトレース:職人の考え方(設計としての入力)

画面上で行っていること(動画の流れ):

  • Fusion Fillを選択
  • 中央の葉と左右のスクロールを、カーブに沿ってノードを打ちながらトレース
  • 形状を作りながら、各パーツのステッチ角度(角度ライン)を定義
Digitizing the side leaf shape
Tracing the side leaf contours using manual node placement for precise curves.

現場向け補正:量産を前提にしたトレースのコツ 初心者は「輪郭をなぞる」ことに集中しがちですが、現場では面の量感(マス)と流れを先に作ります。データが破綻する原因の多くは、見た目のルールでノードを置きすぎたり、刺繍の物理に合わない角度を付けたりすることです。

  • 「主面(メインの量)」優先: まず葉の大きい面を完成させ、あとから細いスクロールや装飾を足します。大きい面が基準になるので、細部の位置合わせが楽になります。
  • ノードは少なく=計算が安定: ノードが多いほど、ソフトは細かい角を拾って「極小コーナー」を作りやすくなります。実機では針落ちが一点に集中し、上糸が擦れて毛羽立ち→糸切れにつながります。
  • 光の見え方を設計: ダマスク調は、角度(ステッチ方向)の切り替えで立体感が出ます。角度がバラつくと、埋められていても平坦で安っぽく見えます。

ノード配置と「負荷が集中する場所」を読む

動画内のチェック(基本):

  • 形状が滑らかか
  • ノードがカーブに正しく追従しているか

「触感テスト(イメージ)」: 画面で滑らかに見えても、刺繍では角が負荷点になります。ソフト上で輪郭を指でなぞるつもりで見て、引っ掛かりそうな尖りがあれば、実機では「止まって向きを変える」動きになりがちです。

  • 尖った形状は、同一点への針落ちが増え、生地繊維を傷めます。
  • 滑らかな形状は、運針が安定し、糸の摩擦熱も増えにくくなります。

葉の先端などで角が立って見えたら、そこは将来のトラブル点です。早めに丸めておくと、後工程の修正が減ります。

注意(機械安全): デジタイズの選択ミスは、実機で高負荷な縫い経路を作ります。きついコーナーや急な角度変更は針のたわみを招き、針板に当たって折損するリスクがあります。試し縫いでは保護メガネを着用し、針棒付近に顔や手を近づけないでください。

縫い品質を決めるステッチ設定(プロパティ最適化)

ここで狙うのは、ソフト上ではベタでも実機で硬くなりすぎる「防弾刺繍」を避けることです。カバー力と柔らかさのバランス(スイートスポット)を取ります。

Adjusting stitch length in properties
Setting the stitch length to 2.00mm in the Object Properties panel to control texture.

目安になるステッチ長の設定

Object Propertiesで動画が設定している値:

  • Stitch Length:2.00 mm
  • Minimum Length:0.40 mm

現場向け補足:この数値が効く理由

  • 2.00 mm: 細かいフィル(タタミ)で表面を整えつつ、過度に硬くしない基準値として扱いやすい設定です。
  • 最小長 0.40 mm: これが無い(または低すぎる)と、カーブや狭い箇所で極小ステッチが発生しやすく、糸溜まり→摩擦熱→糸切れの原因になります。縫い音が重く感じる場合は、まずここを疑う価値があります。

密度(間隔)とコーナー処理

後半で動画が示している設定:

  • Stitch Spacing(フィルの自動間隔):0.40 mm
  • Short Stitch:オン(コーナーの回り込み)
Setting stitch spacing density
Adjusting the auto spacing to 0.40mm to ensure dense and solid fill coverage.

密度の現実チェック: ステッチ間隔(密度)は、糸列と糸列の距離です。

  • チェックポイント: 0.40 mmは、しっかりした埋まりを作りやすい代表値です。
  • やりがちなミス: 「もっと詰めれば綺麗」と考えて0.35 mmなどに下げすぎると、過密で生地が引きつれたり、縫い上がりが硬くなったりします。まずは動画と同じ0.40 mmを基準に、布と糸で微調整するのが安全です。

刺繍用 枠固定台

よくあるデジタイズエラーの対処(角度ライン)

Wilcomの角度ライン系エラーは、理屈が分かると対処が速くなります。ソフトは「形状の中で、矛盾のない流れ(方向)」を作りたいのに、角度ラインの置き方がそれを壊している状態です。

Error message regarding angle lines
An error message appears warning that angle lines must cross the outer boundary.

角度ラインの交差(Crossing)を直す

動画で触れている注意点:

  • 角度ラインが、両端の扱いとして外周境界をまたいでしまう/フィル領域内で不整合になると警告が出る
Warning message about crossing angles
Another warning appears indicating that angle lines must not cross within the fill area.

考え方(作業者向け): 角度ラインは、フィルの「流れ」を決めるガイドです。形状(外周)と流れが矛盾すると、縫い方向が急に反転したり、局所的に針落ちが集中したりして、見た目も縫いも荒れます。

実務的な修正手順:

  1. 対象オブジェクトを選択
  2. Reshape Tool(Hキー)でハンドル表示
  3. 角度ラインのハンドル位置を調整し、形状の流れに沿うように整える
  4. エラーが消えたかだけでなく、ステッチプレビューの方向が自然かも確認

外周境界との交点不足(Boundary)を直す

動画で出ている内容:

  • エラーメッセージ:「The Angle Line must cross the fill area outer boundary.」
  • 対処:角度ラインを動かし、必要な位置で境界と交差させる
Reshaping stitch angles on a leaf
Using the Reshape tool to adjust stitch angles for better light reflection and coverage.
Digitizing the scrolling vines
Creating the intricate scrolling vines that frame the center flower.

なぜ起きるか: 角度ラインがフィル形状の外に浮いていると、ソフトは「どこを基準に方向を決めるか」を確定できません。

手順(動画の流れに沿って):

  1. いったんステッチ生成を実行し、エラーを出して状況を把握
  2. 対象を選択してReshapeを開く
  3. 角度ラインをドラッグし、形状の外周(ベクター)と交差する位置に置く
  4. 再生成(Gキー)して確認

現場のコツ: 角度ラインの不整合は、縫い上がりでの引っ張り方向(プッシュ/プル)にも影響します。左右対称デザインでは特に、中心合わせ(位置合わせ)がズレて見える原因になりやすいので、エラー解消=完了ではなく、方向の一貫性まで見てください。

hoopmaster 枠固定台

左右対称を崩さずに仕上げる(Mirror Merge)

左右対称は作業効率を大きく上げますが、左側が「縫える状態」になっていないまま反転すると、修正が倍になります。

Mirroring the design elements
Mirroring the digitized left side to create a perfectly symmetrical right side.

Mirror Mergeを安全に使う

動画の手順:

  • 左半分を選択
  • Mirror Merge(または複製)
  • 水平反転
  • 中心軸に合わせる

作業順の判断基準: 反転前に、左側で最低限ここを確認します。

  1. ステッチ角度が狙い通りか
  2. 間隔(密度)が0.40 mmになっているか
  3. 不要な移動(ジャンプ)が増えそうな構造になっていないか

中央の合わせ:引き込みで「隙間」が出る

動画のチェック:

  • 中心でズレや隙間がないか確認

動画の落とし穴+対処:

  • ズレる場合は、反転側を少し押してわずかに重ねる

現場感(布の物理): ソフト上で線がぴったり接していても、実機では糸の張力で内側に引き込まれ、中心に細い隙間が出ることがあります。中心は「ゼロ合わせ」より、わずかな重なりの方が結果が安定します。

枠固定台

量産向けの最終仕上げ(色順・シーケンス)

画面で綺麗=完成ではありません。量産では、ジャンプとトリムを減らし、段取りよく縫えるデータが正解です。

Full floral design with colors applied
The complete floral design with green leaves and black scrolls fully rendered.

色順(シーケンス)で効率を作る

動画の操作:

  • 葉をグリーン、スクロールをブラック(濃色)に割り当て
  • 縫い順を見直して最適化
Checking sequence view
Reviewing the object sequence list to ensure the machine stitches colors in the correct order.

実務メモ: ジャンプが増えるほどトリムが増え、1枚あたりの加工時間が伸びます。Sequence Viewで同系統の要素をまとめ、移動距離を短くするだけで、仕上がりと生産性が両方改善します。

最終の見た目チェック(書き出し前)

動画のチェックと仕上げ:

  • 仕上がりレンダリングを目視確認
  • Sequence Viewで並び替え
  • 接続点を拡大して微調整
Fine tuning small details
Zooming in to fine-tune the connection points between the leaves and vines.
Final layout verification
One last look at the overall balance and spacing of the symmetrical floral elements.
Design ready for saving
The finalized design, clean and ready to be saved as a machine file.
Software close up on final texture
A close inspection of the stitch directions creates a textured effect in the final fill.

書き出し前チェックリスト:

  1. 400%程度で拡大: 葉と蔓の接続部に隙間や段差がないか
  2. 左右対称: 左右で角度・形状の違和感がないか
  3. Sequence View: 下に来るべき要素(下地や内側)が先に縫われる順番になっているか

マグネット刺繍枠 用 枠固定台

効率を上げる推奨ツール(作業を安定させる現場側の工夫)

データが良くても、現場側で崩れる代表が「枠張り」です。枠跡(枠のリング跡)や、傾き、位置ズレは、デジタイザーの腕ではなく治具・段取りで改善できることがあります。

安定が必要な理由

Fusion Fillのような面埋めは生地への負荷が大きく、枠内で生地が1 mmでも動くと、

  • 位置合わせがズレる
  • 中央の合わせが割れる
  • シワ(パッカリング)が出る

といった不具合につながります。

改善の目安(トリガー)

トリガー: 1枚の枠張りに5分以上かかる/ネジ締めで手首がつらい/同じ位置に入らない

レベル1:マグネット枠で枠張りを安定化

レベル2:枠固定台で位置決めを標準化

  • マグネット刺繍枠 使い方の考え方で、先に台(ボード)側で位置を決めてから枠を固定すると、胸位置などの再現性が上がります。

注意(マグネット安全): 工業用のマグネット刺繍枠は強力なネオジム磁石を使用します。指挟みの危険があるため、必ず持ち手(タブ)を使って扱ってください。ペースメーカー等の医療機器、磁気記録媒体には近づけないでください。

セットアップ最終チェック(ソフト+データ)

書き出し前の最終確認です。

  • Fusion Fillの警告/エラーが残っていない
  • Stitch Lengthが2.00 mmになっている
  • Minimum Lengthが0.40 mmになっている
  • Spacing(密度)が0.40 mmになっている
  • 中央の合わせに、必要に応じてわずかな重なりがある
  • Sequence Viewで色順・縫い順が整理されている

運用チェック(最初の短時間で判断する)

縫い始めは離れず、最初の動きで異常を見つけます。

  • 音: リズムが安定しているか(重い異音が続く場合は過密や針不良の可能性)
  • 生地の動き: 生地が上下にバタつく(フラッギング)なら枠張りが弱い可能性
  • 下縫い後: 下地が狙い位置に入っているか
  • 中央: 合わせ目に隙間が出ていないか(出るなら次回データで重なりを調整)

ソフト上の設計(角度・密度・順番)と、現場側の安定(枠張り・治具)をセットで整えると、「うまくいくかどうか」ではなく「狙って再現できる」刺繍に近づきます。