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内蔵スタンプがアップリケで「惜しい」結果になりやすい理由
My Design Center(MDC) の内蔵スタンプは手早く形を作れますが、アップリケ用途だと「あと一歩」になりがちです。動画内でMelが指摘している通り、スタンプのアウトラインは 外周だけ をなぞる挙動になりやすいのがポイントです。
たとえばアルファベットの「D」や数字の「6」。標準スタンプだと、内側の“抜き”(いわゆるドーナツ穴)を拾えず、外周だけの形になったり、意図しない塊っぽい形になったりします。これは「アップリケ用の3工程データ」ではなく、単なる輪郭(またはパッチ的な見え方)になってしまいます。
そこで有効なのが 印刷した形をスキャンして取り込む 方法です。機械内蔵のライブラリに縛られず、任意の数字・書体・図形を取り込めます。さらに重要なのは、取り込んだ線を アップリケの3工程(配置→仮止め→サテン仕上げ) に分解して作れること。ここまでできて、はじめて現場で回せるデータになります。
もう1つの実務的メリットとして、アップリケは 生産時間の短縮 に直結します。広い面を密なタタミで埋める代わりに布で面を作れるため、縫い時間を減らし、結果として糸切れのリスクも下げやすくなります。ユニフォーム、チームウェア、ワッペン量産などで「同じ型を繰り返す」仕事ほど、この手順がテンプレ化できます。

スキャン用の原稿準備(ここで9割決まる)
きれいなデータは、まず物理側の準備から始まります。スキャナは万能ではなく、コントラストの高い情報 しか正確に拾えません。原稿が甘いと、画面上での修正(線のゴミ取り)に時間を取られます。
スキャナが読みやすい原稿を選ぶ/印刷する
Melは印刷した数字「6」を使っています。特徴は 濃い黒線 × 白い紙 で、線がはっきりしています。
現場目線の注意: 鉛筆、薄いグレー、かすれた印刷、紙の地模様が強い用紙は避けてください。線が“モヤッ”としていると、スキャン結果がギザギザになり、後工程で縫い線が荒れたり、不要な点(ノイズ)を拾ったりします。
- チェックポイント: 原稿を腕を伸ばした距離で見て、線がシャープに見えるか。ぼやけて見えるなら、濃く印刷し直すのが早いです。
マグネット配置:スキャン失敗の最大要因
Melのルールは明確です。マグネットは、スキャンしたい図形からできるだけ離して固定 します。
理由は単純で、スキャナはトリミング枠(クロップ枠)内のものを全部拾います。マグネットが近いと、厚みの影や輪郭が「線」として取り込まれ、後で消す手間が増えます。
紙をフラットにしたくて中央寄りにマグネットを置きがちですが、それが逆効果になりやすいポイントです。
作業性の改善案: 頻繁に行う場合、紙の反りやマグネットの置き直しが地味にボトルネックになります。事前準備を一定化する目的で、作業台側に ミシン刺繍 用 枠固定台 を用意しておくと、原稿の取り回しが安定しやすくなります。

スキャン前チェックリスト(スキャン前に必ず)
- 原稿品質: 線が濃い黒で、途切れ・薄い部分がない
- 面の清潔: スキャン枠の面に糸くず/指紋/ホコリがない
- マグネット安全配置: マグネットが外周ギリギリ(図形に近づけない)
- 操作準備: スタイラスを用意(指操作だと細かい選択が難しい)
- 消耗品・段取り:
- ボビン確認: 下糸(ボビン糸)が十分ある(サテン途中で切れると復旧が面倒)
- ハサミ: アップリケ用のカーブ刃など、トリミングしやすいものを手元に
- 仮固定: アップリケ布を押さえるための仮固定手段(スプレーのり等を使う場合は事前に準備)
注意: マグネットの取り扱い。 スキャン枠やマグネット刺繍枠に付属するマグネットは強力です。指を挟む危険があるため、近づける時はゆっくり。意図せず吸着して跳ねるように当たらないようにしてください。
My Design Centerでスキャン→整形(ノイズを残さない)
ここが土台です。線の形状(ジオメトリ)を決める工程なので、スキャン後のトリミングは“攻めて”行います。
手順1 — 「ラインスキャン」を選んでスキャン
Melは Line Scan(ライン) を選び、Scan を実行しています。
補足(なぜラインなのか): ラインスキャンは輪郭を線として取り込み、後からランニングやサテンなどの「線の縫い属性」を割り当てやすい形になります。アップリケの外周を作る目的に合っています。

手順2 — マグネットを除外してトリミング(切り出し)
スキャン直後は、図形だけでなく端のマグネットまで映り込むことがあります。Melは赤いトリミング矢印/枠を使い、数字だけを残すように切り出します。
もしマグネットに沿った赤い線(余計な線)が見えたら、いきなり手作業で消そうとせず、まずトリミング枠を詰める/マグネット位置を見直すのが近道です。


現場のコツ: トリミングは「データ衛生」です。拾ったノイズは、後で縫い線の余計な動き(飛び、結び、想定外の針落ち)として出やすくなります。スキャンがきれいだと、後工程が一気に楽になります。
アップリケの3工程レイヤーを作る
アップリケは「3つのイベント」を作るのが基本です。
- 配置縫い(Placement): 布を置く位置を示す
- 仮止め(Tack-down): 布を固定してトリミングできる状態にする
- 仕上げ(Satin/Finish): 端をサテンで覆って完成させる
重要ルール: Melは3工程それぞれに 別の色 を割り当てています。見た目のためではなく、刺繍機のロジック上 色替え=停止 を作るためです。停止がないと、布を置く/切るタイミングが作れません。
手順1:配置縫い(ランニング)
目的: スタビライザー(刺繍用の安定紙)/ベース生地に「地図」を描く。
操作手順:
- Properties(プロパティ) を開く
- 線の属性を Running Stitch(ランニング) にする
- 色を 赤 など分かりやすい色に変更
- 「バケツ」ツール等で、取り込んだアウトラインに適用
- 本体メモリに保存(次工程で呼び出すため)
Melは、ランニングが2周する(2回回る)点にも触れています。見えやすさの面で有利です。



チェックポイント: 画面上で線が指定色に変わること。縫い上がりで配置線が波打つ場合は、枠張り(生地テンション)が弱い可能性があります。
手順2:仮止め縫い(ランニング/色を変える)
目的: 同じ形をもう一度縫って、アップリケ布を固定する。
操作手順:
- 画面を消さずに続ける(または保存したデータを呼び出す)
- 属性は Running Stitch(ランニング) のまま
- 必須: 色を手順1と違う色(例:紫)に変更
- アウトラインに適用
- 本体メモリに保存(2つ目のファイルとして)

補足: 色替え停止は、工程管理のための“合図”です。色が同じだと停止が作れず、アップリケの段取りが崩れます。
手順3:仕上げサテン(サテン/幅0.200インチ/色を変える)
目的: 切り口を覆う、最終のサテン縁を作る。
操作手順:
- デザインを表示したまま
- 線の属性を Satin Stitch(サテン) に変更
- 色を手順2と違う色(例:オレンジ)に変更
- Global Key(チェーンのアイコン) を使い、線分をまとめて選択(「6」の内側・外側を取りこぼさない)
- サテン幅を 0.200インチ に設定して Set
- 本体メモリに保存(3つ目のファイルとして)




チェックポイント: 画面上で線が太くなり、サテンらしい見え方になること。細い線のままなら、選択漏れや属性未適用の可能性があります。
最終合体(3つの保存データを1つに積む)
ここまでで、メモリ内に「配置」「仮止め」「サテン」の3つが保存されています。あとは刺繍編集側で順番に追加して1つにします。
合体手順(順番が重要):
- 本体メモリを開く
- ファイル1(配置/1色目)を選び Set
- Add でファイル2(仮止め/2色目)を追加して Set
- Add でファイル3(サテン/3色目)を追加して Set
- プレビューで順番を確認


成功条件: タイムライン(色順)に 3つの色ブロック が見えること。1色にまとまっていると停止が入らず、アップリケの「置く/切る」工程が作れません。
スタート前チェックリスト(刺繍機の前で)
- 色順: 3色(3停止)になっている
- 枠の装着: 刺繍枠が確実に固定されている
- 枠張り: 生地がたるんでいない(軽く叩いて張りを確認)
- 干渉: 枠が動く範囲に障害物がない
判断ポイント(枠跡=枠跡問題): ベロア、スポーツ素材、厚手フリースなどは、通常の刺繍枠だと枠跡(繊維つぶれ)が出たり、厚みで保持が不安定になったりします。
- 対策案: こうしたケースでは マグネット刺繍枠 のようなマグネット刺繍枠が選択肢になります。摩擦で締めるのではなく上から押さえる力で保持するため、枠跡のリスクを下げやすく、枠張りの再現性も上げやすいです。
段取り判断(生地→スタビライザー→道具)
縫い不良(シワ・波打ち)を減らすための考え方を整理します。
- ベース生地は安定している?
- 安定(デニム、帆布、ツイル等): ティアアウェイ系が扱いやすい
- 不安定(Tシャツ、ニット、ジャージ等): カットアウェイ系が有利(サテンの引き込みに負けにくい)
- 毛足がある?(タオル、ベロア、フリース等)
- ある: 上に水溶性トッパーを置くとサテンが沈みにくい
- ない: 標準構成で進めやすい
- 量産(50枚以上など)?
- はい: 枠張りがボトルネックになりやすいので、作業性の改善を検討(例: brother luminaire 用 マグネット刺繍枠 )
- いいえ: まずは手順の再現性を優先
- 枠張り作業がつらい/疲れる?
- はい: マグネット刺繍枠 のようなマグネット刺繍枠で負担軽減を検討
トラブルシュート(症状→原因→対処)
| 症状 | ありがちな原因 | まずやる対処(低コスト) | 次の改善(道具・運用) |
|---|---|---|---|
| スキャンにマグネットが入る | トリミング枠内にマグネットがある/近すぎる | マグネットを外周へ移動、トリミングを詰める | 小さい原稿は固定方法を見直す |
| 刺繍機が止まらない | 3工程が同色で色替えが発生しない | 各工程を別色に割り当て直す | - |
| サテンが引きつれて波打つ | スタビライザー不足/枠張りが甘い | スタビライザーを強める、枠張りを見直す | マグネット刺繍枠 brother 用 で保持の再現性を上げる |
| 端のほつれが見える | トリミングが甘い | カーブ刃で仮止め縫い際まで詰める | サテン幅を0.200インチにする |
| サテンに隙間が出る(布が見える) | 原稿が薄い/スキャンが荒い | 濃く印刷して再スキャン | MDC上で線の整形を丁寧に行う |
実際の縫い手順(アップリケの現場フロー)
データができたら、あとは段取り通りに縫います。
基本の流れ:
- 手順1(配置)を縫う: ベース生地/スタビライザーに配置線を縫う → 停止
- 作業: アップリケ布を配置線にかぶせて置く
- 手順2(仮止め)を縫う: 同形状を縫って布を固定 → 停止
- 作業(トリミング): 枠から作品を外さず、平らな場所でアップリケ布を縫い際までカット(糸を切らない)
- 手順3(サテン)を縫う: 仕上げのサテンで端を覆う
注意: 安全面。 枠を機械に付けたままトリミングする運用もありますが、誤操作リスクが上がります。慣れないうちは、枠を外してテーブル上で切る方が安全です。
まとめ(仕上がりを安定させる要点)
この手順で、内蔵スタンプの「型にはまる」制約を回避し、スキャンから作ったオリジナル形状をアップリケ用の3工程データとして完成させられます。仕上げサテンは 0.200インチ 設定が基準になります。
押さえるべき要点:
- スキャンの衛生: コントラスト最優先。マグネットは遠く。
- 3工程の論理: 配置→仮止め→サテンを別色にして停止を作る。
- 選択漏れ防止: Global Keyで線を一括選択して取りこぼさない。
枠張りの負担や枠跡(枠跡問題)で悩む場合は、現場では 刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠 のような選択肢で作業の再現性を上げる方法も取られています。
