Hatch 3で作るITHコルク製パスポートカバー:自動デジタイズから量産対応データまで

· EmbroideryHoop
Hatch Academyの「ITHコルク製パスポートカバー」概要を、現場で繰り返せる手順に落とし込んだ実践ガイドです。プロジェクト設計の考え方、適切なデジタイズ手段(自動デジタイズ+手動クリーンアップ)の選び分け、ベクター画像とビットマップ画像の使い分け、そしてコルクで破綻しないステッチ設計(密度・重なり・見え方のチェック)までを整理。チェックポイント、起こりがちな失敗パターン、スタビライザー選定の判断フローも併記し、コルクのムダと縫い直しを減らします。
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目次

ITH(枠内完結)で作るコルク製パスポートカバー入門

「作りはシンプルなのに、仕上がりが“プレミアム”に見える」ギフト/販売向きの題材として、ITH(In-the-Hoop:枠内完結)で作るコルク製パスポートカバーは相性が良いプロジェクトです。形が出やすく、耐久性もあり、刺繍が主役になります。

ただしコルクは失敗が目立ちます。綿のように針穴が戻らず、刺し直しや重ね縫いのダメージがそのまま残ります。データ設計段階で「針穴を増やさない」「重なりを作らない」判断が重要です。

動画では、Hatch Academyのコース概要として「トラベル系ロゴ+モノグラムを作り、それを別デザイン(ITHパスポートカバー)に配置して完成させる」流れが紹介されています。デザイン作成とITH向けの設計(工程の組み立て)を同時に学ぶ構成です。

Title slide showing the finished cork passport cover with an embroidered globe and airplane motif, alongside the open view showing the passport inside.
Introduction to the finished project

学べること(動画の範囲)+この記事で補うこと

動画の概要で触れられている学習内容は以下です。

  • 自動デジタイズ+手動テクニックでトラベルロゴを作る
  • 編集ツール(開いた形/閉じた形、Knife & Weld、アウトライン/オフセット、重なり除去)
  • アップリケ関連ツールとAuto Fabric
  • オブジェクトプロパティと特殊ステッチ効果
  • コルクなど特殊素材でのITH設計(“エンジニアリング”)
  • ベクター画像とビットマップ画像の判断
  • 編集で済ませる/削除して再デジタイズする判断
  • 表示モードとホットキーで効率化

この記事では、このアウトラインを「作業順に迷わない手順」と「やり直しを減らすチェック」に変換します。特にコルクは針穴が永久に残るため、感覚的に進めると材料ロスが出やすい題材です。データ上で“確実に通る”状態に寄せる考え方を中心にまとめます。

注意
コルク/ビニール/合皮のような非繊維系素材は、針が入った回数=穴の数です。密度が高すぎたり、アウトラインが何度も重なったりすると、ミシン目のように「切り取り線」ができて裂けます。必ず端材で試し縫いを行ってから本番に入ってください。
Close up of the project photo during the explanation of combining monograms with travel logos.
Project overview narration

使用するHatchのデジタイズ/編集ツール概観

動画では「(マルチフーピング以外)ほぼ全ツールボックスに触れる」と説明されています。ITHがうまくいくかどうかは、魔法の設定というより「物理的な問題に対して、適切なツールで形状と縫い方を整える」ことの積み重ねです。

Slide titled 'What You'll Learn' appearing with a globe graphic background.
Transition to curriculum overview
The first bullet points of the tool list are discussed, focusing on digitizing tools.
Listing software features
Narrator mentions specific tools like Knife and Weld while the list is displayed.
Detailing editing tools
Narrator discusses 'Auto Fabric' and specialty stitch effects.
Detailing object properties

迷わない考え方:まず作る→次に整える

このプロジェクトを安定させる基本手順は次の4段階です。

  1. ベース形状を素早く作る(自動デジタイズ、またはシンプルな図形デジタイズ)
  2. 形状(ジオメトリ)を整える(Knife & Weld、重なり除去、アウトライン/オフセット)
  3. 縫い挙動を設計する(オブジェクトプロパティ、特殊効果、アップリケ的な工程設計、Auto Fabric)
  4. 複数の表示で検証する(表示モードを切り替え、ゆっくり確認)

コルクは織物というより「薄いシート材」に近く、歪みが戻りにくい素材です。密度・下縫い・重なりの管理が甘いと、波打ち(リップル)、端の浮き、穴あき(ミシン目化)が出やすくなります。

ツール別:現場では何のために使うか

  • 自動デジタイズ:下絵から“形の地図”を作るのに便利。チェックポイント:コルクでは自動の密度が高く出やすいので、形を作ったら「密度/重なり」を必ず見直します(自動のまま信用しない)。
  • 開いた形/閉じた形:アイコン、枠線、モノグラムの土台。閉じた形はサテン枠や塗りに直結します。
  • Knife & Weld:形状編集の要。コルクは重なりが増えるほど針穴が増えます。Weldで形を一体化し、不要な重なりを減らす発想が有効です。
  • アウトライン/オフセット:アイコンの縁取りだけでなく、ITHの「配置線」「縫い代線」を一定間隔で作るのに重要です。
  • 重なり除去:積層部分の針数を減らし、厚みと穴数を抑えます。コルクでは“少ない針穴=強い・きれい”につながります。
  • アップリケ系ツール:パスポートカバー自体がアップリケでなくても、工程の考え方(配置→仮止め→仕上げ)がITHと似ています。
  • Auto Fabric+オブジェクトプロパティ:出発点としては便利ですが、コルクの厚み・裏打ち・糸/針の組み合わせで結果が変わるため、最終判断は表示と試し縫いで詰めます。

コメント欄から読み取れること(補足)

今回のコメントはお礼のみで、特定のつまずきが顕在化している様子はありません。逆に言うと、実務では「縫ってから気づく」タイプの問題(データ品質、縫い時間、材料ロス)が後から効いてきます。最初から“小ロット量産”のつもりでチェックを入れておくと、コルクのムダが減ります。

特殊素材(コルク)で破綻させないための設計ポイント

動画でもコルクが明確に取り上げられ、ITHは“エンジニアリング(工程設計)”が必要だと説明されています。ここでは、現場での意味合いに落とします。

Slide updates to show a picture of a rolled sheet of cork fabric.
Discussing specialty fabrics

コルク特有の落とし穴(いつもの設定が通らない理由)

  • 針穴が戻らない:重なり・高密度・同じ線の反復は、そのまま裂けやすさに直結します。
  • 摩擦が出やすい:密な縫いでは針が熱を持ちやすく、糸切れや毛羽立ちの要因になります。
  • 硬さで“引き”が変わる:柔らかい布と同じ補正だと、境目に隙間が出たり、輪郭が痩せたりします。

事前準備:見落としがちな消耗品と確認

動画はソフト中心ですが、仕上がりは準備で決まります。縫い始める前に最低限ここを確認します。

  • :コルクは刺さりが重要です。針先が鈍いと穴が荒れ、糸切れも増えます。
  • :糸道がスムーズかを確認します(引いたときに引っ掛かりがないこと)。
  • 下糸(ボビン糸):テンションが安定していること。ムラがあると表に下糸が出やすくなります。
  • カット用具:ITHはトリム工程が多いので、切れ味の良いハサミが必須です。

「枠跡(枠の圧痕)」問題 厚手のコルクを通常の刺繍枠で強く挟むと、表面の凹み(枠跡)が残ったり、固定が不安定でズレたりします。そこで有効なのが マグネット刺繍枠 です。摩擦で締め込むのではなく磁力で保持するため、圧痕を抑えつつ厚物を扱いやすくなります。

注意
機械安全:試し縫い中は針周りに指を入れないでください。磁石の安全:強力なマグネットはペースメーカー等の医療機器や精密機器に影響する場合があります。また指を強く挟みます。外すときは“こじる”のではなく、滑らせて分離してください。

判断フロー:コルク用スタビライザー選定(目安)

コルクは厚みや裏面の仕様が幅広いので、最終的には試し縫いが前提です。ここでは判断の起点を作ります。

1) コルクは薄くてしなやか(布貼り)? それとも厚くて硬い(シート)?

  • 薄い/しなやか → ビニールに近い挙動。形を支える必要があります → (2)
  • 厚い/硬い → 素材自体が形を保持します → (3)

2) 薄手(アパレル寄り)コルク

  • 方針:中厚程度のカットアウェイ系を基準に検討。
  • 理由:針穴で素材が弱くなるため、裏側に“骨格”を残して裂けを抑えます。

3) 厚手(シート)コルク

  • 方針:ティアアウェイ、または粘着系に浮かせて固定する方法を検討。
  • 理由:カットアウェイを入れると厚みが増え、ITHの折り返しや仕上げがゴワつきやすくなります。

ツール見直しの目安(枠張りがボトルネックになったら)

ITHは「配置→仮止め→トリム→最終縫い」など停止が多く、作業者の手数が増えます。ここで道具の限界が出ます。

  • 兆候:2個目を作るのが憂うつ(厚物の枠張りがつらい/ズレて縁が曲がった)。
  • 判断軸:1個だけ作るのか、10個単位で販売するのか。
  • 選択肢
    • レベル1(趣味):スプレー接着などでスタビライザー上に“浮かせ固定”を検討(使い過ぎは禁物)。
    • レベル2(準業務)マグネット刺繍枠 で着脱を高速化し、位置ズレを減らします。
    • レベル3(業務):単針機での「止める→切る→再開」の繰り返しは工数が重くなります。多針刺繍機なら、段取りと刺繍を並行しやすくなります。

ベクター vs ビットマップ:デジタイズ前の下絵整理

動画では、ベクター画像とビットマップ画像の長所を比較し、1つのプロジェクトに両方を入れる理由が説明されています。

Slide shows globe graphics while discussing vector vs bitmap images.
Digital asset theory

実務ルール:輪郭はベクター、参照はビットマップ

  • ベクター(SVG/AI/CDR):輪郭がシャープで編集しやすく、アイコンや枠線、モノグラムの形状に向きます。
  • ビットマップ(JPG/PNG):手動トレースの“下敷き”として便利です。ただし複雑な写真系を自動デジタイズすると、細かい針運びが増え、コルクでは穴あきの原因になりやすい点に注意します。

自動デジタイズの使い分け:編集で済む/作り直す

動画の重要ポイントとして「数クリックで整うものもあれば、削除して手動で再デジタイズした方が早くてきれいなものもある」と述べられています。

Slide focuses on 'Auto-digitizing' concepts with text about preparing artwork.
Explaining auto-digitizing prerequisities

コルクでの時短と品質を両立する判断基準は次の通りです。

残して編集(良い候補)

  • 境界がはっきりしている
  • ステッチ角度が素直
  • 判断の目安:ノード編集(Reshape/Edit Nodes)で“骨格”が読み取れる

削除して再デジタイズ(結果的に早い)

  • 細かい糸片のような要素が大量に出ている(見た目が荒れ、穴数も増える)
  • 小さい要素に下縫いが過剰に生成されている
  • 判断の目安:手動で作るとノード数が大幅に減り、針穴も減らせる(コルクはシンプルが強い)

表示モードとホットキー:速度ではなく“品質管理”

動画では、Hatchの表示モードとホットキーで効率を上げる点が触れられています。

Narrator explains the need to sometimes delete and manually re-digitize objects.
Workflow advice

実務では、表示切替は不具合の早期発見に直結します。

  • TrueView(3D):輪郭と塗りの隙間を確認。硬いコルクでは隙間が目立ちやすいので、必要なら引き補正(Pull Compensation)を見直します。
  • ステッチ表示(3Dなし):極端に密な箇所(黒く潰れて見える部分)を探します。ここは糸切れ/針折れの予兆になりやすいです。
  • スロー再描画:縫い順を“動画”で確認。無駄なジャンプが多いと、糸端処理が増えて見た目も荒れます。工程順を整理してジャンプを減らします。

コース内容と入手方法(動画で説明されている範囲)

動画では、Hatch Academy/会員エリアからコースにアクセスできること、同コースに含まれる素材が紹介されています。

Slide bullet point appears regarding 'Hatch viewing options & hotkey'.
Efficiency tips
Slide updates to show the finished Passport cover again with text 'Digitizing is more than just how'.
Pedagogical philosophy

含まれるもの(動画の説明に基づく)

  • 手順テキスト+動画レッスン
  • 地球儀アートワーク2種(Americas/Europe)
  • コルク内側用の実寸型紙
  • 完成データ

ITHは刺繍データだけでなく裁断精度も仕上がりに直結するため、型紙が付く構成は段取りのブレを減らせます。

Slide titled 'What's Included' appears.
Listing course deliverables
Narrator mentions the specific artwork versions (Americas and Europe) provided.
Detailing included assets
Slide titled 'Where to Find' displaying a laptop with the Hatch Academy website.
Directing users to website

事前チェックリスト(データ/物理)

縫い始める前に“滑走路の小石”を取り除くイメージで確認します。

  • 密度:コルクで密度が高すぎないか(自動デジタイズのまま放置していないか)
  • 下縫い:小さなサテン要素で下縫いが過剰になっていないか
  • :新品に近い針か(欠け・曲がりがないか)
  • :塗りつぶしに必要な糸量が足りるか(途中の糸継ぎは目立ちやすい)
  • 裁断:コルクをきれいに切れる状態か(刃が鈍いと端が荒れる)

セットアップチェック(開始前)

スタート前にここだけは確認します。

  • 枠の状態:スタビライザーがしっかり張れているか
  • クリアランス:押さえがコルク厚を無理なく通るか(機種で調整できる場合は確認)
  • 位置:トレース等で針が枠に当たらないか確認できているか
  • 枠張り補助:補助具を使う場合、素材を潰さずフラットに保持できているか。多工程のITHでは安定した 刺繍枠 環境が位置合わせの精度を左右します。

稼働中チェック(縫いながら)

縫製中は“音・見た目・触感”で早期に異常を拾います。

  • 音(配置線):リズムが一定か。異音が続く場合は貫通抵抗や当たりを疑います。
  • 見た目(仮止め):コルクが浮いていないか。浮きが出たら早めに止めて対処します。
  • 熱(密な部分の後):針が過熱していないか。過熱は糸切れの誘因になります。
  • トリム:最終サテン前に、はみ出しがないよう端を整えます。

小ロット量産では、枠張りやトリムの“手間時間”が利益を削ります。ここが詰まる場合、 刺繍枠 刺繍ミシン 用 の見直し(保持力・段取り性)が効いてきます。

トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)

コルクITHで起きやすい代表例を整理します。

症状 主な原因 その場の対処 予防
ミシン目化(切手の目打ちのように裂ける) 密度が高い/同じ線の反復/重なりが多い 基本的に復旧不可(材料交換) 重なり除去、アウトラインの重複回避、密度を下げる方向で設計し端材で検証
表に下糸が出る 上糸・下糸テンションの不均衡 テンションを見直す 下糸色を目立ちにくくする、無理な高密度を避ける
輪郭と塗りの間に隙間 硬さで引きが強く出る 目立つ場合はデータ側の補正を検討 オブジェクトプロパティで引き補正を見直す
糸が毛羽立つ/切れる 摩擦・針の状態・過密 針交換、速度を落とす 密度を下げる、針を良好に保つ
枠が外れる/枠跡が残る 厚物を摩擦で強く挟んでいる 固定方法を見直す 厚物は マグネット刺繍枠 など保持方式の違う枠を検討
注意
マグネット使用時は、機器(画面・記録媒体・カード類)に近づけないようにし、保管時も不意に吸着して指を挟まない配置にしてください。

仕上がり判定:「良い完成」と納品レベル

良いITHコルク製パスポートカバーは次を満たします。

  • 触って滑らか:サテン縁がザラつかず、引っ掛かりが少ない
  • 曲げても破綻しない:軽く曲げても刺繍が割れたり浮いたりしにくい
  • 内側がきれい:トリムが揃い、糸だまり(鳥の巣)が層内に残っていない

スケールアップの考え方 1個作る段階を超えると、ボトルネックは「デジタイズ」より「枠張り/段取り」に移ります。

  • 位置の再現性刺繍ミシン用 ポケット刺繍枠 のような小物向けの保持発想を取り入れると、ロゴ位置のブレを抑えやすくなります。
  • 作業ステーション化:専用の ミシン刺繍 用 枠固定台 を用意すると、ミシン稼働中に次の段取りができ、停止時間を減らせます。
  • 次の一手:販売を本格化するなら、多針刺繍機の運用で色替えや段取りの効率が上がり、工数が読みやすくなります。