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一般ユーザー設定とコスト計算:利益の土台
DG16 Pulseが「本来もっと速いはずなのに重い」「操作が複雑で迷子になる」と感じる原因は、デザインセンス不足ではなく、ほとんどの場合“初期設定のまま”にあります。クリックのたびに環境が邪魔をすると、上達以前に作業が続きません。
このガイドでは、DG16 Pulse Composerのユーザー設定を、動画でJeffが示した流れに沿って整えます。単なる設定変更ではなく、なぜその設定が現場のスピードと安全性(そして見積の精度)に効くのかまで含めて、実務で再現できる形に落とし込みます。

ここでできるようになること(=現場で効く理由)
設定はスイッチのON/OFFではなく、作業の“保険”と“導線”づくりです。ここでは次を整えます。
- 見積の基準(Baseline):コスト計算の土台を作り、数字のブレを減らす
- 安全装置(Safety Nets):クラッシュや保存忘れの損失を最小化
- 視認性(Visual Ergonomics):ノード配置の精度と目の疲れを軽減
- 作業速度(Workflow Velocity):ツールを探す時間を削り、クリック数を減らす
- 資産管理(Asset Management):糸チャートやファイル関連付けで“探せる状態”にする
商用の現実: デジタイズは画面上で完結しません。高性能な tajima 刺繍ミシン で回すほど、データの整合性が結果に直結します。ソフト上での編集がスムーズ=不要なやり直しが減る=段取りと稼働が安定します。
手順:General(一般)タブ
1) User Settings(ユーザー設定)ダイアログを開きます(ここが司令塔です)。 2) General User Settingsで Cost per 1000 stitches を探します。 3) コスト欄に 1.50 を入力します。
チェックポイント: コスト欄に 1.50 が明示されている。
期待できる結果: 後でワークシート/ランシートを出す際、Pulseが見積計算の基準値を持つため、計算の“ゼロからの手作業”が減ります。
現場補足:「1.50」の意味を誤解しない
「1,000針あたり1.50」は業界の絶対値ではなく、あくまでスタート地点の仮置きです。規模が上がるほど、次の要素で調整が必要になります。
- 稼働時間:細かいデザインほど時間単価が上がる
- 消耗品:糸・針・そしてスタビライザー(刺繍用の安定紙/安定布)
- 段取り工数:枠張りと仕上げの時間
先に基準を入れておくことで、「なんとなく」ではなく“根拠のある見積”に寄せられます。
保存の落とし穴:「Save images in PXF files」
Jeffが強調している重要ポイントです。Save images in PXF files を有効にすると、下絵(アートワーク)をPXFに埋め込みます。
判断の分岐(実務向け):
- OFFのまま(速度優先・推奨):ファイルが軽く、オートセーブや同期が速い。注意: 別PCへ移動すると下絵リンクが切れることがある。
- ON(保管・引き継ぎ優先):下絵込みで持ち運べる。注意: ファイルが大きくなり、保存やバックアップが重くなる。
注意: PXFが肥大化すると、オートセーブのたびに一瞬固まる原因になりやすいです。10分ごとに引っかかる場合は、下絵の埋め込みと画像解像度を疑ってください。
環境設定:作業の流れとリスク管理
ここは“集中を切らない”ための設定です。ソフトの存在感を消して、ステッチに意識を向けられる状態を作ります。

Auto Save Timer(クラッシュ保険)
Jeffは Auto Save Timer を 10分に設定しています。
1) 設定ツリーで Environment を開きます。 2) Auto Save Timer を探します。 3) 値を 10 に設定します。
チェックポイント: 有効になっていて、値が 10。
現場感覚: 1時間かけた編集が停電やクラッシュで消えるのは致命的です。10分設定なら最悪でも9分以内の損失に抑えられ、精神的負担が大きく下がります。
現場のコツ:手動保存のタイミングを決める
オートセーブは“エアバッグ”であって“ブレーキ”ではありません。重い操作の前後は手動保存を習慣化します。
- ステッチデータ(DST等)をアウトラインに変換する前
- 大きな拡大縮小や一括リサイズの前
- 密度や塗り設定を大きく変える前
Mouse Wheel Behavior(直感に合う移動)
Jeffはマウスホイールを Zoom In and Out にしています。
1) Environment 内の Mouse Wheel Behavior を探します。 2) Zoom In and Out を選択します。
チェックポイント: ホイール操作で画面がズームする。
効きどころ: キャンバスで迷子になりにくく、ズームツールを探す“中断”が減ります。
Manual start/stop(毎回聞かれるのを避ける)
Jeffは Manual start and stop を OFF のままにしています。ONにすると、オブジェクト作成のたびに開始点/終了点を聞かれてテンポが落ちます。
チェックポイント: 図形を作ったとき、毎回プロンプトで止められない。
期待できる結果: 作成が途切れず進み、必要な箇所だけ後から開始/終了点を調整できます。
Auto Panning
Jeffは、画面端付近でデジタイズする際に Auto panning が便利だと触れています。
- 補足: 画面が自動で動くのが苦手ならOFFでも問題ありません。自分の作業感に合わせて試してください。
ドッキングの悩み:プロパティを右側に表示したい/消えた
コメントでも多い不満です。回答として、Jeff側からの案内は次の通りです。
対処: View → Toolbars and Docking のドロップダウンから選択します。
作業メモ: レイアウトが整ったらスクリーンショットを1枚残しておくと、更新や設定変更で崩れたときに復旧が速くなります。
インターフェースのカスタマイズ:探す時間を削る
「ツールはあるはずなのに、どの小さな矢印の中だっけ?」が起きるなら、ここが効きます。

クロスヘアカーソル(精密配置の補助)
Jeffは Show Crosshair cursor を有効にしています。
1) Display 設定で Show Crosshair cursor を探します。 2) 有効にします。
チェックポイント: カーソルが画面を横断する十字(+)表示になる。
効果: ノードの縦横位置が取りやすく、細部の位置合わせが速くなります。
フライアウトツールバー:速度と画面スペースのトレードオフ
フライアウトは、1つのボタンに複数ツールが“隠れている”メニューです。Jeffはこれを無効化して、リボン上に個別ボタンとして展開させます。
1) Environment 設定で Use Flyout Toolbars を探します。 2) チェックを外す。 3) ソフトを再起動します(ここは必須)。

チェックポイント: 再起動後、リボンが混み合う代わりに、ツールが1クリックで見える。
期待できる結果: 「探す」時間がほぼゼロになります。

現場判断:フライアウトを残すべきケース
- 大きめのモニター(27インチ以上):無効化して展開しても運用しやすい
- ノートPC(13〜15インチ):フライアウトを残した方が、リボンの横スクロールより速い場合がある
Display Colors(コントラスト調整)
Jeffは Display Colors で背景色などを変更できることを示しています。

補足: 背景色は見やすさに直結します。長時間作業では、強い黒や派手な色より、目が疲れにくい中間調が扱いやすいことがあります。
Warnings(確認ダイアログ=安全装置)
Jeffは、フォントが見つからない場合や変換で情報が失われる場合の警告に触れています。
運用ルール: 警告は、意味を理解してからでないとOFFにしない。
注意: DSTなどのステッチデータをアウトラインに変換するのは“推定処理”です。変換前に元データを別名保存しておくと、戻り作業が確実になります。
ステッチ生成を最適化:編集の反映をリアルタイムに
ここは作業の“リズム”を決めます。Jeffは、編集後に自動でステッチを再生成して、変更を即座に画面へ反映させる設定にしています。

ショートカット:Standard / Classic
Pulseには Standard と Classic のショートカット体系があります。
- 補足: 旧バージョンから移行した人はClassicが合う場合があります。新規ならStandardのままが無難です。
ステッチファイル(DST等)を開くときの扱い
Jeffは、ステッチファイルを開く際の挙動について触れています。
- stitch segmentsとして開く:最も安全で、元データに忠実
- アウトラインに変換:編集の幅は増えるが、結果はデザインにより変動
- Jeffの選択:前回設定を記憶(Remember previous setting)
連続ステッチ生成(自動更新)
Stitch Generation でJeffがONにしている項目:
- ノード編集後にステッチ生成
- エンベロープ編集後にステッチ生成
- ビーズ編集後にステッチ生成
- スライスライン編集後にステッチ生成

チェックポイント: 上記のチェックが入っている。
動作確認: 点を動かした瞬間に表示が更新される。もしPC負荷が高く感じる場合は、一時的にOFFにして、必要なときだけ G キーで再生成します(Jeffもこの運用に触れています)。
Drawingの品質チェック:短すぎ/長すぎステッチのハイライト
Jeffは極端なステッチ長をハイライトする設定を入れています。
- 2 points(0.2mm) より短いステッチをハイライト
- 120 points(12mm) より長いステッチをハイライト

チェックポイント: 値が 2 points(0.2mm) と 120 points(12mm) になっている。
補足: ここを先に設定しておくと、編集の早い段階で“危ない箇所”が見える化され、後工程の手戻りが減ります。
Units(単位)と密度
Jeffは単位を millimeters、密度を absolute density にしています。

補足: 密度や寸法をmmで扱うと、現場の会話(例:0.4mm間隔)と一致しやすく、換算ミスを減らせます。
既定の糸チャートとファイル管理を整える
ここは“デジタルの資材置き場”を標準化するパートです。

File Locations(保存先の整理)
Jeffは File Locations タブで各種フォルダの場所を確認できることを示しています。
チェックポイント: Designs等の保存先が、後から探せる場所になっている。
Worksheets(ランシート)に載せる項目
Jeffはワークシートに表示する項目として、例えば次を挙げています。
- Estimate Cost
- Hoop
- Design Notes

現場効果: ワークシートはデジタイザーとオペレーターの“申し送り”です。枠(Hoop)を明記すると、枠の選択ミスによる段取り崩れを減らせます。
Default Thread Palette(既定糸チャート)
Jeffは既定を Madeira Classic 40 から Madeira Poly Neon 40 に変更しています。
1) Default Thread Palette を開きます。 2) Default Thread Chart を Madeira Poly Neon 40 に変更します。

チェックポイント: パレットを開いたとき、既定チャートが意図したものになっている。
File Associations(拡張子の関連付け)
Jeffは、DSTやPXFなどの拡張子をPulseに関連付ける設定を示しています。

チェックポイント: エクスプローラーでDSTをダブルクリックしたとき、Pulseで開く。
Machine Settings(機種別設定)
Jeffは Machines タブで、機種(例:Tajima)に関する設定項目があることを示しています。

補足: ここは運用形態(機械へ直接連携するか等)によって必要性が変わります。まずは“触った結果がどこに影響するか”を理解してから設定するのが安全です。
準備:一度にまとめて設定し、再起動で確定させる
Jeffは、変更内容によっては再起動が必要になる点に触れています。設定を小出しにすると、見た目や挙動が段階的に変わって混乱しがちです。
変更はまとめて行う
Colors/Units/Flyout/Auto-saveなど、環境系はまとめて変更し、最後にPulseを再起動します。
再起動後チェックリスト
- UI:フライアウトが展開され、ボタンが見える
- 操作:ホイールでズームできる
- 安全:短すぎ/長すぎステッチのハイライトが有効(0.2mm / 12mm)
- 反映:ノードを動かしたらステッチが自動更新される
トラブルシューティング
迷ったら当てずっぽうで触らず、症状→原因→確認→対処の順で切り分けます。
1) 症状:Pulseがクラッシュして作業が消えた
- 原因候補: 手動保存の間隔が長い/オートセーブが無効
- 対処: EnvironmentでAuto Save Timerを10分に設定し、重い操作の前後で手動保存
2) 症状:ノードを動かしてもステッチ表示が更新されない/遅い
- 原因候補: Stitch Generationの自動生成がOFF/PC負荷が高い
- 対処: 自動生成をONにする。負荷が高い場合は一時的にOFFにして G で手動生成
3) 症状:ツールが見つからない(どこにあるかわからない)
- 原因候補: フライアウト内に隠れている
- 対処: Use Flyout ToolbarsをOFF→再起動してボタンを展開
4) 症状:ミシンが止まりやすい/糸切れ・糸ヨレが多い
- 原因候補: 極端に短いステッチ(0.2mm未満)が混在
- 対処: Drawingのハイライト設定で短すぎステッチを可視化し、該当箇所を修正
5) 症状:角度線(Angle lines)が削除/編集できず、追加しかできない
- 原因候補: 角度線の編集方法が設定と噛み合っていない
- 対処: Environment内の「Edit angle lines with selection tool」に関連する設定を確認し、挙動が戻らない場合は既定設定へ戻して再確認
まとめ:作業環境を“本番仕様”にする
Jeffの推奨に沿ってユーザー設定を整えると、DG16 Pulseは「描くソフト」から「生産に耐える作業環境」へ変わります。
この設定で得られる状態:
- 見積の基準:Cost/1000が 1.50(必要に応じて調整)
- 安全性:10分オートセーブ+ステッチ長のハイライト(0.2mm/12mm)
- 速度:クロスヘア、ホイールズーム、ツールの可視化
- 整合性:既定糸チャートをMadeira Poly Neonへ揃え、色指定のブレを減らす
最後に、設定は一度整えたら終わりではなく、作業の詰まり(探す・待つ・失う)が出たところを“少しずつ改善”していくのが最短です。必要な変更はまとめて行い、再起動後のチェックリストで確定させてください。
