Table of Contents
1 プロジェクトの概要
機械刺繍のデジタイジングで、ノームの各パーツを「適材適所のステッチ効果」で組み立てる手順を紹介します。ここでは、ラジアルと手縫い風(Hand Stitch)、タタミ、フロレンティン、さらに重なりの削除による密度最適化までを、ひとつの流れにまとめます。動画内の操作と設定値に忠実で、必要な場面で理由も添えます。
1.1 何を・いつやるか
対象は中級レベルのデジタイザ。完成までの主な流れは、アートワークの読み込み→ポンポン→帽子→ブーツ→鼻→口ひげ→ひげ→重なりの削除→ステッチプレイヤー確認→ステッチアウト→現場調整です。

1.2 できるようになること
- 放射状+手縫い風でポンポンの質感を作る。
- タタミのパターン選択と角度で帽子の“流れ”を出す。
- ミラーコピーで左右対称のブーツをすばやく作成。
- 3Dサテン(→必要に応じてタタミへ変更)で鼻の立体感。
- フロレンティンで口ひげの曲線的流れを制御。
- ひげのステッチ角度を90度に設定して、縦の落ち感を強化。
- 重なりの削除で密度・ステッチ数を抑え、縫製トラブルを予防。
1.3 適用シーンと制約
- 帽子・毛並み・小パーツの“質感の差”をはっきり見せたい小物~中サイズのモチーフに有効。
- 布地や糸、針サイズは動画で具体値の言及がありません(「動画中で未具体化」)。したがって最初は無理のない生地でテストすることを推奨します。
2 準備するもの
- コンピュータとデジタイジングソフト(Hatch Embroidery Digitizer)
- ノームのアートワーク(SVG)
- 刺繍ミシン(最終ステッチアウト用)
- 基本的なデジタイジング操作の理解
2.1 ファイルとワークスペース
アートワークを読み込み、ロックして基準を固定します。これにより、オブジェクト操作中に下絵がずれません。

2.2 位置決めの補助
作業台の上では、安定したフープ作業のために下準備を整えましょう。例えば、布張り前の段階で平面性を確保し、既存の基準線をメモしておくと後工程がスムーズです。机上の滑り止めや治具を適切に配置すると、長時間の微調整にも疲れにくくなります。実際のフーピング時に刺繍用 枠固定台があると、手元基準の再現性が上がり、刺し始め位置の誤差を抑えられます。
2.3 クイックチェック
- アートワークはロック済みか
- ツールボックス(Digitize/Layouts)に素早くアクセスできるか
- ズーム・リシェイプのショートカットを確認(Hなど)
3 セットアップの基本
ここでは、後戻りを減らすための初期設定方針を共有します。
3.1 角度と流れを“先に想像”する
タタミやフロレンティンは、形だけでなく“流れ”が命。帽子は上へ抜けるカーブ、ひげは重力方向(縦)など、パーツごとの理想の走りを先に想像しておきます。

3.2 効果の重ね掛けの順序
ポンポンはラジアル→手縫い風→下地(ジグザグ)という順で設定。後から再適用が必要な場合があるため、面倒でも順序をメモしておくと再現性が保てます。
3.3 期待する中間結果
- 効果適用後に、オブジェクトのプレビューが意図どおりに見えること。
- ステッチ角度ガイドが対象形状の流れに概ね沿っていること。
3.4 チェックリスト(セットアップ)
- 目的の効果と順序をメモ化
- 基準点・角度のイメージ共有
- 再適用が必要になった場合の戻りポイントを把握
4 手順:ノームをパーツごとにデジタイズ
ここからは具体的な操作です。各ステップの終わりに“期待する見え方”を示します。
4.1 ポンポン(ラジアル+手縫い風)
- サークルツールで円を作成し、塗りつぶしを選択。
- 手縫い風(Hand Stitch)とラジアルを適用、サテンで設定。
- 中心クリック→ドラッグ→Enter×2で確定。
- 手縫い風の長さを5mm、フェザーエッジをMedium、Max幅3mm。
- 下地(アンダーレイ)はジグザグを2回(縁からの引き込みを抑制)。
再適用の注意:設定後にラジアルの効きが変わる場合、効果を掛け直します。

期待する見え方:放射状の筋が均一で、外周はフェザーで柔らかい縁取り。マグネット刺繍枠で布をフラットに保持できていると、ラジアルの“筋”が乱れにくくなります。

4.2 帽子(タタミのパターンと角度)
- Digitize Blocksで輪郭を右クリック中心に取り、緩やかなカーブを作る。
- タタミパターンは28番から試行(途中で変更)。
- 形状決定後、Reshape(H)で角度ガイドを微調整し、丸まりを強調。
- 手縫い風を追加:長さ2mm、角度3度、カウント1、ランダム2、バリエーション3(最終的にカウント1に戻す)。
パターンの試行錯誤は数分で切り上げ、角度の馴染みを優先しましょう。

期待する見え方:タタミの畝が帽子のカーブに沿って流れ、表面にわずかな手縫い風の粒立ちが混ざる。マグネット刺繍枠 brother 用でテンションが一定だと角度の表情がきれいに出ます。
4.3 ブーツ(左右対称の効率化)
- フリーハンドのクローズドシェイプで片足をざっくりトレース。
- タタミ1番で塗りつぶし、Reshapeで最小限の修正。
- Layouts→Mirror Copy Horizontalで反転コピー、位置合わせ。
- シーケンス上でブーツを最初に縫う順へ移動。
左右の統合時は、重なりのマージを許可します(効率化)。

期待する見え方:両足のエッジが揃い、タタミの角度が左右で破綻しない。

4.4 鼻(3Dサテン)
- 不要部分を一旦非表示にして作業領域を確保。
- サークルツール、ピンク、3Dサテンを選択。
- 中心→サイズ→楕円調整→Enterで確定、位置微調整。
3Dサテンは立体感が強いので、後工程の重なり削除と相性を確認します。

期待する見え方:光沢と厚みが出て、周囲と差別化される。なお実機では、状況によりタタミへの置換が有効なことがあります(後述)。
4.5 口ひげ(フロレンティン+ミラー)
- フリーハンドのオープンシェイプで片側をトレース。
- 右クリック→曲線で閉じる(Close shape with curved line)。
- フロレンティンを適用し、中央ハンドルを下へ、左端を先端へ配置。
- Mirror Copy Horizontalで反転、重なりマージ、鼻の下に配置。

期待する見え方:弧を描く走りが連続し、左右が自然につながる。

snap hoop monster マグネット刺繍枠で固定すると、カーブに沿ったステッチの目飛びが出にくい傾向があります。
4.6 ひげ(タタミ65+角度90度+手縫い風)
- フリーハンドのクローズドで片側を下へ、中央で止め、鼻方向に戻って閉じる。
- 余分なポイントは範囲選択→Deleteで整理。
- 角度を一度クリアし、上から下への90度の角度線を1本追加。
- 水平ミラーで反対側を生成して統合、鼻と口ひげの下に重ねる。
- 手縫い風をデフォルト設定で追加。

期待する見え方:ステッチ方向が上から下へまっすぐ落ち、毛流れの表情が出る。hoopmaster 枠固定台を使って繰り返し位置決めを安定させると、左右の整合性が保ちやすくなります。
5 質感づくりの要点:口ひげとひげ
フロレンティンは“曲がるタタミ”のような性格で、曲率と制御点の配置が命です。中央を落として左右へ抜くと、自然な扇状の流れが生まれます。一方、ひげは“縦落ち”の角度管理が最優先。角度線を1本に絞ったのは、流れを乱さないためです。
5.1 プロのコツ
- フロレンティンの制御点は「中央→端」の順で調整。端から詰めると中央のうねりが崩れやすい。
- ひげの角度は「90度一本勝負」。複数線で無理に曲げず、形状側の曲線で“見せる”。
5.2 注意
- 口ひげや鼻など“厚み×重なり”がある箇所は、後の重なり削除で必ず軽くする。密度過多は針折れの要因となります。
6 オーバーラップの削除で最適化
「重ねたまま」は厳禁。密度と総ステッチ数が跳ね上がり、固く重い刺繍になります。ここでは、動画と同じ順序・考え方で進めます。
6.1 重なりの考え方
- 先に他と重なる“最初の要素”から削除を始めると漏れが減る。
- オブジェクトごとに「Edit→Remove Overlaps」を適用。

6.2 実際の手順
- 参照画像を非表示にして見通しをよくする。
- ポンポン→ひげ→口ひげ→鼻の順にRemove Overlaps。
- ステッチプレイヤーで配列と挙動を通し確認。
6.3 ベネフィット
- 密度の偏りが緩和され、ステッチ数も減少。
- 針折れリスクの低下、仕上がりの柔らかさ向上。
6.4 クイックチェック
- 交差部に二重・三重の塗りは残っていないか
- プレイヤーで“詰まり”なく進行するか
7 ステッチアウトと現場調整
ソフト上でOKでも、実機では“布・糸・針”の相互作用で結果が変わります。動画では、以下の現場対応が共有されました。
7.1 縫製してわかったこと
- 口ひげの密度を下げた(針折れが発生したため)。
- 鼻は3Dサテンからタタミに変更(実機での相性を考慮)。

7.2 次回に活かす判断軸
- “立体感優先”でも、重なり部は密度を控えめに。
- 面積の小さな高密度エリア(鼻・口ひげの先端)は、縫い方向と刺し順を見直し、必要ならステッチタイプを変更。
ここで、布地保持の安定化にも触れておきます。厚みや段差があるときはmighty hoop マグネット刺繍枠のような保持が得られる機構を使うと、針路がブレにくく、微細な密度差の影響が軽減されることがあります。
8 仕上がりチェック
最終物の評価は、目視と触感で行います。
8.1 良い状態
- ポンポン:外周が柔らかく、放射状の筋が均一。
- 帽子:タタミの畝が曲面に沿って流れ、斑がない。
- ブーツ:左右対称で、角の毛羽立ちが少ない。
- 鼻:周囲と馴染みつつ主役感がある(サテンでもタタミでも)。
- 口ひげ:カーブの走りが滑らかで、先端が詰まりすぎない。
- ひげ:縦方向の落ち感が明確で、重さを感じない。
8.2 兆候(要調整)
- カド部に段差のような硬さ→重なり削除の不足。
- 点々とした目飛び→布保持とテンションの見直し(固定を安定させると改善)。brother マグネット刺繍枠のように保持が一定だと、安定再現がしやすいです。
9 トラブルシューティングとリカバリー
症状→原因→対処を簡潔にまとめます。
- 針折れ(特に口ひげ付近)
- 原因:重なりで密度過多/3Dサテンの厚み/刺し順の干渉
- 対処:重なりの削除を再実行、密度を下げる、鼻はタタミへ変更も検討
- 角度の“流れ”が乱れて見える(帽子)
- 原因:タタミパターンの相性/角度ガイド不足
- 対処:Reshapeで角度ガイドを再配置、パターンを短時間で比較して決定
- ひげが重く見える
- 原因:角度線の多用/ランダム要素の過大
- 対処:角度線を一本に、手縫い風は控えめに
- 目飛び・糸切れ
- 原因:布保持の不安定/局所の引き込み
- 対処:フープ固定を安定させ、必要ならマグネット刺繍枠 brother se1900 用のような保持具で再現性を高める
- ステッチ数が多すぎる
- 原因:重なり未処理/過剰な効果
- 対処:Remove Overlapsの適用順を見直し、必要最小限の効果に絞る
プロの視点では、布固定の品質を上げることがあらゆる問題の“根治療法”になりがちです。刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠のように取り付け・取り外しが安定しているツールは、試縫い反復でも位置ズレを抑えます。
10 コメントから
視聴者からは「デモとデザインが素晴らしい」という好意的な感想が寄せられています。とくに本稿で強調した“重なりの削除”や“角度の流れ”は、仕上がりの見栄えに直結します。あなた自身の環境でも、まずは小さなサイズで試し、密度と角度の手応えをメモしていくと、次第に再現性と完成度が安定していくでしょう。反復の際はマグネット刺繍枠やマグネット刺繍枠 11x13のように作業性を高める保持具を活用すると、評価と改善のサイクルが回しやすくなります。
