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3D(パフィー)フォーム用デジタイズの基本
3D(パフィー)フォーム刺繍は、一見すると簡単に見えます。フォームを置いてサテンで縫えば終わり——動画で見るとそう思いがちです。ところが実際に自分でデータを作ると、エッジが潰れる/フォームがきれいにちぎれず「毛羽立ち」みたいな残りが出る/画面上はシャープなのに縫い上がりが丸く崩れる……といった壁に当たります。
このレッスンでは、Kathleen McKeeの「パフィー用デジタイズの型」を、PE-DesignでTrueTypeフォントの文字(「PUFFY」)を例に、繰り返し使えるワークフローとして整理します。ポイントは設定値だけではなく、物理(フォームは立体で、糸に抵抗する)として捉えること。攻略の軸は、密度(切る)/縫い順(固定する)/枠張り(動かさない)です。

この記事で持ち帰れること(実務の成果物)
フォーム文字の案件で、そのまま使える「作業の型」を持ち帰れます。
- フォームの“物理”と6ルール: なぜ通常設定が破綻するのか、何を守れば安定するのか。
- 文字のブロック化: 「入力」から「設計」へ。編集できる形状に変えて制御する。
- 要点の数値: PE-Designでの密度(7.0 lines/mm)と、フォームでハーフステッチがNGな理由。
- キャップ(Capping)処理: 端をきれいに“切る”ための決定的テクニック。
- パス設計: 縫い順を動かしたときに発生する長いジャンプを、走り縫いで潰す考え方。
注意:針・機械の安全
フォーム刺繍は負荷が高い作業です。針がフォームと生地を高密度で貫通し続けます。
* 音: 連続した強い「ドスドス」や、硬い「カチッ」という音が出たら、すぐ停止。
* 糸: 糸切れ・鳥の巣(ボビン側の絡み)が出たら、無理に続行しない。
* リスク: 針曲がり、フック周りの損傷、製品不良につながります。サンプルを完走するより機械保護を優先してください。
ルール1:密度とハーフステッチ設定
フォームの成否は「フォームの端をどう扱うか」でほぼ決まります。フォームを“覆う”だけではなく、針穴の連続でフォームをミシン目のように切るイメージです。
密度:フォームを“切る”ための考え方
KathleenはPE-Design 7で設定できる最大値として、密度を 7.0 lines/mm に上げています。
理由は、通常の刺繍密度が「布の上に糸を乗せる」前提だからです。フォームでは、針穴が近接していないとフォームが完全に穿孔されず、ちぎるときにきれいに割れません。切手のミシン目と同じで、穴の間隔が広いと、狙ったラインで切れてくれません。

現場のコツ: PE-Design以外のソフトを使う場合も、狙いは「フォームが見えない」「端がミシン目で切れる」密度です。もしソフト側の上限で密度を上げ切れず、糸の被りが足りない(フォームが透ける/ちぎり跡が荒れる)場合、Kathleenは代替として同じ箇所を2回縫う(ダブルパス)という考え方を示しています。
ハーフステッチ:OFFにする
Kathleenは Half Stitch(ハーフステッチ) のチェックを外します。 通常刺繍では、カーブの馴染みや詰まりの軽減に役立つ機能ですが、フォームでは逆効果になりやすいです。端の針穴が不均一になり、フォームの切れが途切れたり、エッジが潰れて見えたりします。フォームでは「端に一直線の穿孔ライン」を作ることが重要です。

バージョン補足(コメントより要約): 「PE-Design 10でもできますか?」という質問に対して、密度設定の上限がより高く取れるため、同じ考え方でむしろやりやすいという回答が出ています。いずれのバージョンでも、ちぎった後にフォームが粉状に残る/毛羽立つ場合は、密度不足のサインです。
フォームは丸みのある書体が有利
Kathleenが強調している実務的なポイントとして、丸みのある文字・形状の方がフォームはきれいに出やすいという傾向があります。
角が鋭い書体は、針の向きや糸の溜まりが局所的に厳しくなり、角で糸が団子になったり、フォームが持ち上がりにくくなったりします。丸い形状はサテン列が流れやすく、フォームを均一に押さえ込みやすい、という「作りやすさ」があります。
素材の安定性が最重要: フォームは抵抗が大きいので、生地が薄い・柔らかいと、引っ張られて歪みやすくなります。コメントでも「シャツでできるか?」という相談があり、回答としては帽子やデニムジャケットのような“しっかりした素材”向きで、薄手のシャツは厳しいだろう、という見解が示されています。
枠張りで詰まるポイント: 厚物(しっかりした帽子、厚手ジャケット等)を強く張ろうとして、枠ネジがきつい/濃色生地に白っぽい押さえ跡が出る(枠跡)といった問題が出やすくなります。
- きっかけ: 枠が閉まらない、無理に締めて跡が出る。
- 選択肢: そこで現場では マグネット刺繍枠 に切り替えるケースがあります。
- 狙い: 機械的に挟み込む力ではなく磁力で保持し、厚みがあっても安定させやすい、という考え方です。

手順:文字を「ブロック」に変換する
キーボード文字は「文字として編集できる」反面、フォーム用に必要な細かい制御(角度や端の処理)に限界が出ます。フォームでは、編集自由度の高い「形状(ブロック)」にしてから詰めていきます。
ステップ1 — 文字を入力
TrueTypeの丸みのある太めフォントで、PUFFY を大文字で入力します。
ステップ2 — Convert to Blocksでブロック化
文字オブジェクトを選択し、Text Tab > Attributes > Convert to Blocks を実行します。 これで文字が分解され、各文字を個別の形状として編集できるようになります。

チェックポイント: 1文字をクリックしたとき、単語全体ではなく、その文字だけに編集点が出ればOKです。
ステップ3 — 角度(ステッチ方向)を整える
「P」を拡大し、Edit Tool でステッチ方向線を確認します。 線がねじれていたり、扇状に収束していると、フォームがムラになってゴツゴツ見えやすくなります。編集点を削除したり、点をドラッグして、列がまっすぐ平行に流れるように整えます。

補足: キーボード文字(内蔵フォント/TrueTypeともに)は、角や端が「そのままでは良くない」ことがあるため、手直し前提で考えると失敗が減ります(コメントでも、崩れた文字の直し方が助かったという反応があります)。
最重要:開口部のキャップ(Capping)
「なぜ端をキャップするの?」は、初心者が必ず疑問に思うポイントです。 結論は、端に“穿孔”が必要だからです(コメント返信でも「端を穿孔するため」と説明されています)。
サテン列には開始端・終了端があり、文字形状によってはフォームを切るための“糸の壁”が端にできません。たとえば「P」「U」「F」の開いている端は、フォームが残りやすく、無理に引くと荒く裂けます。そこで、端を横切る小さなサテンのバー(キャップ)を作り、フォームにミシン目を入れてから本体を縫います。

手順:キャップを作る
- ツール: Manual Punch(Straight Block)を使う。
- 作図: 開口部を横切るように Top–Bottom–Top–Bottom で点を打つ。
- 確定: ダブルクリックで閉じる。
- 見失い防止: 一時的に色を 赤 にして視認性を上げる。
出来上がりの目安: 開いている端を塞ぐ、小さな長方形バーに見えればOKです。
プッシュ補正:キャップは少し内側へ
サテンは縫うと外側へ押し出されます。キャップを文字の外形ぴったりで描くと、縫い上がりでキャップが“はみ出し”やすくなります。
仕上げ: Edit Tool でキャップの角を、文字の境界よりわずかに内側へ入れておきます。縫製時の押し出しで、ちょうど端に合いやすくなります。


機械の物理限界(コメントより要約): 「サテン列が17mm以上必要なデザインを求められたら?」という相談に対して、機械には最大の振り幅(最大ステッチ長)があり、要求サイズのままでは対応できないことを事前に説明すべき、という回答が出ています。現実的な対処としては、デザインを縮小するなどの調整が提案されています。
ジャンプを減らす:縫い順(シーケンス)とパス設計
キャップを作ったら、次は「いつ縫うか」です。 ルール:キャップは本体の文字より先に縫う。先に穿孔してから、その上を本体サテンで覆う必要があります。
ステップ1:縫い順を並べ替える
縫い順リストで、キャップのオブジェクトを該当文字の直前に移動します。


つまずきポイント: 並べ替えると、長いジャンプが発生しやすくなります。 対処: 走り縫いを手で入れて“つなぐ”。
- Running Stitch(Vキー)で、前の終点から次のキャップ開始点までをつなぐ。
- その後、Manual Punch(Zキー)でキャップを作図する。

タックダウン:強すぎない“仮押さえ”
高密度サテンに入る前に、フォームが動かないように軽く押さえる必要があります。ただし、下縫い(アンダーレイ)を強くしすぎるとフォームの高さが潰れます。
Kathleenのやり方: 文字間などのコネクタ(移動)ランの Run Pitch を上げ、ステッチ間隔を広げます。
- 狙い: フォームを軽く留めるが、押し潰さない。
- 見た目の目安: しつけ糸のように“点々”と見える程度。

判断フロー:その案件、フォーム向き?
本番前に、最低限ここだけ確認してください。
1. 生地の安定性
- しっかりした素材(帽子、デニム等)→ 進行。
- 薄手・伸びる素材(薄いTシャツ等)→ 注意。コメントでも「シャツは厳しいかも」という見解があり、フォームは素材選びが重要です。
2. 生産量
- 単発 → 標準枠でも可(時間をかけて丁寧に)。
- 量産(例:50点以上) → 枠張りの再現性がボトルネックになりやすい。位置ズレを減らす目的で マグネット刺繍枠 用 枠固定台 のような枠固定台を検討する、という考え方があります。
3. デザイン幅と機械限界
- サテン列が機械の許容内 → 進行。
- 許容を超える幅 → 事前説明と再設計(縮小・書体変更など)。
注意:マグネットの安全
マグネット刺繍枠は強力です。
* 挟み込み: 合体時に指を挟まないよう注意。
* 電子機器: ペースメーカー、磁気カード、機器周辺への取り扱いに注意。
* 保管: 直接噛み合って外れなくならないよう、スペーサーを挟んで保管。
よくある不具合と対処
テスト縫いで崩れたときは、症状→原因→対処で切り分けます。
| 症状 | ありがちな原因 | 典型的な対処 |
|---|---|---|
| フォームがバタつく/ズレる | タックダウン不足 | 高密度サテンの前に、コネクタ(走り)で軽く押さえる。 |
| 端が毛羽立つ/ちぎれが汚い | 密度不足 | 密度を7.0 lines/mmまで上げる(上限がある場合はダブルパスも検討)。 |
| 切れがギザギザ | ハーフステッチON | Half StitchをOFF。端の穿孔を揃える。 |
| キャップがはみ出す | サテンの押し出し(プッシュ) | キャップを少し内側へ入れて作図する。 |
| 糸切れ・針トラブル | 負荷過多/引っ掛かり | 無理に続行しない。音・糸の状態を見て停止し、原因を除去。 |
マグネット刺繍枠 を探す人が多いのは、上の「フォームがズレる」系のトラブルが、枠張りの甘さで起きやすいからです。フォームは特に、枠張りの安定が第一条件になります。
準備チェック(見落としがちな道具)
フォームは「始める前の段取り」で勝負が決まります。
補足(道具):
- ピンセット: ちぎり残りの小片を取る。
- 糸切り(ニッパー等): ジャンプ処理。
- フォーム: 糸色とフォーム色の相性に注意(色が違うと透けやすい)。
家庭用機での注意(コメントより要約): 「Brother PE800のような家庭用刺繍機でもできる?」という質問に対して、刺繍ができる機械なら縫える可能性はあるが、フォームは帽子やデニムジャケットのような丈夫な素材向きで、シャツは厳しいだろう、という回答が出ています。機械性能だけでなく、素材条件を優先して判断してください。
また、家庭用枠で厚物が滑る・保持が不安という場合、brother pe800 マグネット刺繍枠 のような選択肢で保持力を上げる、という考え方もあります(作業中にフォームを置く動作が入るため、下の生地が動かないことが重要)。
準備チェック:
- 針: フォームで負荷が上がる前提で、状態の良い針を使用。
- 下糸(ボビン糸): 途中で切らさない。
- フォーム: デザインより少し大きめにカット。
- 糸: 上糸色とフォーム色の相性を確認。
- 道具: ピンセット等を手元に。
セットアップ
ルールを最終データに反映します。
セットアップの基本ルール
- 停止指示: 背景(通常刺繍)を先に縫い、フォームを置くために「STOP」または色替え停止を入れる。
- 高密度: サテン列は7.0 lines/mm(可能な範囲で最大)へ。
- キャップ優先: 縫い順は「キャップ→文字本体」を守る。
- ハーフステッチOFF: 全体でOFFになっているか確認。
実務メモ: 厚物で「枠張りに時間がかかる/フォームを置いた瞬間にズレる」なら、データ以前に治具・枠の問題であることが多いです。モデルに合う brother pe800 用 マグネット刺繍枠 のように、保持の仕組みを変えると作業が安定しやすくなります。
セットアップチェック:
- 文字がBlocks化されている(ライブ文字のままではない)。
- ステッチ角度が平行(ねじれ・扇状がない)。
- 開口部すべてにキャップを入れた。
- キャップを少し内側に入れている(押し出し対策)。
- コネクタのRun Pitchを広げ、潰しすぎない。
縫製(オペレーション)
ここからが本番です。
実行シーケンス
- 背景を縫う: フラット要素を先に縫う。
- 停止: 機械が止まったらフォームを置く。
- フォーム工程: キャップ→文字本体の順で縫う。
- ちぎり: フォームをゆっくり剥がす。ミシン目で切れる感覚が理想。


補足(帽子の場合): 帽子は曲面のため、フォームが浮きやすく難易度が上がります。安定させるには、帽子を支えられる 刺繍ミシン用 キャップ刺繍枠 のような治具・枠の考え方が有効です。
オペレーションチェック:
- 観察: 最初の数針でフォームが持ち上がっていないか。
- 音: 穿孔できている“重い音”が出ているか(異音は停止)。
- ジャンプ: 長い渡り糸が残っていないか(パス設計で潰す)。
- 色: キャップを最終的に本体色へ戻し、不要な停止が入らないようにしたか。
仕上がり
Kathleenは、視認のために赤くしていたキャップを本体色へ戻し、停止のない連続縫いとしてまとめます。結果として、端がきれいに切れて、立体感のある文字が安定して出せます。
まとめ: 3Dフォームは運ではなく手順です。
- 圧縮と被り: 高密度。
- 穿孔: キャップ処理と適切な設定(ハーフステッチOFF)。
- 安定: 枠張りで動かさない。
データのルールを守ってもエッジが荒れるなら、最後は物理(枠張り・保持)を疑ってください。マグネット刺繍枠 のような保持力の高い枠でズレ要因を減らすと、デジタイズの狙い通りの縫い上がりに近づけやすくなります。
