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3Dパフオーナメントに必要な材料
「市販品みたいに見える」仕上がりにするには、発想を少し変えるのがコツです。これは“デザインを縫う”というより、糸・スタビライザー・テンションで自立する構造物を作る工程です。本手順では、同じ面を2枚作って貼り合わせることで、両面から見ても成立するアップリケオーナメントに仕上げます。

学べること(この方法が効く理由)
ここでの要点は「サンドイッチ構造」です。水溶性スタビライザーを2枚重ねで枠張りし、まず配置縫い(プレースメント)で“置き場”を作ります。そこへ事前にカットしたグリッターアップリケを貼ってタックダウンし、その上から厚手のウォッシュアウェイ・トッパーを“浮かせて”載せます。
「3D感」は見た目の演出ではなく物理現象です。厚みのあるトッパーがサテン縫いで強く圧縮され、糸が深く沈み込みます。未縫い部分は高さが残るため、トッパーを水で溶かした後も刺繍が“レリーフ”のように立ち上がって見えます。
動画で使用している材料
プロっぽい結果にするには、材料の“性質”が重要です。
- スタビライザー: 繊維タイプの水溶性スタビライザーを2枚重ね(メッシュ/布っぽい見た目のタイプ)
- トッパー: Puff Stuff(厚手の3D用ウォッシュアウェイ・トッパー)
- アップリケ土台: 事前カット済みのグリッターアップリケ素材(六角形ベース)
- 接着: 仮止めスプレー(505系の一時接着タイプ)
- 糸: 刺繍糸(白/シルバー)
- テープ: 低粘着のマスキングテープ(ライムグリーン等)
- 洗浄: シンク+ぬるま湯+歯ブラシ(溝の残渣落としに必須)
- 組み立て: グルーガン+リボン(3/8\" または 1/8\" 幅)
「地味に効く」補助アイテム
慣れていないとここで詰まりやすいポイントです。
- アップリケ用ハサミ: サテン外周ギリギリを切る工程で、糸を切りにくい形状だと作業が安定します。
- 新しい針: グリッター素材は抵抗が出やすいので、針先が鈍いと縫い目が荒れやすくなります。
- ピンセット: 手の油分がスタビライザーに付くのを避けつつ、位置合わせがしやすくなります。

よくある質問(コメントより要約):「貼り合わせずに、縫い合わせでもいい?」
コメントへの返信では、Puff Stuffは乾くと硬くなると説明されています。理屈の上では縫い合わせも可能ですが、乾いた残渣で硬くなった層は針が通りにくく、針折れや目飛びのリスクが上がります。作業性と安定性の面では、今回の用途は貼り合わせ(グルー)が現実的です。
作業が詰まり始めたら(枠張りがボトルネックのサイン)
量産(バッチ)に入ると、ネジ式フープの締め込みや、スタビライザーの歪みがストレスになります。水溶性スタビライザーは特に“摩擦で引っ張る固定”に弱く、ズレが出ると即アウトです。こういうタイミングで、現場では マグネット刺繍枠 に移行する人が増えます。摩擦ではなく磁力で面圧をかけるため、繊細なスタビライザーでも歪ませにくく、枠跡やたわみを抑えつつ段取り時間を短縮できます。
刺繍枠とスタビライザーの準備
この手のフリースタンディング系は、枠張りが成否の8割です。布地なら織りが支えてくれますが、今回は“スタビライザーだけ”に縫います。ここで1mm動くと、六角形が歪んで貼り合わせ時に合わなくなります。

手順1 — 水溶性スタビライザーを2枚重ねで枠張り(ドラム張り)
動画の動き: 繊維タイプの水溶性スタビライザーを2枚重ねで刺繍枠に入れ、しっかり締めます。
チェックポイント(感覚で判断)
- 音: 指で軽く叩くと「ポン」と張りのある音がします。鈍い音なら張り不足です。
- 触感: 内枠の縁に沿って指を滑らせ、波打ちがないこと。
- 見た目: 透かして見たとき、2枚が一体化して見え、間に空気だまりがないこと。
期待される状態
- サテン縫い主体の密度でも、左右が引き込まれにくい“硬い土台”になります。
なぜ「2枚重ね」なのか(現場向け補足)
水溶性メッシュは本来、布を補助する用途が中心です。1枚だと針の上下動で“トランポリン”のように揺れて位置合わせが崩れやすくなります。2枚にすると剛性が上がり、サテン縫いの押し引きに耐えやすくなります。
事前判断フロー(無駄打ち防止)
- デザインは密度が高い?(太いサテン外周がある)
- はい: 繊維タイプ水溶性を2枚。
- いいえ: 1枚でも可能性はありますが、今回は2枚が安全です。
- 縫っている途中で角が裂ける/よれる?
- 原因候補: 張りムラ、またはスタビライザーの耐力不足。
- 対策: よりヘビーな水溶性に変更、または枠の面圧が均一になりやすい枠へ。ネジ式フープは角の保持が弱くなりやすいので、均一に押さえやすい マグネット刺繍枠 が有利なケースがあります。
- 仕上がりが“ふにゃっ”とする?
- 原因候補: 洗い不足でゲル残り。
- 対策: 仕上げ工程のブラッシングを増やします(後述)。
段取りチェック(ミシンを回す前)
- スタビライザー: 繊維タイプ水溶性メッシュ2枚。枠より四方1インチ大きめにカット。
- 下糸(ボビン糸): 残量確認。途中で切れると構造が弱くなります。
- 刺繍枠: ネジの締め込み(ネジ式)/マグネット位置(磁性枠)を確認。
- 針: 先端に欠けがないか確認(爪で軽く触れて引っかかるなら交換)。
- 作業環境: ほこりを避ける。水溶性は糸くずが付きやすいです。
注意:機械安全。 押さえのクリアランスが低すぎるとスタビライザーを引きずり、高すぎると糸ループが出やすくなります。3D系は素材が厚くなるため、機種によっては押さえ高さの調整が必要になる場合があります。
アップリケの位置合わせとタックダウン
ここは精度勝負です。ここで2mmズレると、外周で白いスタビライザーが見えたり、貼り合わせ時に段差が出て“手作り感”が強くなります。

手順2 — スタビライザーに配置縫い(アウトライン)を入れる
動画の動き: 枠張りしたスタビライザーに、六角形の配置縫いを1周入れます。
チェックポイント
- 見た目: 始点と終点がきれいに合うこと。ズレる場合は張り不足の可能性が高いので、ここで枠張りをやり直します。
期待される状態
- アップリケを置く“着地点”が明確になります。

手順3 — 事前カットしたグリッター素材の裏に仮止めスプレー
動画の動き: 六角形アップリケの裏面に一時接着スプレーを吹きます。
チェックポイント
- 触感: “しっとり濡れ”ではなく“ベタつく”程度が理想です。
- 作業: 段ボール箱などの中で噴霧し、ミシン周りに飛散させないようにします。
期待される状態
- 押さえの摩擦でもアップリケがズレにくくなります。

手順4 — 配置縫いに合わせて貼り、タックダウンで固定
動画の動き: 配置縫いの内側に手で合わせて貼り付け、その後タックダウン縫いで押さえます。

チェックポイント
- 見た目: 外周で配置縫いが“ほんの少し見える”か、完全に隠れる位置が目安です。
- 手順: 中心から外へ向かってしっかり擦り、空気を抜くように密着させます。
期待される状態
- 次の3D工程に耐えるフラットな土台になります。
つまずきポイント(コメントで出た疑問の整理):「1回の枠張りで両面を一気に縫えない?」
コメントでは「完成した1枚を裏に当てて、そのままタックダウンして2枚を一体化できる?」という発想が出ています。ただ、この手法は仕上げで強めの水洗い+ブラッシングを行います。途中で裏側を閉じてしまうと、内部に残ったスタビライザーが抜けにくくなり、後からにじみ出たり変形の原因になります。動画の流れ通り、同じ面を2枚作ってから貼り合わせるのが安定します。
小ロット量産の効率化メモ
位置合わせが一番時間を食います。数十枚単位になると、手合わせは利益を削ります。段取りを安定させたい場合は、マグネット刺繍枠 用 枠固定台 のような固定台で枠とスタビライザーを動かない状態にしてから貼ると、作業がブレにくくなります。また、機種に合う マグネット刺繍枠 babylock 刺繍ミシン 用 のような治具性の高い枠を使うと、同条件を繰り返しやすくなります。
3Dトッパー(Puff Stuff)の載せ方
この工程では厚手素材を刺繍面に追加するため、押さえが引っかかる・テープが縫い込まれる等の事故が起きやすくなります。

手順5 — Puff Stuffを“浮かせて”載せ、上下をテープで固定
動画の動き: オーナメントより少し大きめに切ったPuff Stuffを載せ、上下をマスキングテープで枠に固定します。
チェックポイント
- たるみ: 平らに乗っていればOK。引っ張ってピンと張らない(伸ばすと後で戻ってシワの原因)。
- テープ位置: 縫い範囲の外に確実に逃がす。針に粘着が付くと糸切れが増えます。
期待される状態
- トッパーが“受け身”で乗り、縫い始めで自然に固定されます。
なぜスプレーではなくテープ固定なのか
トッパーは最終的に水で溶かして除去する前提です。スプレーで貼るとアップリケに密着して剥がれにくくなり、洗い工程が不安定になります。テープは“最初の数針までの第三の手”として機能し、後工程の除去性を損ねません。
テープ作業が日常化したら
毎回テープで段取りしているなら、作業台の標準化が効きます。現場では 枠固定台 を用意して、浮かせ素材のセットを素早く繰り返せるようにすることがあります。
注意:マグネット安全。 マグネット枠は挟み込み事故の危険があります。指をクランプ部に入れないこと。ペースメーカー等の医療機器を使用している方の近くに置かないでください。
仕上げ:洗い・ブラッシング・組み立て
ミシン工程が8割でも、残り2割(洗いと組み立て)で商品価値が決まります。

手順6 — トッパー越しに雪の結晶デザインを刺繍
動画の動き: Puff Stuffの上から雪の結晶を刺繍します。
チェックポイント
- 観察: 上糸が毛羽立つ/切れる場合、フォーム片が針穴周りに詰まっている可能性があります。必要に応じて一時停止して清掃します。
期待される状態
- 刺繍がフォームに埋もれて見える(これで正常)状態になります。
手順7 — 同じ工程をもう1回行い、同一面を2枚作る
動画の動き: まったく同じ手順で、オーナメントの面を2枚作ります。
チェックポイント
- 再現性: 2枚目も同じスタビライザー条件(2枚重ね)で。条件が違うとサイズ差が出て貼り合わせがズレます。
期待される状態
- 2枚が“双子”になります。

手順8 — サテン外周ギリギリでカット
動画の動き: 枠から外し、トッパー/スタビライザー/素材をまとめて外周に沿ってカットします。
チェックポイント
- 余白: 目安は縫い目から1〜2mm。
期待される状態
- ここでは端が荒く見えてOK(洗いで落ち着きます)。

手順9 — ぬるま湯でトッパーを溶かす
動画の動き: 流水のぬるま湯で洗い、トッパーを溶かします。
チェックポイント
- 温度: 冷水だと遅く、熱すぎると溶け方が急で扱いにくくなります。ぬるま湯が安定です。
- 見た目: 白っぽいものが透明なゲル状に変わって流れていきます。
期待される状態
- スタビライザー/トッパーが溶け、糸とアップリケが残ります。

手順10 — 歯ブラシでゲル残渣をしっかり落とす
動画の動き: 歯ブラシで表面をしっかり擦り、ゲル状の残りを除去します。
チェックポイント
- 触感: サテンを指でなでて“ぬめり”があるなら残っています。再度ブラッシング。
- 溝: 雪の結晶の細部に残りやすいので、毛先で掻き出すように。
期待される状態
- 触ると“キュッ”とする清潔な表面になります。
よくある質問(コメントより要約):「Puff Stuffはサテンの下に残る?乾くとどれくらい硬い?」
コメントでは、Puff Stuffは乾くと硬くなると回答されています。実際のところ、密な縫い目の下に微細な残りが入り込むことがあり、結果として立体感の保持に寄与します。乾燥後はしっかりした“硬さ”が出て、吊り下げに向くコシが出ます。
手順11 — リボン+ホットグルーで貼り合わせ
動画の動き: 片面の上部裏にグルーでリボンループを固定し、外周に沿ってグルーを回してもう1枚を貼り合わせます。



チェックポイント
- スピード: グルーは固まるまでが早いので、段取りしてから一気に圧着します。
- 密閉: 外周に隙間がないか確認。隙間があると剥がれやすくなります。
期待される状態
- 360度どこから見ても成立する両面オーナメントになります。
各面を縫う直前のチェック
- デザインの向き(上下)を確認。
- 下糸(ボビン糸)残量が十分(目安として半分以上)。
- トッパーがテープで確実に固定されている。
- 仮止めスプレーをよく振った。
「オーナメント1面」反復サイクル(作業標準)
- 配置縫い
- アップリケ貼り(位置合わせ確認)
- タックダウン(外周が噛んでいるか確認)
- トッパーを浮かせて固定(テープ)
- 本刺繍
- 枠外し→外周カット(1〜2mm)
- 洗い→ブラッシング(ぬめりゼロまで)
- 乾燥(平置き)
- 貼り合わせ→圧着
ファイル形式について(コメントより要約)
コメントで「どの形式が入っているか/PESはあるか」という質問があり、チャンネル側はPESを含む各種標準フォーマットに対応していると回答しています。
機材・枠の見直しタイミング(現場の目線)
家族用に数枚作る程度なら、単針機+標準枠で十分です。一方で販売用に数を回す場合、詰まりやすいのは「枠張りの繰り返し」と「段取り替え」です。
- ボトルネック: 枠張りのやり直し、段取りのばらつき。
- 考え方: 多針刺繍機は色替えの手間を減らし、段取りの重なり(次の準備を並行)を作りやすくします。
- 段取り側の改善: 刺繍用 枠固定台 のような固定台システムや、機種に合う babylock マグネット刺繍枠 サイズ を揃えることで、準備工程を標準化しやすくなります。
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | 主な原因 | すぐできる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 外周が波打つ/歪む | 枠張りが甘い、または1枚張り | 基本は作り直し | ドラム張り+2枚重ね |
| アップリケがめくれる | 仮止め不足/位置ズレ | 端に少量の接着で補助 | スプレー使用+タックダウン前に位置確認 |
| 糸ループ(ヒゲ) | 上糸テンション不良/フォーム抵抗 | 再糸掛け | 3D素材では押さえ条件の見直し |
| 表面が白っぽい/ベタつく | 洗い不足 | ぬるま湯で追加洗浄 | 歯ブラシでしっかり除去 |
| 貼り合わせに隙間 | グルーが冷えて固まった | 温めて再圧着 | 段取りしてから素早く作業 |
仕上がり基準(検品の目安)
合格ラインの目安:
- コシ: だらんと垂れず、しっかりした硬さがある。
- 清潔感: 雪の結晶の溝に白い残りがない。
- 左右一致: 表裏のズレが目立たない。
この手順を“作業標準”として回せるようになると、「うまくいくといいな」から「狙って同じ品質で作れる」へ移行できます。
