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Amazon等で出回る偽物ボビンの危険性
業務用の現場で長く機械に触っていると、「ベルニナが急に別の機械みたいな音になった」瞬間を何度も見ます。テンションが乱れ、ボビンケースが噛み込み、作業が止まる。高価な機種ほど精神的ダメージも大きいです。
でも、重い本体を抱えてすぐディーラーへ行く前に、まず疑うべきは“たった1ドル程度の小物”——ボビンです。JeffがBernina B 790 PROで示した通り、精密機構では「ほんのわずかな寸法差」が、スムーズな回転と致命的な噛み込みの分かれ道になります。

この記事で身につくこと(現場で効く理由)
取扱説明書の“最低限”から一歩進めて、次を実行できるようにします。
- ボビンの“出どころ”で判定する:見た目が似ていても、偽物を混ぜない運用にする
- フック内フェルトパッドの状態確認:乾き(白さ)を見逃さず、週次で浸油する
- 「タートルバック」手順でフックを戻す:押し込まず、位置合わせで「カチッ」と入れる
- 上側からの“重力1滴”注油を安全に使う:どこに落とすか/落としてはいけないかを理解する
bernina 刺繍ミシン を刺繍運用しているなら、このルーティンは保険です。トラブル停止や部品交換のコストを、最小の手間で避けられます。

「見た目は同じ」ボビンが起こすこと
失敗の理由はシンプルです。成形精度の差(わずかな反り・バリ・寸法誤差)が、機内では摩擦になります。
Jeffの指摘ははっきりしています。肉眼ではほぼ同じに見える。しかし内部では、その差が抵抗になり、熱と引っ掛かりを生みます。結果として、
- ボビンがケース内で固着する
- さらに悪いと、ケースがフック機構側と一緒に回って糸が絡み、縫い品質が崩れる
といった形で表面化します。
鉄則:ボビン単体の見た目だけでは判定できません。 重要なのは“出どころ(パッケージ/供給元)”です。汎用の袋や不自然なケースで届いたら、まず疑ってください。

正規品パッケージの目印(動画で示された例)
購入時は、次の「見た目のアンカー」を基準にします。
- 5個入りチューブ:ベルニナの正規ブランディングがある吊り下げカード
- 25個入りフォームケース:現場向けの定番。Jeffの説明通り、計算すると“ケースが実質おまけ”になることもあります

つまずきポイント(現場で多いパターン)
「ミシンが急に言うことを聞かない」と感じたとき、直前に“新しいボビンを開封していないか”を必ず確認してください。
切り分けのコツ: 新しいボビンに替えた直後から、ボビンケースが引っ掛かる/抜けが悪い/噛み込みが出るなら、そこで試運転を止めます。プラスチックは“慣らし”で良くなりません。慣らすのは機械側のほうです。
そのロットは隔離し、以前から使っていて問題のないボビン(正規品と分かっているもの)に戻してください。症状が消えるなら、原因はほぼ確定です。
標準メンテナンス:フックレース(釜周り)の注油
注油は「とりあえず油を差す」作業ではなく、高速で金属同士が接触する部分の摩擦管理です。Jeffの画面表示どおり、分解→照明→注油の順で進めます。

準備(段取りで失敗を防ぐ)
失敗の多くは“急いでいる”ことが原因です。作業台を整えて、部品を落とさない・汚さない環境を作ります。
Jeffが使っている/映っているもの:
- ベルニナ純正オイル
- ペンライト(狙って照らせる細い光が便利)
注意:安全面
手回し車(はずみ車)周辺に指・髪・袖が入らないようにしてください。工具や綿ぼこり取りを釜に入れた状態で、無理に回さないこと。
週次の注油:動画で実際にやっている流れ
- 取り外し:ボビンケースとフック(釜)を外し、レース(フックが走る金属の軌道)を露出させる
- 照らす:ペンライトで内部を確認し、糸くずと乾き具合を見る
- 注油:金属のレース部にオイルを入れる

チェックポイント(感覚で判断する)
- 見た目:金属に薄い“ツヤ”が出るのが目標。液だまりは作らない
- 音:乾いているとザラついた「ヒス音」っぽくなり、注油後は静かになります
期待できる変化
注油直後に音が変わることがあります。コメントでも「音の変化が“次の注油タイミングの合図”になる」という声があり、実務的な目安になります。
注油前チェックリスト(ボトルを開ける前に)
- 安全:電源OFF(またはロックアウト)
- 作業スペース確保:作品・枠などを針周りから外す
- 部品の置き場:外したフック/ボビンケースを安定した場所に置く
- 糸くず除去:照らして確認し、糸くずがあれば注油前に取る(油+糸くず=汚れの原因)
- 視認性:レースの金属面がはっきり見える状態にする
重要注意:フェルトパッド(ウィック)の確認
ここが“慣れている人”と“なんとなく注油している人”の差になります。フック部品の内側には小さなフェルトパッドがあり、オイルを保持して徐々に供給する役割(ウィック)を担っています。

パッドはどうする?(動画の通り)
Jeffはこのパッドをしっかり浸油しています。ここが乾くと、レースに1滴入れても持ちが悪くなります。

注意:フェルト端の“毛羽”を抜かない
端の毛羽をピンセットでつまみたくなりますが、それは“ゴミ”ではなくウィックの一部です。引き抜くと潤滑が成立せず、フック交換(高額)につながります。
パッドの状態判断(色で見る)
Jeffは「真っ白のまま=乾いている」例に触れています。
- 白い/薄い色:乾燥。過熱・摩耗リスクが高い
- 濃い色(油が回っている):良好
- 対応:色が変わって吸い込むのが見えるまで、オイルを含ませる
よくある質問(コメントより要約):上からの1滴で分解注油は不要?
視聴者から「上側からの“簡易1滴”をやれば、レース側の1滴は不要?」という質問が出ています。
結論:置き換えではありません。 上からの1滴は“つなぎ”で、定期的な分解注油とパッドの浸油は別物です。Jeffも「パッドへの注油は必要」と返信しています。
「タートルバック」:フックをスムーズに戻す手順
清掃と注油が終わったのに、フックが戻らない。ここで力任せに押すと、余計に状況が悪化します。
Jeffの「タートルバック」は、力ではなく位置合わせで入れる方法です。

手順(Jeffのやり方をそのまま)
- 6時位置のルール:手回し車を回し、見える銀色のドットが真下(6時)に来る位置に合わせる
- 持ち方:フックを持ち、銀色側が機械側、黒い背面が自分側になる向きで構える
- タートルの向き:背面(黒い側)を“甲羅”のように見立て、受け側の形に沿う向きにする(オイル穴は内側を向く)
- いったん乗せる:黒いキャリアの上にそっと“置く”。この時点で押し込まない
- 微調整:すぐに入らなければ、手回し車を前後にほんの少し(約1/8回転)揺らして噛み合いを作る

チェックポイント(「入った」合図)
- 見た目:銀色ドットが6時にある
- 手応え:抵抗が少なく、自然に吸い込まれる感覚
- 音:カチッ/パチッと座る音がする
期待できる状態
フックが手を離しても安定し、保持機構(ゲート)を無理なく閉じられます。
つまずいたら
入らないのに押すのはNGです。位置がずれています。いったん6時位置に戻し、向きを作り直してください。
bernina 刺繍ミシン を運用していると、この作業は何度も発生します。「タートルバック」を体で覚えると、数分のストレスが数秒のルーティンになります。

代替手順:上側からの“重力1滴”注油
これは長時間運転中の“ピットストップ”です。フル分解の代わりではなく、途中で回復させるための手段として使います。

使うタイミング
- 運転中に音が大きくなり「乾いてきた」と感じたとき
手順(動画で示された通り)
- 視界確保:慣れないうちは押え金を外す(慣れれば外さなくても可)
- アクセス:針板(スティッチプレート)を外す
- 狙いを定める:手回し車を回し、開口部から光って動くフック先端(金属)を探す
- 1滴だけ:その“動いている光る金属部”に、オイルを1滴落とす


注意:狙い撃ちが必須
黒い内部に闇雲に垂らさないでください。Jeffも「動いている光る部分だけ」と強調しています。
チェックポイント
- Jeffが示す“当てるべき金属部”を目視できているか
- 1滴が金属に乗ったか
- 針板が確実に戻って固定されているか(浮いたままだと針折れの原因)

補足
オイルは糸くずを呼びます。狙い撃ちで最小量にするほど、内部の汚れが増えにくくなります。
刺繍とソーイングで違う:注油頻度の目安
刺繍は機械にとって負荷が高い運転です。連続稼働で熱が上がり、潤滑が消耗します。
Jeffの目安は次の通りです。
- 通常のソーイング:約3時間ごと
- 高負荷の刺繍(FSL/高密度など):約1〜1.5時間ごと

判断フロー:今、注油すべき?
- 運転内容
- 通常の縫製中心 → 通常ペース(約3時間)
- 刺繍で長時間連続運転 → 高負荷ペース(約1〜1.5時間)
- 熱の確認(安全第一)
- 針板/ボビン周辺が熱いと感じる → 停止して冷却→注油して再開
- 音の変化
- 乾いたような音が出てきた → 注油の合図
現場の現実
もし「毎時間注油している」なら、家庭用クラスの機械を限界近くまで回している可能性があります。メンテナンスで信頼性は上がりますが、運用のボトルネックは別に出てきます。
たとえば、注油やボビン交換の合間に段取りを詰めたい場合、枠張りの時間短縮が効くことがあります。作業の流れ全体を見直す中で、bernina マグネット刺繍枠 のような段取り改善ツールを検討する人もいます。
終業時チェックリスト
- ボビン監査:今日、引っ掛かりが出たボビンは混ぜない
- パッド確認:フェルトが乾いて白くなっていないか
- 動作音:手回しで異音がないか
- 油だまりなし:本体下やフリーアーム下に垂れがないか
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
焦ったときほど、症状から切り分けます。
| Symptom | Likely Cause | The "Jeff" Fix | Prevention |
|---|---|---|---|
| Bobbin Case Stuck | Counterfeit Bobbin (Sizing Discrepancy) | 偽ボビンを廃棄し、正規品に戻す。 | 正規パッケージのボビンのみ使う。 |
| "Rattling" Sound | Dry Hook Race | すぐ注油する。 | 週次でフェルトパッドも含めて注油する。 |
| Stitch Plate Hot | High Friction / Dry Pads | パッドが白く乾いている可能性。浸油する。 | 連続稼働を区切り、冷却と注油を挟む。 |
| Hook won't fit | Misalignment | 押し込まない。銀色ドットを6時に合わせ、「タートルバック」で戻す。 | 位置合わせを先に確認する。 |
| Oil bottle won't drip | Clogged Nozzle | 先端詰まりの可能性。ピンで先端を清掃する。 | キャップを確実に閉め、乾燥・固着を防ぐ。 |
良いメンテナンスの結果(現場で起きる“良い変化”)
正規品ボビン+定期注油が揃うと、機械は“退屈なくらい”安定します。刺繍では、その退屈さが正義です。糸絡みの不安が減り、段取りに集中できます。
次の課題:生産効率
メンテナンスは信頼性を上げますが、利益を出す運用では次に「速度」が課題になります。手が止まる場所を観察すると、多くの場合は枠張りです。
そのため、現場では bernina 用 マグネット刺繍枠 のようなマグネット刺繍枠を導入して、枠張りの手間を減らすケースがあります。
注意:マグネットの安全
マグネット刺繍枠は保持力が強く、指を挟む危険があります。医療機器(ペースメーカー等)や磁気媒体にも近づけないでください。
また、サイズ選定も重要です。無理なサイズは枠干渉の原因になります。bernina マグネット刺繍枠 サイズ を確認し、機種の刺繍可能範囲に合う枠を選んでください。
機械をアスリートだと考えると分かりやすいです。良い“栄養”(正規ボビン)と“水分”(適切な注油)を与え、段取りの道具も整える。これが、安定した縫いと作業効率の土台になります。
