目次
はじめに:子ども服の量産が難しい理由
大人用ポロをまとめて刺繍してから幼児サイズに切り替えると、同じロゴでも「別案件」と感じるはずです。襟ぐりが小さい、前立て(プラケット)が短い、刺繍枠の逃げが少ない——この3点が重なると、位置合わせと枠張り(枠入れ)が一気にボトルネックになります。3Tの小さなシャツがどうしても平らにならない、機械のアームに襟が当たりそうで怖い、というストレスは量産では致命的です。
ここでは、Shirleyがオレンジ色の子ども用ポロ(3T)を量産する際に使っている手順を、作業として再現できる形に整理します。ジュニア用の位置決め定規、再利用できるSnowman(スノーマン)位置合わせステッカー、マグネット刺繍枠+枠固定台、そしてBrother PR1055Xのカメラ認識機能を組み合わせ、最後に子ども服で重要な「肌当たり」をTender Touchで仕上げます。さらに、子ども服は工程が増える前提での価格設定(見積り)の考え方にも触れます。

使用ツール:Mighty Hoopと位置決め定規
ミシンに触る前に、量産でブレない段取りを作ります。量産は「地味な工程」——位置の再現性、枠のテンションの再現性、チェックの再現性——で勝負が決まります。
動画で使用しているもの(なぜ重要か)
- 素材(シャツ): 子ども用ポロ(3T)、コットン鹿の子。
- 測定: ジュニア用の刺繍位置決め定規(Embroidery Placement Ruler Jr)で、縦位置とセンターを規格化。
- 位置合わせ: 再利用できるSnowmanステッカー(位置合わせマーカー)で、カメラが「狙いの中心」を自動検出できるようにする。
- 枠張り: 5.5インチのマグネット刺繍枠+枠固定台(治具)。
- ミシン: Brother PR1055X(10針)—カメラ認識とTrace(トレース)機能。
この手の仕事では、マグネット刺繍枠 は「あると便利」ではなく、工程を成立させるための道具になります。幼児用の襟・前立て周りに通常枠を無理に入れると、枠跡(枠の押さえ痕)や伸び、テンション不良による仕上がりムラが出やすくなります。
現場メモ:小さいポロが大人用と違う理由
鹿の子は表面に凹凸があり、機械的な“逃げ(伸び)”があります。さらに小さいサイズでは、縫い代・前立て・襟の芯など「硬いゾーン」のすぐ近くで作業することになります。結果として:
- 押し込み歪み: 通常の樹脂枠は前立ての段差を越えるために強い力が必要で、生地が潰れたり歪んだりしやすい。
- 見た目のセンター罠: 子ども服の前立てはねじれやすく、目視だけだと“偽センター”になりやすい。
- クリアランス不安: アーム周りの逃げが少なく、枠や襟がベッドやアームに当たるリスクが上がる。
つまり「生地を枠に入れる」ではなく、「立体の衣類を、硬い部分を避けながら枠に固定する」作業になります。だからこそ、枠張りの前に測定とマーキングから始めます。

手順:Snowmanで測って印を付ける
ここは量産の“型”になるルーティンです。カメラが毎回同じ基準点を拾えるように、信頼できる中心点を1つ作ります。
ステップ1 — ジュニア定規で中心位置を決める(05:40–06:40)
主作業: 測定と見える化。
- 平置き: 3Tポロを作業台に平らに置き、左右の脇線ができるだけ平行になるように整えます。
- 中心の目安: 前立て(プラケット)を縦の中心線の目安として使います。
- 当てる: ジュニア定規の上端を肩の縫い目(ショルダーシーム)にぴったり当てる。
- 触感チェック: 定規の上端を指でなぞり、縫い目に“乗って浮いていない”ことを確認します。
- サイズ位置: 定規上の「Child 3」相当の目盛り(動画では矢印表示)を確認。
- 中心点: その縦位置で、定規のセンターノッチ(中心マーク)を「刺繍の中心点」として決定します。
チェックポイント: 定規が裾に対して斜めになっていませんか? ここが傾くと、ロゴも傾きます。
狙いの状態: 製品個体差があっても、同じサイズなら同じ位置に再現できる中心点が取れている。

ステップ2 — Snowmanステッカーを貼る(07:00–07:15)
主作業: 精密マーキング。
- 貼る: 先ほど決めた中心点に、Snowmanステッカーを正確に貼ります。
- 向き: Snowmanがまっすぐ立つ(縦方向が垂直)ように向きを整えます。
チェックポイント: 斜めから見ず、真上から確認します。PR1055Xのカメラはステッカーの角度も読み取って補正するため、ここが正確だと後工程が速くなります。
狙いの状態: カメラが拾いやすい、コントラストの高い基準点ができている。

現場のコツ(コメントより要約)
コメントでも、Brother機でSnowmanステッカーを使っている方がいることがわかります。カメラ機能がある場合はこの方法が最短です。
襟ぐりが小さい服の枠張り(枠固定台+マグネット刺繍枠)
幼児用ポロはここで手こずります。襟ぐりが小さく、枠固定台にもミシンのアームにも通しにくいからです。
ステップ3 — 枠固定台でマグネット枠に枠張りする(08:00–09:40)
主作業: 無理なく固定する。
- 開く: 前立て(首元)を全部外す。3Tでは実質必須です(逃げが増えて通しやすくなります)。
- 通す: シャツを枠固定台の下枠(ボトムリング)側に通します。
- 触感チェック: 引っかかる感触があるなら一旦止めて位置を調整します。無理に引っ張ると生地が歪みます。
- 合わせる: 枠固定台の中心に、Snowmanステッカーが来るように衣類を微調整します。
- 固定: 上枠(マグネットリング)を下ろして固定します。
量産での マグネット刺繍枠 使い方 の要点は、「小さい衣類を伸ばさず、均一に押さえる」ことです。マグネット枠は鹿の子を押し潰しにくく、枠跡リスクも下げやすいのが利点です。
チェックポイント: 鹿の子の畝(縦方向の目)が枠の中で曲がっていませんか? バナナ状に反って見えるなら、どこかで引っ張りが入っています。
狙いの状態: 中心が出ていて、歪みが少なく、カメラ位置合わせに回せる状態。
注意: 挟み込み注意。 マグネット枠は強い力で吸着します。リングを閉じるときは指先をリムから離してください。
注意: 磁力の取り扱い。 強い磁力を持つため、ペースメーカー等の医療機器や磁気記録媒体には近づけないでください。
補足:テンションは「太鼓張り」にしない
鹿の子のようなニット系で「太鼓みたいにピン!」は危険です。枠で伸ばす→外すと戻る、で周囲が波打ったり、刺繍が引きつれたりします。

ミシン設定:Brotherカメラで自動位置合わせ
枠張り後は、PR1055Xのカメラ機能でステッカーを基準に位置合わせします。
ステップ4 — Snowmanアイコンでカメラ位置合わせ(11:00–12:20)
主作業: 自動認識。
- 選択: PR1055XのLCDでSnowmanアイコンをタップ。
- スキャン: 画面の案内に従って進めると、枠が動いてカメラが生地面を読み取ります。
- 補正: ステッカー位置とデザイン中心の差を、X/Yと角度(回転)で補正します。
ここが brother pr1055x の強みで、中心出しの“計算”を機械に任せられます。
チェックポイント: 画面上でステッカーが枠で検出されているか確認します。うまく拾わないときは、生地のシワを軽く整えて再スキャンします。
狙いの状態: デザインがシャツの中心点に正確に重なる。


ステップ5 — ステッカーを外してTrace(トレース)で干渉確認(12:25–13:10)
主作業: 安全確認。
- 外す: Snowmanステッカーを剥がします(動画では再利用できるため捨てません)。
- Trace: Traceボタンを押して、デザイン外周をなぞらせます。
- 確認: 押さえ周りが刺繍枠フレームに当たらないか、目視で確認します。
Shirleyのルールは明快です:社外枠(アフターマーケット枠)を使うときは必ずTrace。
チェックポイント: 押さえ周りとフレームの距離が極端に近くないか確認します。近すぎる場合は、位置を微調整するか、デザインサイズの見直しが必要です。
狙いの状態: 枠への針当たりを防ぎ、破損・段取り崩れを回避できる。
注意: 干渉リスク。 枠に針が当たると針折れだけでなく、機械側の不具合につながる場合があります。縁取りチェック(Trace相当)は必ず実施してください。


補足:小物・軽い枠はスピードの“感触”が出やすい
動画では速度が400 SPM(針数ではなく縫い速度)として表示されています。小さい衣類+小さい枠は振動の影響を受けやすいので、無理に上げない判断は合理的です。

肌にやさしい仕上げ:Tender Touchを貼る
子ども服は「表がきれい」だけでは不十分です。裏側がチクチクすると着用時に嫌がられます。
ステップ6 — 仕上げと袋詰め(14:45–15:05)
主作業: 肌当たり対策と出荷準備。
- 枠から外す: 刺繍後、シャツを外します。
- 裏面処理: 裏返して、裏側のスタビライザーを整えます。
- Tender Touch: 刺繍裏を覆うようにTender Touchをアイロンで圧着します。
- たたむ・ラベル: きれいにたたみ、サイズステッカーを貼って袋詰めします。
チェックポイント: 裏側を手でなでて、糸端や硬い部分が直接当たらない状態になっているか確認します。
狙いの状態: 子どもが着ても不快感が出にくい、納品品質の仕上がり。




子ども服の価格設定(工数が増える前提で考える)
Shirleyが強調しているのは、子ども服は小さいから安いのではなく、工程が増えるから高くなることがあるという点です。
「幼児服の追加工数」になりやすい要素:
- 枠張り難易度: 前立てを外して通す、位置を微調整する。
- クリアランス: 無理をしない速度設定・干渉チェック。
- 仕上げ: Tender Touchの圧着が追加工程。
見積りでは「ステッチ数+作業時間」で組み立て、サイズが小さいことを理由に安くしないのが安全です。
ここで 刺繍ミシン 用 枠入れ は利益に直結します。1枚あたり60〜90秒の短縮でも、50枚で大きな差になります。
生地とスタビライザーの判断(ミスを減らすための整理)
- 伸びる素材(Tシャツ、鹿の子ポロ、フーディー等)?
- YES -> 伸び対策として適切なスタビライザーを選ぶ。
- 織物で安定(シャツ地、デニム、帆布等)?
- YES -> 仕上がりと作業性のバランスで選ぶ。
- 毛足がある(タオル、フリース等)?
- YES -> 上面の沈み込み対策(トッパー)も検討。
量産のためのステップアップ(作業の流れとして)
量産ポロが続く場合の考え方:
- レベル1(手順): 位置決めの型(定規+ステッカー)と仕上げ(Tender Touch)を固定。
- レベル2(道具): マグネット刺繍枠+枠固定台で枠張り時間と枠跡リスクを下げる。
準備(Prep)
多くのチュートリアルが省きがちですが、ここでトラブルの大半を潰せます。
見落としがちな消耗品と事前チェック
- 針: 作業前に状態確認(曲がり・欠け)。
- スタビライザー: 必要枚数を先にカットしておく。
- Tender Touch: ロールをすぐ使える位置に。
- マーキング: ステッカー(または代替の印付け手段)を準備。
- 清掃: 針周りの糸くず確認(鹿の子は細かな繊維が出やすい)。
この段階で mighty hoop 枠固定台 をセットしておくと、枠張りの手戻りが減ります。
準備チェックリスト(Prep完了時)
- 段取り: サイズ別に仕分け済み(2Tと3Tなど)。
- 消耗品: 糸の色順を確認、針の状態確認。
- ツール: ジュニア定規とSnowmanステッカーを手元に。
- 安全: ハサミ/糸切りがすぐ取れる。
- 環境: 作業台が清潔、アイロンが使える状態。
セットアップ(Setup)
小さい衣類でもミシンと枠が“いつも通り”動くように整えます。
セットアップ手順(ミシン+枠)
- 枠固定台で、Snowmanが中心に来るように枠張り。
- ミシンに枠を装着し、衣類の裏側が噛み込んでいないか軽くねじって確認。
- Snowmanのカメラ機能で位置合わせ。
- ステッカーを外す。
- Traceを実行。
マグネット刺繍枠 brother 用 を使う場合でも、Traceは安全の要です。
セットアップチェックリスト(Setup完了時)
- 逃げ: 前立てが外れていて、アームに引っ張られていない。
- 枠: マグネットリングが均一に座っている(片側だけ浮いていない)。
- スキャン: Snowmanが検出されている。
- 安全: ステッカーを外した。
- 干渉: Traceで問題なし。
- デザイン: 画面で色順を確認。
縫製(Operation)
縫い始め〜縫い終わりは、ズレと干渉の早期発見が重要です(特に小物)。
縫いの流れ
- 縫い開始。最初の立ち上がりは停止ボタンに手が届く位置で監視します。
- 触感チェック: 生地がバタつく(フラッギング)ようなら速度を落とします。
- 完了まで縫う。
- 枠から外すときは、マグネットの挟み込みに注意しながら丁寧に分離します。
縫製チェックリスト(Operation完了時)
- 開始: 最初の針落ちが狙い位置。
- 音: 無理な異音がない。
- 仕上げ準備: 裏面処理に移れる状態。
- 肌当たり: Tender Touchを圧着済み。
- 出荷: たたみ、サイズステッカー、袋詰めまで完了。
品質チェック(量産のブレ防止)
位置の揃いチェック
- 重ねチェック: 仕上がったシャツを数枚たたんで重ね、ロゴ位置が縦に揃うか確認。
- 定規の当て直し: 疲れてくると肩線への当て方が雑になります。定期的に再確認します。
肌当たり・見栄えチェック
- 裏面の触り: 硬い端が出ていない。
- 枠跡: 枠周りに潰れたリング状の跡がないか確認(マグネット枠はリスク低減に有利)。

トラブルシューティング
幼児服で起きやすい失敗を、症状→原因→対処→予防で整理します。
| 症状 | 主な原因 | すぐできる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 枠張りが難しい/シャツが通らない | 3Tの襟ぐりが小さく、アーム側の逃げが少ない。 | 前立てを完全に外す。 さらに奥まで通す。 | 枠固定台で枠を保持し、衣類側を無理なく動かす。 |
| 針が枠フレームに当たる | 位置ズレ、またはデザインが5.5インチ枠に対して大きい。 | 即停止。 針を交換し、位置を再確認。 | 必ずTrace。 事前にデザインサイズを確認。 |
| ロゴ周りが波打つ(引きつれ) | 枠張りで伸ばした/スタビライザー選定ミス。 | スチームで改善する場合もあるが、戻らないことも多い。 | 枠で引っ張りすぎない。伸びる素材は特に注意。 |
| 刺繍が斜め | マーキング時に前立てがねじれていた。 | 解いてやり直し。 | 定規+ステッカーを基準にし、ステッカーを垂直に貼る。 |
まとめ(仕上がりと再現性)
ジュニア定規で中心を取り、再利用できるSnowmanステッカーで基準点を作り、枠固定台+5.5インチのマグネット刺繍枠で歪みを抑えて枠張りし、PR1055Xのカメラ位置合わせとTraceで安全確認——この流れを固定すると、3Tのような小さい幼児用ポロでも量産で位置が揃います。
最後にTender Touchで裏面を整えることで、見た目だけでなく「着心地」まで含めた納品品質になります。子どもは文字間の美しさより、チクチクするかどうかを先に感じます。
