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1 糸切れの見分け方(原因エリアを素早く特定)
糸切れトラブルは大きく二系統に分かれます。「一部の針(1〜2本)だけ」で起きるか、「全針で同時に」起きるかです。この入口の見極めで、対処は半分決まります。

1.1 一部の針だけ切れる場合
この場合は上糸側の問題が主犯であることが多く、代表例は以下です。
- 糸そのものの不良(経年・環境劣化など)
- 上糸経路のどこかの通しミス
- アイレットやガイドの細かなキズ(バリ)
上糸側の各ポイントを、正常に縫えている針と“そっくり同じ”に合わせ直すのが近道です。
1.2 全針で切れる場合
全針で同時に糸切れが出るときは、下糸側(針板周辺〜フックアッセンブリ)に粗れがあるサインです。針板の穴やフックの先端にできた微細なバリが上糸を擦り、一定間隔でプチプチ切らせます。下糸側の研磨に進みます(セクション4)。
**クイックチェック**
- 症状が出る針の本数をメモし、再現性を確認。
- 同じ柄・同じ条件でテストし、変動要因を減らす。

2 一部の針だけ切れるとき:糸そのものを検証
糸が悪いかどうかは、入れ替えテストが最短です。天然繊維(コットン/レーヨン)は光・熱・湿度で劣化しやすく、切れやすくなります。
2.1 糸コーンの良否を入れ替えで判定
“問題の糸コーン”を、別の正常に縫えているニードルバーに移して同じデザインで試縫いします。そこで切れ続けるなら、そのコーンが原因の可能性が高い。

- 次に“確実に良好な糸コーン”を、トラブルの出ているバーへ移して試縫いします。良好な糸で切れなければ、原因は元のコーンと判断できます。
- この切り分けは、余計な調整を避け時間を節約します。
周辺環境が過酷な保管場所では、糸の寿命が短くなります。糸ラックの直射日光や高湿は避けましょう。なお、枠どりや押さえの条件を変える必要はありませんが、厚物や段差縫いの多い案件では針のはね返りにより別要因を誘発することがあります。その場合でも、ここで糸の良否だけは確定しておくと後工程がスムーズです。作業場によっては刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠を使って素早く再試験することもありますが、糸の診断手順自体は変わりません。
2.2 天然繊維糸と環境要因の影響
コットンやレーヨンなど天然繊維は、時間とともに脆くなります。とくに光・熱・湿度の複合条件で劣化が進みやすいので、長期保管のコーンは優先的に検査対象に。気になるコーンはラベリング日付や使用回数を記録し、疑わしければ早めに交換します。

**注意**
- “たまたま今日は切れない”は判断材料になりません。入れ替えテストで“糸が変わっても切れる/切れない”を確定させること。
**小チェックリスト(セクション2)**
- 問題コーン→別バーで試縫い
- 良好コーン→問題バーで試縫い
- 結果をメモし、糸の良否を確定
- 天然繊維コーンは保管環境も確認
3 上糸経路をそっくり一致させて確認する
糸の良否で白黒つかなかった場合は、上糸経路を点検します。正常に縫えているバーの通し方と“完全一致”させることが近道です。
3.1 通しミスの洗い出しと一致確認
正常バーの通しルート(糸立て→ガイド→テンション→アイレット→ニードル)を写真やスマホで記録し、問題バーを一から合わせ直します。


- 目視でアイレットやガイドのバリ・キズがないかを確認。
- テンション部の掛かり方が甘くないかを確認。
- もしガイドに微細な引っかかりがあるなら、上糸側でも糸が毛羽立ちます。
この段階で、枠の種類や装着治具は直接原因ではありませんが、作業の効率化としてhoopmaster 枠固定台で被写体の位置を安定させると、通し確認と試縫いの反復がスムーズです。
**プロのコツ**
- 正常バーの“通しの向き”も完全コピーします。微妙な角度の違いだけでテンション変化が起きることがあります。
**小チェックリスト(セクション3)**
- 正常バーの通しを写真で記録
- 問題バーを同一ルートに再通し
- アイレット・ガイドのバリを確認
- 試縫いで再現性を評価


4 全針で切れるとき:下糸側(針板・フック)を研磨
全針で糸切れが出るケースは、針板の穴やフック先端にできた“バリ(粗れ)”が上糸を傷付けている可能性が高いです。ここではクローカス(Crocus)系の研磨材を使って、金属表面を“削らずに整える”方法を行います。


4.1 どこにバリが出やすいかを見極める
代表的な発生箇所は2つです。

- 針板の穴の内側
- フックの先端部(ポイント)
針が硬い段差に当たって“たわむ”と、針板内側にヒットしてバリが出やすくなります。厚物や段差をまたぐ刺繍(例:帽子の縫い目越え)で起きやすい現象です。段差が大きい素材を扱う際は、枠の保持が安定するよう配慮しましょう。例えばキャップ案件でbrother 帽子用 刺繍枠を使用する場面でも、段差越えの瞬間に針が横振れしないようスピードや押さえ具合に注意します。
また、筒物の縫製ではワークの保持が不十分だと跳ね返りが起きやすく、針板内側へのヒットリスクが上がります。袖口など筒状アイテムのホールドには、運用環境に応じて袖用 チューブラー枠を使ってワークを安定させると、段差通過時の針のブレが抑えられます。
4.2 クローカスコードで安全に磨く(手順)
準備:ボビンケースを取り外し、下糸側へアクセスします。ここからは“磨く”作業です。金属を削るのではなく、微細な粗れを整えるイメージで行います。


手順 1) 針板穴の内側にクローカスコード(Crocus Cord)を通す。 2) 靴磨きのように左右に往復させ、内側全周を均等にポリッシュする。

3) フック先端の触感を確認し、ざらつきがあればごく軽く磨く。
ポイント
- 研磨材は宝飾用ルージュが含浸されたタイプで、機械を傷付けずに“光沢出し=粗れ取り”ができます。
- フィーリングで滑らかさが戻るまで。やりすぎは禁物。
コメントで提示された値として、クローカスのグリット(番手)は「180〜200」が安全域とされ、細部にはナロータイプ、広い面にはテープ状を使い分けると効率的です。たとえばswf 刺繍枠の現場でも段差縫い後に同様の研磨で改善した事例が報告されています(コメント要旨より)。

**プロのコツ(コメントから)**
- 複数のユーザー経験が一致:180〜200グリットが扱いやすく安全。ナローなコードは針板穴の内側、約1/4インチ幅のテープは面の均しに向く。
**注意**
- フック先端は形状を保つことが最重要。必要最小限の圧で短時間に留める。
**小チェックリスト(セクション4)**
- ボビンケースを外し、下糸側にアクセス
- 針板穴の内側をコードで均一に往復研磨
- フック先端の引っかかり有無を触感で確認
- 研磨は“削らない、磨く”の意識で短時間
5 ボビンケースの摩耗対策と交換
上糸は1ステッチごとに、ボビンケースの周囲を“2回”回ります。つまりケースの摩耗は思いのほか速く、わずかな傷で糸にダメージを与えます。

5.1 なぜ摩耗しやすいのか
上糸の通過回数が多いことに加え、埃や糸くずが噛んだ状態で運転すると、局所的な擦れが進みます。ケースの縁や糸道の微細な欠けは、連続糸切れのトリガーになり得ます。
5.2 交換のタイミングと予備の備蓄
- 定期的に目視と触感で“引っかかり”を確認。
- 少しでも怪しければ交換。予備を複数常備するのが実務的です。
- 研磨作業と同じタイミングで清掃と点検をセットにすると、見落としが減ります。

現場では、予備ケースの在庫があるだけで復旧時間が大幅に短縮されます。重作業・段差の多い案件が続くときは、余裕を持って補充しておきましょう。なお、フレームの保持が弱いと段差越えで針が暴れ、下糸側のダメージにつながります。大物や厚物の保持には、作業環境に合わせてmighty hoop マグネット刺繍枠のように把持力の高いフレームを使うと、縫製の安定に寄与します。
**小チェックリスト(セクション5)**
- ケース縁の引っかかりを触感で確認
- 異常があれば即交換
- 予備ケースを最低2個確保
6 長く快調に縫うための予防メンテ
トラブルを“起きてから直す”から“起きにくくする”へ。日々のルーティンに落とし込みます。
6.1 ルーチンチェック
- 作業開始前:上糸の通しとガイドの状態を目視確認
- 案件切り替え時:針板穴の内面とフック先端の触感チェック
- 1日の終わり:下糸側の埃除去と軽い清掃
段差越えの多い案件(キャップや厚物)では、フレーム選択と保持が縫製品質を左右します。例えば、厚手生地の固定を簡便化したい場合でも、糸切れ診断の基本手順は変わりません。枠選択は“縫製時の挙動を安定させる”観点で扱い、診断そのものは冷静に“どのエリアで起きているか”を起点に進めましょう。たとえばタイトな筒物やポケット位置決めにはtajima 刺繍枠や目的に合った治具の採用が作業性に効きますが、糸切れ診断の要点は本記事の流れで普遍です。
6.2 現場に常備したいもの
- クローカスコード/テープ(180〜200グリット)
- 予備ボビンケース(複数)
- ルーペやスマホカメラ(通しの“完全一致”確認用)
さらに、機種や案件に応じてフレーム選択が必要な場面もあります。上糸/下糸の診断が完了してから、保持方法の最適化に進みましょう。環境によってはマグネット刺繍枠 brother 用や治具の活用で再現性が高まります。
**コメントから**
- 下糸側の針板穴・ボビン周りを研磨しただけで“糸切れ地獄から復帰できた”という実例が複数寄せられています。再発時も同じ手順で短時間に復旧可能という声が目立ちます。
- 一方で、USB書き出しなどデータ運用の質問もありましたが、本稿の範囲外です(機種の手順に依存)。
**小チェックリスト(セクション6)**
- 開始前点検(通し・ガイド)
- 案件切替時の下糸側触感チェック
- 終業時の清掃・点検
- 研磨材とボビンケースの常備
手順サマリー(ワークフロー早見)
1) 症状の範囲を確認:一部の針か/全針か。 2) 一部なら糸の入れ替えテストで“糸そのもの”を判定。 3) 上糸経路を正常バーと完全一致させる(通し直し)。 4) 全針なら下糸側へ。針板穴とフック先端をクローカスで“磨く”。 5) ボビンケースの摩耗を触感で確認し、怪しければ交換。
期待される結果
- 入れ替えテストで“糸が原因”かを短時間で確定。
- 上糸経路の一致確認で通しミスを排除。
- 下糸側研磨でバリによる糸擦れを解消。
- ボビンケース交換で再発率を低減。
付録:意思決定の分岐
- 一部の針のみで切れる→糸の入れ替えテスト→上糸経路の一致→アイレット/ガイドの微細バリ確認。
- 全針で切れる→ボビンケースを外して針板穴とフックを研磨→ボビンケースの摩耗確認→必要に応じて交換。
なお、厚物・段差縫いが多い案件では、ワークの保持が不安定だと針がたわみやすく、下糸側のダメージを誘発します。現場によってはマグネット刺繍枠 brother 用やtajima 刺繍枠など保持手段を見直し、段差通過時の安定を確保してください。
参考:枠・治具と糸切れ診断の関係
本稿の診断手順は、どのフレームや機種でも普遍です。枠や治具は“縫製中の安定”に寄与しますが、糸切れの一次診断は「一部の針か/全針か」でスタートします。とりわけ段差越えでは針の横ブレが出やすいため、保持力の高い枠は結果的にバリ発生の予防にもつながります。作業環境次第ではマグネット刺繍枠 brother 用やmighty hoop マグネット刺繍枠を用いた固定強化が、段差通過の安定化に役立ちます。
よくある落とし穴
- 糸を疑わず、上糸経路や下糸側の大掛かりな調整に飛びつく。
- 研磨で“削って”しまう。磨くのは粗れ取りであり、形状変更ではない。
- ボビンケースの摩耗を過小評価する。
**クイックチェック(最終)**
- 一部の針か/全針か
- 糸コーン入れ替えテストの結果
- 上糸経路の完全一致
- 下糸側のバリ除去(針板穴・フック)
- ボビンケースの状態
最後に、枠や治具の選択は作業性と再現性の向上に役立ちます。たとえば大型のワークや厚物で再現テストを繰り返す際、マグネット刺繍枠 brother 用や案件に合う枠を選べば、テストの効率が上がり、診断の確度も高まります。
