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起業マインド:趣味の延長で止まらないために
刺繍ビジネスが伸び悩む原因は、縫い品質が「まだ足りない」ことよりも、感覚で意思決定してしまい“データのないまま”商品を作り、投稿し、価格を決めてしまうことにあります。買い手像が曖昧なままだと、作業も販売も毎回が手探りになります。
動画内でKellyが最初に強調しているのは、マインドセットの切り替えです。刺繍が好きでもビジネスはできます。ただし、ビジネスとしての判断は「なぜやるのか(Why)」に紐づいていなければブレます。在宅で働きたい、収入源を複数にしたい、9–5の仕事を置き換えたい——目的が明確になるほど、設備投資や作業フローの組み方も“目的に合った形”に寄せられます。

このガイドで得られること
動画の内容を、繰り返し実行できる運用フローとして再構成します。マーケティングの話だけではなく、(予備室の一角であっても)あなたの「工場」を摩擦なく回すための考え方です。
- ビジネスの「Why」を言語化し、商品ラインと設備選びが迷走しない軸を作る
- ニッチを絞ることで、スタビライザー(刺繍の安定紙)・糸・枠張り工程を標準化する
- 顧客アバターを具体化し、「誰のどんな困りごと」を解決するのかを明確にする
- プラットフォームの運用設計:販売チャネル(Facebook/Instagram/Pinterest)を、生産キャパに合わせて選ぶ
- 競合リサーチで利益率を守りながら、差別化のヒントを拾う
さらに、現場目線の“抜けやすい確認”も補います。時間コストの考え方、納品で詰まりやすいポイント、そして受注が「1件→50件」に増えたときに必要になる道具・工程の見直しです。
現場のコツ(コメントより要約):見せ方で「価値の見え方」は変わる
コメントの中で、刺繍品をセロファン袋に入れて渡すだけでも「違いが出る」と書かれていました。これは心理的にはポジショニング(価値の見せ方)です。まだ販売していなくても、最初から“商品としての納品”を前提に梱包してみてください。
*「作品」ではなく「納品物」として見る癖がつく
- 糸端の処理、枠跡、汚れなどを“開封体験”の視点で点検するようになる
なぜ刺繍ビジネスに「ニッチ」が必要なのか
Kellyの警告はシンプルです。「誰にでも話しかけようとすると、結局誰にも届かない」。現場では、“万人向け”が次の3つのコストを生みます。
- 商品ページが凡庸になる:品質ではなく価格で比較されやすい
- 発信がブレる:アルゴリズムにもお客様にも「何屋さんか」が伝わらない
- 生産がカオス化する:利益を静かに削る最大要因

見えない「現場の物理法則」:ニッチは摩擦を減らす
業務として見ると、ニッチはマーケティング用語ではなく生産戦略です。
- 何でも屋の罠:「刺繍なら何でも」だと、針(ボールポイント/シャープ)の入れ替え、スタビライザー(カットアウェイ/ティアアウェイ)の変更、15色の糸替え、テンション調整が頻発します。これは段取り替え(チェンジオーバー)で、売上は1円も増えません。
- 専門特化の強み:たとえば「子ども向け誕生日アップリケTシャツ」に寄せると、素材・針・枠サイズが揃い、工程をまとめて回せます。
結論:値上げをしなくても、ムダな動作が減るだけで利益は改善します。
ニッチに合わせた道具のアップグレード(無理に買わないための考え方)
ニッチが固まってくると、ボトルネックは“体感”として現れます。だいたいは「時間が消える」「手が疲れる」です。
- ケースA:ベビー〜大人までサイズが幅広く、枠の付け替えが多い
- よく使う位置・サイズに合わせて ミシン刺繍用 刺繍枠 を複数セット用意すると、1枚が縫っている間に次を枠張りでき、待ち時間が減ります。
- ケースB:ポロシャツやワッペンなど数量が多く、固定と位置合わせで分単位のロスが出る
- ここでは マグネット刺繍枠 が「スピードと再現性」の改善策になります。ネジ締め工程がなくなり、繊細な生地で枠跡(枠焼け)リスクを下げやすくなります。
大事なのは、先にニッチ(=繰り返す仕事)を見つけ、次に“詰まっている工程”を特定してから道具で解決することです。
アバター設計:2人の顧客で考える
Kellyが言う「アバター」は、“売りたい相手を1人にまで具体化する”ことです。その人が何を不安に思い、何を大事にし、何を嫌うかまで想像できるレベルにします。これは創作ではなく、失敗を減らすためのリスク管理です。

アバター用ワークシート(この項目をそのまま使う)
講義で示された基本の属性から始めます。
- 年齢 と 性別
- 婚姻状況
- 学歴
- 就業状況

次に、ここが本番の心理属性(サイコグラフィック)です。初心者が早く止めがちな部分なので、必ず掘ります。
- 価値観:譲れないものは何か(例:「オーガニック素材」vs「とにかく早い発送」)
- 嫌いなこと:何があると低評価・クレームになるか(例:赤ちゃんの肌に当たる裏面がチクチクする)
- 理想:何を“手に入れたい”から買うのか(例:完璧な記念写真、チームとしての統一感)
- 悩み:日常のどこが詰まっているのか
- なぜあなた?:なぜあなたにお金を払うのか(信頼の理由)
注意:「自分自身」をアバターにしない
Kellyは「ターゲットが自分と同じ好みだと思い込まないで」と明確に言っています。売れない最大要因は、作り手が“自分の好み”で商品を選んでしまうことです。
「このフォントは好きじゃないから出さない」と思ったら一度止まってください。市場はあなたの美的センスにお金を払うのではなく、“相手の問題を解決すること”に払います。アバターが求めるなら、その分野の専門家になるのがビジネスです。
判断ツリー:ニッチ → アバター → 商品ライン(道具選びの位置づけ)
「思いつきで商品が増えて収拾がつかない」を防ぐために、次の流れで整理します。
- Step 1:アバターが一番安心するのは何?
- ルートA:お金/時間の節約(BtoB・作り手向け)
- ルートB:感情価値(ギフト・節目・ブランディング)
- ルートA(ブランク/資材系)の場合:
- アバターの欲しいもの:スピード、仕入れの簡単さ、再現性
- 発信内容:「効率よく作る」「利益が残る」
- 生産の現実:数量が鍵。数量が増えたら、多針刺繍機など“色替え待ち”を減らす方向の検討が現実的になります。
- ルートB(完成品販売)の場合:
- アバターの欲しいもの:触感や見た目、かわいい梱包、締切に間に合う安心
- 発信内容:ギフトのタイミング、名入れ選択肢、信頼
- 生産の現実:品質が鍵。枠張りのやり直しが多いなら、マグネット刺繍枠 で枠張り時間を減らし、枠跡が原因の不信感を防ぎます。
道具購入を“憧れ”ではなく“現場課題の解決”に結びつけるための整理です。
ケーススタディ:「ブランク購入者」と「完成品購入者」は別人
Kellyは、自分の2つのビジネスを例に「同じ刺繍関連でもアバターは全く違う」ことを示しています。

ケース1:「Blanks for Embroidery」側の購入者
講義では、おおむね次のように説明されています。
- 58歳前後、女性が多い、既婚、大学卒、フルタイム勤務
- 動機:家族、作ること、副業づくり
- 痛み:時間をムダにしたくない/9–5から抜けたい
- 夢:在宅で働けるだけの収入
このアバターは「かわいい」を買っているのではありません。買っているのは生産性と希望です。すぐ使える道具、縫いやすいブランク、伸ばすための考え方が価値になります。
ケース2:「完成品」側の購入者
こちらはおおむね次のように説明されています。
- 30歳前後、女性が多い、既婚、学歴あり、専業主婦のケースも多い
- 動機:家族の見え方(イメージ)、シンプルさ、イベント準備
- 痛み:手続きが複雑/節目に間に合わない
- 夢:子どもに「最高」を用意したい(そして記録したい)
このアバターが買うのは安心と手間の削減です。あなたの機種は気にしません。洗濯でほつれないこと、納期に間に合うことを気にします。

アバターを商品ラインに落とす(現場の具体例)
Kellyは、シアサッカーのワンピース、Jon Jon、モノグラムタオル、子どもの誕生日/季節イベント向けアップリケなどを例に挙げています。
スタジオ運用に翻訳すると、こうなります。
- 選択肢が多すぎる問題:「注文が面倒」が嫌いなアバターには、フォントを30種類ではなく3〜5種類に絞る方が成約しやすい(迷いは離脱につながる)。
- 締切の圧:誕生日前に焦る層が相手なら、価格と工程に「特急枠」を最初から組み込む。
- セット提案:作り手向け(ブランク購入者)が相手なら、「ブランク+推奨スタビライザー+サイズ注意」をセット化して、相手の作業時間を減らす。
準備:地味だけど利益を削る消耗品と事前チェック
このガイドはビジネス寄りですが、納品品質がブレるとニッチもアバターも崩れます。拡大前に、まず“退屈な基本”を標準化してください。
- 針:素材に合うポイント(ニットはボールポイント、布帛はシャープ)とサイズを用意(75/11が標準、厚物用に90/14も)
- 糸:使用頻度の高い色を特定し、大巻きで揃える(単発の小巻き購入を減らす)
- スタビライザー:生地に合わせて裏打ちを選ぶ(目安:伸びるならカットアウェイ、伸びないならティアアウェイが基本)
- 小物:カーブハサミ、精密ピンセット、仮止めスプレー(またはスティックのり)
- メンテナンス:掃除用ブラシ、注油ペン
量産フローを組むなら、枠固定台 を専用化すると取り回しが減り、同じ位置を安定して再現しやすくなります。
準備チェックリスト(「開始OK」のゲート)
- 自分のニッチを1文で言える(対象+商品+アバター)
- アバターの「最悪のシナリオ」(返金につながる要因)を説明できる
- 自分が売っているのが「スピード(ブランク)」か「感情価値(完成品)」か決めた
- 上位3商品が似た素材で、まとめ作業(バッチ)ができる
- 針と下糸(ボビン糸)の安全在庫がある
- 標準の梱包(袋・台紙・シール)を決めた
注意:針とカット用具は「生産設備」です。「手芸用品」扱いにすると損します。針が鈍ると糸絡み(鳥の巣)が増え、針種が違うとニットに穴が開きます。目安として8時間縫ったら交換、または「ドスドス」と異音がしたら即交換してください。
ターゲットはオンラインのどこにいる?
Kellyの考え方は「プラットフォーム先行」ではなく「アバター先行」です。具体的な1人が、どこで時間を使っているかを先に決めます。

プラットフォーム選定:実務での向き不向き
- Facebook:コミュニティ作りに強い。グループで濃い接点が作れ、地域・ママネットワークとも相性が良い。質問に答える販売がしやすい。
- Instagram:見せるポートフォリオ。世界観、実績(社会的証明)、「かわいい」の訴求に強い。ストーリーズは“裏側”で信頼を積み上げやすい。
- Pinterest:検索エンジン型。季節需要の先取りに強い(クリスマス案が7月から保存される)。
落とし穴:提供内容が固まる前に「あれもこれも」と広げること。まず1つを主戦場にして、型ができてから増やします。
現場のコツ:商品投稿だけでなく「会話」に入る
Kellyは、近所のグループや売買の場で会話に参加することを勧めています。目的は“関係ない露出”ではなく、文脈のある可視化です。
- NG例:「Tシャツ売ってます」
- 改善例:「今週は名入れイースターバスケット探しが大変ですよね。ローカル受け取りで残り5枠だけ対応できます」
セットアップ:プラットフォームに合わせて納品フローを組む
プラットフォームによって、設備にかかる“圧力テスト”が変わります。
- Facebook(ローカル):急ぎ・単発が混ざりやすい
- Pinterest:比較的、計画的で継続的な流入になりやすい
単針機で投稿がバズると、すぐに詰まるのは 枠張り と色替えです。工程側を先に強くしておくと救われます。マグネット刺繍枠 を使うと、硬いバネやネジ締めに苦戦せず生地を保持しやすく、繁忙期の手首負担を減らす方向に働きます。
注意:マグネットの安全対策は必須です。 マグネット枠は強力な業務用ツールです。ペースメーカー等の医療機器や精密機器から離し、指を挟まないよう十分注意してください。保管時は不用意に吸着しないよう、互いに離して管理します。
セットアップチェックリスト(「受注開始OK」のゲート)
- アバターがいる場所に基づき、主戦場を1つ選んだ
- プロフィールに「誰を助けるか」が明確に書けている
- 注文導線が迷わない(リンク、またはDM手順が明確)
- 梱包が価値を上げている(自分用でもギフトのように見える)
- 目標の週あたり数量を、品質確認(糸処理/仕上げ)を飛ばさずに回せる
市場調査と競合分析:真似ではなく“校正”
Kellyは「簡単なリサーチでターゲットを絞ろう」と言っています。競合を見るのはコピーのためではなく、ズレを直すための“校正”です。

競合を見るときのチェックポイント
写真だけでなく、ビジネスモデルを見ます。
- オファー構成:単品か、セット販売か
- 納期の約束:スピードは価値。自分は実現できるか
- 名入れの手間:購入までに何ステップあるか
- レビュー:★3レビューを読む。市場の不足が具体的に書かれている
価格の現実:安売り競争に入らない
Kellyも「最安は避けたい(低品質に見える)」一方で、「理由なく高すぎるのも避けたい」と話しています。
スタジオの価格式(考え方):
- (材料費+作業時間+機械消耗)× マークアップ = 卸の下限
- 卸の下限 × 2 = 小売価格
- 補足:「作業時間」には枠張り・糸処理・梱包も含みます。枠張りに10分かかるなら、その10分は必ず原価に入れます。
売上を殺す「バイアス罠」と回避策
Kellyの“ハート型バックパック”の話は象徴的です。本人は嫌いでも、市場は欲しがっていた。
回避策:自分が好きか嫌いかで切る前に、テストをします。デジタルモックを投稿し、「この用途なら買いますか?」と聞き、反応で判断します。
スケールの視点:趣味モード vs 生産モード
たまに売る程度なら趣味の道具でも回ります。ですが「生産モード」では、在庫は“時間”です。
- ボトルネック:位置合わせ。 ロゴが真っ直ぐ入らないなら、刺繍用 枠固定台(または同等の位置合わせ治具)で勘を排除します。
- ボトルネック:枠張りの負担。 連続作業で手が痛いなら、マグネット枠が作業負担の軽減策になります。
- ボトルネック:縫い待ち時間。 1日8時間機械の前に張り付く状態なら、多針刺繍機クラスの 刺繍ミシン 初心者向け を検討し、色替えの待ちを減らす方向が現実的です。
運用:リサーチを週次ルーティンにする(ブレないために)
- 顧客シグナル:今週2回以上聞いた要望は何?
- 競合スキャン:送料や発送スピードが変わった店はある?
- 工程監査:昨日どこで詰まった?(例:下糸確認を怠って鳥の巣をほどくのに20分かかった)
運用チェックリスト(「成長」のゲート)
- 価格が“実際の時間”(失敗も含む)をカバーしている
- 競合の発送スピードを定点観測している
- 勘ではなくデータで新商品案を1つテストした
- 売れ筋の標準手順(ミシン設定+スタビライザー)がある
- 現在の物理ボトルネック(枠張り/糸処理/縫い待ち)を特定できている
トラブルシューティング(症状 → ありがちな原因 → 対策)
症状:商品が売れない。
- 原因の可能性:「誰にでも」向けでぼやけている/自分の好み(バイアス)で作っている
- 対策:ニッチを絞る。ストーリーズで二択アンケートを取り、需要を確認する
症状:発信がしんどい。
- 原因の可能性:アバターがいない場所で発信している
- 対策:アバターを見直す。Facebookにいる層に向けて別媒体で叫んでいないか確認する
症状:問い合わせは来るのに購入に至らない。
- 原因の可能性:摩擦が大きい(注文手順が複雑/価格の根拠が伝わらない)
- 対策:選択肢を減らし、「ワンクリックで決まる」形にパッケージ化する
症状:忙しいのにお金が残らない。
- 原因の可能性:段取り替えの摩擦。単発デザインが多く、セットアップ時間が利益を食っている
- 対策:コア商品を標準化し、まとめ作業に寄せる。単位あたりの作業時間を減らす道具(マグネット枠、枠固定台)に投資する
症状:縫い目が沈む/隙間が出る。
- 原因の可能性:生地に対してスタビライザーが不適切(生産側の問題)/データの選択が合っていない
- 対策:自分の「レシピ」を確認する。ニットはカットアウェイ、タオルは水溶性トッピングを使う
結果:この作業が「完了」した状態とは
Kellyの手順に、運用の規律を重ねると、最終的に次ができるようになります。
- ニッチを初対面の人に明確に説明できる
- アバターの欲しいものを聞かれる前に予測できる
- 生産を資材探しでバタつかずに回せる
- 次の投資判断をデータで決められる(例:「色替えで1日40分失っているから多針刺繍機が必要」)

最短で安定させたいなら、まずは 材料の再現性(定番糸+予測できるスタビライザー+定番ブランク)を揃え、次に 枠張りの摩擦 を減らしてください。この2つは、どんなマーケ施策よりも生産キャパを押し上げます。





