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刺繍に進む前の「ファーストステッチ」診断:まず縫製モードで機械の状態を見える化する
新品の刺繍機能付きミシンを開封したら、刺繍ユニットを付けて、いきなり凝ったデザインを流したくなります。いわゆる「新しい機械の高揚感」です。
でも、ここで一度止まりましょう。
マシン刺繍は高速で何千針も打ち続けます。縫製モードで糸調子や糸掛けが安定していない状態のまま刺繍モードに入ると、針折れ・糸絡み(いわゆる鳥の巣)・生地の穴あきなど、失敗が一気に高額化します。
このガイドは「縫い方講座」ではなく、刺繍前の動作診断(システムチェック)です。上糸と下糸(ボビン糸)をあえて2色にして、糸道・テンション・送り(布送り)の状態を“結果(縫い目)”から判断できるようにします。最後までやれば、「たぶん大丈夫」ではなく「この状態なら刺繍に進める」と言える根拠が手元に残ります。

フェーズ1:まずは「条件を揃える」セットアップ
今回は“実験”です。結果を読みやすくするため、変数を減らします。
- 生地:無地の薄手平織り(モスリン/キルターズコットン)を2枚重ね
- 糸:上糸=ピンク、下糸(ボビン糸)=ブルーなど、はっきり違う2色
2枚重ねにする理由は、1枚だと生地が頼りなく縫い目の構造が読みづらいからです。刺繍ではスタビライザー(刺繍用下地)を重ねるのが基本なので、2層で試す方が現実に近い条件になります。
消耗品と機械状態の「事前チェック」
初心者が飛ばしがちですが、現場ではここを外しません。
- 針:まずは新品に近い針で。縫い目が荒れる原因が「糸調子」ではなく「針の傷」だった、というのはよくあります。
- 糸掛けの感触:上糸を糸道に通したら、軽く引いてみて一定の抵抗があるかを確認します。抵抗がほぼ無い場合、テンションディスクに入っていない可能性があります。
- ボビン周りのゴミ:ボビンカバー周辺に糸くずがあると、糸絡みやループの原因になります。
- 照明:今回は「反対色の小さな点」を見るので、手元灯を点けて見落としを減らします。
注意:安全
針棒まわりに指を近づけすぎないでください。糸絡みが起きたとき、動いている状態で手を入れるのは厳禁です。必ず停止してから対処します。
スタート前の基本姿勢(動画の流れに合わせる)
- 押さえ金の下に、生地2枚を差し込みます。
- 針が上位置(上がった状態)であることを確認します。
- 押さえ金を下げます。
補足:機種や作業者の癖で「針を一度落としてから開始」することもありますが、この動画では針は上位置→押さえ金を下げて開始の流れで説明されています。まずは動画どおりに揃えて、結果(縫い目)を比較しやすくしましょう。
準備チェックリスト(Go / No-Go)
- 生地:モスリン/コットンを2枚重ね(段差や厚い縫い代は避ける)
- 糸色:上糸と下糸(ボビン糸)が別色
- 押さえ金:下がっている
- 針位置:上位置
- 周辺:糸切りバサミは手元にあるが、可動部に触れない位置
フェーズ2:直線縫いで「糸調子」と「送り」を診断する
最初は標準の直線縫いで、上糸と下糸の“綱引き”が釣り合っているかを見ます。
ステップ1:直線を縫う
駆動は2通りあります。
- 本体のスタート/ストップボタン
- フットコントローラー(ペダル)
速度はスライダーで調整できます。最初は中〜やや遅めが安全です。
- 遅すぎる:引っかかりがあるときに気づきにくい
- 速すぎる:異常が出たときの反応が遅れる
直線を約6インチ程度縫って、最後に必要なら糸切り機能(ハサミマーク)を使い、押さえ金を上げます。




ステップ2:「小さな点」で糸調子を読む(結果の見方)
縫い目を表裏で確認します。
- 表(上糸=ピンク側):ピンクの線が基本。よく見ると、縫い目のロック点にごく小さなブルーの点が見える
- 裏(下糸=ブルー側):ブルーの線が基本。よく見ると、ごく小さなピンクの点が見える
この「反対色の小さな点」が両面に出ていれば、上下の引き合いが釣り合っており、糸調子が良好なサインです。
- 表にブルーのループが目立つ:上糸の糸掛け不良や、ボビン周りのゴミなどでバランスが崩れている可能性
- 裏にピンクのループが目立つ:上糸がテンションに入っていない(糸掛けミス)可能性
補足:刺繍モードでは、縫製モードの直線縫いと“理想の見え方”が同じとは限りません。ただし、刺繍に進む前に「縫製モードで安定して縫える」ことが前提条件になります。

ステップ3:縫い目の長さを変えて挙動を理解する
画面の「長さ(Length)」を選び、+ / - で調整します。
- 標準:2.5 mm
- 長め:5.0 mm(荒い縫い目になり、比較が分かりやすい)
- 短め:0.5 mm(細かい縫い目になる)
注意:0の落とし穴 長さを0にすると、送りが止まり同じ場所に針が落ち続けます。意図せずやると生地に穴が開いたり、針折れの原因になります。動画でも「0は同じ場所」と説明されています。



フェーズ3:ジグザグで「密度(デンシティ)」の考え方を掴む
刺繍のサテン縫いは、考え方としては「ジグザグを限界まで詰めたもの」に近いです。ここで幅と長さの関係を体感しておくと、刺繍データの密度や下地の重要性が理解しやすくなります。
ステップ4:ジグザグ#06を選んで幅を試す
ステッチ番号を切り替え、#06(ジグザグ)を選びます(本体のガイドで番号を確認しながら進めます)。
- 幅(Width)を7.0 mm(最大)へ
- 幅を中間へ
- 幅を0へ(幅0は直線になります)
幅が大きいほど針棒の左右移動が大きくなり、動作音も大きくなります。これは異常ではありません。




ステップ5:長さを詰めて「サテン風」に近づける
幅を保ったまま、長さ(Length)を詰めていきます。
- 目安:長さを0.8 mmまで下げる(動画のデモ)
すると、ジグザグの針落ち間隔が詰まり、面が埋まるような「サテン風」の見え方になります。動画でも「サテンに近いが、完全なサテンではない」と説明されています。
補足:幅の大きいジグザグでは、上糸が裏側に少し回り込むことがあります。動画では「大きな問題ではない」としつつ、必要なら調整できる旨に触れています。


この先、刺繍で高密度の縫い(サテンや縁取り)を安定させるには、枠張りの精度がボトルネックになりやすいです。従来の刺繍枠は摩擦と締め付けで固定するため、枠跡や作業負担が出ることがあります。そこで現場ではマグネット刺繍枠を選ぶケースもあります。磁力で素早くクランプでき、繊維を潰しにくいのが利点です。
注意:マグネットの取り扱い
マグネット刺繍枠は強力な磁石を使用します。指を挟むと危険です。吸着させるときは指の位置に注意し、医療機器や精密機器の近くでは取り扱いに配慮してください。
フェーズ4:トラブル時の「リセット手順」(再糸掛けが最優先)
縫い目が変・音が重い・ループが出る、といった症状は、動画でも強調されている通り多くの場合、糸掛けが原因です。
問題が出たら、コストの低い順に次の手順で切り分けます。
- 停止:ミシンを止め、押さえ金を上げます。
- 糸を抜く:上糸は、無理に逆方向へ引き戻さず、切ってから抜きます。
- 再糸掛けの姿勢(重要):
- 押さえ金は上げた状態(テンションディスクを開くため)
- 針は上位置
- 最初から糸掛け:糸が天秤(テイクアップレバー)に確実に入っているか確認します。
- 再テスト:モスリンで直線縫い→「小さな点」を再確認。
ケース:「1、3、5の普通縫いしか選べない」 コメントでも同様の困りごとが出ています。まずは“設定やモードの影響”を疑い、電源スイッチで一度OFF→10秒待ってONで状態が戻るか確認してください。
フェーズ5:刺繍モードへ移る前の最終確認
縫製モードで機械の基本動作が安定したら、刺繍では「スタビライザー(刺繍用下地)」の選定が品質を左右します。刺繍は縫製より生地に負荷がかかるため、下地で支える前提で準備します。
目安表:生地→スタビライザーの考え方
| 変数 | 生地の状況 | 無難な選択 | 理由 |
|---|---|---|---|
| 安定性 | 布帛(デニム、帆布、モスリン) | ティアアウェイ(中厚) | 生地が安定しているため、下地は主に縫いを支える役割。 |
| 伸縮 | ニット(Tシャツ、ポロ、フーディ) | カットアウェイ | 伸びる素材は、下地を残して繊維を固定しないと歪みやすい。 |
| 表面 | タオル/フリース | 水溶性トッパー+カットアウェイ | パイルに糸が沈むのを防ぎ、視認性を上げる。 |
次のステップ(作業効率の改善ポイント)
テスト段階から量産・反復作業に入ると、詰まりやすいポイントが見えてきます。
- 課題:位置ズレ/斜行/シワ
- 対策:スタビライザー理解+枠固定台で枠を安定させ、両手で位置合わせしやすくします。
- 課題:枠跡/締め付け作業の負担
- 対策:マグネット刺繍枠 用 枠固定台やマグネット枠で、締め付けのストレスを減らします。
- 課題:色替えが多く時間がかかる
- 対策:多針刺繍機へのステップアップを検討します(作業停止回数が減り、段取りが安定します)。
刺繍へ移行する前のチェックリスト
- 糸調子確認:モスリンの直線縫いで「反対色の小さな点」が確認できた
- 再糸掛け:押さえ金を上げ、針を上位置にして最初から糸掛けできる
- 下地選定:布帛=ティアアウェイ/ニット=カットアウェイの方針が決まっている
日常運用チェック(毎回の基本)
- 清掃:ボビン周りに糸くずが溜まっていない
- 糸:上糸・下糸(ボビン糸)が正しい糸道に通っている
- 枠張り:刺繍枠は均一に張れている(マグネット枠は確実にクランプできている)
- 干渉:針周りに障害物がない
- 開始:最初はゆっくり、音のリズムを確認してから上げる
