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マスター解説:Brother PE-Designで円の下側に沿って文字を配置する(向きが崩れない手順)
円の下側に沿って文字をカーブさせるのは、一見簡単そうでいてロゴ品質を大きく左右する作業です。Brother PE-Design(Layout & Editing)では、下側アーチに回した文字が「逆さ」「左右が逆(鏡文字)」になりやすく、メニューの選択肢どおりに操作しても意図どおりに読めない状態になりがちです。
初心者だと「自分が何か壊したのでは」と焦りやすいポイントですが、これはソフト側の幾何学的な処理(パスの向き・配置側の計算)による“よくある挙動”です。ここでは、文字とガイドパスを作り、パス側の縫い属性を外して「縫わないガイド(ゴーストガイド)」にしたうえで、[Fit Text to Outline(アウトラインに文字をフィット)]を適用し、最後に決まった順番の反転で読み方向を整えます。

文字とパスを用意する:ここが土台
事前理解:小さいカーブ文字は“条件がシビア”
マウス操作に入る前に、ひとつだけ押さえておきます。画面上で完璧でも、縫うと崩れることがあります。カーブ文字は特に顕著です。
- 起きやすいこと: 針が入るたびに生地が引かれる(いわゆる押し引き)ため、カーブ上では歪みが増幅しやすい。
- この章のゴール: 文字オブジェクトと、縫わないガイド用のパスを用意する。
- 目標品質: 文字がアーチに自然に沿い、ベースラインから「落ちる/浮く」感じがない。

手順1 — 文字オブジェクトを作成
ここは急がないでください。フォント選びとサイズ感が可読性を決めます。
- 文字ツールを選択: ツールバーの文字(A)を選びます。
- 配置位置を決める: 白い作業エリアをクリックします。
- 文字を入力: 「testing」(またはロゴ文字)を入力します。
- 確定: Enter、またはテキスト枠の外を左クリックして確定します。
見た目のチェック: 文字が糸の質感(ステッチ表示)で埋まって見えるのが正常です。輪郭線だけの表示に見える場合は、表示モードの影響で“縫いの見え方”が分かりにくいことがあります。まずは「縫いとして生成されている」状態になっているかを確認してください。
手順2 — パス(ガイド)になる図形を描く
- 図形ツールを選択: 円/楕円(Circle/Oval)を選びます。
- 楕円を作成: 文字の下に、クリック&ドラッグで楕円を描きます。
チェックポイント: キャンバス上に楕円の線が表示されます。この時点では、図形が「縫い属性を持つオブジェクト」になっている可能性があります。

現場のコツ:まずは“読めるサイズ”を優先する
小さすぎるカーブ文字は、設定以前に物理的に読めなくなりやすいです。まずは「読めるサイズ」で成立させてから、必要に応じて詰めていくのが安全です。
パスを“縫わないガイド”にする:縫い属性を外す
ここでつまずく人が多いポイントです。円/楕円を「縫う図形」のまま残すと、文字の下に図形が縫われてしまい、意図しない縫い順・密度になりやすくなります。まずはパスをガイド専用(縫わない)にします。

手順3 — 図形の縫いをOFFにして「ゴーストガイド」を作る
- 楕円を選択: 楕円をクリックして選択します(バウンディングボックスが出ます)。
- 塗り(Fill Stitch)をOFF: 縫い属性(Sew Attributes)でFill StitchをOFFにします。
- アウトライン(Zigzag Outline)をOFF: Zigzag OutlineもOFFにします。
見た目の確認: 楕円が、塗りや縁取りのある表示から、細いワイヤーフレーム(線)表示に変わります。これが「縫い指示ではなく、パス(数学的なガイド)として残っている」合図です。
注意:安全面のチェック
「細く見える=縫わない」とは限りません。縫い順(Stitch Order / Sewing Order)で、楕円が色付きの縫いオブジェクトとして残っていないか確認してください。残っていると、文字の下に図形が縫われて密度過多になり、糸絡み(いわゆる鳥の巣)や針折れの原因になります。
作業前に揃えておきたい“段取り”
データが整っていても、実刺繍は段取りで差が出ます。特にカーブ文字は生地の安定が重要です。
- 針の状態確認: 針先が傷んでいると、カーブ部で引っ掛かりやすくなります。
- 糸道の清掃: 糸くずがあるとテンションが不安定になり、細い文字ほど影響が出ます。
- 作業チェックリスト:
- 素材確認: 伸びる素材か/伸びない素材か
- 糸の通り: 糸道に詰まりがない
- 下糸(ボビン糸): 安定した状態でセットされている
段取りの意味: 量産で 刺繍ミシン 用 枠入れ を回す場合、段取りのムラがそのまま不良率と停止時間に直結します。まず「縫わないガイド」と「安定した準備」を標準化すると、結果が揃いやすくなります。
[Fit Text to Outline]を使う:PE-Designの選択手順どおりに
材料(文字+ゴーストガイド)が揃ったら、PE-Designの手順に合わせて適用します。ここは選択順が重要です。

手順4 — 複数選択の手順(選択プロトコル)
- 基準(パス)を先に選択: 楕円をクリックします。
- 追加選択: キーボードの Ctrl を押しながら、
- 文字を選択: 文字オブジェクトをクリックします。
見た目のチェック: 楕円と文字の両方に選択ハンドルが出ている状態にします。どちらか片方だけだと、機能が使えない/意図どおりに適用されないことがあります。
手順5 — まず上側アーチで動作確認(ベースラインテスト)
- 実行: ABC Fit Text to Outline をクリックします。
- 設定: まずはデフォルト(Top / Middle)で進めます。
- 確定: OK をクリックします。

チェックポイント: 文字が上側アーチに沿って配置されます。

なぜ先に上側? 下側に行く前に、文字とパスの関係が正しく認識されているかを確認するためです。ここでうまくいかない場合、パスの扱い(図形の状態)が想定と違う可能性があります。
トラブル:ボタンが見当たらない場合
ABC Fit Text が見つからない場合、モジュールが違う可能性があります。Layout & Editing で作業しているかを確認してください。
よくあるつまずき:下側に回すと逆さ・反転になる
下側アーチに配置する設定をすると、パスの向きと「配置側」の計算により、文字が逆さになったり、右から左に読めるような状態(実質的に反転)になったりします。

手順6 — 下側配置の“いったん失敗する”設定
- Fit Text to Outline をもう一度開きます。
- Underneath the line を選びます。
- Other Side にチェックを入れます。
- OK をクリックします。

結果: 文字は下側に移動しますが、読み方向が崩れて読めない状態になりやすいです。

補足: これは操作ミスというより、ソフトの標準的な挙動として起きることがあります。落ち着いて次の反転手順に進みます。
解決手順:「縦→横」の順番を固定する
ここが本題です。下側アーチの文字は、反転の順番で結果が変わります。覚え方はシンプルに 「縦、次に横」 です。

手順7 — 向きを直す反転シーケンス
- 対象を選択: 逆さになったカーブ文字をクリックして選択します。
- 操作1:縦反転(Flip Vertically): まず Flip Vertically をクリックします。
- 観察: 上下は正しく見えても、鏡文字のように読みにくい状態になることがあります。
- 操作2:横反転(Flip Horizontally): 次に Flip Horizontally をクリックします。
チェックポイント: 文字が自然な向きで読める状態になります。画面上で実際に読んで確認してください。

期待する完成形: 下側アーチに沿って、読み方向が正しい文字になります。

画面から実刺繍へ:最後に効いてくるのは“安定”
データ上の向き問題を解決しても、実刺繍では生地のズレや歪みが可読性を壊します。カーブ文字は特にシビアです。
枠跡(枠跡)と安定性の悩み
一般的な樹脂枠は摩擦で固定するため、細かい文字ほど強く締めがちです。その結果、
- 枠跡: デリケート素材に白いリング状の跡が残る
- 作業負担: 厚物や段差のある箇所で枠張りが大変
そこで マグネット刺繍枠 という選択肢が現場で語られます。摩擦で引っ張るのではなく、上からクランプする発想です。
素材別の考え方(判断の軸)
スタート:素材は何か?
- A:伸びない織物(ツイル、デニム等)
- リスク: 低め。
- 考え方: 安定させやすい。
- B:伸びるニット(ポロ、Tシャツ等)
- リスク: 高め。カーブ部で歪みが出やすい。
- 考え方: 生地が動かないように“支える”発想が重要。
- C:厚物/枠張りしにくい品(ジャケット、バッグ等)
- リスク: 枠が外れる、そもそも枠に入らない。
- 考え方: 無理に締め込まず、固定方法を見直す。
量産で効く「位置の再現性」
単発なら手作業でも回せますが、点数が増えると「毎回同じ位置に置けるか」が品質とスピードを決めます。必要に応じて、刺繍ミシン 用 枠入れ を補助する 枠固定台 の考え方も、現場では重要になります。
注意:マグネットの安全
マグネット刺繍枠 は強力な磁力を使います。
* 挟み込み注意: 指を挟まないよう、閉じる動線から手を外して操作してください。
* 医療機器: ペースメーカー等の医療機器を使用している場合は、十分な距離を取る必要があります。
作業前チェック(プレフライト)
- パスの衛生: ゴーストガイドは本当に「縫わない」状態か(縫い順で確認)
- 文字の見え方: 画面上で読めるか(特に下側アーチ)
- 向き: 「縦反転→横反転」を実施したか
- 枠張り: 生地がたるまず、かつ引っ張り過ぎていないか
トラブルシューティング:当てずっぽうにしない
問題が起きたら、まずは低コストで切り分けできるところから順に確認します。
| 症状 | 診断(ありがちな原因) | すぐできる対処 | 再発防止 |
|---|---|---|---|
| 下側文字が逆さ/反転 | 下側配置時の幾何学的な挙動 | 文字を選択→縦反転→横反転 | 手順を固定して覚える(縦→横) |
| 円/楕円が縫われてしまう | Fill/OutlineがOFFになっていない | 楕円を選択→縫い属性をOFF | 縫い順で「縫うオブジェクト」が残っていないか確認 |
| ボタンが見つからない | モジュール違い | Layout & Editingで作業する | よく使う機能はクイックアクセスに登録 |
| 下側に回したら思った位置に来ない | 設定の組み合わせの影響 | Fit Text to Outlineを再確認 | まず上側で動作確認してから下側へ |

まとめ:再現できる手順に落とし込む
Brother PE-Designで円の下側に文字を配置する手順は、次の流れで安定します。
- 文字とパスを作る
- パスの縫い属性を外してゴーストガイド化
- [Fit Text to Outline]で下側に配置
- 縦反転→横反転で読み方向を確定
画面上の“正解”を、実刺繍の“正解”にするには、最後は段取りと安定が効きます。必要に応じて マグネット刺繍枠 などの固定方法も含め、作業を標準化していきましょう。
