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1 プロジェクトの概要
陶器の皿に描かれた藍の植物モチーフを、白布に刺繍で写し取ります。構成は三層の青(ライト・ミディアム・ダーク)を主体に、葉は濃紺、茎は黒の細線、花は外側から内側へと明度を落として立体感を作る流れです。仕上がりは、皿の平面模様を糸の重なりと艶で“生地の質感をまとったレリーフ”に変えることを狙います。
この手法は、下絵に沿って自由に生地を送るフリーモーション刺繍が前提です。送り歯を無効化できるミシンと、均一なサテンステッチを維持する手さばきが求められます。なお、特定の機種設定(張力や速度、針番手など)は動画内で具体言及がないため、本稿では“見えている結果”にもとづく判断基準と操作順を中心に解説します。
コメント情報によると、作者はSINGER 20u(工業用ジグザグミシン)を使用しています。所要時間は厳密な計測はされていませんが、“2時間以内”が目安として示されています。デザインデータ配布やパターン販売については言及がないため、トレースは各自で行う前提です。
1.1 いつこの方法を使うか
- 平面の線画や陶器の文様を、糸の密度で立体化したいとき。
- グラデーションで花の奥行きを作りたいとき。
- 線の美しさ(黒い茎)と塗りの密度(葉と花びら)を並立させたいとき。
1.2 向いていないケース
- シワが入りやすい薄地で、安定材の準備が不十分なとき。
- 長時間の連続稼働が難しく、サテンの密度維持が困難なとき。
- 大判化して多重フープが必要になる場合(動画は1意匠想定)。
プロのコツ
下絵の線が最終の縁取りになるため、転写段階で左右のバランスを丁寧に整えると、後の詰め縫いで歪みを拾わずに済みます。必要に応じて、作業面の安定度を高めるために 刺繍用 枠固定台 を活用すると、一定の送りが保ちやすくなります。
2 準備するものと下絵づくり
白布に手描きで図案のアウトラインを転写し、フープでしっかり固定します(動画では一般的な刺繍枠を使用)。この段階の精度が、後の“きれいな縁”と“塗りの端の揃い”を左右します。
2.1 必要な道具・素材(動画で確認できるもの)
- ミシン:フリーモーション可能な刺繍/縫製ミシン(送り歯オフ)。コメントではSINGER 20uが使用機とされています。
- 針:一般的な刺繍針(詳細規格は動画に記載なし)。
- 糸:黒、濃紺、ライトブルー、ミディアムブルー。
- 布:白地の平織布。
- 下絵:花と葉のアウトライン(手描き)。
- フープ:布を平滑に保てるサイズ。
安定材(インターフェース/スタビライザー)の具体使用は動画・コメントで明示されていません。布の伸びやたわみが気になる場合は、裏に薄手の安定材を試し、試し縫いで歪みや糸調子を確認してから本番へ進むのが安全です。
2.2 位置決めとフーピング
- 図案を布の中央に置き、フープでたわみなく固定。
- 葉から花、花の中心と、縫う順番をあらかじめ想定しておく(色替えの最小化)。
- 皿の模様と比率を合わせたい場合は、実寸トレースか、格子で拡大縮小を管理。
必要に応じて、固定の選択肢として マグネット刺繍枠 を検討すると、厚みや硬さのある素材でも挟みやすく、微調整を繰り返す場面で作業効率が上がります。
クイックチェック
- 布面に波打ちや斜め引きがない。
- 下絵の線が薄すぎず、縫いながら視認できる濃さ。
- フープの締めすぎによる“輪郭の段差”が出ていない。
チェックリスト(Prep)
- 下絵転写:左右バランス/大きさは狙いどおりか。
- フーピング:平滑・張り・たわみの有無。
- 試し縫い:糸の走りと布の伸びの確認。
3 濃紺の葉を極める
最初に濃紺の葉をまとめて仕上げます。外周線を引き、内部をサテンステッチで満たす段取りです。





3.1 外周から内側へ詰める
最初の葉は濃紺で輪郭を描いたのち、内側をパラレルに往復して面を作ります。フリーモーションでは、手で素材を送るため“速度一定・送り一定”が肝心。角や先端では送りをわずかに緩め、糸密度を保ちます。
このとき、作品の反りやフープの負担を抑えるために、作業台側を強化したいなら hoopmaster 枠固定台 のような位置決め兼用の補助具を使うと、外周のブレが減らせます。
3.2 均一なサテン面をつくる
葉の内部は、針路を少しずつずらし、前の列に“寄り添う”ように重ねていきます。列間の間隙が出たら、戻り縫いで埋めます。小さな葉は“端⇒中央”の単純往復でまとめるとムダがありません。
端の仕上げは、輪郭線に軽く乗せるイメージで縫い、エッジがギザつかないように速度を一定に保ちます。
プロのコツ
- 一枚を仕上げる前に、葉の“軸”を仮縫いしておくと、針路の目安ができ、列の蛇行を抑えられます。
- ミニ葉は往復を短く区切り、片側で糸が寄りすぎないよう注意。
チェックリスト(Setup/葉)
- 外周は一筆で滑らかに引けているか。
- 列間にスカスカな部分や過密な部分がないか。
- 葉先・葉元の密度が均一に見えるか。
4 葉脈の陰影と黒の茎線
濃紺で面が取れたら、陰影用のさらに濃いラインで葉脈を重ね、黒糸で茎を引いて葉と花を結びます。





4.1 葉脈で“面に骨格”を与える
大きな葉には、中心脈から放射状に細線を追加。線は長短を混ぜ、先端ほど細く短くして自然さを出します。葉の色よりわずかに暗いトーンを使うと、面の艶を損なわずに奥行きが立ちます。
フリーモーションのまま線を引く場合、角度変化で手の送りが乱れやすいので、線の向きを“自分の正面に回す”など、布の回転も積極的に使いましょう。
4.2 黒糸の茎線で構図を締める
黒は視線を強く引くため、最後に通すと全体の連結が明確になります。分岐の手前で一旦停止し、交点を小さく円で馴染ませると、線の接続がきれいです。
分岐の立体感を損ねないためにも、必要以上の往復は避けて“細く、一本で通す”感覚を大切に。茎線での布の伸びが心配な場合、クランプ型の固定具(例:brother 刺繍ミシン 用 クランプ枠)を使うと、長手方向のたわみを抑えやすくなります。
5 花の外輪:ライトブルーの層づくり
花びらは外側からライトブルーで面を作り、輪郭をはっきりさせます。線から少し内側に針を落とし、縁は“軽く乗せて揃える”のがコツ。


5.1 外側から内側に向けて重ねる
最初の数枚は、輪郭に沿って放射状に。外周で横方向成分を増やすと、縁が締まって見えます。花びらごとに面の傾きを少し変え、光の受け方をばらけさせると、単色でも“表情の違い”が出ます。
5.2 ボリュームの作り方
広い面は、中央へ向かうほど列を短くして“丸み”を表現します。過密になったら、前列の上を軽くなでる程度に補正し、糸の段が見えないようにならします。
大ぶりの花でフープ内の再調整が必要なら、磁力で着脱しやすい 刺繍ミシン 用 マグネット刺繍枠 を使うと、布面を乱さずに位置を微修正しやすくなります。
6 内側の花びら:ミディアムブルーで深みを足す
次にミディアムブルーへ色替えし、中心寄りの花びらを埋めてグラデーションを作ります。ライトブルーとの境界は“薄く跨いで”なじませるのがポイント。

6.1 トーンの移行
- ライト→ミディアムの境目は、ミディアム側の列を短めに刻み、重ね幅を狭くする。
- 先に薄色の方向へ針を入れて戻すと、境界が柔らかく見える。
6.2 面の深度
中心に近づくほど列間を詰め、糸の陰影が強く見えるように密度を上げます。ライトの層に“差し込む”ように入れていくと、自然な段階表現ができます。
境目の均質化に不安がある場合、枠の保持力が高い mighty hoop マグネット刺繍枠 などで布の微小な動きを抑えると、列の歪みが目立ちにくくなります。
7 中心部:最も濃い青で締める
最後に最濃の青で中心を充填し、花の“視線の焦点”を作ります。中心は小面積でも密度が高いので、速度を落として列の向きを揃え、艶の向きが乱れないように注意します。

7.1 充填の要領
- 円心から外へ扇状、または外から内へ螺旋状に詰める。
- 糸が重なり過ぎる箇所は、前列上をなでて段差を消す。
7.2 焦点の作り方
中心の一部に“ほんのわずかなハイライト(密度をやや下げた部分)”を残すと、光沢差で立体感が増します。動画では最終的に均質に詰めており、深い青の“目”が花全体を引き締めています。
8 仕上がり比較と振り返り
作品が完成したら、皿の模様と見比べて、形や色の階調、線の清潔さをチェックします。
- 葉:濃紺の面に、より濃い脈線がのり、自然な陰影が見える。
- 茎:黒の細線が葉・花を結び、構図を締める。
- 花:外周ライト→内側ミディアム→中心濃の順に滑らかに移行。
コメント情報では、制作時間は“2時間以内”の目安が示されています。作業のまとまりごとに短い休憩を挟み、密度の均一さを保つと、完成度が安定します。
プロのコツ
- 途中段階でも一度引いて全体を見ると、列の傾きの偏りや、葉の左右差に早めに気づけます。
- 仕上げ前に、黒の線の交点に小さな“馴染ませ縫い”を入れると、線の継ぎ目が目立ちません。
9 トラブルシューティング・回復策
症状→原因→対処の順で整理します。
- 症状:サテンの列間に隙間が出る/帯状の縞が見える。
- 原因:送りの加減が一定でない、布が緩む。
- 対処:速度を固定し、列の始点を揃える。必要ならフープを締め直す。磁力固定を併用する場合(例:マグネット刺繍枠 brother 用)、布面の平滑を再確認。
- 症状:境目で段差が目立つ。
- 原因:薄色と中間色の重なり幅が広すぎ/狭すぎ。
- 対処:中間色側の列を短く刻み、重ね幅を狭めて“なじませ縫い”。
- 症状:黒の茎線が太く見える/ヨレる。
- 原因:往復が多すぎる/布の引きが強い。
- 対処:一筆で細く通す方針に戻す。分岐は小さく円を描いて馴染ませる。クランプ系保持具で引きを軽減。
- 症状:葉先・花先の端がギザつく。
- 原因:端の速度が乱れる、縁を跨ぐ角度が急。
- 対処:端で速度を落とし、縁に“軽く乗せる”タッチに修正。布の回転で角度を緩くする。
- 症状:布に波打ちやヨレが残る。
- 原因:フーピングの張り不足/安定材不足。
- 対処:フープを張り直し、裏に薄手の安定材を試す。着脱を繰り返す場面では マグネット刺繍枠 の着脱性が有利。
10 コメントから
本ガイドで触れた補足の出典を明記します。
- 使用機について:SINGER 20u(工業用ジグザグミシン)との回答が投稿されています。
- 所要時間:正確な計測はないが“2時間以内”の見立てが示されています。
- 安定材の要否:動画・コメントともに具体回答はなし。布と糸に合わせて試し縫いで判断するのが安全です。
- デザイン配布:入手方法の明記はなく、各自トレース前提です。
- アレンジについて:“各自の工夫で装飾を”という趣旨のコメントがあり、自由な変形・応用が推奨されています。
——最後に、作業効率や固定力の選択肢として、用途に応じたツールを検討しましょう。長物や筒物には 袖用 チューブラー枠、磁力固定が必要な場面では マグネット刺繍枠、あるいは機種適合の マグネット刺繍枠 brother 用 といったように、対象や工程に合わせて“固定の質”を最適化すると、フリーモーションでも線と面の精度を引き上げられます。
