目次
デジタイズ前の下準備(下絵の読み込みと整え方)
きれいな縫い上がりは、ミシンで「スタート」を押すずっと前に決まります。デジタイズは家づくりに似ています。設計図(下絵)が荒れていると、土台(ステッチ)が崩れます。
このチュートリアルでは、白黒の花の線画を、スムーズに縫える刺繍データへ落とし込む流れを追います。初心者の“練習環境”として最適なのは、(1) ラフでも成立するフィル、(2) ランニングステッチの簡単な質感、(3) 最後に最適化できるサテン外周線、という構成だからです。

学べること(現場で効く理由)
動画と同じ順序で、下絵の読み込み→正確なサイズ設定→葉と花びらのフィル作成→Entry/Exit(開始/終了点)でミシンの移動を制御→質感追加→Auto Branch(自動ブランチ)でサテン外周線を連続化、までを一気通貫で行います。
画面上では完璧に見えたのに、実際は裏で糸が絡む/無駄なトリムが多い/輪郭が汚い……という場合、原因はミシンよりも「縫い順(パス取り)のロジック」にあることがほとんどです。ここを今日のゴールとして整えます。
手順1 — 下絵(Backdrop)を読み込む
John は Load Backdrop で線画を読み込みます。グリッド上に表示されたら画像を選択(周囲にターコイズ色のワイヤーフレームが出ます)し、右側の Properties を開きます。

手順2 — 単位を確認し、サイズを「5インチ」に正確に合わせる
Properties の設定で Metric / Imperial を切り替え、Maintain Aspect Ratio(縦横比固定)を有効にしたままデザインサイズを 5 inches に設定します。さらに Left と Top を 0 にして、下絵をグリッドの 0,0 へセンタリングします。
補足(動画の意図を現場目線で):John はインチ基準で考えるため Imperial を使いますが、Properties が Metric 表示のこともあるので、必要に応じて切り替えています(「どちらでも作業できる」前提で、見やすい単位に合わせる運用です)。
現場の目安:なぜ 5インチ?
- 小さすぎる(2インチ未満):サテンが極端に細くなり、見た目が荒れやすくなります。
- 大きすぎる(8インチ超):安定した固定と位置ズレ対策がよりシビアになります。
- 5インチ:ディテールの練習ができ、かつ安定させやすいサイズ帯です。
手順3 — 黒の輪郭が見えるように下絵を薄くする
最終的に黒の輪郭(サテン)を重ねるため、Backdrop の不透明度を下げて(おおよそ半分程度)黒線の上でも作業線が判別できる状態にします。

ズームの使い分け:3:1 と 6:1(迷わない実務ルール)
John はプリセットのズームを使い分けています。判断基準を固定すると、線の品質が安定します。
- 3:1(300%):主に フィル 用。多少ラフでも糸がなじみ、布上で破綻しにくい領域です。
- 6:1:主に サテンとノード調整 用。サテンはムラが目立つので、拡大して“線の質”を作り込みます。
注意:ノードを打ち始める前に、狙う仕上がりサイズと刺繍可能範囲(枠サイズ/最大縫製エリア)を必ず確認してください。5インチで作った後に無理に縮小すると、密度が上がって縫いが硬くなり、トラブルの原因になります。最初から「狙うサイズ」で作るのが基本です。
葉と花びらをフィルで作る(ラフさを味方にする)
初心者が陥りやすいのは、ノードを“数学的に完璧”にしようとして手が止まることです。動画のやり方は逆で、フィルはあえてルーズに。糸で「塗る」感覚で進めます。

手順4 — 葉を「軽めのフィル」でデジタイズ
色を Green にし、Fill Stitch を選択。Free Draw / Freehand Shape で葉の外周をなぞり、開始点付近へ戻って閉じることでオブジェクト化します。
動画で示された要点(スケッチ風デザインの“ちょうどいい”設定):
- ズーム:3:1(300%)
- フィル密度:0.6(軽めの密度)
- アンダーレイ:なし

なぜ「軽いフィル」が有利なのか
隙間が怖くて密度を上げすぎると、布を押す力が強くなり、後工程の輪郭がズレて見える原因になります。0.6 のような軽め設定は、布が“呼吸”でき、触り心地も柔らかくなりやすい、という狙いがあります。
手順5 — 花びらは「別オブジェクト」でフィル化する
次に Light Pink に切り替え、花びらを1枚ずつ独立したフィルとして作成します。大きな一体形状にしないのがポイントです。

花びらを分けるメリット(効く場面)
オブジェクトを分けると ステッチ角度(Inclination / Stitch Direction) を花びらの流れに合わせて変えられます。角度が全部同じだと平坦に見えがちですが、方向が変わると糸の反射が変わり、立体感が出ます。
embroidery digitizing for beginners を学び始めた段階なら、この「まず分けて作る」癖が、のっぺりした仕上がりを避ける最短ルートになります。
開始/終了点(Entry/Exit)が縫い品質を決める
「たった数ミリ移動するだけなのに、止まって切って、また縫い始める」——これは初心者が最初につまずくポイントです。生産性も落ち、裏糸の絡み(いわゆる糸玉)も増えます。対策はパス取りの制御です。

手順6 — つながり糸(ジャンプ)を、終了点の移動で消す
Node Edit で Entry/Exit Points を表示します(赤=開始、緑=終了)。2つのオブジェクト間が近すぎてミシンがトリムを認識しない例を示し、緑の終了点を反対側へ動かして距離を稼ぎ、不要なつながり糸が出ない状態にします。
考え方(現場で使う言語に落とすと)
- 悪いパス:A の終点と B の始点が離れていて、ミシンがデザインを横切って移動する
- 良いパス:A の終点を調整し、B の始点へ自然につながる(または距離を確保してトリムが入る)
実務チェック:書き出し前に見るべき“パスの健康診断”
- 見た目チェック:Backdrop を非表示にして、デザイン上に長い直線が走っていないか確認(それがジャンプの候補です)。
- 改善の問い:ジャンプが見えたら「直前オブジェクトの終了点(緑)を動かして、次の開始点(赤)へ寄せられるか?」を必ず検討します。
fixing jump stitches in embroidery software を身につけたいなら、まずはこの Entry/Exit 調整が核になります。
コメントで多い疑問:「枠サイズ(hoop size)はどこで設定するの?」
よくある混乱は「ソフト側で枠を選ぶのか?」という点です。 結論:この流れでは、まずソフトで デザインサイズ(5インチ) を決めます。枠(フープ)の選択は、最終的にミシン側で行います。 ただし、ミシンの最大縫製範囲を知らずに描き始めると「物理的に縫えないサイズ」を作ってしまうので、作業開始前に上限は必ず把握してください。
ランニングステッチで質感を足す(軽く、効かせる)
ベースのフィルができたら、2色目を“重くせずに”足して立体感を出します。

手順7 — ランニングステッチで陰影ラインを入れる
色を Dark Purple に切り替え、Running Stitch を選択。花びらの内側に波線を描いて質感を作ります。
動画で示された設定:
- ステッチ長:2.5 mm

ランニングが効く理由(スクリーンと糸の差を埋める)
糸でグラデーションを作るのは難しい一方、ランニングは“ペン線”として機能します。動画では 2.5mm を使っています。
コメントで多い悩み:iPad だと線がガタガタになる
スタイラス操作で線が荒れる、という声があります。動画内でも、ノード編集で後から整えられることが示されています。
- 対処の基本:描く段階で完璧を狙わず、形を取ったら Node Edit でノードを動かして滑らかにします。
- 補足:ノードが密集しすぎると、線が“ガタついて見える”原因になりやすいので、拡大してノード間隔を整えるのが近道です。
Auto Branch(自動ブランチ)で輪郭を連続化する
仕上げの黒い輪郭は、フィルの粗を隠して見栄えを一段上げます。ただしサテンは布を引っ張るので、精度が必要です。

手順8 — 高倍率で黒のサテン輪郭をトレースする
色を Black にし、Satin/Steel Stitch を選択。
- サテン幅:1.0 mm(後で太くします)
- ズーム:6:1
重要ルール(動画の肝):後で Auto Branch を効かせるために、輪郭の各セグメントは 接触(できればわずかに重なり) を作ります。線同士が離れていると、連続パスとして認識されにくくなります。
「オブジェクトが触れていないとブランチできない」理由
Auto Branch は、接続点を手がかりに“道筋”を組み立てます。わずかな隙間があると、ソフトはそこで行き止まりと判断し、ジャンプやトリムが増える方向に働きます。
手順9 — 失敗したら描き直しではなく「ノード整理」で直す
線がボコついた箇所は、削除せずに拡大してノードを動かし、重なりすぎた点を散らして整えます(動画のトラブルシュート例)。

手順10 — Sequence View でまとめて Auto Branch
Sequence View を開き、黒のサテンオブジェクトを複数選択して Auto Branch を実行します。
- 実行前:分割オブジェクトが多く、ジャンプ/トリムが増えやすい
- 実行後:論理的に連結され、連続して縫える形に最適化される


embroidery auto branching tool を探しているなら、まさにこの機能が「手作業のパス取り」を大幅に減らす中核になります。
手順11 — ブランチ後に輪郭を 1.4mm へ太くする
ブランチされた輪郭を選択した状態で、サテン幅を 1.0 mm → 1.4 mm に変更します。動画ではこの“後から一括調整できる”点も示されています。

補足:1.0mm は細く見えやすいため、輪郭としての存在感を出す目的で 1.4mm にしています。
最終:ミシンでの実縫い(Sew-out)で品質を確定する
デジタイズは理屈、縫製は現実です。初心者の失敗は「データ」ではなく「実縫い条件」で起きることも多いので、動画の結果を基準に確認します。

動画での縫い結果(証拠としての Sew-out)
書き出してミシンで縫った結果:
- 総ステッチ数:6,988 stitches
- 結果:問題なく縫え、ディテールもきれいに出ている

段取り:見落としがちな消耗品と事前チェック
作業をスムーズにするには、環境を整えるのが最短です。
準備チェック(作業前の短時間チェック)
- 針:状態は良いか(曲がり/欠け/摩耗がないか)
- 糸:糸道に引っ掛かりがないか
- 下糸(ボビン糸):残量とセット状態を確認
- 道具:糸切り用のハサミ等、すぐ手が届く場所にあるか
セットアップ:枠張りとスタビライザーで縫いを守る
動画では標準の刺繍枠を使用しています。枠張りが甘いと、位置ズレやシワの原因になります。
刺繍ミシン 用 枠入れ を練習中なら、まずは「布がたるまず、しかし引っ張って歪ませない」張り具合を基準にしてください。
スタビライザー選び(動画の布は織物系)
動画では布+スタビライザー(裏打ち)で縫っています。素材により最適解は変わります。
- 安定した布(コットンなどの織物)
- まずは一般的な裏打ちで安定させ、テスト縫いでシワやズレが出ないか確認します。
- 伸びる布(Tシャツなど)
- 伸び対策が必要です。枠張りと裏打ちの相性が結果に直結します。
- 毛足がある素材(タオル等)
- 糸が沈みやすいので、必要に応じて表面側の対策を検討します。
ツールのアップグレード(枠張りがボトルネックになったら)
標準枠でも十分ですが、厚物や連続作業では負担が増えます。
- きっかけ(困りごと):厚手素材の枠張りが大変/枠跡が気になる/連続作業で手首がつらい
- 判断基準:少量でも繰り返し作業が増えてきたら
- 選択肢:マグネット刺繍枠 のようなマグネット刺繍枠は、締め付け操作の負担を減らし、枠張りの再現性を上げやすい道具です。
注意:マグネット刺繍枠は磁力が非常に強力です。医療用インプラント(ペースメーカー等)に近づけないでください。指を挟まないように注意し、子どもの手の届かない場所で管理してください。
スタート直前チェック
- 干渉:アーム周りに障害物がないか
- 枠の固定:枠が確実にセットされているか
- 糸端:開始時に絡まないよう、糸端処理ができているか
運用:最初の1分は“技術者の目”で観察する
最初の立ち上がりで異常が出ると、その後ずっと不具合が連鎖します。音と糸の状態を観察し、違和感があれば止めて原因を切り分けます。

注意:稼働中は針周りに手や髪、紐類を近づけないでください。
縫い上がり後チェック
- 位置合わせ:黒の輪郭が花びらの上にきれいに乗っているか
- シワ:周囲が波打っていないか
- 触感:硬すぎないか(必要以上に密になっていないか)
トラブルシュート(症状 → 原因 → 対処)
動画内の考え方に沿って、まずはソフト側で切り分けます。
| 症状 | ありがちな原因 | すぐできる対処 |
|---|---|---|
| オブジェクト間のジャンプが出る | 終了点と次の開始点の関係が不適切/距離が短すぎてトリムが入らない | ソフト:Entry/Exit(赤/緑)を調整して移動を減らす、または距離を確保する |
| サテンがガタつく | ノードが多すぎる/点が重なっている | ソフト:拡大してノード間隔を整える |
| 線がボコボコに見える | 入力時に点が密集 | ソフト:ズームしてノードを散らし、滑らかにする |
コメント由来のQ&A(動画内容に基づく要点)
- 「ピンチでズームできる?」 タブレットの操作としては可能ですが、John は 1:1 / 3:1 / 6:1 のプリセットを使って判断基準を一定にする運用を推しています。
- 「iPad から PES などに書き出せる?」 書き出し形式に関する質問が多いポイントです。実際の対応形式や手順は、使用環境とアプリ側の書き出し機能に依存するため、公式案内(配布ページ)を確認してください。
- 「最初から手描きできる?トレース必須?」 この動画ではトレース中心ですが、ツール内で描くレッスンもある旨がコメントで触れられています。初心者はまずトレースで構造(パス取り)を学ぶのが安全です。
- 「カッティング用(カッター機)に書き出せる?」 コメント返信の範囲では、カッター向け形式の出力は想定されていません。
まとめ:このワークフローの合格ライン
- 見た目:黒の輪郭が途切れにくく、無駄なジャンプが少ない
- 触感:布に対して硬すぎず、しなやか
- 工程:Entry/Exit と Auto Branch を使って、縫い順を自分で説明できる
同じ手順を、シンプルなスケッチ(りんご、星、雲など)で繰り返してください。軽いフィル → Entry/Exit の調整 → Auto Branch で輪郭を連続化。これが、実務で通用するデジタイズの基礎になります。
