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キャップ用枠固定台(キャップゲージ)の設置
キャップ刺繍は「難しい」と言われがちですが、つまずきの多くは技術よりも固定の甘さにあります。枠固定台がわずかにでもたわむ/ズレると、以降に枠張りするキャップがすべて不安定になり、位置ズレやシワの原因になります。
ここでは、FUWEI BCシリーズで実演されているキャップ工程を、現場で再現できる形に分解します。キャップ用枠固定台(キャップゲージ)の取り付け、円筒型のキャップ枠への装着、キャップドライバーへの取り付け、そして操作パネル側の設定(枠種選択と180°回転)までを、事故防止の観点で整理します。

枠張り前に「良い状態」を作る
キャップ用枠固定台は、ただの置き台ではなく位置合わせの基準点です。刺繍は振動が大敵なので、ここがグラつくと再現性が崩れます。
動画の動作(基礎): L字ブラケットを作業台の縁にクランプし、下側の手締めネジをしっかり締めて固定します。目標は「台の一部になった」と感じる剛性です。

チェックポイント(キャップ不良の大半を潰す)
動画では取り付け動作が中心ですが、現場では次の確認が効きます。
- 横押しチェック(剛性確認): 手で枠固定台を横方向に押し、動きやきしみ音が出ないか確認します。わずかでも動くなら、作業台の縁が薄い/中空などで、量産には不向きです。
- 再現性の確保: 毎回同じ位置に固定できるよう、作業台の縁に目印(テープ等)を付けておくと、センター基準がブレにくくなります。
- 枠(ストラップ/ラッチ)の触診: 円筒型キャップ枠のストラップやラッチ部を指でなぞり、バリ・尖り・曲がりがないか確認します。小さなバリでも、生地を引っ掛けてシワやツレの原因になります。
枠固定台を選ぶ際、プロは剛性(遊びの少なさ)を重視します。グラつきが減るほど、枠張りが速くなり、作業者の疲労も減ります。特に 枠固定台 は、同じ「固定台」でも剛性差が出やすいポイントです。
注意: 機械的な安全。 ラッチ、クランプ、バネ付きストラップ、ドライバー周辺の可動部には指を近づけないでください。ストラップが勢いよく閉じると強く挟まれます。また、六角レンチ等の工具を針板付近に置いたままにしないでください。高速動作時に危険です。
ベースボールキャップを正しく枠張りする
動画では、構造あり(フロントがしっかりした)ベースボールキャップを、標準的な円筒型キャップ枠に装着しています。背面をバインダークリップで引いてテンションを保つ方法は、シンプルですが効果的です。

手順(動画どおりに再現)
- キャップを円筒に差し込む
- チェックポイント: 引っ掛かりがある場合、キャップ内側の糸端や段差が原因のことがあります。
- 作業: フロントパネルを手でならし、円筒にきれいに沿わせます。
- スウェットバンド(汗止め)の位置を整える
- 重要: ガイド(ツメ)があるタイプは、その下に入るように整えます。折り返しがクランプ部に噛むと、テンションが不均一になりシワの原因になります。
- ストラップを掛けてラッチを固定する
- 作業: つば(ブリム)とクラウンの境目ラインに沿って金属ストラップを回します。
- チェックポイント: 側面のバックルを固定したとき、はっきりした「カチッ」という感触があるか確認します。
- 背面テンションを作る(バインダークリップの小技)
- 作業: 背面の生地(メッシュ等)を円筒ポスト側へ引いて張りを作ります。
- 道具: バインダークリップでその張りを保持します。縫製中の振動でキャップが緩むのを抑えます。

機械へ持っていく前の確認(最低限ここまで)
枠固定台から外す前に、次の3点を確認します。
- 面の張り: フロントを軽く叩くと、柔らかく沈む感じではなく、適度に張っている感触がある。
- 斜めシワがない: 斜め方向のシワは、左右どちらかの引きが弱いサインです。
- つばラインの位置: ストラップが「つばとクラウンの境目の溝」に正しく乗っている。高すぎると保持力不足、低すぎるとつばを潰しやすくなります。



キャップがシワになる理由(手の感覚で理解する)
構造ありキャップは立体曲面です。それを円筒に沿わせるため、生地は元の形に戻ろうとします。ここでテンションが均一でないと、縫い始めでシワが固定されます。
- 枠跡(枠圧痕): 機械式キャップ枠は圧力と摩擦で保持するため、デリケートな素材や濃色ではテカり・潰れが出ることがあります。
- 作業負荷: 機械式ラッチを何十回も固定する運用では、手首への負担が増えます。
現場での改善の方向性: 枠跡や保持圧のムラに悩む場合は、治具の見直しが検討ポイントです。例えば マグネット刺繍枠 用 枠固定台 のように磁力で保持するタイプは、機械式のように強く潰して固定するのではなく、保持力を確保しつつ圧痕を抑えやすい考え方になります(運用時は磁石の取り扱いに注意)。
キャップ工程の段取り(止めないための準備)
キャップは「基本の抜け」がそのまま停止につながります。事前に手元へ揃えておくと、流れが切れません。
- 針: 構造ありキャップは芯(バックラム等)が硬いので、シャープ系の針(75/11 または 80/12)が使われます。
- テンション保持具: 背面テンション用のバインダークリップ。
- スタビライザー: キャップ用にカット済みのもの(高さ 4〜4.5インチ程度が一般的)。
- 清掃具: キャップドライバー周辺は糸くずが溜まりやすいので、専用のブラシを用意します。
繰り返し生産を前提に ミシン刺繍 用 枠固定台 を工程に組み込む場合、狙いは「毎回同じ張り・同じ位置」で枠張りできることです。
スタビライザー選定(現場用の判断フロー)
動画ではスタビライザー選定に触れていませんが、量産では品質の保険になります。以下は一般的な判断の流れです。
判断フロー:キャップ刺繍の裏当て(スタビライザー)
- フロントが構造あり(硬い)か?
- YES: ティアアウェイ(輪郭が出やすい)またはカットアウェイ(安定重視)。
- NO(柔らかい/アンストラクチャー): カットアウェイが基本。柔らかい生地はシワが出やすいためです。
- デザインが高密度(例:15,000針以上)/細かいか?
- YES: 裏当てを増やす、または厚手側へ。
- NO: 標準の1枚で進めやすい。
- ランニング主体(レッドワーク等)か?
- YES: 厚みを抑えるため、軽めのティアアウェイが選ばれることがあります。
注意: 磁石の安全。 強力な磁石は指を挟んだり、金属に急吸着する危険があります。磁力式の治具を使う場合は、作業台に「磁石を置く場所」を決め、電子機器や磁気カード等から離して運用してください。
キャップドライバーを機械に取り付ける
枠張り後、機械へ移す工程は機材破損リスクが高いポイントです。キャップ枠が正しく座っていない状態で動かすと、針が金属部に当たりやすくなります。
手順(動画の流れ)
- キャップの向きを整える: 一般的な多針刺繍機のキャップドライバーでは、つばが上向きになる向きでセットします。
- レールに差し込む: キャップ枠をパンタグラフ側のレール(キャップドライバーバー)へスライドさせ、ガイド(ベアリング)が噛む感触を確認します。
- 奥まで座らせる: 機械側へ押し込み、止まる位置まで確実に入れます。
- 固定: つまみネジ/六角レンチで締めてロックします。締めすぎはネジ山を傷めるので、抵抗が出たところから無理に追い込まないよう注意します。


縫い出し前チェック(事故防止)
- ガタ確認: 停止状態で枠を左右に軽く揺すり、ドライバーに対して動きがないこと。
- 干渉確認: 機械が許す範囲で手動移動し、つばがヘッド周りに当たらないこと。
- 面の水平: 背面を引きすぎるとフロントが持ち上がり、押さえが当たりやすくなるため、張りのバランスを見直します。
量産では、この装着に時間がかかるほどロスになります。枠張りと縫製を分業する場合、治具や運用を 枠固定台 として標準化し、装着の迷いを減らす考え方が有効です。
操作パネルでキャップ設定を行う
動画で強調されている重要点は、「機械にキャップ枠が付いている」と認識させることです。
手順:枠種(キャップ枠)を選択
- 画面で設定/パラメータ系メニューへ移動します。
- 枠(フープ)選択のアイコンを開きます。
- キャップ枠(Cap Frame) を選択します(一覧の最後付近にあることが多く、緑のキャップアイコンで表示される場合があります)。


なぜ必要か(間違えると起きること)
工業用刺繍機は、設定どおりに可動域へ動きます。フラット枠のままキャップ枠を付けていると、針が金属部へ向かって動き、フレームヒットの危険が上がります。
- 可動域制限: キャップモードは刺繍可能範囲(高さ方向など)を制限し、キャップ特有の動きに合わせます。
- 速度の考え方: キャップは回転動作が絡むため、高速ほどブレが出やすくなります。動画内に具体速度の提示はありませんが、まずは安全側の速度で確認し、安定してから上げるのが現場的です。
治具として hoopmaster 枠固定台 キット のようなシステムを使っても、機械側の「キャップ枠」設定は別物です。物理が整っていても、デジタル設定を間違えると危険が残ります。
デザインの向き(180°回転)と縫い出し
キャップドライバーは機構上、フラット刺繍と比べてキャップが「逆向き」にセットされます。そのため、デザイン側を180°回転して合わせます。
手順:デザイン選択→180°回転(動画の操作)
- デザインファイル(例:「cherry」)を選択します。
- 編集/パラメータ画面へ入ります(「F」アイコン等)。
- 回転/向き(Orientation)の項目を探します。
- 180°回転 を選択し、プレビューの向きが反転することを確認します。




期待する見え方(確認ポイント)
- 画面上の向き: デザイン上側がオペレーター側を向く状態になっているか確認します(キャップは機械上で逆向きに保持されるため)。
- トレース(外周確認): 縫い出し前に外周トレースを行い、金属ストラップやつばに触れないことを必ず目視します。
運用チェックリスト(押す前に確認)
緑のスタートを押す前に、最低限ここを確認します。
運用チェックリスト
- 枠固定: キャップ枠がドライバーに確実に座り、ネジが締まっている(ガタなし)。
- 枠種設定: 画面で「キャップ枠(Cap Frame)」が選択されている。
- 向き: デザインが180°回転されている。
- 面の状態: 装着中に新しいシワが出ていない。
- 干渉: トレースで金属部に当たらないことを確認済み。
つまずきやすい症状と対処(現場向け)
- 生地がバタつく(フラッギング): 裏当てが弱い/枠張りテンションが不足しやすい。対処は、枠張りをやり直す、または軽く固定補助を入れて安定させます。
- 位置がズレる: 枠固定台がわずかに動いている可能性があります。まずは固定台の剛性(横押しチェック)を再確認します。
- センターの縫い目で糸切れ: キャップの中央シームは厚く、針に負荷がかかります。針番手や針種の見直しを行い、無理な速度で回さないのが基本です。
治具の見直しタイミング(いつ投資するか)
週に少量(例:1〜10個程度)であれば、動画のような機械式キャップ枠でも十分運用できます。一方で、数量が増えるほどボトルネックは「枠張り速度」と「再現性」に移ります。
- 課題:枠張りが遅い/センター出しが毎回不安
- 対応:治具で位置合わせを標準化する(例: 刺繍用 枠固定台 など)。
- 課題:枠跡や保持圧のムラが気になる
- 対応:保持方式の見直し(磁力式など)。
- 課題:数量が多い
- 対応:枠を複数用意して「枠張り→縫製」を並行化し、機械停止時間を減らします。
準備チェックリスト(消耗品・環境)
キャップは段取りで勝負が決まります。止めないための準備をまとめます。
準備チェックリスト
- 固定台の剛性: クランプ固定が強固で、押しても動かない。
- 枠の状態: ストラップ/ラッチにバリ・曲がりがない。
- テンション保持具: バインダークリップを手元に用意。
- 消耗品: 針(例:80/12)を新しい状態で準備、キャップ用スタビライザーをカット済みに。
- 清掃: ドライバー周辺の糸くずを除去。
設定チェックリスト(機械側)
フラットからキャップへ切り替えるたびに確認したい、安全のためのリストです。
設定チェックリスト
- ドライバー: キャップドライバーバーが確実に固定されている。
- 枠装着: キャップ枠がドライバーにロックされ、ネジが締まっている。
- モード: 設定で「キャップ枠(Cap Frame)」が有効。
- デザイン: 180°回転が反映されている。
- トレース: 外周確認で金属部に当たらない。
まとめ(結果)
キャップ刺繍は、感覚的なチェック(固定台の剛性、ラッチの確実な固定、フロント面の張り)を押さえるほど、怖さが減って再現性が上がります。
この手順で、次ができる状態になります。
- 固定:枠固定台をブレなく設置する。
- 枠張り:テンションを揃えてシワと位置ズレを抑える。
- 装着:キャップ枠を安全にドライバーへ取り付け、フレームヒットを避ける。
- 設定:機械設定とデザイン180°回転で、物理とデジタルを一致させる。
センターが安定し、シワなく縫えるようになったら、次の課題は「装着の速さ」です。数量が増えたタイミングで、治具や運用の標準化(枠の複数運用など)を検討すると、キャップ工程が一気に回りやすくなります。
