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動画を見る:Sarah's Hand Embroidery「How to Stitch Houses BARN AND FIELDS」(Sarah's Hand Embroidery)
ふっくら赤い納屋、風にそよぐ緑の野原、穏やかな青空。基本の3つのステッチだけで、こんなに物語のある景色が刺せます。面の埋め方、糸の方向、地平線のなじませ方――初心者が悩みやすいポイントを、動画の進行に合わせて整理しました。

学べること
- サテンステッチで大きな面をまっすぐ美しく埋めるコツ(分割→充填)
- スプリットバックステッチで屋根の輪郭を太く整える手順
- ストレートステッチで野原と空の密度を作る“往復”の積み重ね方
- 長い針目への対処(エンクローチング・サテン)と地平線のなじませ方
- 仕上げのフレンチノットで花を散らす配置の工夫
はじめに:赤い納屋と野原の手刺繍 このプロジェクトは、4インチ枠向けの図案ですが、動画では3インチ枠を使用。サイズを小さくするとモチーフの“かわいさ”が際立ちます。全工程を通して刺繍糸は2本取り。面が揃い、細部のラインも程よい存在感で立ち上がります。

フリーハンドで描くのではなく、印刷した図案を下書きに沿って進めるので、初めての方も安心。特にサテンステッチで面を埋めるときは、外形の正確さが仕上がりを左右します。手持ちの布に図案を転写し、枠に適切なテンションで張りましょう。手刺繍なので、ここでは磁気 刺繍枠などの機械用ツールは不要です。
納屋を刺す
材料と基本設定(共通)
- 刺繍糸:赤、グレー、白、緑、青、黄(すべて2本取り)
- 布:お好みの無地(綾織など目が詰まったものが扱いやすい)
- 道具:刺繍針、刺繍枠(3〜4インチ)
プロのコツ
- 大きな面ほど“分割”が効きます。数針でガイドを作り、面を小さなセクションに切り分けてから埋めるのが、均一でまっすぐなサテンの近道です。
- 針目は布目に逆らわず、引き過ぎないテンションで。わずかな緩みが糸のツヤを保ちます。
サイド壁をサテンステッチで埋める(縦方向) サイドは赤のサテンステッチを縦方向で。最初に“仕切り線”となる数針を入れ、広い面を小さなブロックに分割します。分割は1回で終わりではなく、手に馴染む大きさまで段階的に細分化。そこから、2〜3本のストレートステッチでリズムよく詰めていきます。

注意
- 大きな面を一気に埋めると針目が傾き、ムラが出やすくなります。迷ったら“さらに分割”を。
- サテンの針目は約1.5cmを目安に。長過ぎると安定しません。
クイックチェック
- 縦の方向感は揃っている?
- 分割した境界がガタついていない?
分割→充填の流れに慣れると、面の端で糸が暴れにくくなります。均一なツヤが出てきたら、面の表情はもう一歩。角の立ち上がりをそろえつつ、わずかに角度を調整して、建物の“立体感”を意識しましょう。

さらに別区画も同じ手順で。細分化→充填という一定のリズムを保つと、糸替えや休憩のあとでも品質がブレません。

なお、よりボリュームを出したいときは、パディッド・サテンも選択肢ですが、今回は素直なサテンでOKです。
正面壁をサテンステッチ(横方向) 正面側は横方向のサテンステッチ。サイドを縦、正面を横にすることで、同じ赤でも面の質感が変わり、形がくっきり分かれます。パーツごとに独立して埋めるのが肝心。ドア周りや上部は後から仕上げます。

上部の広い面では、針目が長くなりがち。安定目安の1.5cmを超えそうなら、エンクローチング・サテン(列同士を少し食い込ませる方法)で半分ずつ進めます。前列へ僅かに侵入させることで、段差が馴染み、面がつながります。

クイックチェック
- 針目は横方向で揃っている?
- サイドの縦サテンと“質感の差”が出ている?
- 長い針目部分は、エンクローチングで安定化できている?

屋根の輪郭をスプリットバックステッチで 屋根の輪郭はグレーのスプリットバックステッチ。2本取りでも線幅がしっかり出て、屋根の稜線がキリッと引き締まります。曲線も扱いやすく、サテンで埋める前の“枠”として最適です。

屋根をサテンステッチで塗り込める 輪郭が決まったら、屋根内部をグレーのサテンで。面の端から端まで均一に塗るより、エッジから中央へ少しずつ詰めていくと、輪郭線と密着して隙間が出にくくなります。糸の向きは屋根の面に沿わせつつ、ツヤが均一になるようにテンションを一定に保ちましょう。

細部を白のストレートステッチで 窓やドア枠などのディテールは白のストレートステッチで。完璧な直線にこだわりすぎず、ほんのり角度が揺れるくらいが手刺繍らしい表情になります。印刷図案の目安に合わせ、針目の長さは“おおよそ”で大丈夫。最終的な見え方のバランスを優先しましょう。

風景を描く:野原と空
緑の野原をストレートステッチで 野原はグリーンのストレートステッチを“往復”で重ね、密度を上げながら面を作ります。完全な垂直にこだわらず、ときどき角度を振ることで草の揺れが生まれ、自然な表情に。濃淡の違う緑を混ぜると、さらに奥行きが増します。

プロのコツ
- 密度を出すには“重なり”が不可欠。前の列に部分的に重ね、空きのないフィールドを目指します。
- 針目の長短に微差をつけると、人工的な縞が消えます。
クイックチェック
- ステッチが均一すぎて平板になっていない?
- 草の向きに軽い振れがあり、面に生命感が出ている?

空をストレートステッチで 空は水平のストレートステッチ。1列目にロング&ショートの変化をつけ、そこから列を積むと、面が滑らかにつながります。青の濃淡を織り交ぜる、白をパッチ状に置いて雲を示す――どれもOK。大切なのは“列の規律”。針目の置き方を丁寧に揃えるほど、空気のように滑らかな空に仕上がります。

注意
- 置き方がばらつくと空が斑に見えます。列の出発点と到達点を小さく印しておくのも手。
地平線のなじませ 空ができたら、野原の最上段へ戻り、ところどころ空へ緑の針目を少しだけ侵入させます。線を引くのではなく“点で跨ぐ”イメージ。これで境界の硬さが消え、遠景の柔らかさが生まれます。

仕上げ:花を添える・見栄えを整える
フレンチノットで野の花を散らす 最後に、黄の2本取りで小さなフレンチノットをランダムに。あえて群れを作る場所と、点在させる場所を作ることで、視線が景色の中を旅します。密度の高い野原に小さな粒が乗ると、全体のリズムが軽やかに。

クイックチェック
- ノットは均一に締まっている?
- 花の密度は偏っていない? それとも“偏り”を意図してリズムにしている?

最終レビュー
- 立体感:サイド(縦)と正面(横)のサテンで質感差が出ているか。
- 線のキレ:屋根のスプリットバックは太さが保たれ、波打っていないか。
- 面の密度:野原は隙間が目立たず、空は斑になっていないか。
- 視線誘導:フレンチノットの散らし方で、視線が“納屋→野原→空”へ心地よく動くか。
初心者のための実践ヒント
ステッチの基本を“現場”で身につける
- サテンの安定:針目1.5cm以内を目安に。長くなる場所は、途中に“寄り道”の針を入れて距離を分割。
- 方向の決め方:建物は“面の向き”で決める(サイドは縦、正面は横)。風景は“現象”で決める(草は上向きに伸び、空は水平に広がる)。
- 図案との距離感:印刷図案の寸法は“目安”。完成時の全体バランスが優先です。
トラブルシューティング
- サテンが波打つ:分割が不足。最初の仕切り線を増やしてから再開。
- 面に隙間ができる:刺し終えた列の際へ少し“食い込ませ”ながら次列を進める。
- 空がムラ:列の起点・終点を布に薄く目印、針目を均等化して整える。
注意
- 動画では常に2本取り。糸本数を変える場合は、面の質感や線の太さが変わる点を理解して選択を。
- 針目の引き過ぎは、ツヤ消えと歪みの原因に。軽いテンションで“置く”感覚を。
パターンのカスタマイズ
- フィールドの色:緑の濃淡を増やしたり、所々に黄緑を混ぜると季節感が変わります。
- 空の表現:白のパッチを増やせば曇天、青のグラデーションで夕景風にも。
- 建物のディテール:窓の位置や数は印刷図案の目安を守りつつ、最終的な見た目で微調整。
機械刺繍ユーザーへのひとこと(手刺繍との住み分け) このプロジェクトは完全に手刺繍で進めますが、もし機械刺繍環境を併用して枠張りを効率化したい方は、作業補助としてmighty hoopやsnap hoop monsterなどのツールの情報を参考にしてもよいでしょう。とはいえ、本稿の制作は手刺繍を前提とし、動画でも機械枠の使用は示されていません。
また、“磁力で布を挟むタイプ”の情報を調べる際は、一般名称として磁気 刺繍枠 for embroideryやembroidery 磁気 刺繍枠、さらにはmagnetic フレームといった語で検索すると比較がしやすいでしょう。手刺繍の感触を大切にする場合は、従来の丸枠でのテンション管理に慣れることをおすすめします。加えて、英語混在の情報では刺繍枠 machineという用語で機械前提の記事が見つかることがありますが、本プロジェクトのような“手の跡”が活きる表現には、手刺繍ならではのコントロールが最適です。
コメントから 動画のコメントには「とても美しい」との感想が寄せられ、作者から「ありがとう」と丁寧な返信がありました。制作の達成感を共有できるのも、このプロジェクトの楽しさのひとつ。あなたの作品も、完成したらぜひ写真に残し、仲間の励みにしてください。
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- 同じ図案で刺したら、完成写真を撮って記録を。光は斜めから当てるとサテンのツヤが綺麗に写ります。
- 納屋の赤・屋根のグレー・野原の緑・空の青・花の黄が画面内で“偏らない”よう配置を再点検。撮影前に糸クズをコロコロで除去。
- 3インチ枠仕上げは可愛さ抜群。壁かけや卓上に、そのまま飾れます。
参考タイムスタンプ(動画)
- 納屋サイド(サテン):00:24〜
- 納屋正面(サテン):02:23〜(長針目はエンクローチング)
- 屋根輪郭(スプリットバック):05:14〜
- 屋根の面(サテン):06:51〜
- 細部の白ライン(ストレート):07:48〜
- 野原(ストレート):09:44〜
- 空(ストレート):11:51〜
- 地平線のなじませ:15:29〜
- フレンチノットの花:16:42〜
おわりに サテン、ストレート、スプリットバックという限られた語彙で、ここまで豊かな景色が描けるのは、手刺繍ならでは。分割して整え、往復して重ね、ところどころで“侵入させる”。この3つの所作だけで、面は驚くほど美しくまとまります。今すぐ針を手に、あなたの“野原”を育ててみませんか?
