Hatchの文字オブジェクト「Stitching」タブ徹底解説:下縫い・プル補正・コネクター(実際の縫い上がりに直結する設定)

· EmbroideryHoop
本ガイドでは、Hatchの文字(Lettering)オブジェクトにある「Stitching」タブを、現場で再現できる形で整理します。下縫い(Underlay)の選び方と2層の重ね方、文字が細く縫い上がるのを防ぐプル補正(Pull Compensation)の考え方、そしてコネクター(Connectors)が2.00mmの距離ルールで「止め縫い・糸切り・糸渡し」をどう自動制御するかを解説。素材別の判断基準、量産目線のチェックポイント、よくある不具合の切り分けまでまとめ、画面上の文字がそのまま機械で再現される状態を目指します。
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目次

文字オブジェクトのプロパティ概要

文字刺繍は、仕事としての刺繍品質が一番見られる部分です。クライアントはまず文字を見ますし、現場でも「上手い/粗い」が最短で露呈します。画面上のベクターはシャープなのに、縫い上がりが細い・ガサつく・ムラが出る——そんなときに慌てて太いフォントへ逃げる必要はありません。効くのはたいてい Lettering Object Properties(文字オブジェクトのプロパティ)、とくに Stitching(スティッチ) タブ側の調整です。

刺繍は「糸テンション」と「素材の表情(毛足・凹凸・伸び)」との物理戦です。ソフトの設定は作戦、素材は戦場。ここではHatchの基本ワークフローに沿いながら、縫い現場で無駄打ち(やり直し・生地ロス)を減らすために重要な3つのレバー——Underlay(下縫い)Pull Compensation(プル補正)Connectors(コネクター)——を、実務目線で噛み砕きます。

The Hatch embroidery software interface showing the word 'Singapore' digitized.
Introduction to the workspace

この記事でできるようになること

  • 下縫いを読み解く: 5種類の下縫いを「なんとなく」ではなく、構造の役割で選べる。
  • 2層下縫いを意図して使う: 沈み・ズレを抑えるために、Underlay 1/2を目的別に組み合わせられる。
  • プル補正の安全な初期値を持つ: 文字が細る原因を理解し、無理のない基準値から詰められる。
  • 糸切りの発生条件を予測する: 2.00mm ルールで自動トリムが入る/入らないを読めて、必要なら手動で上書きできる。
Highlighting the 'Stitching' tab within the Object Properties panel on the right side.
Navigating to settings

下縫い(Underlay):良い刺繍の土台

下縫いを「無駄な針数」と捉えるのは危険です。Stitchingタブでは、下縫いは“コンクリートの鉄筋”だと思ってください。チュートリアルが説明している通り、デジタル上の目的は明確で、見える縫い(表糸のサテン等)を入れる前に、スタビライザー(裏当て)と生地を先に固定することです。

Hatchの文字オブジェクトでは、ドロップダウンから 5種類の下縫い を選べます。

  • Center Run: 中央を走るラン(基礎固定)。
  • Double Zigzag: 強い支持(毛足・ループ潰し向き)。
  • Edge Run: 輪郭の少し内側をなぞる(エッジ作り)。
  • Tatami: 面で支える(幅広いカラム向き)。
  • Zigzag: 標準的な支持(毛足の押さえ)。

さらに重要なのが、下縫いを2層(Underlay 1 + Underlay 2)で同時に使える点です。これは重複ではなく、目的を分けた“設計”です。

The Underlay section is expanded, showing options for Underlay 1.
Explaining underlay purpose

下縫いが効く理由(現場の物理)

量産現場で下縫いが担う役割は、主に次の3つです。

  1. 生地の流れ(ズレ)対策: 針穴が増えるほど生地は動こうとします。Center RunEdge Run で先に固定しておくと、狙った位置に縫いが乗りやすくなります。
  2. 沈み(毛足に埋もれる)対策: 鹿の子・フリース・タオルのような素材は、表のサテンが毛足に飲まれがちです。Zigzag が“足場”になり、表糸を持ち上げます。
  3. 凹凸のならし: ゴツゴツした素材ほど、文字のエッジがギザつきます。下縫いで路面を整えてから表縫いを走らせるイメージです。

チェックポイント: 下縫い中は、機械音が比較的軽くリズミカルに聞こえるのが目安です。下縫いだけで生地色がほぼ隠れるようなら、支持が過剰になっている可能性があります。

なお、伸びやすい素材や嵩高い素材は、下縫いだけで全ては解決しません。枠張りが不安定(緩い/張りすぎで歪む)だと、良い下縫い設定でも結果が崩れます。枠跡や歪みを減らし、一定の圧で保持したい現場では、マグネット刺繍枠 を検討するケースもあります。

Stitchingタブの場所

文字オブジェクト(動画では “ORE”)を選択し、画面右側の Object Properties パネルから Stitching タブを開きます。ここが調整の中心です。

Dropdown menu open showing the 5 underlay types: Center Run, Double Zigzag, Edge Run, Tatami, Zigzag.
Selecting underlay type

素材別:下縫いの選び方

動画では、Underlay 1Center Run → Zigzag → Double Zigzag と切り替え、プレビュー(ピンクのワイヤーフレーム)がどう変わるかを見せています。ここは必ず目で追ってください。プレビューは「これから作る骨格」をそのまま可視化しています。

The word 'ORE' filled with a pink Zigzag underlay pattern visible.
Previewing underlay effect

素材起点の下縫い選択(現場基準)

当てずっぽうをやめて、素材の性質で決めます。

  • 固定が目的(Center Run): 安定した布帛(織物)で、裏当てを生地に留めたいだけならこれで足りることが多いです。嵩も針数も最小。
  • 毛足・ループ押さえ(Zigzag / Double Zigzag): タオル地・フリースなどは必須級。毛足を寝かせて、表のサテンが沈まない土台を作ります。Double Zigzag は角度違いで2回走るため、より強い“ネット”になります。
  • エッジ重視(Edge Run): 鹿の子(ポロ)など凹凸がある素材で、文字の輪郭を立てたいときに有効。カラム端の崩れ(ギザつき)を抑える狙いです。

現場のコツ: 「一番強い下縫いを全部に入れる」は失敗の近道です。小さい文字ほど下縫いが勝ちすぎて、字形が潰れたり太って見えたりします。

Underlay 1 + Underlay 2(2層)の考え方

動画ではUnderlay 1/2を両方ONにしています。難素材では、この2層を“役割分担”させると安定します。

例:鹿の子(ポロ)での定番的な組み合わせ

  1. Underlay 1: Edge Run(輪郭を先に決める)
  2. Underlay 2: Zigzag(中央の持ち上げ)

エッジのシャープさと、中央の持ち上がりを両立させる狙いです。

Both Underlay 1 and Underlay 2 checkboxes are selected in the panel.
Combining underlay layers

Zigzag下縫いのカバー量を詰める

毛足が高い素材では、標準値のままだと支えが足りないことがあります。動画ではカバー量を増やすために数値を調整しています。

  • Stitch length(Zigzag):10.00 mm
  • Stitch spacing(Zigzag):3.00 mm(この数値を小さくすると密度が上がる)

チェックポイント: spacingを詰めすぎると、下縫いが“下縫いではなく表縫い”に近づき、硬さが出ます。支えは必要ですが、鎧にしないのが狙いです。

Cursor selecting 'Center Run' from the list for a simple stabilizer attachment.
Choosing basic underlay

小さなカーブで下縫いが見えるのを防ぐ

鹿の子など凹凸素材で Edge Run を使うときのつまずきポイントです。小さい文字のきついカーブ(例:小文字の “e”“a” の内側)で、エッジランが表に出てしまうことがあります。

対処: Edge RunMargin from edge を調整します。動画でも「内側のきついアークで下縫いが出ないように、マージンを調整する」旨が説明されています。

Adjusting stitch length (10.00mm) and spacing (3.00mm) for Zigzag underlay.
Fine-tuning underlay parameters

注意: 機械の安全。 テスト縫いの観察中も、針棒周辺に手や顔を近づけすぎないでください。針折れは飛散します。刺繍機は電動工具と同じ扱いで、刃物(糸切りばさみ等)も作業台に出しっぱなしにしない運用が安全です。

準備チェック(作業前の段取り)

データが完璧でも、現物条件が崩れていると文字は崩れます。最低限ここを揃えます。

  • スタビライザー(裏当て): 仕上がりと同じ「生地+裏当て」の組み合わせでテストする。
  • 枠張り(保持): 枠張りの張力が毎回バラつくと、下縫いもプル補正も効きが不安定になります。スピードと再現性を上げたい現場では、ミシン刺繍 用 枠固定台 のような枠固定台で手順を標準化することがあります。

プル補正(Pull Compensation)とは? なぜ必要?

Pull Compensation は、文字が「細く縫い上がる」問題に対して最重要クラスの設定です。

プル(引き込み)現象の考え方: 刺繍中の糸はテンション下にあり、縫いが進むと生地端が内側へ引かれます。結果として、画面上では同じ太さでも、実縫いではカラムが痩せて見えます。

動画では、Pull Compensation が 0.17 mm と表示され、平均的なスタートとして 0.20 mm が推奨されています。

Changing 'Margin from edge' to Medium to prevent underlay exposure.
Preventing stitching defects
View of the word 'MBA' with the Pull Compensation section highlighted in red box.
Intro to Pull Compensation

Pull Compensationの設定手順

  1. 文字オブジェクト(文字ブロック)を選択。
  2. Stitching タブ内の Pull Compensation を探す。
  3. 数値を調整。
  4. 見た目の確認: プレビューで、縫いシミュレーション(紫)がベクター線よりわずかに外へ出る方向に変化します。これが“痩せ”を見越した上乗せです。

初期値の決め方(動画の基準に合わせる)

動画の説明はシンプルで、現場でもまずここから外しません。

  • 硬い素材ほど補正は少なめ
  • 柔らかい素材ほど補正は多め

注意点:

  • 補正が多すぎると字形が崩れます。
  • 少なすぎると文字が細く、ガサついた印象になります。

このため、まずは動画の推奨通り 0.20mm を基準にし、素材と文字サイズを見ながら詰めていくのが安全です。

コネクター(Connectors):自動トリムと手動制御

コネクターは、文字と文字の間で機械が何をするか(糸渡し/止め縫い/糸切り)を決める部分です。文字列(1行の文字)は「1つのオブジェクト」として扱われるため、オブジェクト末尾の処理と、オブジェクト内部(文字間)の処理が整理されています。

動画が強調しているのは 2.00 mm ルール です。

  • 文字間距離が 2.00 mm を超える: 文字間に自動で機械機能(止め縫い・糸切り・糸始末)が入る。
  • 文字間距離が 2.00 mm 未満: 自動の処理が変わり、表示される破線(ジャンプ/トリムの表現)が消える挙動が見られます。
Pull Compensation value set to 0.20mm.
Setting standard compensation
Green arrow pointing to 'Connectors' tab.
Switching to Connectors tab

2.00mmルールが効く理由(段取りと品質)

  • 段取り(時間): トリム動作は機械によっては時間を食います。文字数が多いほど、2mm超の隙間が増えると総時間に効きます。
  • 見た目(糸渡し跡): 反対色の糸で糸渡しすると、薄い生地や淡色ではラインが透けて見えることがあります。

ここは「速さを取るか」「仕上げを取るか」の判断になります。

Connectors settings panel shown for the word 'DELHI'.
Reviewing connector settings
Distance indicator showing '-0.74 mm' as letters are dragged closer.
Moving letters manually

トリムを強制する(手動上書き)

動画では、必要に応じて手動でトリムを入れられることが示されています。

  • コンテキストツールバーの Trimアイコン(はさみ) を使う。
  • 距離条件に関係なく、トリム(糸切り)を指示できます。

止め縫い(Tie-off)の方式

糸切りだけで止め縫いが弱いと、洗濯などでほどけやすくなります。動画では2つの方式が示されています。

  • Satin Method(Bow Tie): 一般的で安定。小さな止めが残る。
  • Tatami: 直前の縫いのラインに止め縫いを埋める考え方。隠せるだけの縫い情報がある前提。
Visual representation of machine functions (dashed lines) disappearing when letters are close.
Demonstrating auto-connectors

注意: マグネットの安全。 マグネット刺繍枠 を使う場合、磁力は工業レベルで強く、指挟みの危険があります。分離は「こじる」よりも「滑らせてずらす」動作が安全です。また、ペースメーカー等の医療機器や、スマートフォン・カード類など磁気に弱い機器には近づけない運用を徹底してください。

運用チェック(テスト縫いの手順)

本番生地をいきなり回さず、次を順番に確認します。

  • 選択確認: 文字ブロック全体を編集しているか(1文字だけを誤選択していないか)。
  • 変更は1点ずつ: 下縫いとプル補正を同時に変えない。原因が追えなくなります。
  • 距離確認: コネクター表示(破線など)を拡大して見て、2mmの想定と一致しているか。
  • テストは同条件で: 本番と同じ生地+裏当てでサンプルを縫う。

品質チェック

サンプルが縫えたら、見た目だけでなく“監査”します。

見た目チェック

  • 可読性: 腕の長さ程度で見て、文字が読めるか。
  • カーブ内側: “O”“D”など内側で下縫いが見えていないか(見えるならEdge Runのマージン調整)。
  • 毛足素材: フリース等でサテンが沈んでいないか(沈むならZigzag/Double Zigzagの見直し)。

触感チェック

  • 硬さ: 胸元が板のように硬いなら、下縫い・密度が過剰の可能性。
  • 波打ち(パッカリング): 周囲が波打つなら、プル補正の過多や枠張りの張りすぎ(生地を引っ張って固定)を疑います。

量産チェック(再現性)

同条件で連続して同じ結果が出るかが重要です。人によって枠張りの力が変わると結果も変わります。再現性を上げたい現場では、枠固定台 のような枠固定台で作業の力加減を標準化する考え方があります。

トラブルシューティング

迷ったら、症状→原因→対処で切り分けます。

1) 毛足に沈む(文字が消える)

  • 症状: 文字が埋もれて細く見える/色が薄く見える。
  • 原因: 下縫いの支持不足。
  • 対処: Zigzag または Double Zigzag を検討し、毛足を押さえる方向で下縫いを強化します。

2) カーブ内側で下縫いが見える

  • 症状: カーブ内側に直線的な下縫いが見える。
  • 原因: Edge Run のマージンが浅く、表縫いで隠しきれていない。
  • 対処: Margin from edge を調整して、下縫いを内側へ入れます。

3) 文字が細い/ガサつく

  • 症状: 画面より痩せる、線が頼りない。
  • 原因: プル(引き込み)に負けている。
  • 対処: Pull Compensation を増やして詰めます。まずは動画の基準である 0.20mm を起点に、素材に合わせて調整します。

4) 糸切りが多くて止まりがち/裏が汚い

  • 症状: トリム動作が頻発し、裏に糸端が増える。
  • 原因: 文字間が 2mm超 になり、自動トリムが入りやすい。
  • 対処: 仕上がりが許すなら文字間を詰めて挙動を変える、または必要箇所のみ手動トリムに切り替えます。

まとめ(縫い上がりを揃えるための要点)

  • 下縫い: 毛足には Zigzag/Double Zigzag、凹凸ニットには Edge Run を軸に、必要なら2層で役割分担。
  • プル補正: まずは 0.20mm を安全な起点にし、硬い素材は控えめ、柔らかい素材は多めという原則で詰める。
  • コネクター: 2.00mm ルールで自動処理が変わる。速度と仕上げのバランスを読み、必要ならTrimで上書き。

最後に、ソフトができるのは“物理を見越した設計”までです。枠張りが不安定だと、設定の良し悪し以前に結果が揺れます。スタビライザー選定とテスト縫いを徹底し、保持の再現性が課題なら マグネット刺繍枠 のような保持方法も含めて、工程全体で品質を揃えていきましょう。