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タオルアップリケに必要なもの
フード付きベビータオルは、ベビー刺繍の中でも難所になりやすいアイテムです。理由は大きく3つあります。パイル(ループ)が糸を飲み込みやすいこと、フード周りの厚みや縫い代が通常の刺繍枠だと締めにくいこと、そして「角」の形状がフラットに安定しないこと。ここでは、既製のピンクのフード付きタオルに雪だるまアップリケを入れる工程を、作業の勘ではなく“再現できる手順”として分解します。
ポイントは、タオル地の挙動(引っ張られる・沈む・ズレる)を前提に、道具でブレを減らすことです。特にマグネット刺繍枠は、厚物や角物の枠張りを安定させるうえで有効です。さらに、裏面を赤ちゃんの肌に当たりにくい状態に整える仕上げまで行い、「ギフトとして渡せる品質」に寄せます。

この記事で身につくこと(つまずきやすいポイントも含めて)
フード付きタオルで起きがちな失敗は、縫製中に生地の重みで位置がじわっと動く“ズレ”です。ここを押さえると、仕上がりが一気に安定します。
- ワークシートの読み取り: ステッチ数やサテン主体かどうかを見て、スタビライザーの強さを判断する
- ストレスの少ない枠張り: 厚みのある角・縫い代でも、圧迫しすぎずに固定する(枠跡の軽減にも)
- アップリケの精密カット: タオルのループを切らずに、縫い代ギリギリまできれいに落とす
- 赤ちゃん向けの裏処理: 裏面の糸・段差をカバーして、肌当たりをやわらげる
動画で使用している材料
- ベース: 既製のピンクのフード付きベビータオル
- デザイン: 雪だるまのアップリケデザイン
- スタビライザー: 粘着タイプのティアアウェイ(AllStitch Sticky Back、サイズ6)
補足:タオルは厚みと重みで動きやすいので、粘着面で“その場に留める”考え方が有効です。 - 針: Groz-Beckert 75/11 FFG/SES
- アップリケ生地: 白生地(胴体)、粘着付きの黒ツイル(帽子)
- 裏処理: Sulky Tender Touch(裏面カバー)



事前チェックリスト(見落としがちな消耗品・確認項目)
スタート前の準備で、仕上がりのブレは大きく減らせます。
- ハサミの切れ味: 綿の端切れを“先端”で切って、引っ掛かりや潰れが出るなら交換。切れないハサミはアップリケ端が毛羽立ちます。
- 針の状態: 針軸を爪でなぞって引っ掛かりがある/縫製中に異音が出る場合は即交換。タオルは繊維が多く、針の不調が表面に出やすいです。
- 下糸(ボビン糸)のテンション: 軽い抵抗がある状態を基準に。緩すぎると表にループ、きつすぎると表に下糸が出やすくなります。
- 清掃: 針板周りの綿ぼこりを除去。タオルはリントが多く、糸切り不良や糸絡みの原因になります。
- テープを用意: カット後の毛羽・小片を素早く回収するため、マスキングテープ等を手元に短く貼っておきます。
注意: 安全面。 機上でアップリケをカットする場合、針棒周辺に手を入れないこと。スタート操作に触れやすい姿勢での作業は避け、必ず停止を確認してから行ってください。
Hatch Digitizerでのデザイン準備
縫い始める前に、まず“設計図”を読みます。ワークシートは単なる画像ではなく、工程と負荷を見積もるための情報です。

ワークシート情報からスタビライザーを決める
データ: ステッチ数は8,841、サイズは5.45" x 4.81"。
- 判断: サテン要素を含む中密度クラス
- 起きやすい問題: サテンは引き締め方向の力が出るため、タオルのパイルが沈みやすく、輪郭が甘く見えることがあります。
- 対策: 厚みを増やしすぎずに“固定力”を上げるため、粘着ティアアウェイでベースをアンカーする考え方が有効です。
コメントで触れられていた注意点:縫う前にデザインの向きを確認
フードは「枠の中心=見た目の中心」にならないことがあります。タオルの縁(ヘム)を基準線として、完成時に雪だるまがまっすぐ立って見える向きに合わせます。
基準: タオルの縁=水平の目安 作業: ソフトまたは機械側で、枠張りした角度に合わせてデザインを回転してから縫製します。迷う場合はテンプレートで当たりを取ってから進めます。
マグネット刺繍枠でフード付きタオルを枠張りする
一般的な押し込み式の刺繍枠は、厚みのある縫い代や角に対して締め込みが大きくなりがちで、枠跡や歪みの原因になります。
フードにマグネットが効く理由
厚物を無理に押し込まず、上から均一にクランプできるのがマグネット刺繍枠の強みです。圧力が一点に集中しにくく、枠跡のリスクや作業者の手首負担も抑えやすくなります。
手順1:枠+スタビライザーの“土台”を作る
最初に、粘着スタビライザーで作業面を作ります。動画では、下枠(金属フレーム)を治具にセットし、スタビライザーを貼っています。


補足: 動画ではスタビライザーを2枚で継いでいます。作業としては成立しますが、継ぎ目はズレの起点になりやすいので、可能なら枠の内寸を一枚で覆える幅を選ぶと安定します。
チェックポイント: 剥離紙を剥がした後、粘着面を手のひらで軽く触れて、しっかり“ベタつき”があるか確認します。弱い場合は貼り直しを検討します。
手順2:フードの中心線を取る
T定規でフードの中心を出し、印を付けます。

現場のコツ: 印は水で落ちるペンやチャコを使用し、目視の勘に頼らない方が再現性が上がります。タオルは厚みで「まっすぐ」の感覚が狂いやすいです。
手順3:フード角を粘着面に乗せ、治具のノッチに合わせる
角物は机上で合わせるより、治具で下枠を固定した方が圧倒的に早く、ズレも減ります。ここではマグネット刺繍枠 用 枠固定台を使い、両手でフードを扱える状態を作っています。


作業: フード角を粘着面に滑り込ませ、付けた中心線を治具(枠)の中央ノッチに合わせます。 チェックポイント: 上枠を置いたときに、しっかり固定された感触があるか確認します。 安定化: 動画の赤いクリップのように、余ったタオルの重みを分散して垂れを抑えます。垂れた重みは縫製中の“引っ張り”になり、位置ズレの原因になります。
注意: マグネットの挟み込み。 マグネット枠は指を挟みやすいので、リングの間に指を入れないこと。ペースメーカー等への配慮も含め、取り扱いは十分注意してください。
実務向け:スタビライザー選択の考え方(タオルフード編)
スタビライザーの選択ミスは、仕上がり不良の大きな原因になります。迷ったら次の順で判断します。
- 素材が伸びやすい(ニット等)?
- はい: ティアアウェイではなく、カットアウェイ系を検討します。
- いいえ(一般的なタオル地): 次へ
- 枠跡リスクが高い(毛足が潰れやすい)?
- はい: マグネット刺繍枠+粘着スタビライザーで“押し込みを避ける”方向にします。
- いいえ: 通常枠でも可能ですが、締めすぎ・歪みに注意します。
- ステッチ数が多い(例:12,000超)/高密度?
- はい: 状況に応じて補助層を追加します。
- いいえ: 粘着1枚で進めやすいです。
アップリケ工程(手順どおりに積む)
アップリケは基本の「位置縫い → 仮止め → カット」を層ごとに繰り返します。
手順1:枠を機械にセットし、コンタートレース(シルエットトレース)を実行
枠をセットしたら、縫う前に必ずトレースで干渉確認をします。

重要: 四角いボックストレースではなく、デザイン外周に沿うコンタートレース(シルエットトレース)を使います。 理由: クリップや厚い縫い代が、デザインの一部(例:帽子側)にだけ干渉することがあるためです。 チェックポイント: 針棒の動きとクリップの位置を見て、接触しない余裕があるか確認します。
手順2:位置縫い(アウトライン)
最初のランニングで、アップリケ生地を置く範囲が縫われます。

チェックポイント: 形が歪んで見える場合は、枠張り時に引っ張りすぎている可能性があります。ここで直す方が、後工程のズレを防げます。
手順3:胴体(白生地)— 置く→仮止め→カット
アウトラインを覆うように白生地を置き、仮止め縫い後に余分をカットします。


カットの手順(動画の動きに合わせた実務手順):
- 枠を外してカット(マグネット枠は着脱がしやすく、作業が早い)
- 粗取り: 大きいハサミで四方向に切り込みを入れて、余分を先に落とす
- 仕上げ切り: 小回りの利くハサミで縫い線ギリギリまで詰める
- コツ: 生地を“持ち上げながら”切る。下のタオル地を切りにくくなり、縫い線際がきれいに出ます。
手順4:カットくずを整理してから次へ
カット後の小片や毛羽は、テープで軽く押さえて回収します。次の層に噛むと、縫い面がボコつく原因になります。
手順5:帽子(黒ツイル)— 剥がす→置く→仮止め→カット
帽子は粘着付きツイルを使い、台紙を剥がして配置します。


補足: 粘着付きは便利ですが、カット時に引っ張り感が出ることがあります。無理に急いで切らず、少しずつ縫い線に沿って詰めます。
手順6:最終ディテール(サテン縁+顔)
最後にサテンの縁取りや顔パーツが入って完成形になります。
チェックポイント: 針の貫通が重そうな音に変わる場合は、速度を落として安定させます(タオル+スタビライザー+アップリケ+サテンで負荷が上がります)。
運用チェックリスト(スタート前の最終確認)
- 干渉: クリップがトレース範囲外にある
- 覆い: アップリケ生地が位置縫いを十分に覆っている
- 糸端: 生地の下に糸端が巻き込まれていない
- 枠の固定: 枠が確実にセットされている
赤ちゃん向けの裏処理(肌当たりを整える)
刺繍の裏は、結び目や段差が残りやすく、そのままだと肌に当たって不快になりがちです。ベビー用途では、裏面の仕上げが品質の決め手になります。
手順1:枠から外し、スタビライザーを丁寧に剥がす
縫い目を指で支えながら、ゆっくり剥がします。
現場のコツ: 一気に引っ張らず、縫い目に沿う方向に少しずつ裂くと、歪みが出にくくなります。
手順2:渡り糸をカット(切りすぎ注意)
裏側の渡り糸を整理します。
注意: 縫い目ギリギリで切り落としすぎないこと。動画でも「近すぎない」ようにカットしています。
手順3:Tender Touchで裏面をカバー
Sulky Tender Touchをデザインより少し大きめにカットし、裏面を覆います。
仕上がり: 糸が直接肌に当たりにくくなり、ギフトとしての完成度が上がります。
コメントで多かった材料の入手先(ブランクと生地)
同じ構成で再現したい方向けに、動画制作者が挙げている入手先です。
- ブランク(フード付きタオル): https://www.ssactivewear.com/p/rabbit_skins/1013
- 黒ツイル: https://twillusa.com
- 白生地: Joann(無地の一般的な布)
ツールの見直しポイント(作業を安定させたいとき)
作業時間の多くが枠張り・位置合わせに取られている場合、治具や枠の見直しが効きます。
- 悩み: 厚みがあると枠が閉まらない/枠跡が出る/位置が安定しない
- 対策: マグネット刺繍枠の導入や、8 in 1 枠セット ricoma 用のようなシステム化で、角物の固定を標準化します。
仕上がり確認(納品基準)
プロ品質のタオル刺繍は「見た目」「位置」「触り心地」で判断します。
最終検品の目安:
- 位置: フードとして被ったときに、雪だるまが自然にまっすぐ見える
- 輪郭: サテン縁からパイルが過度に飛び出していない
- 肌当たり: 裏面がカバーされ、ザラつきが少ない
適切なスタビライザー選定、マグネット刺繍枠での安定した枠張り、そしてベビー用途の裏処理までセットで行うことで、既製タオルを“記念品として価値のある一枚”に仕上げられます。
