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メタリック糸ではなくマイラーを使う理由
ホリデー向けのティータオル、ギフトセット、クラフトフェアの小物に共通する条件は「見た目はプレミアム、作業は安定」です。メタリック糸は魅力的ですが、糸切れ・毛羽立ち・テンション調整の沼に入りやすいのも事実。動画では、その代替としてマイラーシートを使い、通常のポリエステル刺繍糸で“きらめき”を出す方法が紹介されています。
これは一時的な小技ではなく、業務でも通用する素材テクニックです。狙いはシンプルで、反射するツヤ(グリッター感)を出しつつ、普段の糸で縫えるので安定しやすい、という点にあります。特に慣れていない方ほど、メタリック糸での試行錯誤より、マイラーの方が再現性を出しやすいケースがあります。

ここで学べること(順番が命)
このプロジェクトは、2つの“特殊素材の重ね方”がポイントです。
- マイラー(虹色フィルム): 反射して「きらめき」を作る層
- Floriani Color Keep(トッピング): 高コントラスト生地で下地の色を遮り、発色を安定させる層
動画の順番は入れ替え不可です。刺繍は「順番=結果」です。必ず以下の流れで進めます。
- 下地要素を縫う(生地を安定させる)
- Color Keepを置く(透け防止の遮光層)
- 塗りつぶしを縫う(遮光層を固定)
- Color Keepを除去(輪郭をきれいに出す)
- マイラーを置く(きらめき層)
- タックダウンを縫う(フィルムを針穴で“切り取り線”化)
- 余りマイラーをちぎる(仕上げ)
例えばColor Keepより先にマイラーを入れると、密度の高い縫いの下にフィルムが閉じ込められて反射しにくくなったり、不要な層が増えて縫い品質が落ちたりします。
補足:マイラーは「マイラー用データ」が前提
動画で使われているPurely Gatesのデザインは、マイラー前提でデジタイズされている点が重要です。
一般的な刺繍データは、生地をしっかり隠すために塗りつぶし(フィル)密度が高めです。一方、マイラー用は糸の間に“抜け”が出るように設計され、フィルが開き気味になっています。
- 理屈: 糸の隙間から光がマイラーに当たり、反射してきらめきになります。
- 失敗パターン: 通常の高密度データをマイラーの上で縫うと、針穴が増えすぎてフィルムが細かく裂け、デザイン内部がゴワついたり、反射が死んだりします。
Floriani Color Keepの考え方
Color Keepは、この動画では“上に置くトッピング”として使われています。刺繍糸の下から生地色が透けるのを防ぐ、いわば「下地の遮り」です。

生地色の透け(色かぶり)を防ぐ
動画の比較では、Color Keepなしの葉はタオルのストライプの影響で色が濁って見え、Color Keepありの葉は発色がはっきり見えます。
チェックポイント: 糸を生地の上に置いてみて、1本の糸越しでも下の色が強く見えるなら「高コントラスト」です。この場合、Color Keepが“物理的な遮り”になり、選んだ糸色を狙い通りに見せやすくなります。

凹凸のある生地でトッピングが効く理由
ティータオル、パイル、ワッフルなどは表面に凹凸があり、縫い目が沈みやすい素材です。トッピングを入れると、糸が沈みにくくなり、見た目の密度感が上がります。
- 触感チェック: 仕上がりを指先でなぞったとき、トッピングなしはザラつき・沈みが出やすく、トッピングありは表面に“乗っている”感触になりやすいです。
色選び(現場で失敗しにくい考え方)
動画では、葉の色に合わせてColor Keepを黄色でカットしています。これは実務的に理にかなっています。万一、縫いで完全に覆い切れない極小部分が残っても、黄色なら葉の色に馴染みやすく、白や黒より目立ちにくいからです。
用意するもの
業務刺繍は「準備が9割」です。ここでは動画の必須アイテムに加え、作業が止まりにくくなる消耗品も含めて整理します。

動画の基本セット
- ミシン: Brother Innov-is NQ3550W(または同等の家庭用/多針刺繍機)
- 刺繍枠: 5x7相当、または互換枠
- 消耗材: Purely Gates マイラー、Floriani Color Keep(黄色)、ティアウェイ(切り取り)スタビライザー
- 糸: Isacord 40wt ポリエステル
- 素材: ストライプ柄のティータオル
- 道具: ハサミ、刺繍用テープ

見落としがちな消耗品&事前チェック
仕上がりの差は、動画に映りにくい部分で出ます。
- 針(新品推奨): トッピングやフィルムは針に負荷がかかります。切れ味が落ちると、フィルムの“ミシン目”がきれいに入らず、ちぎりにくくなります。
- ピンセット: マイラー/トッピングの小さな端をつまむのに便利です。
- テープ: 動画同様、刺繍用テープで固定します。フィルムはズレると一気に事故につながるため、固定はケチらないのが安全です。
枠張りがボトルネックになったら(作業効率の考え方)
タオルの枠張りは、まっすぐ合わせにくく、枠跡も出やすい作業です。
- 目安: 枠張りが縫い時間より長いなら、段取りの見直しどころです。
- 選択肢:
- レベル1: 目視でストライプを合わせやすい治具(位置合わせ用のマット等)を使う
- レベル2: マグネット刺繍枠で固定を安定させる。家庭用は互換の brother 5x7 マグネット刺繍枠 を確認
準備チェックリスト
- データ確認: マイラー向け(低密度/抜けのある設計)
- 下糸: 下糸(ボビン糸)残量に余裕
- スタビライザー: ティアウェイをしっかり固定
- 生地: ストライプが枠の基準線と平行
- マイラー/トッピング: あらかじめ必要サイズにカット
手順(動画の流れをそのまま再現)
ここでは、動画の順番を崩さずに、現場で迷いやすいポイントを「見るべきところ」とセットで説明します。

枠張り(セットアップ)
動画ではタオルが枠にセットされています。
作業: スタビライザーを枠に張り、中心を合わせ、タオルの基準(中心のストライプなど)を枠の中心印に合わせます。
チェックポイント: 生地が張りすぎてストライプの間隔が不自然に広がっていないか確認します。
段取りのコツ: 枠張りで毎回ネジ調整に時間がかかる場合、マグネット刺繍枠は固定が速く、歪みも出にくい方向です。量産では 枠固定台 と組み合わせて位置合わせの再現性を上げる運用もあります。
下地を縫う(動画 Step 1)
作業: 最初の色(例:グリーン)で、茎や最初の葉など下地要素を縫います。
チェックポイント: 縫い位置がストライプに対して狙い通りか(位置合わせ)を確認します。
期待結果: 下地がフラットで、次工程のフィルムを置いても引っかかりにくい状態。
トッピングとマイラーの工程(動画 Step 2〜4)
Step 2 — Color Keepを置く
作業: 2枚目の葉の位置に、カットした黄色のColor Keepを置き、動画同様にテープで固定します。
チェックポイント: テープは縫い経路の外側に。フィルムが浮かず、シワがないこと。


つまずき: フィルムが緩いと押さえに引っかかりやすい。 対処: 必要なら四隅だけでなく、辺も追加で固定してズレを止めます。
Step 3 — Color Keepの上から縫い、余りを除去
作業: そのまま塗りつぶしを縫います(フィルムの上から貫通して縫います)。

除去: 枠から外さずに、縫い目の外側の余りをやさしくちぎって取ります。


期待結果: 生地のストライプが透けず、葉の色がはっきり見える。
注意(熱): Color Keepは熱で変形しやすい素材です。直接アイロンを当てるのは避け、必要がある場合も熱の扱いには十分注意してください。
Step 4 — 指示の停止位置でマイラーを置く
動画では、指示書の「緑の印」が“ここでマイラーを置く”合図として説明されています。

作業: 合図の停止でミシンを止め、マイラーを該当箇所にかぶせ、テープで固定します。 作業: 次の工程(タックダウン)を縫い、マイラーにミシン目を入れて固定します。
チェックポイント: ここは密度が詰まりすぎず、糸の隙間からマイラーが光って見えるのが正常です。

つまずき: 静電気でマイラーが押さえに吸い付く/浮く。 対処: テープ固定は必須。摩擦だけに頼らない。
仕上げ(動画 Step 5)
Step 5 — 余りマイラーをちぎって“抜く”
作業: 針穴のミシン目に沿って、余りのマイラーをやさしくちぎります。縫い目を指で押さえながら行うと、糸に力が逃げにくくなります。

チェックポイント: ミシン目に沿ってスムーズに裂ける感触があればOK。強く抵抗する場合は、針の切れ味や、データの設計(マイラー向けか)を疑います。
仕上げ: 角や小さな“島”が残ったら、ピンセットでつまんで取り除きます。

セットアップ最終チェック
- 下地: ずれなく縫えている
- 遮光: Color Keepを置いて縫い、外周の余りを除去済み
- きらめき: 指示の停止でマイラーを置けた
- 周辺: テープや余りフィルムが枠内に残っていない
- 外観: マイラーのはみ出しがない
マイラー刺繍を安定させるコツ
指示書/色替えの読み方(置くタイミング)
失敗が起きやすいのは「置くタイミング違い」です。縫い始める前に、ミシン側で色順を一度確認し、どこで停止して素材を置くかを把握します。
- ルール: 指示された停止の直後にマイラーを置き、次の固定(タックダウン)で縫い留めます。
ちぎり方(縫い目を守る)
勢いよく引くと、サテン境界などが歪みやすくなります。
仕上げの管理(Color Keepの除去)
動画では、不要になったColor Keepはその時点で取り除いています。工程が進むほど手が入りにくくなるため、不要になったタイミングで片付ける方が安全です。
活用アイデア
マイラーの“光り方”は、作品の単価感を上げやすい要素です。
- ギフト用タオル: ストライプや柄物でもColor Keepで発色を安定
- ワンポイント装飾: 小面積で入れると作業も安定しやすい
- 擬似ラインストーン表現: サテンで囲って反射を活かす
量産で位置ズレがロスになる場合は、治具での位置合わせが効きます。hoopmaster 枠固定台 のようなアライメント治具は、同一位置への再現性を上げる目的で使われます。
判断フロー:タオル×きらめきの材料構成を決める
- 生地が高コントラスト(ストライプ/濃色柄)?
- YES: Color Keepで遮光
- NO: 必要に応じて通常のトッピングで対応
- データがマイラー向け(抜けのある設計)?
- YES: マイラー使用可
- NO: マイラーは避ける(裂け・ゴワつきの原因)
- 枠跡が問題になりやすい素材?
- YES: マグネット刺繍枠、または浮かし貼り等を検討
- NO: 通常枠でも運用可
トラブルシューティング
作業を止めてでも、早めに原因を切り分ける方がロスが減ります。
| 症状 | 主な原因 | その場の対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 色が濁って見える | 生地色の透け(色かぶり) | 事後の改善は難しい | 次回はColor Keepを入れる |
| マイラーがきれいにちぎれない | 針穴の入りが弱い/データが不適 | ピンセットで残りを除去 | 針の状態確認、マイラー向けデータを使用 |
| フィルムが浮く/押さえに絡む | 固定不足、静電気 | 一旦停止してテープ追加 | 四隅を確実に固定 |
| 枠跡が残る | 枠の締めすぎ、素材との相性 | 洗い・スチーム等で軽減 | マグネット刺繍枠や運用見直し |
| 縫いズレ | 生地の固定不足 | 事後修正は困難 | 枠張りの見直し、スタビライザー固定強化 |
作業チェックリスト
- 固定: フィルム四隅をテープで固定
- 停止位置: 指示の停止で素材を置けている
- 観察: タックダウン工程は特に注意して監視
- 除去: 縫い目を押さえながらちぎる
- 仕上げ: 小さな残りをピンセットで除去
仕上がり
特殊素材を正しい順番で重ねるだけで、タオル刺繍の見栄えは一段上がります。
- Color Keepでストライプ生地の“安っぽい透け”を抑える
- マイラーでメタリック糸の不安定さを避けつつ、反射のきらめきを出す
動画の手順通りに進めれば、通常糸でも安定して「光る刺繍」を再現できます。
