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Brother 6針機の色管理を極める:針設定とカラー割り当ての完全手順
多針刺繍機に切り替えた直後、多くの人が最初に直面する現実があります。ミシンは糸色を見ていません。
家庭用の1本針のように「止まるたびに糸を替える」運用ではなく、Brother PRシリーズのような6針機は基本的に「糸をセットして、そのまま回す」発想で動きます。ところが落とし穴は、ミシンがスプールに掛かっている糸色を自動判別できないこと。前回の仕事のまま針3に蛍光グリーンが残っていても、デザインの“淡いピンクのバラ”をその糸で平然と縫いに行きます。
この 現物(機械に掛かっている糸) と 画面(表示される糸色) のズレが、初心者の製品ロス(やり直し・廃棄)の最大要因です。
本ガイドでは、複雑に見えるメニューを「現場で再現できる手順」に分解します。ポイントは2つだけです。
- 針属性設定(Needle Attribute Setting):ミシンに「各針に何色が掛かっているか」を教える
- 手動割り当て(Manual Mapping):デザインの各色ブロックに「どの針で縫うか」を指定する
brother 6針 刺繍ミシン を初めて触る方にも、量産でスタッフ教育をする方にも、そのまま使える“安全手順”としてまとめました。

Part 1:針属性(Needle Attribute Setting)を開く
最初のステップは、ミシン内部の「針ごとの糸色メモリ」を開くことです。ここが合っていないと、画面のプレビューは平気で嘘をつきます。
設定アイコンを探す
ミシンの電源を入れてホーム画面を表示します。狙うのは 設定(Settings) メニューです。
- 見分け方(目印):下部にある「文字が書かれた紙」のようなアイコン(機種やファームにより見え方が多少違う場合があります)
- 操作:そのアイコンをタップして設定画面へ入ります

3ページ目へ移動する
設定メニューは項目が多く、速度や画面明るさなども並びます。必要な場所まで迷わず進みます。
- 操作:「次ページ」矢印でページを送る
- 目的地:3ページ目
- 確認:糸コーン(または色ブロック)が 1〜6 の番号付きで表示されていれば正解です
重要:針番号は“右→左”で数える 画面を触る前に、ミシンヘッドの針位置を実機で確認してください。
- 針1:一般的に 右側
- 針6:一般的に 左側
- つまずきポイント:本を読む感覚で「1は左」と思い込みやすいですが、Brother系は通常 右から左 にカウントします。ヘッド周りの刻印番号など、実機の表示を基準にしてください。感覚ではなく、機械の番号に合わせて管理します。

Part 2:画面上の糸色(仮想色)を設定する
ここでは、画面の糸色表示を「今ミシンに掛かっている糸」に合わせます。見た目のためだけではなく、後半の割り当て作業で「画面の色=実糸の色」として判断できる状態を作るのが目的です。
針番号を選択する
- 対象を決める:例として、実機で 針2 の糸を替えたとします
- 画面で選ぶ:画面上の 2 をタップ
- 選択確認:選んだ番号の周囲に 青い枠(ハイライト) が出ます
- チェックポイント:青枠が出ない場合は、選択が入っていません。青枠が出るまでしっかりタップします。

「Reset → 色選択 → Set」の手順(ここがミスの多発点)
この工程は、色を選ぶだけで終わりません。古い割り当てを消してから確定させます。リズムで覚えると事故が減ります。
- RESET:青枠が出ている状態で Reset を押し、既存の色設定をクリア
- SELECT:パレットから目的の色を選択
- 補足(色の精度):厳密な色合わせは不要です。たとえば「濃紺」を使うなら「濃い青」程度で十分。目的は“識別できること”で、色彩理論ではありません。
- SET:選んだら必ず Set を押して反映



注意:作業安全(手が可動域に入る前提で)
この手順は画面操作が中心ですが、実際の現場では糸替えや再糸掛けで針周辺に手が入ります。
- 針板の上にピンセットや糸切りバサミ等を置いたままにしない
- 長い髪・袖口などを巻き込まないよう固定する
- 物理的に再糸掛けが必要な場合は、誤作動を避けるためミシンを安全状態(ロック/セーフ相当の状態)にしてから作業する
“静かに失敗する”ポイント:保存(OK)を押し忘れる
パレットで色を選べていても、確定操作が抜けると設定は残りません。
- 操作:設定画面を閉じるときは OK を押して保存
- チェックポイント:「OKを押していない=保存していない」と覚えてください

準備チェック:現物と画面の一致確認(30秒)
設定画面を出る前に、短時間でズレを潰します。後工程の「謎の色」事故を防ぐための確認です。
- 画面位置:設定メニューの 3ページ目 で、1〜6が見えている
- 選択確認:1〜6を順にタップし、青枠が正しく移動する
- 色の一致:針1(右端)から順に、画面の色が実機のスプール色と大まかに一致している
- 保存:OK を押して設定を閉じた
- 消耗品の段取り(作業前の現場確認)
- ピンセット:糸端処理に使えるものが手元にある
- スタビライザー:素材に合った裏当てが用意できている(例:ニット=カットアウェイ、布帛=ティアアウェイ など)
- 照明:濃紺と黒など、近い色を見分けられる明るさがある
Part 3:デザインの色ブロックを針番号へ割り当てる(ロジックの橋渡し)
ここまでで、ミシンには「何色がどの針に掛かっているか」を教えました。次は、デザイン側に「どの針で縫うか」を教えます。
一般的な刺繍データ(DST / PES など)は、ステッチと色ブロックは持っていても、必ずしも「針番号」まで確定していません。デザインが「ステップ1:赤」と言っていても、その赤が針4に掛かっていることはミシンは知りません。ここを手でつなぎます。
家庭用から brother pr670e 刺繍ミシン に移行した方ほど、この手動割り当てが“多針機らしさ”であり、仕上がりをコントロールする要です。

色管理メニューを開く
- デザインデータを読み込みます
- End Edit を押して、刺繍待機(開始直前)の画面へ進みます
- 色管理のアイコン を探してタップします
- 目印:左右の矢印 と 紙が3枚 のようなマーク

既定割り当てを上書きする(手動割り当て)
このメニューでは、左側にデザインのステップ(色ブロック)が並び、右側に「そのステップが使う針番号」が表示されます。
- 例:花のステップが、既定で針1(白)になっている。しかし実際は針5に紫糸を掛けていて、花は紫で縫いたい。
- 操作:
- 左のリストで対象ステップ(色ブロック)を選択
- 右側の針番号から 5 を選ぶ
- 結果:そのステップの針番号表示が「1」から「5」に変わります
つまりミシンに対して、「既定は無視して、このステップは針5で縫え」と命令したことになります。


プレビューで視覚確認する
針割り当てを変更すると、画面のプレビュー表示も追従して変化します。
- チェックポイント:針5(紫)に割り当てたなら、プレビューの該当パーツが紫に見えるか
- 止める判断:もし意図しない色(例:緑)に見えるなら、その場で止めて原因を切り分けます。
- 針番号の選択を間違えた
- Part 2 の「針属性(仮想色)」が実糸と一致していない

セットアップチェック:開始前の最終確認(フライトプラン)
Start を押す前に、最低限ここだけは確認します。
- 画面遷移:End Edit で開始直前画面に入っている
- メニュー:矢印+紙の 色管理 メニューを開いた
- 全体確認:リストをスクロールして 全色ブロック を見た
- 針番号:各ブロックの針番号が、使いたい実糸の針と一致している
- プレビュー:完成イメージとして違和感がない
Part 4:なぜ手動割り当てが必要なのか(業務目線)
「なぜミシンが勝手に分かってくれないのか?」という疑問は自然です。しかし多針機のロジックは一貫しています。
ミシンのロジックと人の感覚は別物
ミシンは“判断”ではなく“割り当て”で動きます。brother pr 680w のような機種でも、初期設定は人が与える前提です。
- ミシンが分かること:「ステップ1は針3を使う」
- ミシンが分からないこと:「針3に青糸が掛かっている」
手動割り当ては、ロボットに正しい道順を与える作業です。ここを押さえると、仕上がりは“運”ではなく“再現性”になります。
段取り短縮:「固定パレット」運用
段取り時間を減らすため、現場では針の一部を固定運用にすることがあります。
- 針1:白固定
- 針6:黒固定
- 針2〜5:案件に応じて入れ替え
白・黒を固定すると、設定変更と確認の回数が減り、ミスの確率も下がります。
安定は“色”だけではない
色管理は頭の安定、枠張りは作業の安定です。色違いでやり直しが増えると、段取りが崩れて枠張りも雑になり、さらに事故が増えます。
もし段取りが重く感じるなら、物理側の道具も見直し対象です。量産現場では 刺繍用 枠固定台 を使って位置決めを標準化することがあります。また、クランプの負担を減らす目的でマグネット式の枠を選ぶケースもあります。
Part 5:よくあるミスと切り分け(トラブルシューティング)
製品を無駄にする前に、症状から原因を当てて最短で戻します。
| 症状 | ありがちな原因 | その場の対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 画面の表示色が合わない | 色を選んだが Set を押していない | 設定3ページ目へ戻り、Reset → 色選択 → Set | Setを押す動作を手順に固定する |
| 縫い上がりが色違い | デザイン側の針割り当て(手動割り当て)を確認していない | すぐ停止し、End Edit → 色管理 → 割り当て修正 | 開始前にプレビュー確認を必須化 |
| デザインが“適当な針”に割り当たる | データ仕様(例:DSTは色情報が弱い) | 各ステップを手動で割り当てる | DSTではこの挙動を前提に段取りする |
| 糸絡み(鳥の巣) | 上糸テンション/糸掛け不良 | 再糸掛け、ボビン周り確認 | 糸掛け時は押さえを上げて行う |
判断フロー:どこを直すべきか
不要な設定変更に時間を使わないための切り分けです。
- プレビューが、針と色の関係としてズレて見えるか?
- はい:針属性(設定3ページ目) を更新する(ミシンが「針1=赤」など誤認している)
- いいえ:次へ
- プレビューは概ね正しいのに、特定パーツだけ“使う針番号”が違うか?
- はい:手動割り当て(End Edit → 色管理) を修正する
- いいえ:開始前チェックへ


最終確認:ゼロ不良でスタートするために
設定と割り当てが終わったら、すぐに開始せず、最後に60秒だけ品質ゲートを通します。
注意:マグネットの安全管理
マグネット刺繍枠 を運用する場合は、磁力を前提に安全管理してください。
- 医療機器:強い磁石は医療用インプラントから距離を取る
- 挟み込み:強い力で吸着するため、指をフレームと磁石の間に入れない
- 電子機器:LCD画面やスマートフォン等に近づけすぎない
運用チェックリスト
- 糸の最終確認:糸端が絡んでいない/糸道がクリア
- 下糸(ボビン糸):残量は十分か(途中で切れると品質が崩れる)
- 枠の固定:枠が確実に装着されている(装着感を確認)
- 現場のコツ:枠を軽く揺すってガタがほぼ無いことを確認する
- 補足:厚物や完成品で通常枠が滑る・外れる・枠跡が出やすい場合、brother 用 マグネット刺繍枠 のような選択肢を検討することがあります
- 干渉:背面や周囲に布溜まり・壁などの障害がない
- トレース:枠に当たらないことをトレース機能で確認
旧機種・中古導入時の補足
古い機種や中古機を運用する場合は、枠の取り付け規格差に注意します。たとえば brother pr600 刺繍枠 は取り付けブラケット形状が異なる場合があります。開始前に装着クリアランスを必ず確認してください。
まとめ
多針機の色管理は「信じる、ただし確認する」です。
- 信じる:ミシンは指示通りに正確に縫う
- 確認する:その指示(糸色と針割り当て)を、こちらが正しく与えている
針属性設定(画面上の真実) と 手動割り当て(デザインへの指示) を押さえれば、色違いは“たまたま”ではなく“管理”で防げます。
糸をセットし、針を割り当て、安心して回しましょう。主導権はあなたにあります。
