目次
Honpo CEシリーズの糸掛けを“作業手順”として理解する
業務用の多針刺繍機を初めて立ち上げたとき、ワクワクと同時に「糸道が複雑すぎる…」と感じるのは自然なことです。家庭用の単針機と違い、業務機の糸道は“針に通ればOK”ではなく、高速で縫うための制御系として設計されています。
Honpo CEタイプのヘッド(同等クラスの 15本針 刺繍ミシン)では、ガイド・テンションディスク・センサー・天秤(テイクアップレバー)など、すべてが「高速縫製時に糸を安定させるためのチェックポイント」です。どれか1か所でも抜けると、糸切れ/鳥の巣/縫い目の乱れが一気に増えます。
マシン刺繍の現実: マシン刺繍は“感覚”だけでなく、テンション(張力)・摩擦・速度の物理で結果が決まります。このガイドでは、動画の手順を「毎回再現できる作業フロー」に落とし込み、迷いを減らします。
このガイドで扱う内容:
- 糸道をまっすぐ通すための考え方(糸がどこで抵抗を受けるか)
- スレッダー用ワイヤー(糸通しフック)の使い方
- 正しく通ったときの“手応え/見え方”の確認ポイント
- 初回はスピードを控えめにして糸道確認を優先する考え方(例:600–700 SPM)

必要な道具:スレッダー用ワイヤー(糸通しフック)
業務機では、段取りの速さ=生産性です。上部の長いガイドチューブに、柔らかい糸をそのまま通そうとすると時間がかかり、糸先が毛羽立って余計に通りにくくなります。
動画では、工具箱に入っていることが多いスレッダー用ワイヤー(糸通しフック)を使って、ガイドチューブを確実に通しています。ここは“慣れ”ではなく、標準手順として道具を使うのが業務向きです。


準備の段取り(動画で触れている範囲で、作業を止めないための事前確認)
糸掛け中に手が止まる原因は、だいたい「糸先が通らない」「道具が見当たらない」「順番が分からなくなった」です。動画の流れに沿って、最低限ここだけ整えてから始めるとスムーズです。
- 糸コーンを所定の位置に置き、糸端を十分に引き出しておく
- 糸先は毛羽を落として“通る形”にしておく(先端が広がっているとガイド穴で止まります)
- スレッダー用ワイヤーを手元に置く(工具箱から取り出しておく)
- 針番号の順番(1–15)を意識して、どの色をどの針に通すか把握しておく
注意: 機械安全。 糸掛けは必ず機械が動かない状態で行ってください。業務用ヘッドの可動部(特に天秤周辺)は力が強く、巻き込みの危険があります。手や袖、アクセサリー、髪の毛が可動部に近づかないようにしてください。
また、量産の現場では 枠固定台 のように段取りを標準化して効率を上げる発想が一般的です。糸掛けも同じで、「毎回同じ順番・同じ確認」で再現性を作るほど、糸切れと停止が減ります。
Step 1:糸立て(上部ラック)からの取り回し
この工程は、糸の“引き出し抵抗(ドラッグ)”を最小にするためのスタート地点です。コーンから最初のガイド穴までが引っ掛かっていると、その後どれだけ丁寧に通しても糸切れの原因が残ります。

作業手順(動画の順番)
- 糸コーンをスタンドに安定して置きます。
- 糸端を真上に引き上げます。
- 上部の金属ラックにある、該当の穴へ糸を通します(動画では赤いラインで経路が示されています)。
チェックポイント(次へ進む前の確認)
- まっすぐ上がっているか(見た目): 糸が左右に大きく斜めになって穴へ向かう場合、コーン位置が違う可能性があります。
- 引き出しがスムーズか(手応え): 糸を少し引いて、引っ掛かりや擦れる音がないか確認します。
ここまでの到達状態
糸が「まっすぐ・抵抗少なく」供給される状態になります。業務機は振動もあるため、糸が隣の支柱や金具に触れていると、長時間運転で擦れて糸切れにつながります。
事業用途で honpo 刺繍ミシン を検討している場合でも、まずはこの“直線の糸道”を作れるかが、安定稼働の土台になります。
Step 2:ガイドチューブを通す(スレッダー用ワイヤー使用)
ガイドチューブは、糸が絡んだり、風(空調)で暴れたりするのを抑える役割があります。ここを雑に通すと、チューブ内で糸が引っ掛かってテンションが不安定になります。


作業手順(動画の順番)
- 上部ラックからテンション部へつながる白い樹脂チューブをいったん外します。
- スレッダー用ワイヤー(糸通しフック)をチューブに通します。
- 反対側で糸をフックに掛けます。
- ワイヤーを引き抜き、糸をチューブ内へ通します。
- チューブを元の位置に戻し、しっかり固定します(動画では外してから“はめ戻す”動作が確認できます)。
チェックポイント
- チューブが確実に戻っているか(見た目): 途中までしかはまっていないと、振動で外れたり、異音の原因になります。
- 糸が軽く動くか(手応え): 糸を前後に少し動かし、チューブ内で引っ掛かりがないことを確認します。
ここまでの到達状態
糸がねじれず、絡まず、テンション部まで安定して届く状態になります。
現場のコツ: 15本針 刺繍ミシン のような多針機は、色数分だけ同じ作業を繰り返します。ワイヤー工具は「探す」だけで段取りが止まるので、工具箱に戻す前に置き場所を決めておくと効率が上がります(動画でも工具箱に入っている道具を使うと説明されています)。
Step 3:テンション部〜センサー/チェックばね〜天秤(テイクアップレバー)
ここが糸掛けの要です。初心者のつまずきは、ほとんどが「テンションディスクに糸が入っていない」「天秤に通っていない」「センサー周りの通し方が違う」のどれかです。



Part A — メインテンションノブ(動画の順番)
- 針番号の順番(1–15)に沿って糸道を確認します(動画では番号表示が出ます)。
- 糸を黒いテンションノブ(テンション部)へ下ろします。
- 糸をノブ周りに時計回りに一周させ、テンションディスクの間に確実に入るようにします(動画では手で一周巻き込む動作が見えます)。
チェックポイント
- ディスクの“間”に入っているか(見た目+手応え): ただ触れているだけだとテンションが掛からず、縫い始めで鳥の巣になりやすいです。
- 引いたときの抵抗が一定か(手応え): 極端に軽い/極端に重い場合は、通し方がずれている可能性があります。
Part B — センサー(小さなガイドホイール)と天秤(テイクアップレバー)
動画では、糸を小さな金属のガイドホイール(センサー周辺)に回し、その後に天秤へ上げています。ここは急ぐと外れやすいので、ゆっくり確実に行います。

作業手順(動画の順番)
- 糸を小さな金属ガイドホイール/ローラーの下へ通します。
- 糸をまっすぐ上へ引き上げ、天秤(テイクアップレバー)へ持っていきます。
- 天秤の穴(または切り欠き)に糸を通します(動画では右から左に通す動きが示されています)。
- そのまま糸をまっすぐ下へ下ろします。
チェックポイント
- 天秤の穴に確実に入っているか(見た目): ここを外すと、縫い始めで一気に糸がたるみ、絡み(鳥の巣)が出やすくなります。
- センサー周辺で糸が外れていないか(見た目): 糸がホイールに“掛かっている”状態になっているか確認します。
ここまでの到達状態
テンションが“閉じた系”として成立し、機械が縫い目を締められる状態になります。
補足: 速度を上げる前に、まずこの区間(テンション〜天秤)を正しく通せているかを優先してください。ここが安定すると、糸切れと停止が目に見えて減ります。
Step 4:下側ガイド〜針穴(最終の糸掛け)
ここからは小さなガイドが連続します。動画でも、ヘッド前面を縦に下りながら複数のガイドを順に通し、最後に針穴へ通しています。



Part A — 下側ガイドと針棒周辺
- ヘッド前面のガイドを、上から順に通していきます。
- 途中のガイドを飛ばさず、縦方向にまっすぐ下ろします。
- 針元の直前にある小さなガイド穴(針止め付近の上)にも通します。
チェックポイント
- 糸が縦に素直に落ちているか(見た目): 糸がどこかに巻き付いて“ねじれ”が出ていないか確認します。
Part B — 針穴へ通す(動画の順番)



作業手順(動画の順番)
- 必要に応じて、スプリング式の糸押さえ(ロック)を押さえて糸を安定させます(動画で指で押さえる動作があります)。
- 針穴に、手前から奥(前→後)へ糸を通します。
- 糸端を引き出して完了です。
チェックポイント
- 通す方向(前→後): 方向が違うと通しにくく、縫い始めの糸抜けにもつながります。
- 糸端が短すぎないか: 短いとスタート直後に抜けやすいので、少し余裕を残します。
現場のコツ — 枠跡(枠跡/枠跡が残る問題): 糸掛けが完璧でも、仕上がりで生地に枠跡が残ることがあります。これは従来の樹脂枠で強く張りすぎたときに起きやすい現象です。
- 対策として、素材に合わせて枠の締め具合を見直すことが基本です。
- 刺繍枠を探す際に ミシン刺繍用 刺繍枠 のようなキーワードで情報収集する方も多いですが、用途によってはマグネット式など別方式も検討対象になります。
注意: マグネットの安全。 強力なマグネット式の刺繍枠は指を挟む危険があります。取り扱い時は指先の位置に注意し、保管時は不用意に吸着しないようにしてください。
まとめ
業務用刺繍機の糸掛けは、慣れよりも「順番」と「確認」で安定します。動画の流れどおりに、コーンから針穴までの糸道を一つずつ“通った状態”にしていけば、糸切れや鳥の巣の多くは防げます。
ゴールデンルート(再確認):
- コーン→上部ラック: まっすぐ、引っ掛かりなし。
- ガイドチューブ: ワイヤーで確実に通し、固定も確実に。
- テンション: ディスクの間に入れる。
- 天秤: 穴に確実に通す(右→左)。
- 針穴: 前→後。

運転前の5秒チェック(停止を減らすための最小確認)
- 糸道の見直し: テンション部と天秤に確実に通っているか。
- 糸の引き抵抗: 引いたときに“効いている”感触があるか。
- 周辺クリアランス: 可動部に糸が絡みそうな箇所がないか。
- 速度: まずは控えめの回転数(例:600–700 SPM)で様子を見る。
スタビライザー選び(シワ・波打ちを減らす考え方)
糸掛けが正しくても、スタビライザー(刺繍用の安定紙/安定材)の選択が合っていないと、シワ(パッカリング)が出やすくなります。
- 伸びる生地か?(Tシャツ、ポロ、ニット)
- 判断: カットアウェイ系が基本。
- 伸びにくい生地か?(デニム、キャンバス、キャップなど)
- 判断: ティアアウェイ系も選択肢。
- 毛足があるか?(タオル、フリースなど)
- 判断: 上に水溶性フィルムを追加して沈みを抑える。
おすすめ 刺繍ミシン 初心者向け を探している段階でも、将来的に色数や素材が増えることを想定し、標準的な消耗品(針・糸・刺繍枠)で運用できる環境かどうかを確認しておくと安心です。
トラブルシュート(症状 → ありがちな原因 → 対処)
問題が出たら、焦らず「物理(通っているか)→糸道→設定」の順に確認します。
| 症状 | ありがちな原因(物理/糸道) | すぐできる対処 |
|---|---|---|
| 鳥の巣(生地裏の絡み) | 上糸テンションが掛かっていない | テンションディスクに入っているか、天秤に通っているかを中心に Step 3 を通し直す |
| 糸が毛羽立つ/切れる | 針穴周辺の引っ掛かり、糸道のどこかで抵抗 | 下側ガイド〜針穴(Step 4)をゆっくり通し直し、糸が擦れていないか確認 |
| 針が折れる | 枠や金具への干渉、縫い密度が高い | 枠位置と干渉を確認し、必要ならデザイン密度も見直す |
| 縫い始めに糸が針から抜ける | 糸端が短い | 糸端を少し長めに残し、縫い始め数針は糸端を軽く保持する |
| 生地に枠跡が残る | 枠の締めすぎ | 張り具合を見直し、素材に合わせて固定方法を調整(必要に応じて別方式の枠も検討) |
「良い糸掛け」の目安
糸掛けが合っていると、運転音が安定し、異音や糸のバタつきが減ります。まずは低速で縫い、問題がないことを確認してから速度を上げていくのが安全です。
また、作業環境が整ってくると 刺繍用 枠固定台 のような段取り設備を検討する方もいます。糸掛けも同様に、手順を固定して再現性を上げるほど、停止と手戻りが減り、結果として生産が安定します。
良い刺繍を。
