目次
専用キルティングフープを使う理由
一般的な内枠/外枠タイプの刺繍枠で、キルトサンド(トップ+キルト綿+裏布)をそのまま枠張りしようとすると、厚みが邪魔をして噛み合わせが不安定になり、層がずれたり、狙ったブロックがわずかに回転したりしがちです。
動画では、Janome Continental M17向けの専用キルティングフープ(ASQ27系に近いアクセサリー)を使用しています。取り付け自体は通常の刺繍枠と同様ですが、構造は「一体フレーム」。厚手を無理に押し込むのではなく、(1) まずラフに置く → (2) テンプレートで正確に合わせる → (3) クリップでロックする、という順番で作業を分離できるのがポイントです。

厚手キルトの枠張りが難しい理由
キルトサンドは、キルト綿の“かさ(ロフト)”で押すと沈み、裏布はテーブル面との摩擦が大きくなりやすい、という性質があります。この組み合わせだと、通常の刺繍枠で一度はめ込んだ後に「1mmだけ動かす」といった微調整がほぼできません。結果として、やり直し(枠から外して最初から)が増えます。
一体フレームのメリット
一体フレームでは、内枠を押し込む作業がありません。キルトをフレーム上に“かぶせる”→テンプレートで視覚的に直角・平行を出す→クリップで固定、という流れになるため、「合わせる工程」と「固定する工程」を分けて考えられます。厚物ほど、この分離が効きます。
枠跡(枠焼け)を抑える考え方
内枠/外枠タイプは、リング同士の圧縮と摩擦で固定するため、素材によっては枠跡が出やすくなります。キルトは比較的許容度が高いものの、ロフトの高いキルト綿を強く潰すと、繊維が寝て戻りにくくなることがあります。一体フレーム+クリップ固定は、強い面圧で押し潰す領域を小さくしやすいのが利点です。
この「強く押し込む」ではなく「上からクランプする」発想は、他の現場でも役立ちます。たとえば、厚手バッグや衣類刺繍で作業負担を下げたい場合、マグネット刺繍枠を検討する人が多いのは同じ理屈です。
Step 1: キルトサンドの位置出し(ラフ合わせ)
ここは「速く、だいたい合っていればOK」の工程です。最初から完璧を狙うと、手が止まりやすくなります。まずは“下準備としてのセンター出し”を作ります。

キルトをかぶせる
- フープ(フレーム)を平らに置く(大きめのテーブルが理想)。
- キルトサンドをフレームにかぶせる(トップ・キルト綿・裏布をまとめて)。
- 手のひらで軽くならす(フレーム脚の下に生地が噛み込んでいないか確認)。
想定される状態: キルトはフレーム上に“ふわっと”乗っており、まだ動かせる余裕(たるみ)が残っています。
「触感チェック」でセンターを探る
動画では、厚みで枠が見えにくい前提で、手の感覚でフレームの縁を探しています。

チェックポイント(感覚の目印):
- 触感: キルト表面の上から、フレームの硬い縁(段差)が指先に当たるか。
- 目視: その縁の間に、狙っているブロックがだいたい中央に来ているか。
よくあるつまずき: 作業台が狭く、キルトが台から垂れている状態で合わせようとすること。重みで引っ張られ、手を離した瞬間にセンターがずれます。できるだけキルトの重量をテーブル上で支えてください。
現場のコツ: この段階でドラムのようにピンと張らないこと。厚手は特に、無理に引っ張るとバイアス方向が先に伸び、枠から外した後に戻って「四角がひし形に見える」原因になります。まずは“フラットに寝かせる”が優先です。
Step 2: テンプレートで精密な位置合わせ
触感チェックで近づけたら、透明テンプレート(プレキシ板)が「だいたい」を「正確」に変えてくれます。動画では、テンプレートの左右表示(Left/Right)を確認するのが重要だと強調されています。

プレキシ(透明)テンプレートを置く
- テンプレートをキルトの上に置く(フレーム内のエリアに収める)。
- 向きを確認する: テンプレートの Left/Right 表示を見て、正しい面・向きで置けているか確認します。
想定される状態: グリッド(格子)がキルトのブロックやサッシングの上に重なって見え、平行・直角の基準が取れます。
グリッドとサッシング(縫い線)を平行に合わせる
動画では、テンプレートを置いた瞬間に「サッシングがグリッドと平行ではない」ことに気づき、すぐ修正しています。ここを見逃すと、仕上がりが斜めになります。

チェックポイント:
- 目視: グリッドの縦横線が、ブロックの縫い線/サッシングと平行になっているか。
- 確認の姿勢: 柄に惑わされやすいので、できるだけグリッドを基準に判断します。
「シミー(ずらし)」で微調整する
重いキルトを持ち上げて合わせ直すと、位置が飛びやすくなります。動画の核心は、持ち上げずに“滑らせて”合わせることです。

手順(動作優先):
- テンプレートに軽く体重を乗せる(手のひらで面圧をかける)。
- テンプレートごとキルトをわずかにずらす(グリッドと縫い線が一致するまで)。
想定される状態: ブロックがフレームに対して正確にスクエア(直角・平行)になり、縫い始めの基準が取れます。
補足(なぜ効くか): 上から押さえることで、トップ・キルト綿・裏布が局所的に一体化し、層間ズレを起こしにくい状態で全体を“まとめて”動かせます。
Step 3: クリップで固定(枠張りの決定打)
ここが一番ずれやすい工程です。合わせた位置を保ったまま、クリップでロックします。
無理なく圧をかけ続ける
動画では、テンプレートに圧をかけたまま手を移動させています。テンプレートから手を浮かせないのがコツです。

チェックポイント:
- 触感: 手のひらでフラットに、一定の圧がかかっているか。
- 目視: 手を移動した瞬間に、グリッドと縫い線が「跳ねて」ずれていないか。
リテンション(固定)クリップを取り付ける
動画では、片側を留めてから反対側へ移り、位置を保ったまま固定しています。




手順(ロックの順番):
- 圧を保持: 片手(または両手)でテンプレートを押さえ続けます。
- 手前側を留める: 手前のフレーム縁にクリップをはめ込みます(しっかりはまった感触があるまで)。
- 手を移動: 圧が抜けないように手を“歩かせて”反対側へ。
- 奥側を留める: 反対側も同様にクリップで固定します。
- (可能なら)フレーム仕様に応じて、残りの辺も追加クリップで固定し、中央のたわみを抑えます(動画では最小構成のデモ)。
想定される状態: キルトサンドがフレームにロックされ、外側を軽く引いても中央のブロック位置が動きません。
テンションを均一にする考え方
キルティングでは、目標は「ピンと張る」ではなく「フラットでニュートラル」です。構造物としてのキルトを、伸ばさずに支えるイメージで。
不具合の芽を潰す: クリップ後に斜めのシワ(引きつれ)が見えたら、クリップを留める際にどこかを引っ張った可能性があります。いったんクリップを外し、ならしてから留め直します。
アップグレード検討(作業量の目安):
- この方法が向くケース: 1ブロック単位で狙い位置に正確に入れたいカスタム作業。テンプレート合わせの精度が強みです。
- 別解を検討したいケース: 量産で着脱回数が多く、クリップ操作がボトルネックになる場合。用途によっては、マグネット刺繍枠のような“上からクランプして素早く固定する”方式が作業負担の軽減につながります。
刺繍(縫い)前の最終チェック
固定できたら、テンプレートは必ず外します。テンプレートを入れたまま縫うのは厳禁です。

テンプレートを外す
- プレキシ(透明)テンプレートを持ち上げて取り外す。
- 枠内に異物がないか確認(糸くず等)。
想定される状態: フレーム内には固定されたキルトサンドだけが残り、ミシンに装着できる状態です。
張り具合の確認
動画では、最終的に“しっかり固定できている”ことを確認しています。

チェックポイント(感覚):
- 触感: 中央を軽く叩いて、支えがある(沈み込みすぎない)感触か。
- 裏側確認: 可能なら裏側も見て、もたつきや巻き込みがないか確認します。
ミシンへの装着準備
動画では「通常の枠と同じように装着できる」と説明されています。厚手で重量が出るため、ミシン周りのスペース確保も意識してください。

判断の目安: キルトサンドの保持方法
- ケース1: 厚手キルトサンド(トップ+キルト綿+裏布)
- 目的: 特定ブロックに正確に入れる。
- 最適: 動画の専用キルティングフープ。
- 理由: クリップが厚みを許容し、テンプレートで直角・平行が出せる。
- ケース2: 衣類・デリケート素材・厚手タオル等
- 目的: 枠跡を抑えつつ、枠張りを楽にする。
- 選択肢: マグネット式の刺繍枠。
- 理由: 上からクランプするため、リング圧縮の負担を下げやすい。
- ケース3: 高頻度の着脱がある作業
- 目的: 位置再現性とスピード。
- 選択肢: 枠固定台+マグネット枠など。
- 理由: 位置決めを標準化しやすく、作業者の疲労を抑えやすい。
比較: クリップ方式 vs 一般的な刺繍枠
動画の締めの要点は、テンプレートが「固定前に正しさを確認できる基準」になることです。一般的な枠張りは、締め込むまでズレに気づきにくいのが難点です。

使いやすさ
- テンプレート+クリップ: 確認してから固定(精度高め/スピード中)。
- 内枠/外枠: 合わせる→押し込む→ズレる→やり直し(厚物ほど難度が上がる)。
重量物での安定性
キルトは重いので、外周の重みが中心部を引っ張ります。クリップ固定は、厚みを活かして機械的にロックしやすく、中心のズレを抑えやすいのが利点です。
補足(見落としがちな失敗要因): キルトの自重は常にズレ方向に働きます。大判キルトを小さなテーブルから垂らした状態で作業すると、どんな枠でも引っ張られます。椅子やアイロン台、テーブル拡張などで重量を支えてください。
ツールの位置づけ(作業性の改善)
キルトが趣味の範囲なら、クリップ方式はとても合理的です。一方で、作業量が増えたり、手指の負担が気になったりする場合は、段階的に道具を見直すと効率が上がります。
- 消耗品の見直し: 針や糸の状態が悪いと、厚物で針が逃げやすくなります。
- 枠の見直し: クリップ操作が負担なら、マグネット式など“押し込まない固定”を検討。
- 運用の見直し: 着脱回数が多いなら、枠固定台で位置決めを標準化する。
準備(開始前): 見落としがちな消耗品とチェック
成功はフープだけで決まりません。周辺条件を整えるほど、ズレとやり直しが減ります。
用意するもの(基本)
- Janome用キルティングフープ(一体フレーム)。
- 透明テンプレート(フープに対応するもの)。
- クリップ(最低2、可能なら4)。
- キルトサンド(トップ・キルト綿・裏布を組んだ状態)。
チェックリスト — 準備(事前点検)
- テンプレートの向き: Left/Right 表示を確認できるか。
- キルトの支持: キルトの重量をテーブル上で支えられるか。
- 作業面: フレームを平らに置けるスペースがあるか。
セットアップ(再現性を上げる配置)
「手を伸ばす」より「体を寄せて押さえる」配置にすると、ズレが減ります。
実務的な習慣
- クリップは先に手元へ置いておく(押さえたまま取れる位置)。
- テンプレートは汚れを拭き、グリッドが見えやすい状態にする。
- 大判キルトは、先にテーブル上へ“ためて”から合わせる。
キルトが滑って合わせにくい場合、ミシン刺繍 用 枠固定台のような治具を検討する、という考え方もあります(作業中の保持が安定しやすい)。
チェックリスト — セットアップ(クリップ前):
- テンプレート向き: Left/Right は正しいか。
- 平行確認: グリッドとサッシングは平行か。
- たるみ: 周囲に動かせる余裕があるか。
- 姿勢: 無理なく反対側まで手が届くか。
運用(枠張り→固定→縫い始め)
手順まとめ
- かぶせる+触感チェック: フレーム縁を触ってラフにセンター出し。
- テンプレート+シミー: 押さえて微調整し、グリッドに合わせる。
- 押さえたまま固定: 手前→反対側の順でクリップ。
- テンプレートを外して装着: クリアになったらミシンへ。
チェックリスト — 運用(スタート前):
- テンプレートは外したか(最重要)。
- クリップは確実に掛かっているか(軽く揺すって確認)。
- キルトの逃げ場: ミシン周りでキルトが引っ掛からないか。
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | 主な原因 | すぐできる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 縫い上がりが斜め | クリップ固定中にズレた。 | 位置を取り直す(必要ならほどく)。 | テンプレートを押さえたまま固定し、シミーで合わせてからロック。 |
| 片側だけ緩い/沈む | クリップの掛かりが不均一。 | クリップを外して再度スクエアにして留め直す。 | 反対側を先に留めるなど、対向でテンションを作る。 |
| シワが入る | 固定時にどこかを引っ張った。 | クリップを開けてならし、留め直す。 | ラフ合わせ段階で張らず、フラット優先。 |
| 針がすぐ折れる | フレームやテンプレートに干渉。 | 針交換後、干渉物がないか再確認。 | テンプレートを外したかを最終確認し、枠位置も再チェック。 |
| クリップが指に負担 | テンションが強く、指先で操作している。 | 指先ではなく手のひら側で押し込む。 | 作業負担が続くなら、マグネット式の枠なども検討。 |
仕上がり(得られる結果)
動画の手順どおりに進めると、厚手キルトの枠張りが「力技」ではなく、再現性のある作業になります。流れは かぶせる → シミーで合わせる → クリップで固定。一体フレームでキルト綿を過度に潰しにくく、透明テンプレートで直角・平行を“固定前に”確認できるため、狙ったブロックに安定して入れやすくなります。
