目次
電源投入と初期準備
Janome Memory Craft 11000を箱から出したばかり、またはご家族から譲り受けたばかりだと、「楽しみ」と「触ったら壊しそう」の不安が同時に来るのは自然なことです。マシン刺繍は経験値がものを言う作業で、MC11000は精密機器です。
最初の10分でつまずかないコツは、「早く縫う」ことよりも、まずは安全確認を“手順通り”にやること。ここでは、動画で示されている電源投入の物理的な順番をそのまま追いながら、初期トラブルの代表例(糸絡み/針折れ/キャリッジの干渉)を避けるための見落としやすい準備ポイントも一緒に整理します。

安全な電源接続(「想定外ゼロ」の順番)
電気と針の動作が絡むため、順番を固定して作業するのが基本です。動画と同じ順で行ってください。
- 電源スイッチがOFFになっていることを確認。(「O」側が押し込まれている状態)
- フットコントローラーのプラグを本体側面の差し込み口へ。
- 電源コードを本体へ。
- コンセントに差してから電源スイッチをON。
動画内でも触れられている通り、MC11000はオートボルテージで 100–240V に対応します。変圧器の有無よりも、通電状態でケーブルを抜き差しすることがトラブル(スパークや接触不良)の原因になりやすい点に注意してください。
追加糸立て(補助スプールピン)は「時短の基本装備」
動画では追加スプールピン(補助糸立て)を取り付けています。一見オプションに見えますが、作業効率の面では重要です。

補足(理由): 現場では、上糸の経路はむやみに外しません。ボビン巻きのたびに上糸を外すと、糸掛けミスやテンションの再現性低下につながります。追加スプールピンを使ってボビンを巻けば、上糸の糸掛けを維持したまま段取りできます。
ボビンを正しく巻く
ボビンの状態は刺繍品質の土台です。上糸の見た目が緩い/ループが出る場合でも、原因が「ボビンの巻き不良」というケースは少なくありません。動画の糸道はシンプルですが、巻きの安定はテンションディスクに確実に掛けるところで決まります。

ボビン巻き手順(動画準拠)
- 糸をスプールピンにセット。
- 糸を糸案内に通す。
- 重要: 糸をテンションディスクの下に通す。
- ボビンの穴に、内側から外側へ糸を通す。
- ボビンをボビンワインダー軸に差す。
- ボビンワインダーのストッパーを左へ(カチッと入る)。
- ボビン巻きボタンを押す。
- 仕上げの整え: 数層巻けたら一度止め、穴の近くの糸端を短く切る。ここを省略しないでください。 糸端が残ると、後でボビンケース側で引っ掛かりの原因になります。
- もう一度ボタンを押して最後まで巻く。満巻で自動停止したら、ボビンを外し、カッターで糸を切る。
ボビンを入れる(「P」の向きルール)
動画で示されている向きが正解です。逆向きに入れるとテンションがかからず、すぐに糸絡みになります。
- 電源をOFF。
- 糸の出方がアルファベットの「P」の形になる向きでボビンを持つ。
- 糸が反時計回りに出る向きでボビンケースに入れる。
- 糸を手前の切り欠きAへ。
- 左へ引き、テンションバネの間に滑り込ませる。感触チェック: ここで軽い抵抗(引っ掛かり)があるのが正常です。
- そのまま軽く引き続け、糸が側面の切り欠きBに入るまで導く。
- 糸を約10 cm(4 in)後ろへ引き出し、釜カバー(フックカバープレート)を戻す。

チェックポイント(感触で確認)
- 触感チェック: 巻き上がったボビンを軽く押してみて、硬く締まっている(コインのような感触)こと。フワフワする場合は、テンションディスクに正しく掛かっていない可能性が高いです(上の手順3)。
- 見た目チェック: 巻き形状が片寄らず、きれいな円筒になっていること。片側が盛り上がる(ドーム状)場合は巻きが不安定です。
補足刺繍は高速で動作します(動画では刺繍速度 800 SPM の表示例があります)。巻きが柔らかいと下糸の出が不均一になり、表側にループが出たり、縫い目が乱れやすくなります。
糸掛けと自動糸通しガイド
糸掛けミスは「機械の不調」に見えますが、実際は手順の差で起きることが多いポイントです。動画の上糸経路に沿って進めつつ、最重要ルールはこれです:押さえが上がった状態で糸掛けする。
上糸の糸掛け(動画の順番)
- 電源をOFF。
- 重要: 押さえを上げる(テンション皿が開きます)。押さえが下がったままだと糸がテンションに入らず、実質テンションゼロになります。
- 糸をスプールから引き出す。
- 糸案内板の下を通す。
- 右側の溝(右チャンネル)に沿って下へ。
- 案内板を回して上へ上げ、左側の溝(左チャンネル)へ。
- 天秤の穴に右から左へ通す(確実に穴に入っていること)。
- 左チャンネルに沿って下へ。
- フェイスプレート下の糸案内、針棒付近、針止めまで通す。
自動糸通し(機構に任せる手順)
- 電源をON。
- 針上下ボタンを2回押し、針が最上位置にある状態にする。
- 押さえを下げる(糸が安定しやすくなります)。
- 自動糸通しボタンを押して機構を下ろす。
- 糸をガイドに沿わせ、糸通しフックに掛ける。
- 左方向へ引き、スリットに通す。
- 内蔵カッターで糸を切る。
- もう一度自動糸通しボタンを押し、針穴に糸ループを引き出す。

下糸を引き上げる(動画の手順)
押さえを上げ、上糸端を軽く押さえながら針上下ボタンを2回押します。下糸のループが上がってくるので、上糸と下糸(ボビン糸)を10 cm(4 in)、押さえの下を通して後ろへ流します。
チェックポイント(抵抗の差で確認):
- 押さえ上:上糸を引くと、ほぼ抵抗なくスッと動く。
- 押さえ下:上糸を引くと、明確な抵抗が出る。
抵抗の差が出ない場合、テンション皿に糸が入っていない可能性が高いので、押さえを上げた状態から上糸を掛け直してください。
通常縫い(Ordinary Sewing)画面の基本操作
MC11000のビジュアルタッチスクリーンは、縫い模様選択を迷いにくくする設計ですが、慣れないうちは階層で迷いがちです。動画では「Quick Reference」タブから一直線に選んでいます。

縫い模様を選ぶ(動画の流れ)
- Quick Referenceタブを押してメニューを開く。
- ページキーで目的のページへ。
- 一覧を押すと、模様選択ウィンドウが開く。
- 模様キーを押して選択。
設定を調整する(基準値を知る)
動画では、調整画面で代表的な値が表示されています。機械側で最適化されますが、基準を知っておくと不調時の切り分けが速くなります。
- ジグザグ幅: 表示例 7.0
- 縫い目長さ: 表示例 0.40
- 伸縮率(Elongation): 表示例 X 1
- 糸調子(テンション): 表示例 2.2

調整後は OK で確定します。現場のコツ: 迷ったら Default を積極的に使って初期値へ戻してください。設定を触りすぎて品質が崩れたときの「復帰ボタン」になります。
模様を組み合わせる(動画の例)
- Program を押す。
- 模様 S10 と S5 を選ぶ。
- Mirror Image を押して S10 をもう一度選び、左右対称にする。
- Autolock stitch を選ぶ(縫い終わりのほつれ止め)。
刺繍モードへ切り替える
ここからはミシンが「刺繍機」に変わる段取りです。キャリッジは刺繍枠を動かす機構なので、無理に動かさないのが鉄則です。

刺繍モード切替(手順)
- 電源スイッチをON。
- 画面上下ボタンでLCD画面を上げる(作業スペース確保)。
- 背面左側のキャリッジ解除レバーを押し下げて保持。
- キャリッジアームを外側へ開き、最後まで伸ばしてロックさせる。
- 画面の Embroidery Mode を選ぶ。
- 警告メッセージが出たら OK。
- キャリッジが枠取り付け位置へ自動移動。
キャリッジと刺繍枠のセット
動画では、ピン位置を合わせてノブで固定する標準手順が示されています。ここは枠張り作業の入口で、慣れないと「締めにくい」「ズレる」などが起きやすい工程です。

刺繍枠を取り付ける(動画の手順)
- 刺繍枠コネクタのピンを、キャリッジアーム側の穴に合わせる。
- 奥までしっかり差し込む。
- 黒いノブを時計回りに回して固定する。
枠サイズの選択
画面上でデザインが枠サイズ別に分類されます。基本は「デザインが入る最小枠」を選ぶほど安定します。
- ST: 126×110 mm
- SQ: 200×200 mm


枠張りの考え方(シワ=パッカリングを減らす)
動画は機構中心ですが、枠張りの狙いは「均一に押さえて、シワを残さない」ことです。
- 外枠のネジを緩める。
- スタビライザー(刺繍用の安定紙)と生地を外枠の上に置く。
- 内枠を外枠に押し込む。
- 生地端のシワを整えながらネジを締める(目を伸ばしすぎない)。
- 確認: 生地面を軽く叩き、たるみがない状態にする。
ツールの見直し:枠跡・手首負担の軽減
標準枠はリングで挟み込むため、素材によっては枠跡が残りやすく、ネジ締めの繰り返しで手首に負担が出ることがあります。作業量が増えるほど、段取りのボトルネックになりがちです。
- つまずきポイント: 厚物や筒物、滑りやすい素材で枠が安定しない/枠跡が気になる。
- 見直しの目安: 週に10点以上など、枠張り回数が増えてきたら、magnetic embroidery hooping station のような段取り改善の考え方で治具や枠周りを見直す価値があります。
- 選択肢: 現場では マグネット刺繍枠 のように、磁力で面を押さえる方式へ移行する例もあります。
- レベル1(手法): 粘着系スタビライザー等で「浮かせ貼り」を併用する(対応は可能だが段取りが増える)。
- レベル2(道具): janome マグネット刺繍枠 のような互換システムを検討する。磁力で生地をフラットに保持し、リングで潰し込む方式より枠跡や厚物の枠張り負担を減らしやすい、という考え方です。
検索時は 刺繍枠 刺繍ミシン 用 のような語でサイズ展開を探せますが、効率と素材保護の観点ではマグネット方式を優先して検討する、というのが段取り改善の一つの方向性です。
USBとPCカードでデザインを読み込む
MC11000は旧来メディアとUSBの両方に対応します。ポイントはファイル形式で、この機種は .JEF を扱います。


デザイン読み込み(手順)
- PCカードまたはUSBメモリを挿す。
- 画面で Open File を押す。
- 読み込み元(PCカード/USB)アイコンを選ぶ。
- フォルダを移動する。
- .JEF ファイルを選択する。

縫い始め前の画面チェック
「スタート」を押す前に、画面の情報を確認します。
- ステッチ数:(例:24,270 ST)作業時間の目安になります。
- 刺繍速度:(例:800 SPM)初回は速度を落として様子を見ると、糸切れや絡みのリスクを下げやすくなります。
現場のコツ: ファイル探しで時間を失いやすい場合は、USB内のフォルダ運用を固定しましょう。枠固定台 のように段取りを仕組み化する発想で、案件名/日付などで整理し、ルート直下に大量投入しない運用が扱いやすいです。
Primer
これで「飛行ルート」は揃いました。安全な電源投入、締まったボビン、テンションが効いた糸掛け、刺繍モードへの切替、そして.JEFの読み込みまで。
枠張りが負担に感じるようになったら、標準枠はあくまで出発点です。janome マグネット刺繍枠 のような選択肢を検討することは、「趣味の苦戦」から「量産の段取り」へ移る自然なステップになり得ます。
Prep
初心者はミシンを見て、プロは環境を見ます。糸を通す前に、外部要因を先に潰します。
消耗品と事前準備のチェック
- 針: 新しいか?(摩耗や欠けは糸切れ・目飛びの原因)
- スプレーのり:(任意)浮かせ貼りやスタビライザー固定に使う場合。
- スタビライザー: 刺繍品質の土台。
- ハサミ: 糸切り用(ジャンプ糸を根元で切れるもの)。
生地の感触 → スタビライザー選び(判断フロー)
当てずっぽうにせず、条件で決めます。
- 伸びる生地(Tシャツ、ポロ等)?
- YES: カットアウェイ系を優先(破りタイプは後で歪みやすい)。
- 伸びにくい生地(デニム、布帛コットン等)?
- YES: ティアアウェイ系が扱いやすい。
- 厚い/毛足がある(タオル、フリース等)?
- YES: ティアアウェイ系+水溶性トッピングで沈み込みを抑える。
Prepチェックリスト
- キャリッジの可動範囲に干渉物がない。
- 針が正しく装着されている。
- 生地に合うスタビライザーを選んだ。
- ボビン周りの糸くずをブラシで清掃した。
Setup
ここが「離陸前点検」です。ここを押さえると失敗が大きく減ります。
セットアップの要点
- 押さえ: 糸掛け中は上、縫うときは下。
- ボビン: 「P」の向き。テンションバネに確実に入っている。
- 画面: 取り付けた枠サイズ(ST/SQ)と選択が一致している(枠への針当たり防止)。
Setupチェックリスト
- 上糸は押さえを上げた状態で糸掛けした。
- 下糸は軽い抵抗を感じながら送られる。
- 押さえ上/下で上糸の抵抗差が出る。
- キャリッジアームが最後まで開いてロックされている。
- 枠固定ノブが締まっている(または magnetic embroidery hoop のマグネットが確実に密着している)。
Operation
ここから実行フェーズです。
刺繍の基本手順
- キャリッジアームを展開。
- 刺繍モードへ切替。
- 枠を取り付け(ノブ固定/マグネット固定)。
- デザイン(.JEF)を読み込み。
- トレース機能:(利用できる場合)枠に針が当たらない範囲確認。
- スタート。

Operationチェックリスト
- 最初の50針は目を離さない(糸調子と絡みの早期発見)。
- 音の確認: 規則的な動作音で、異音(ガリガリ/カチカチ)がない。
- 見た目確認: 表がフラットで、裏の糸絡みが出ていない。
Quality Checks
品質確認は最後だけでなく、途中で行うほどロスが減ります。
最初の30秒で見ること
- 糸端: 下糸が正しく引き上がり、縫い始めで絡んでいないか。
- 音: 乾いた打音が増えたら、針の摩耗や針板周りの引っ掛かりを疑う。
色替え時に見ること
- ジャンプ糸: その都度切る(後で切りにくくなります)。
- 枠のテンション: 生地面を軽く叩いて張りを確認。標準枠は作業中に緩むことがあります(その点で マグネット刺繍枠 は緩みにくい、という考え方があります)。
Troubleshooting
トラブル時は慌てず、症状→原因→対処で切り分けます。
症状:「鳥の巣」(裏で大きく糸が絡む)
- 原因候補: 上糸テンションが効いていない。押さえを下げたまま糸掛けした可能性。
- 対処: 絡みを慎重に切って除去→押さえを上げる→上糸を掛け直す。
症状:上糸が頻繁に毛羽立つ/切れる
- 原因候補A: 針が摩耗・欠け。→ 対処: 針交換。
- 原因候補B: 糸がスプール周りで引っ掛かる。→ 対処: 糸こま押さえのサイズ見直し。
症状:表に下糸が出る
- 原因候補: 上糸テンションが強すぎる、またはボビン糸が切り欠きに正しく入っていない。
- 対処: まずボビンを入れ直す。改善しなければ上糸テンションを少し下げる(例:2.2→1.8)。
症状:枠跡(白いリング状の跡)が残る
- 原因候補: デリケート素材に対して枠の締めが強い。
- 対処: 取り外し後にスチームで戻す。
- 予防: マグネット刺繍枠 のように摩擦を減らす方式を検討する。
症状:針が枠に当たる
- 原因候補: 画面で選んだ枠サイズと、実際に取り付けた枠が不一致。
- 対処: 手元の枠がSTかSQかを確認し、画面選択も一致させる。
Results
この手順で進めれば、MC11000で安定した刺繍の立ち上げができるはずです。今回押さえたのは以下の要点です。
- 安全な電源投入の順番。
- 「P」向きのボビンセット。
- 押さえを上げてテンションを効かせる糸掛け。
- 刺繍モードへの切替と枠の取り付け。
作業量が増えるほど、ボトルネックは「枠張り」に集約しがちです。ネジ締めで手首が疲れる、枠跡が気になる、枠張りに時間がかかる——そう感じたら、magnetic embroidery hooping station のような段取り改善の発想で治具や枠システムを見直すことが、量産をスムーズにする近道になります。
