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大きな作品で「複数回枠張り」が必須になる理由
複数回枠張りは、趣味の試行錯誤と業務レベルの安定品質を分ける重要スキルです。刺繍枠に収まらない長尺物——たとえばパシュミナスカーフの端に沿って連続ボーダーを入れるような案件——でも、つながりのある見た目で仕上げられます。これが無いと、図柄が少しずつ流れたり、傾いたり、間隔が不揃いになりやすく、完成品の印象が一気に落ちます。
参考動画では、Reva がパシュミナスカーフに対して、紙テンプレートと厳密な印付けで「次の枠位置」を決めていきます。ここでの考え方はシンプルで、しかも譲れません。長尺物の位置は目測で合わせない。座標(基準線+中心)を作って転写する。
「次の花だけ 3mm 上にズレた…」のような再枠張りあるあるは、この方法で潰せます。得られるのは次の3点です。
- 基準境界(レーン):すべての図柄を同じ高さに揃える基準線
- 幾何学的な中心:毎回同じルールで再現できる十字(クロスヘア)
- 向きの固定:上下方向(UP)を明確にして、180°反転事故を防ぐ
コメントには「話している間に全体の柄が見えづらい」という指摘がありました。だからこそ、視点や状況が変わってもブレない 紙テンプレート+生地の基準線/中心印 が強い、という話につながります。
現場目線の現実: 商用・量産の文脈では、複数回枠張りは効率が崩れやすい工程です。スカーフ、テーブルランナー、サッシュ等を商品化するなら、「一回うまくいった」ではなく、疲れていても同じ結果が出る配置システムが必要になります。ここで、標準の刺繍枠からマグネット刺繍枠、あるいは治具を使った枠固定台へと道具をアップグレードすると、再枠張りの手作業負担を大きく減らせます。
紙テンプレートの印刷と下準備
この手法の土台は、刺繍ソフトから出力する 実寸の紙テンプレート です。Reva はまずデジタル上で配置の「地図」を作り、各モチーフのテンプレートを印刷して使います。ここがズレていると、後工程でいくら丁寧にやっても整いません。

100%(実寸)で印刷する(必須)
Reva が強調している通り、テンプレートは 100%(実際のサイズ) で印刷します。プリンターは初期設定で「ページに合わせる」「印刷可能領域に合わせる」になっていることがあり、これが入るとテンプレートが微妙に縮小されます。長尺ボーダーは誤差が累積するため、最後の方で間隔ズレとして表面化します。

チェックポイント
- 印刷ダイアログ:拡大/縮小が 100%、または「実際のサイズ」「なし」になっているか
- 定規で検証:出力用紙に基準線(1インチ等)がある場合は、印刷直後に必ず実測。合わなければ破棄して再印刷
期待される状態
- テンプレートが刺繍データの1:1の写しになり、机上で決めた配置がそのまま針の軌跡に一致します。
テンプレートごとに「軸」と「UP矢印」を必ず入れる
Reva はテンプレート上の縦軸を見つけ、ページ上端方向へ太い矢印(UP)を書きます。さらにテンプレートに図柄名も書き込みます。

これは事務作業ではありません。長尺物は、作業中にスカーフを動かしたり、刺繍枠の向きを変えたり、テンプレートを裏返したりします。そのたびに向き事故のリスクが上がります。UP矢印があるだけで「1つだけ180°回転していた」という致命傷を防げます。
現場のコツ: この書き込みは最初にやります。切り出してからだと、軸や中心線が分かりにくくなります。
切り出しは丁寧に。中心印(クロスヘア)を絶対に残す
Reva はハサミでテンプレートを切り出します。最初は大まかに切り、隣接させたい部分は図柄の近くまで追い込みます。

よくあるミス: 切り詰めすぎて、中心の十字(クロスヘア)や基準線を切り落としてしまう。 対処: 中心線が欠けた時点で止めて、テンプレートを刷り直します。中心は推測できません。

注意: 紙を切るだけでも、細かい追い込みで手元が狂うとケガにつながります。安定した台で作業し、刃の進行方向に指を置かないこと。また、布用の裁ちばさみで紙を切らないでください。刃がすぐ鈍り、後で布がきれいに切れず、ほつれの原因になります。
補足: 紙テンプレートは「測定具」です。中心線や角が曖昧になると、測定具としての精度が落ちます。
生地へのマッピング(基準線を作る)
ここでは、全体を貫く 一本の基準境界(マージン線) を作ります。これがボーダーの背骨になります。
スカーフをフラットに置き、歪みを抑える
Reva はパシュミナスカーフを広い作業台にフラットに置きます。パシュミナはドレープが美しい反面、印付け時に伸びたり斜行したりしやすい素材です。
補足(印付けで歪む理由): 柔らかい織物は、ペン先やチョークの摩擦で繊維が押され、わずかな「引きずり」が起きます。その場では直線でも、力が抜けると波打って見えることがあります。
歪みを減らす手順:
- 端を垂らさない:スカーフの端が台から落ちて自重で引っ張られないようにする
- 点で打つ:長い線を一気に引かず、数インチごとに点を打つ
- 点をつなぐ:定規を当て、軽いタッチで点を結ぶ
仕上げ端から2インチで一定のマージン線を引く
Reva は仕上げ端から 2インチ の位置を測り、スカーフの長手方向に水平の線を通していきます。



チェックポイント
- 始点・中間・終点で、端からの距離が同じになっている
- 可能なら生地目に沿う(ただし完成品スカーフは、基本は裾/仕上げ端基準で揃える)
期待される状態
- 「ここより上(下)に行かない」ための見えるレーンができ、すべてのテンプレートがこの線に乗ります。
注意: 印付け中に生地が動くと、基準線そのものが信用できなくなります。動画内では重しの使用は明言されていませんが、少なくとも「点で打ってからつなぐ」手順(Reva のやり方)で、生地の引きずりを最小化します。
印付け道具は「消えること」を最優先に
動画ではチョークや布用マーカーが使われています。
補足: デリケート素材は、濃く出そうとして強く押すほど繊維を傷めやすくなります。見えにくい場合は道具を変えるのが安全です。
転写(テンプレートの中心と軸を生地へ移す)
基準線ができたら、各テンプレートを置いて「中心+軸」を生地へ転写します。
テンプレートをマージン線に正確に合わせる
Reva はテンプレートの基準(図柄の基準線/特徴)を、チョークで引いたマージン線にきっちり合わせて置きます。

チェックポイント
- テンプレートが宙に浮いていない(基準線に対して意味のある位置で固定されている)
期待される状態
- すべての図柄が同じ高さに揃い、「業務っぽい」連続ボーダーに見えます。
クロスヘアの端点を打ってから、定規で十字を引く
Reva はテンプレートの十字(クロスヘア)の端(上下左右)に小さく印を付け、テンプレートを外してから定規で点を結び、生地上に十字を完成させます。


なぜここまで細かくやるのか: 絵をなぞるのではなく、刺繍の 数学的な中心 を移しているからです。
チェックポイント
- 十字がはっきり見える(枠内から確認できる濃さ)
- 交差が直角に見える(定規で引けば自然に担保されます)
生地側にも「UP矢印」を入れる
Reva は十字の近くに、上下方向(UP)を示す小さな矢印を生地にも書きます。

長尺のスカーフを扱っていると、どちらが上か分からなくなる瞬間が必ず出ます。矢印はコンパスです。
次の位置は「前の印」から定規で確認する
Reva は定規を使い、前の中心印を基準にして次の中心印を確認してから進めます。

補足: テンプレートだけに頼ると、最初のわずかなズレが次へ持ち越されます。定規で確認することで、各回で誤差をリセットできます。
スカーフ向け:スタビライザーと糸の選び方
パシュミナは柔らかく、シワ・波打ち(パッカリング)が出やすく、裏面も見えやすい素材です。消耗材の選択が仕上がりを左右します。
ウォッシュアウェイ系スタビライザーを使う理由
Reva は水溶性のスタビライザー("Wet n Gone")を使っています。
考え方:
- 現状:スカーフは柔らかい
- 理想:刺繍後も柔らかさを保つ
- カットアウェイの問題:裏に硬い四角が残り、着用感が悪くなりやすい
- 解決:刺繍中だけ支えて、温水で洗い落として柔らかさを戻す
チェックポイント
- 動画の文脈は「温水で洗い落とす」運用です。洗い落とし前提の素材/工程かを事前に確認します。
糸:ドレープ重視でレーヨン、裏面対策で同色ボビン
Reva はレーヨン糸を選び、さらに上糸と同じ糸を下糸(ボビン糸)にも巻いています。

チェックポイント
- 見え方:裏面が見える用途でも、色の違和感が出にくい
- 運用:上糸と同素材を下糸に使う場合、糸の滑り方が変わるため、仕上がりを見ながらテンションを確認する
よくある質問(コメントより要約):針は何を使う? コメントで針の種類について質問がありましたが、動画内では針種の明言はありません。そのため、この手順では「動画で確定していること(配置と印付け)」を優先し、針はお使いの素材・糸・機種の推奨に従ってください。
注意: 再枠張りでは、手が針周りに近づきやすくなります。作業中は誤作動で針が動かない状態にしてから、枠の着脱や位置確認を行ってください。
位置合わせを安定させる運用のコツ
ここでは、動画の流れを「現場で崩れない標準手順」に落とし込み、必要に応じて道具で負担を減らす考え方も整理します。
1デザインずつ「印→刺繍」を回す
Reva は、最初に全箇所を一気に印付けしない方針を示しています。1つ印を付けたら刺繍し、次へ進みます。
補足: 刺繍が入ると生地の状態が変わります。先に遠くまで印を付けると、後半でズレとして出やすくなります。
判断の目安:素材→スタビライザー→運用
判断フロー(素材 → スタビライザー → 運用)
- 柔らかくドレープする素材(例:パシュミナ等)?
- YES: ウォッシュアウェイ系スタビライザー+レーヨン糸(動画の考え方)→ 2へ
- NO: 作品に合わせてカットアウェイ/ティアアウェイ等 → 2へ
- 裏面が見える(リバーシブル)?
- YES: 下糸色の見え方を意識(動画では同色ボビン)+糸始末を丁寧に
- NO: 通常運用で可
- 枠跡(枠跡のテカり)や、挟み込み圧が問題?
- YES: マグネット刺繍枠 を検討
- NO: 標準枠でも、締めすぎず、基準線と中心印の精度を優先
- 1枚だけ?それとも量産?
- 少量: 動画のテンプレート方式がコスト効率良
- 量産: 毎回の測り直しがボトルネックになりやすい → 枠固定台の導入を検討
枠固定台は「贅沢品」ではなく、再現性の道具
同じ位置に繰り返し枠張りする仕事(ロゴ位置、ボーダー量産など)では、手測り+テンプレートは時間が読みにくくなります。枠固定台は、刺繍枠を固定し、治具で位置を再現しやすくする考え方の道具です。検索語としては 刺繍用 枠固定台 や 枠固定台 が目安になります。
マグネット刺繍枠の取り扱い注意
マグネット刺繍枠は強力な磁力で保持するため、扱いを誤ると危険があります。
注意:磁力による安全リスク
強力磁石のため、指を挟むとケガにつながります。ゆっくり確実に着脱してください。
複数モチーフの色を揃える
Reva は配色を先に決め、複数の図柄で同じ色を使って統一感を出しています。
チェックポイント
- 糸を使用順に並べ、途中で場当たり的に変更しない
準備チェックリスト(開始前)
- 配置図:ソフト上の配置マップを印刷/メモして間隔を確認
- テンプレート:100%実寸で印刷(定規で実測)
- 識別:テンプレートに図柄名+軸+UP矢印
- 道具:紙用ハサミ、定規、印付け道具(消えるか事前テスト)
- スタビライザー:ウォッシュアウェイ系(動画の運用)を枠サイズに合わせて準備
- 糸:上糸を決定、必要なら同色で下糸(ボビン糸)も準備
セットアップチェックリスト(作業台)
- 作業面:広くフラット。スカーフ全体が台に乗っている
- 基準線:端から 2インチ のマージン線が見える/まっすぐ
- 順番:テンプレートを刺繍順に重ねておく
- 向き:裾(仕上げ端)に対するUP方向が決まっている
作業ループチェックリスト(繰り返し手順)
- 合わせる:テンプレートをマージン線に合わせる
- 転写:クロスヘア端点4点+UP矢印を生地に付ける
- 線を引く:紙を外して十字を定規で引く
- 枠張り:刺繍枠の目盛り/中心と、生地の十字を合わせる
- 確認:中心印と針位置の整合を確認
- 刺繍:デザインを縫う
- 検品:次へ進む前に、位置ズレが無いか確認
- 繰り返し:次の箇所は「前が終わってから」印付けする
トラブルシューティング
失敗を広げる前に、症状から切り分けます。
| 症状 | 主な原因 | すぐできる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| 流れ/傾き(次が上がる・下がる) | 基準線がブレた/印付け中に生地が動いた | 止める。 仕上げ端から測り直して基準線を引き直す | 点で打ってから結ぶ。定規をしっかり当てる |
| 間隔が不揃い | テンプレートが「ページに合わせる」で縮小印刷 | テンプレートを再印刷し、実測で確認 | 切る前に必ず100%を検証 |
| 向き違い(上下逆) | UP矢印が無い/テンプレートを回転させた | ほどき等のリカバリーが必要になる場合あり | 生地にも必ずUP矢印 |
| 印が消えない | 印付け道具の選定ミス | 洗える場合は水で様子を見る | 端で必ずテスト。印の上から熱を当てない |
| 枠跡(テカりリング) | 締めすぎで繊維を潰した | 蒸気で整える | 締めすぎない/マグネット刺繍枠 を検討 |
| パッカリング | 支え不足/糸調子の影響 | スタビライザーを追加、条件を見直す | 動画同様にウォッシュアウェイ系を適切に使う |
仕上がりイメージ
テンプレート先行の手順を守ると、ボーダーが「なんとなく」ではなく、狙って設計した見え方になります。


成功の見え方
- 連続性:途中で目が止まらず、自然につながって見える
- ドレープ:スタビライザーを洗い落とした後も、硬さが残りにくい
- 裏面:裏が見えても違和感が少ない(動画では同色ボビン運用)
最終の現場アドバイス: 納品前(または贈り物にする前)に、糸始末の確認と、ウォッシュアウェイ系スタビライザーの洗い残しが無いかをチェックします。洗い残しは触感が硬く感じる原因になります。
