多針刺繍機で作る「NO EXCUSES」フーディーのアップリケ:マグネット枠の枠張り/スタビライザーのフローティング/ヒートプレスで美しく定着

· EmbroideryHoop
この手順書では、「NO EXCUSES」フーディーアップリケの一連の流れを、現場で再現できる形に整理します。タックルツイル(PSA=粘着付き)のカット、胸位置の正確なセンター出し、HoopMaster系の枠固定台+マグネット刺繍枠で厚手フーディーを安定して枠張り、カットアウェイスタビライザーを“フローティング”して無駄を減らしつつズレを防ぐ方法、アップリケの縫い順(位置縫い→貼り込み→タックダウン→仕上げ)を崩さずに縫い切るコツ、そして340°F/20秒のヒートプレスで粘着を確実に定着させるところまでを解説します。あわせて、よく起きるトラブル(シワ/引っ掛かり/位置ズレ)を避けるためのチェックポイントもまとめました。
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目次

使用機材:刺繍機・カッター・マグネット刺繍枠

この案件は、マシン刺繍で定番かつ失敗しやすい「フーディーのアップリケ」です。見た目は「箱の中に文字」だけでも、厚手で伸びやすい裏毛(フリース)に、硬くて重いタックルツイルを“ズレずに・歪ませずに”固定し、最後まで位置合わせを崩さず縫い切る必要があります。

ここでの失敗はコストが重いです。Tシャツならまだしも、厚手フーディーは原価でも高く、やり直しが効きません。さらに通常のプラ枠で無理に締めると、枠跡(枠の圧痕)が残ったり、位置が傾いたりしがちです。そこで本手順は、勘ではなく「再現性のある段取り」に寄せます。

このワークフローは Ricomaの15針クラス を前提に、HoopMaster 枠固定台マグネット刺繍枠 を組み合わせて進めます。標準枠でも不可能ではありませんが、厚物ではマグネット式の方が“押さえる力の出し方”が安定し、枠張りの負担も減ります。

Brother electronic cutting machine cutting the white tackle twill material.
Cutting fabric

動画で使っているもの(と、なぜそれが効くのか)

  • カッティングマシン(Brother ScanNCut SDX125E): 粘着付きタックルツイルを事前にカット。理由: 手切りだとエッジが荒れ、サテンが被り切らず仕上がりが落ちます。機械カットなら「NO」の文字が位置縫いのラインにきれいに収まります。
  • 位置合わせ定規(Tee Square It): アパレル用のT字定規。理由: フーディーは置き方で簡単に歪みます。目視センターは着用時にズレが出やすいので、定規で“直角と中心線”を作ります。
  • 枠張りシステム(HoopMaster+マグネット枠): 理由: 速さと安全性。厚手をプラ枠で押し込む負担が減り、毎回同じ位置に合わせやすくなります。
  • 刺繍機(Ricoma 15針): 業務用の多針刺繍機。理由: 筒型アームで、フードや袖を垂らして逃がしやすく、針板周りで引きずりにくい構造です。
  • ヒートプレス機: 理由: タックルツイル背面の粘着は熱で定着します。刺繍は“縁を押さえる役”、プレスは“面を固定する役”。洗濯後の浮き・バブリングを抑えます。

枠跡(枠の圧痕)対策:段階的な改善ルート

厚手フーディーを付属のプラ枠で無理に締めていると、枠跡が残ったり、締め付けトルクで生地がねじれて位置ズレが出やすくなります。

  • レベル1(やり方で改善): フローティング(後述)を使い、枠と生地の間に水溶性シートを挟んでパイルを保護する。
  • レベル2(道具で改善): マグネット刺繍枠に切り替える。ネジ締めの力で“こじる”のではなく、磁力で“面で挟む”ため、圧痕と歪みが出にくい。
  • レベル3(量産仕様): 多針機向けの大型マグネット枠で、枠張り時間を短縮し、同条件で回せるようにする。

注意:マグネット枠の安全
業務用マグネット枠は強力な磁力で挟み込みます。
* 挟み込み注意: 指は必ず外周リムに置き、上下フレームの間に入れない。
* 機器への影響: ペースメーカー等の医療機器、磁気カード類からは距離を取る(動画では具体距離の言及はありませんが、現場では十分離して管理してください)。

Hands peeling the cut 'NO' letters from the cutting mat.
Weeding/Peeling

生地準備:タックルツイル(PSA)のカット

最初はアップリケ素材の準備から。使用素材は PSA(Pressure Sensitive Adhesive=粘着付き)スポーツツイル です。コメントでも質問が出ていますが、これは一般的なHTV(熱転写シート)とは別物で、ツイルは“織物”、HTVは“フィルム”です。

Measuring 3-4 fingers from the collar to determine design vertical placement.
Measuring

手順1 — ツイルパーツをカットする

  1. セット: 白のPSAスポーツツイルをカッターマットに貼る。
  2. カット: 「NO」の文字と外枠(長方形)のカットデータを実行。
  3. 取り外し: 余分を剥がし、必要パーツだけ残す。

チェックポイント: 白い素材はカット線が見えにくいことがあります。動画でも「白だから見えにくい」と触れています。目視で不安なときは、指先で表面を軽くなぞり、カットラインの段差(引っ掛かり)があるかで確認します。

Using yellow Tee Square It alignment ruler to mark the center line on the hoodie.
Marking

補足:なぜタックルツイルなのか

タックルツイルは立体感が出て、いわゆる“バーシティ(チーム系)”の高級感が出ます。一方で、フーディー前身頃に重量が乗るため、スタビライザー(刺繍の裏当て)を弱くすると、縫製後に生地が引けてシワ(パッカリング)になりやすい点に注意が必要です。

事前チェック(見落としがちな消耗品)

動画内で明示されている範囲に沿って、最低限ここは揃えておくと作業が止まりません。

  • カットアウェイスタビライザー: フーディーは伸びるため、基本はカットアウェイが前提(コメント返信でも「長持ちさせるならcutaway」と明言)。
  • マーキング用品: 水で消えるペン/チョーク等。作者は水溶性ペンを使用(コメント返信に具体名あり)。
  • テフロンシート: ヒートプレス時の保護(動画でも使用)。
  • クリップ: 袖やフードの暴れ止め(動画で使用)。

位置合わせの要点:センターを“直線”で作る

フーディーは置いた瞬間から歪みます。ポケットや脇線は工場段階で斜行していることもあるため、そこを基準にするとズレます。ここでは定規で“中心線を作る”のが肝です。

HoopMaster station setup with the bottom magnetic frame locked in place.
Hooping Prep
Draping the hoodie upside down over the Hooping Station.
Loading Garment

手順2 — 縦位置の開始点と、真っ直ぐなセンター線を引く

  1. 平置き: 大きめの台に置き、シワをならす(引っ張って伸ばさない)。
  2. 開始位置: 襟ぐりの縫い目から 指3〜4本分 下を目安にする(動画のやり方)。
  3. 定規合わせ: Tee Square It を当て、左右の基準を袖の縫い目に合わせます。動画では 「27」 の目盛り位置を左右で揃えて、縦線が曲がらないようにしています。
  4. マーキング: 水溶性ペンまたはチョークで、縦のセンター線(必要なら十字)をはっきり入れる。

スタビライザー選択の考え方(フーディー前提)

コメントでも「何を裏に使うべき?」という質問が出ています。フーディーのようなニット系は伸びるため、基本ロジックはシンプルです。

  • フーディー/スウェット(ニット)カットアウェイが基本
    • 通常: 生地と一緒に枠に挟む(安定性が高い)
    • 厚物で枠張りが大変: スタビライザーを後入れする“フローティング”(動画の方法)

枠張り:HoopMaster 枠固定台+マグネット刺繍枠

枠固定台(HoopMaster)は、毎回同じ位置に枠張りするための“治具”です。マグネット枠と組み合わせると、厚物でも押さえが安定し、作業者の負担も減ります。

Aligning the top magnetic hoop frame with the center chalk marks on the hoodie.
Aligning Hoop
Snapping the magnetic top frame down onto the hoodie.
Hooping
Loading the large magnetic hoop onto the embroidery machine arms.
Machine Loading
Sliding a sheet of cutaway backing under the hoop ('floating' technique).
Stabilizing

手順3 — 枠固定台でフーディーを枠張りする

  1. 下枠セット: マグネット枠の下側フレームを治具に固定。ガタつきがない状態にする。
  2. フーディーを載せる: 上下逆(フードが作業者側) に載せます(動画の見せ方としてもこの向き)。
  3. 位置合わせ: 先に引いたセンター線を、治具側の基準(切り欠き/目印)に合わせる。
  4. 上枠を載せて固定: 上側フレームをセンター線に合わせて下ろし、磁力で固定。
    • チェックポイント: 動画では、枠の穴(上側・下側)が線に合っているかで「真っ直ぐ」を確認しています。枠の基準穴と線が一致しているかを必ず見ます。

重要:引っ掛かりを防ぐ“向き”のルール

動画で強調されている安全ポイントです。枠の 切り欠き(オープン側/ノッチ)フード側に向けない

  • 理由: フードや袖が機械の可動部に巻き込まれると、位置合わせが崩れて台無しになります(動画でも「registrationを失う」と説明)。フードは機械の外側に垂らす前提で、ノッチはフードから“離す”向きにします。

補足:マグネット枠が枠跡を抑えやすい理由

通常枠は摩擦とネジ締めで保持するため、厚手ほど締め付けが強くなり、パイルが潰れて枠跡になりやすいです。 一方、マグネット刺繍枠 は磁力で“面で挟む”ため、必要以上にねじ込まずに保持しやすく、位置の微調整もしやすいのが利点です。

フローティング:スタビライザーを後入れして無駄を減らす

フローティングは、スタビライザーを生地と一緒に枠に挟まず、枠を機械に付けた後で下から差し込む方法です。

Machine stitching the placement outline for the applique.
Embroidering

手順4 — 枠を装着し、カットアウェイをフローティングする

  1. 枠を装着: 枠を刺繍機のアームに差し込み、カチッと固定されるまで入れる(動画ではクリック音で確認)。
  2. スタビライザーを差し込む: カットアウェイを、針板(シリンダー)上に置くようにして枠の下へ滑り込ませる。
  3. 暴れ止め: クリップで袖とフードをまとめ、縫製中に動かないようにする。
    • チェックポイント: スタビライザーが刺繍範囲を完全に覆っていること。針がスタビライザー外に出ると、途端に歪みやすくなります。

補足:フローティングの注意点

フローティングはスタビライザーの無駄を減らせます(動画でも“大きいシートを無駄にしたくない”と説明)。ただし、最初の数針で固定されるまではズレやすいので、差し込み位置が浅い/斜めだとトラブルになります。

本文中の フローティング用 刺繍枠 は、まさにこの“後入れで支える”現場テクニックを指します。

縫製〜仕上げ:アップリケの縫い順とヒートプレス

ここからは「データの縫い順」を守ることが最重要です。基本は、位置縫い→貼り込み→タックダウン→仕上げ縫い、の順です。

Placing the pre-cut 'NO' fabric letters into the stitched placement lines.
Applique Placement
Machine stitching the tackdown stitch over the white applique fabric.
Tackdown
Embroidering the word 'EXCUSES' inside the white applique box.
Lettering

手順5 — アップリケの縫い順で縫う

  1. 位置縫い: 最初の色(工程)で、貼り位置のアウトラインを縫う。
  2. 貼り込み: 事前カットしたPSAツイルの台紙を剥がし、位置縫いの内側に正確に置いて手で圧着する。
  3. タックダウン: 次工程で、ツイル端を押さえる縫い(ジグザグ等)が入る。
    • チェックポイント: 押さえがツイル端を拾ってめくり上げないか、最初の数針は目視で追います。
  4. 仕上げ: 外枠のサテン/「EXCUSES」の文字などを縫う。動画のデザインは 26,000針

注意:走行中の巻き込み事故が一番怖い
厚物は、縫い品質以前に「袖が落ちて一緒に縫い込む」「フードが引っ掛かる」が致命傷になります。縫い始め前に、袖・フードが針下に入らない状態か必ず確認してください(動画でもクリップで管理)。

手順6 — ヒートプレスで粘着を定着させる

タックルツイル背面の粘着は熱で活性化します。刺繍で縁を固定した後、プレスで面を一体化させます。

Placing the finished embroidery onto the heat press.
Heat Press Prep
  • 温度: 340°F
  • 時間: 20秒
  • 保護: テフロンシートを当てる(動画で実施)

作業前チェック(事故防止の最短リスト)

  • 枠の向き: ノッチがフード側を向いていない(巻き込み防止)。
  • 暴れ止め: 袖・フードをクリップで固定した。
  • トレース: 縫い始め前にトレースして、可動範囲に干渉がないか確認(動画でも「trace it out」と実施)。

セットアップ補足:枠サイズについて

コメントで作者が 13x16インチ を使用したと明言しています。

  • 同様の胸位置案件で、より小さめの枠を探す場合は mighty hoop 8x13 マグネット刺繍枠 が定番サイズとして候補になります。
  • いずれも、刺繍機の可動範囲(パンタグラフ)内に収まるかは必ず確認してください。

仕上がり確認(QC)

納品前に、最低限ここを見ておくとクレームを減らせます。

チェックA:エッジの被り

「NO」周りのサテンを指先でなぞり、ツイル端が飛び出していないか確認。

  • 合格: 引っ掛かりがなく、端が完全に包まれている。
  • 不合格: 端が出て爪が引っ掛かる(貼り込み位置ズレ/サテン幅不足の可能性)。

チェックB:文字の見え(抜け)

白サテンの隙間からフーディー地が見えないか確認。

  • 合格: 下地が透けない。
  • 不合格: 隙間が出る(次回は水溶性トッパー併用などを検討)。

チェックC:粘着の定着

プレス後に冷ましてから、文字の角が浮かないか軽く確認。浮く場合は、同条件で“圧”を見直して再プレスします。

Holding up the finished navy blue hoodie with the large 'NO EXCUSES' design.
Project Reveal

トラブルシューティング

フーディーは多少の誤差に強い一方、アップリケはズレが見た目に出ます。現場で多い症状を整理します。

症状 主な原因 その場の対処 予防
箱周りのシワ(パッカリング) 枠張り時に生地を引っ張った/裏当て不足 大きな修正は難しい カットアウェイを使う。マグネットで挟む際に“引っ張って張る”をしない。
ボーダーと生地の間に隙間 フローティングしたスタビライザーがズレた 基本は縫い直し スタビライザーが刺繍範囲を完全に覆う位置で差し込む。
位置が傾く センター線が斜め/枠張り基準が曖昧 基本はやり直し HoopMaster 枠固定台 の基準にセンター線を合わせ、枠の基準穴でも直線を確認する。
走行中に引っ掛かる/ズレる フード・袖の巻き込み/枠の向き不良 すぐ停止 ノッチをフードから離す向きにし、クリップで管理する。

機材互換の注意(コメントでよく出る話題)

動画はRicoma機ですが、枠の購入先や互換性は機種・ブラケットで変わります。検索時は マグネット刺繍枠 ricoma 用ricoma 刺繍枠 のような語句が手がかりになります。購入前に、機械側の取り付け幅(2点の距離)を必ず確認してください。

まとめ(結果と再現性)

この工程を押さえると、フーディーのアップリケは「難しい単発」から「回せる定番商品」になります。

  • 見た目: 濃色フーディー×白ツイルのコントラストで、店頭品質の仕上がり。
  • 段取り: 定規+枠固定台+マグネット枠で、位置合わせと枠張りが“作業者依存”になりにくい。

量産(チームオーダー等)では、手書きの目印とプラ枠の格闘がそのまま工数ロスになります。段取りを整えるほど、刺繍機は安定して仕事をしてくれます。