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マスタークラス:チュールにノッティンガム風レースを「破かずに」刺繍する
ノッティンガム風レースは、家庭用刺繍機でも「アンティーク調に見える」仕上がりを狙える上級テクニックのひとつです。フリースタンディングレース(FSL)のようにレース単体で自立させるのではなく、チュール(ネット)を“残す前提の土台”として使うため、空気感のある繊細な表情が出しやすいのが特徴です。
一方でチュールは扱いがシビアです。滑りやすく、引っ張ると裂けやすい。そこで本稿では、120×120mm枠での刺繍を想定し、スタビライザー端材を重ねて使う「端材オーバーラップ」方式で、層コントロール・枠テンションの取り方・トリミングまでを“作業手順”として落とし込みます。

材料と重要スペック
プロっぽい仕上がりを再現するには、チュールに負担をかけにくい道具選びが効きます。
基本セット
- 刺繍機:(デモは Husqvarna Viking Designer Epic 2 ですが、4×4インチ相当の刺繍範囲があれば応用可能)
- 刺繍枠: 120×120mm(標準の正方形枠)
- ベース生地: 薄手チュール/イリュージョンネット
- スタビライザー: 繊維タイプの水溶性スタビライザー(例:Floriani Wet N Gone)※動画内では「このスタビライザーは1枚で十分」と説明されています。
- 糸: 40番相当(白)
事前に用意しておくと作業が止まらないもの(段取り)
作業の詰まりは「スタート前」に潰せます。
- ガード用の当て布: 小さなキルト綿などをミシンベッド上に置き、ピンセット先端などで機械を傷つけないように保護(動画内で実施)
- ピンセット: 糸端を押さえたり、カットの補助に
注意:安全第一。 稼働中の針周りに手を入れないでください。糸を切る/絡みを取る作業は、必ず停止してから行います。

「端材オーバーラップ」方式:節約しながらズレを防ぐ
水溶性スタビライザーは良品ほど単価が高く、端材が出やすい消耗品です。動画では、端材を0.5インチ重ねて使い、さらに後工程のしつけ(バスティング)で層を固定しています。
重ね方の手順(動画の流れ)
- 端材を2枚用意: 繊維タイプの水溶性スタビライザーを2枚。
- 0.5インチ重ねる: 枠内で0.5インチ程度オーバーラップさせます。
- 上にチュールを1枚: 端材の上にチュール端材を重ねます。
- この“サンド”を枠張り: ずれないようにまとめて枠に入れます。

補足:なぜズレにくいのか
後で入れる「枠外周のしつけ(バスティング)」が、端材同士を“ホチキス留め”のように押さえる役割になります。端材でも、外周が固定されると作業中の移動が起きにくくなります。
注意点:厚みムラが出る 重ねた部分は二重になり、他の部分より厚くなります。厚い部分だけを基準にネジを締めると、薄い側が緩くなりやすいので、枠張り後のテンションチェックが重要です。
枠張り:目標は「トランポリン感」
チュールの枠張りは失敗が出やすい工程です。緩いと波打ちやズレ、締めすぎると裂けの原因になります。

触って判断する枠張りプロトコル
- 向きを確認して内枠を置く: 動画でも一度向きを間違えて修正しています。入りが悪いときは、力で押さずに向き・目盛り位置を確認。
- まずは押し込む: いきなりネジを締め切らず、内枠を均一に押し込みます。
- テンションを触って確認: 指で軽く叩く/なでて、緩い箇所がないか探します。
- ネジを締めて微調整: 緩い角があれば、ネジを締めながらごく軽くチュールを引いて整えます。
注意:引っ張りすぎ禁止。 動画でも「引っ張りすぎると裂ける」と明言されています。チュールは非常にデリケートなので、形が歪むほど引かないこと。

枠跡(枠跡)と道具の選択
一般的な摩擦式の刺繍枠は、保持力を圧力に頼るため、素材によっては枠跡が出やすくなります。枠跡やテンションムラに悩む場合、現場では保持方式の違う工具を検討することもあります。たとえば マグネット刺繍枠 は、押さえ込みで保持するタイプとして探されることが多いカテゴリです。
注意:マグネットの取り扱い。 強力なマグネットは勢いよく閉じて挟み込みやすいので、指を挟まないよう十分注意してください。
ミシン設定:層があるときほど「しつけ」が効く
「そのままスタート」ではなく、チュール+端材スタビライザーのような滑りやすい組み合わせでは、固定の一手間が結果に直結します。

画面操作(動画で行っている設定)
- しつけ(バスティング): ミシンの機能から、枠外周(Hoop Perimeter)を選んでしつけを入れます。動画では「端材を重ねているので今回は必要」と説明されています。
補足:機種・枠の互換性メモ
特定の husqvarna 刺繍枠 など、機種専用の枠システムを使う場合は、編集メニュー内に「しつけ」機能があるか確認すると段取りが早くなります。
事前確認の分岐(スタビライザーの使い方)
縫い始める前に、次のどれに当てはまるかで判断します。
- A:スタビライザーが1枚で取れる
- 対応: 1枚+チュールで枠張り。しつけは“入れても良い”。
- B:端材しかない
- 対応: 0.5インチ重ね。しつけは必須(動画の運用)。
- C:伸びやすいネットを使う
- 対応: 端材重ねは厚みムラが出やすいので、できれば一枚物で安定させる(※本稿は動画内容に基づき、端材+チュールの運用を中心に解説)。
稼働中とトリミング:仕上がりは「切り方」で決まる
縫い始めの監視ポイント
動画でも開始直後に糸が抜け、再糸掛けして再開しています。最初の立ち上がりはトラブルが出やすいので、縫い始めは目を離さないのが安全です。


トリミング手順(粗取り→仕上げ)
「手作り感」が出るか「作品感」が出るかは、最後のカット精度で差がつきます。

フェーズ1:粗取り(大バサミ)
- 枠から外す。
- 大きめのハサミで、デザインの周囲をアーチ状にざっくりカット。
- 余分なスタビライザー量を先に落として、取り回しを軽くします(動画でも「大きいハサミの方が切りやすいことがある」と説明)。
フェーズ2:仕上げ(小バサミ)
- 小さめの刺繍ハサミ(動画ではカーブ刃)に持ち替え。
- 切り方のコツ: 先端の“角”に向かって「入る」→止める→持ち替える→角から「出る」。一気に曲線を回そうとすると糸を切りやすくなります。


仕上げ:水溶性スタビライザーの落とし方

水溶性スタビライザーは、落とし方で風合いが変わります。動画では、まず水で流し、その後少なくとも24時間水に浸ける運用を紹介しています(専用のボウルを用意している点も言及)。
- すすぎ: まず流水で軽く流す。
- 浸け置き: 水に入れて24時間程度。可能なら水を入れ替える。
- 乾燥: 自然乾燥。形を整えて乾かします。
重要チェックリスト(3本)
1)準備チェック(段取り)
- 端材の重ね: スタビライザー端材が0.5インチ以上重なっている
- 保護: ミシンベッドに当て布(ガード)が置けている
- 道具: ピンセット/大バサミ/小バサミが手元にある
2)設定チェック(スタート前)
- 枠張り: 緩い箇所がない(触って確認)
- しつけ: 枠外周のしつけ(Hoop Perimeter)が有効
- 位置: 重ね目(継ぎ目)があっても縫える配置になっている(動画では問題なく縫える前提で進行)
3)稼働中トラブル対処(止めどきが重要)
- 症状:開始直後に糸が抜ける/掛からない
- 対処: 停止→再糸掛け→再開(動画の対応)
- 症状:枠内でチュールが緩い箇所がある
- 対処: 緩い場所を特定→ネジを締めながらごく軽く引いて整える(引っ張りすぎない)
- 症状:波打ち(パッカリング)が出る
- 対処: 縫製中はある程度出る前提。洗ってスタビライザーが落ちると落ち着く(動画で比較)
まとめ:端材でも“固定の手順”があればレースは安定する
端材オーバーラップでスタビライザーを無駄にせず、枠外周のしつけで層ズレを抑え、最後は粗取り→仕上げの二段階トリミングでレースの輪郭を整える。これが、チュールにノッティンガム風レースをきれいに出すための基本ワークフローです。



