目次
ミリ(mm)で考える:プロの標準
デジタイズは、最初の「ちょっとした設定ミス」が気づかないまま刺繍品質を崩し、結果的に丸ごと縫い直しになることが珍しくありません。特に学習初期ほど起きやすいです。このPE-DESIGN 10のレッスン1では、実務のデジタイザーがやっている前提に合わせて環境を整えます。お客様との会話(仕上がりサイズ)はインチでも、密度・引き補正・ステッチ挙動はミリ(mm)で考える、という切り分けです。
なぜこの切り替えが重要かというと、刺繍は「画面上の見た目」ではなく、針落ち・糸の摩擦・生地の押し/引きといった物理現象で結果が決まるからです。これらはミリ単位で差が出ます。
この章でできるようになること:
- 定規のインチ↔ミリを即切り替えして、お客様の指定サイズとデジタイズ設定を両立する
- ステッチ長の目安(1mm〜10mm)をmm基準で判断する
- 初心者が陥りがちな罠(インチ感覚のまま密度を触って「やたら硬い/重い」データを作る)を避ける

なぜmmが重要で、インチも出てくるのか
動画では、現場の流れとして「お客様が『2インチで』と言う」ケースが示されています。サイズ合わせや会話はインチが便利です。一方で、実際に縫い品質を左右するパラメータはmmで調整します。プロ同士の会話がmm基準になるのはこのためです。
整理すると、密度(Density)は「ステッチ列どうしの間隔」です。
- 0.4mmはタタミ(Tatami)系の埋めでよく使われる目安のひとつ
- これを誤って0.4インチ相当の感覚で扱うと、間隔が極端になり、見た目も縫いも破綻します
- 作業中に頭の中でインチ↔mm換算を続けると、いずれ計算ミスが起きます(密度や補正は「換算しながら」より、最初からmm固定のほうが安全です)



現場のコツ(ムダな縫い直し防止): 画面では良さそうなのに、実際に縫うと「重い/硬い/歪む」、ミシンが「ドスドス」と鈍い音で叩くように進む場合、単位の混在を疑ってください。密度や引き補正は、mmで頭を固定して管理すると判断がブレにくくなります。
クイックアクセスツールバーで作業を最適化
PE-DESIGN 10はタブが多く、慣れるほど「同じコマンドを探す時間」が積み上がります。対策はシンプルで、クイックアクセスツールバー(Quick Access Toolbar)を自分の反復作業に合わせて作ることです。
これは単なる時短ではなく、作業の流れ(どの順で縫い線を組み立てるか)を頭の中で保持したまま編集できる、という意味で効きます。ボタン探しで思考が途切れると、ステッチの意図(縫い順・止まり・飛び)がズレやすくなります。

手順:よく使うツールを追加する(例:Duplicate)
- ツールを見つける: リボン上から、頻繁に使うツールを探します(動画では Duplicate を例示)。
- 右クリック: リボン上のそのアイコンを直接右クリックします。
- 追加: Add to Quick Access Toolbar を選びます。
- 確認: 画面左上(保存/元に戻す付近)にアイコンが追加されていることを確認します。


期待できる結果: タブ移動を減らし、誤クリックを減らしながら、編集のテンポを維持できます。
ツールバーに入れるもの(実務向けの最小セット)
動画ではDuplicateの追加が中心ですが、まずは「使用頻度が高いもの」から固めるのが安全です。
- Duplicate: 繰り返し要素の作成
- Select Object: 要素の選択を素早く
- Reshape/ノード編集系: カーブ調整のため
ツールバーは「操縦席」と同じで、常用する操作だけを手元に置くのが基本です。
注意(初心者に多い動き): フォント名・色・属性などを確認するために、毎回タブを開き直す人が多いです。動画の通り、オブジェクトを選択するだけでリボン上に情報が出る場面があるので、まずはその表示を確認してから掘りに行くと迷いが減ります。
トリム(糸切り)とジャンプを見える化する
PE-DESIGN 10で品質を安定させるうえで重要なのが、「どこで止まり/トリムが入る想定か」を事前に見える状態にすることです。動画では、トリムのハサミ表示は Stitch View で確認でき、停止回数やジャンプ糸の予測に直結する、と説明されています。


手順:Stitch Viewに切り替える(ハサミ表示の前提)
- 表示モードを確認: Realistic Previewなど複数の表示があることを確認します。
- Stitch Viewを選択: 立体的な見た目より、糸道(ステッチの線)を優先して表示します。
チェックポイント: 太い糸のシミュレーションではなく、ステッチベースの細い線で見えている状態です。
期待できる結果: ステッチレベルの情報(トリム表示など)が出せる状態になります(ただし、次の2つの設定が正しいことが条件です)。
実縫いで何が変わるか
トリムは、趣味でも業務でも「縫いの体感」と「後処理」に影響します。
- 音: 一定リズムで縫うか、数秒ごとに止まってトリムを繰り返すか
- 仕上がり: 裏面の長いジャンプ糸が引っかかり、洗濯後に引きつれやすくなる
- 手間: 手切りが増えるほど作業時間が伸びる
小規模でも受注を回す場合、停止回数はスループットに直結します。ソフト側で「止まり/トリムの想定」を見える化しておくことは、結果的に生産判断にもつながります。
また、ロゴやネームなどで刺繍ミシン 用 枠入れを繰り返す仕事ほど、「スムーズに走るデータ」と「付きっきりになるデータ」の差を強く感じます。
Multi-needle machine設定を理解する
ここが一番つまずきやすいポイントです。コメントでも「単針機だからView Thread Trimmingが有効にならない/ハサミが出ない」という声が出ています。
動画では、ソフト上でトリム(ハサミ)を表示するには、Design Settingsで Multi-needle machine を有効にする必要がある、と明確に示されています。単針機ユーザーでも、表示のためにチェックが必要です。


手順:Multi-needleのロジックを有効化する(単針機でも)
- 移動: 花のアイコン側(ファイル/デザイン側)から Design Settings を開きます。
- 選択: Machine Type で Multi-needle machine をチェックします。
チェックポイント: ここでやっているのは「実機を多針に変える」ことではなく、ソフトのトリム表示ロジックを有効化することです。コメントでも、Multi-needle設定にするとジャンプが見える旨が補足されています。
期待できる結果: 次のView設定も正しければ、Stitch View上でハサミ表示が出せる状態になります。
手順:トリムの最小長(しきい値)を確認する
動画では、ジャンプが 2.0 mm 以上でないとトリムしない設定が示されています。
- Design Settings の Output タブを開きます。
- トリム対象となる最小ジャンプ長が 2.0 になっているか確認します。

チェックポイント: ここは「意図した挙動」になっているかの確認が目的です。動画では2.0 mmが例として示されています。
期待できる結果: どの程度のジャンプでトリムが入るかを、データ側の意図として揃えられます。
コメントで出た機能理解:HALF STITCH(ハーフステッチ)とは
コメントで HALF STITCH の用途が質問され、制作者は「きついカーブでステッチが半分だけ進むことで、糸切れや生地への穴あきを避ける。Puffyではこの機能をOFFにすることがある」と説明しています。
ここから分かるのは、ステッチ挙動は「見た目」だけでなく、針落ちが集中する箇所の摩擦やダメージを避けるための制御でもある、ということです。だからこそ、Stitch Viewで事前に挙動を確認できる状態にしておく価値があります。
注意: デジタイズの選択は実機リスクにつながります。過度な密度、きついカーブでの無理な縫い、縫い順の不整合は、糸切れや生地ダメージの原因になります。必ず端切れで試し縫いを行い、異音や過度な抵抗感があれば停止して見直してください。
生産目線の考え方(効率=設定の積み上げ)
繰り返し受注では、ソフトそのものの価格より「1回あたりのムダ時間」が効いてきます。停止・トリム・手切り・やり直しが増えるほど、ロスが積み上がります。
- 1点物なら学習優先でも回せます
- 50〜200点のロットなら、再現性と段取りが重要になります
枠張りがボトルネックなら、マグネット枠や段取りの見直しが候補になります。評価軸は「枠張り時間が短くなるか」「枠跡が減るか」「テンションが安定するか」です。
内蔵マニュアル(PDF)にすぐ飛べるようにする
PE-DESIGN 10には内蔵のデジタルマニュアルがあり、動画では右上の「?」の本アイコンからPDFを開けることが示されています。索引から目的の項目(例:Centering)へジャンプできるのもポイントです。

手順:マニュアルを開いて、必要箇所へジャンプ
- アイコン位置: 右上の「?」本アイコンをクリックします。
- PDFを開く: 既定のPDFビューアでマニュアルが開きます。
- 探す: 索引(またはCtrl+F)で目的の項目を探します。
- 移動: ページ番号をクリックして該当箇所へ移動します。



期待できる結果: 勘で触る時間が減ります。刺繍は「勘=失敗(やり直し)」になりやすいので、迷ったらマニュアルに戻れる導線を最初に作っておくのが得策です。
コメント由来の現実:次のレッスンが見つからない
コメントでは「次のレッスンはどこ?」という質問があり、制作者は「動画の下にあるチャンネル名をクリックすると、チャンネル内の動画を順番に見られる。Playlistsも使える」と案内しています。
現場のコツ: デジタイズはコース学習のように、基礎設定→基礎概念→応用の順で積むほうが、結果的に遠回りしません。
Primer
PE-DESIGN 10を始めたばかりなら、最速の成果は派手な機能ではなく「迷いなく確認できる環境」です。このガイドはレッスン1を、チェックリストで再現できる手順に落とし込み、縫う前にトリムを予測し、趣味から受注まで通用する基礎習慣を作ることを目的にしています。
なお、ソフト側の段取りと同時に、物理側(枠張り・スタビライザー・段取り)も整えると作業が噛み合います。刺繍用 枠固定台のような専用の作業場所があると、スタビライザーや枠、素材の流れが整理され、段取りのムダが減ります。こうした用途では 刺繍用 枠固定台 のような考え方が、生産性のレバーになります。
Prep
設定を触る前に、刺繍機の段取りと同じ発想で「デジタイズ環境」を準備します。摩擦を減らし、やり直しを減らし、見えている情報を検証できる状態にします。
見落としがちな消耗品&事前チェック
このレッスンはソフト中心ですが、デジタイズの判断は最終的に生地に当たります。すぐ試し縫いできるよう、最低限を揃えておくと迷いが減ります。
- 針: 75/11を新しい状態で用意(スタート地点として)
- 糸: 一般的な40番ポリエステル糸(密度の見え方と縫いの差が出にくい)
- スタビライザー: ニットはカットアウェイ、布帛はティアアウェイを目安に
- 道具: ジャンプ糸処理用の小型ハサミ(先曲がりが便利)
- メンテ: ボビン周りのリント除去(汚れでテンションが変わると、データの良し悪しが判断しづらくなります)
- 試し布: 本番に近い素材の端切れ
Brotherの家庭用機で運用する場合、枠跡の軽減や段取り短縮を目的に、brother pe800 用 マグネット刺繍枠のような選択肢を検討する人もいます。ただし、導入判断は「素材に対してテンションが安定するか」「段取りが本当に速くなるか」で決めるのが安全です。
Prepチェックリスト(Prep完了)
- 単位切替: 定規左上の交点でインチ↔mmを切り替えられる
- 思考の基準: デジタイズはmm基準、サイズ確認のみインチ
- ツール候補: よく使うツールを3〜5個(まずDuplicate)洗い出した
- 表示: Stitch Viewに切り替えられる
- サポート: 右上のマニュアルアイコン位置を把握した
Setup
ここからは動画の手順どおりに設定しつつ、「本当に反映されたか」を確認できるチェックポイントを追加します。
1) 定規でインチ↔mmを切り替える
- 操作: 定規バー左上の小さな切替ボタンをクリック
- 使い分け: お客様指定のサイズ合わせはインチ(例:およそ2インチ)
- 戻す: デジタイズ設定はmmに戻して作業
チェックポイント: 定規の目盛り間隔が変わります。インチは間隔が広く、mmは細かく表示されます。
2) クイックアクセスツールバーを作る
- 操作: リボン上のツール(例:Duplicate)を右クリック
- 操作: クイックアクセスツールバーに追加
チェックポイント: 画面左上のウィンドウ枠にアイコンが増えます。
3) Multi-needle machineを有効化(トリム表示のため)
- 操作: Design Settingsを開く
- 操作: Multi-needle machineにチェック
チェックポイント: ソフトがトリム表示を扱える前提になります。
4) View Thread TrimmingをON
- 操作: Viewタブへ移動
- 操作: View Thread Trimmingにチェック
チェックポイント: Stitch View上で、トリム位置にハサミ表示が出ます。
Setupチェックリスト(Setup完了)
- 定規の単位をインチ↔mmで切り替えられる
- Duplicateなど頻出ツールがクイックアクセスにある
- Design SettingsがMulti-needle machineになっている
- View Thread TrimmingがONになっている
- Stitch Viewでハサミ表示が確認できる
Operation
設定の目的は「書き出し前に、縫い挙動を検証できる状態」を作ることです。ここでは、どんなデータにも使える簡易の事前点検手順に落とし込みます。
手順:データの“出発前点検(pre-flight)”
- サイズ確認(お客様の言葉): 必要ならインチに切り替えて全体サイズを確認
- デジタイズ確認(プロの言葉): mmに戻して密度・引き補正などをmm基準で確認
- 作業テンポ: クイックアクセスで複製/編集を行い、タブ探しを減らす
- トリム挙動: Stitch Viewで、想定どおりの位置にハサミが出ているか確認(文字間・ブロック間など)
- 迷ったらマニュアル: PDFマニュアルで該当項目へジャンプ
期待できる結果:
- サイズはインチで会話しつつ、設定はmmでブレずに管理できる
- ミシンがどこで止まり/トリムするかを事前に予測できる
- 「想定外のトリム」や手切りを減らせる
枠張りの回数が多い運用では、物理側の段取りも効いてきます。枠固定台を用意して作業を定型化すると、位置ズレや段取り時間のブレが減ります。そうした用途では 枠固定台 は単なる台ではなく、再現性を作る仕組みになります。
Operationチェックリスト(Operation完了)
- 必要に応じてインチでサイズ確認した
- mmでデジタイズパラメータを確認した
- Stitch Viewでトリム位置(ハサミ)を確認した
- トリム最小長(2.0 mm)の意図を確認した
- マニュアルを開いて索引で飛べる
注意: マグネット枠(Snap Hoop等を含む)を扱う場合、ペースメーカー等の植込み型医療機器に近づけないでください。強い磁力で指を挟む危険もあるため、着脱時は指の位置に注意します。
Quality Checks
設定が整っていても、判断がズレると結果が崩れます。ソフト上の見え方が実縫いの挙動と一致しているか、次の観点で確認します。
チェック1:単位の一貫性
- 密度・下縫い・引き補正など「縫い挙動」に関わる調整は mm で行う
- お客様への仕上がりサイズ確認だけならインチでも可
チェック2:トリム表示の成立条件
- Stitch View になっている
- Design Settingsで Multi-needle machine が有効
- Viewタブで View Thread Trimming がON
チェック3:生産にスケールするか
販売や受注を想定するなら、「この作業を何回繰り返すか?」を自問します。
- 1回なら学習優先
- 100回なら再現性優先
段取り短縮の投資(例:マグネット刺繍枠)も、結局は「テンションが安定し、位置合わせの再現性が上がるか」で判断します。軽く生地を引いて、太鼓の皮のように張っている感覚があるかを確認する、という考え方は有効です。
Troubleshooting
ここでは、動画の内容とコメントで多い疑問に沿って、最短で原因に当たる形に整理します。
症状:トリムのハサミ(糸切り)アイコンが見えない
よくある原因(動画の手順より):
- Design SettingsでMulti-needle machineが有効になっていない(最頻)
- View Thread TrimmingがOFF
- Stitch Viewではなく、Realistic Preview等の表示のまま
対処:
- Design Settings → Multi-needle machineを有効
- Viewタブ → View Thread TrimmingをON
- Stitch Viewになっているか確認
症状:単針機なので「View Thread Trimming」が使えない/有効にならないように見える
原因: トリム表示はMulti-needleのロジックが前提になるため。
対処: 単針機でもDesign SettingsでMulti-needle machineを有効にします(表示のための設定)。
症状:止まり/トリムが多すぎる(または少なすぎる)
原因: トリムが入る最小ジャンプ長(しきい値)が、データの作り方と合っていない。
対処: Design Settings → Outputタブで、動画に出ている 2.0 mm を基準に意図を確認します。大きくすると手切りが増える可能性があります。
症状:機能の意味が分からない(例:HALF STITCH)
原因: 機能名だけ見えて「なぜ必要か」が繋がっていない。
対処: マニュアルで定義を確認しつつ、コメントでの説明の通り、HALF STITCHはきついカーブで糸切れや生地ダメージを避けるために使われます。PuffyではOFFにすることがある、という運用例も示されています。
判断フロー:作業効率ツールを増やすべきタイミング
- 週1〜5点程度(趣味ペース)?
- はい: 標準枠でOK。まずはソフトの基礎と試し縫いを優先。
- いいえ: 次へ。
- ボトルネックが枠張り時間/枠跡(枠跡)?
- はい: マグネット枠を検討。位置合わせの再現性と保持力で評価。
- 比較の道筋: Brother機なら brother pe800 マグネット刺繍枠 のような選択肢も含め、枠跡と段取り時間の変化で判断。
- いいえ: 次へ。
- 色替えの手間/スループットがボトルネック?
- はい: 多針刺繍機が選択肢になる場合があります。
- いいえ: デジタイズ品質(トリム、縫い順、密度、試し縫い)を優先。
枠張りの仕組みを比較する際は 刺繍用 枠固定台 のような「システム」として捉え、1回あたり何秒短縮でき、位置ズレがどれだけ減るかで判断するとブレません。
Results
このレッスン1のセットアップが完了すると、PE-DESIGN 10が「予測どおりに動く」状態になります。
- インチ↔mmを即切り替えできる
- デジタイズ設定はmmが標準だと理解できる
- クイックアクセスツールバーでタブ移動が減り、編集が速くなる
- Multi-needle machine+View Thread Trimming+Stitch Viewで、トリム(ハサミ)を見える化できる
- 内蔵マニュアルを開き、索引で必要箇所へ飛べる
次の段階として「安定した出力」や「受注対応」を目指すなら、ソフトでの見える化(悪いデータを作らない)と、物理段取り(枠張り・位置合わせ・スタビライザー運用)をバランスさせるのが近道です。枠張りが最も遅い工程になったときに、mighty hoop 使い方のようなマグネット枠運用を学ぶ価値が出てきますが、まずはソフト上でトリムとステッチ挙動を確実に読めることが前提になります。
