目次
刺繍前:ポケット生地の準備(補強が仕上がりを決める)
小さなポケット、ラベル、カフス、襟などへの名入れは、作品の完成度を一気に上げられる反面、やり直しが効きにくい“高リスク”作業です。特にポケットは面積が小さいぶん、少しのズレや歪みが目立ちます。
ここでは「なんとなく縫う」ではなく、現場で再現しやすい“段取り”として整理します。ポケットパネルを補強し、スタビライザーだけを枠張りして上に置く(フローティング)で小物の枠張り難易度を回避し、さらにBaby Lock Solaris VisionのIQ Intuition Projector(投影機能)で“見たままの位置”に合わせてから縫い始めます。

ここで学べること(失敗が起きやすいポイントも先に潰す)
ポケットが波打つ、針が折れる、測ったのに文字が斜めに入る——こうした典型的な失敗を、このワークフローで減らします。
- 生地を「補強」して文字をシャープにする: 糸の引き込みに負けない“コシ”を作る。
- フローティングを安定させる: 小さなパーツを刺繍枠に挟まず、枠跡(枠跡)を避けながら固定する。
- 投影で位置合わせを可視化する: 定規やチャコに頼らず、縫い位置を実物で確認する。
つまずきやすいのは、縫い始めてすぐ(体感30秒以内)に「固定が甘くて生地が動く」か、「見た目の中心は合っているのに、ポケット自体がわずかに斜めで“文字だけ曲がって見える”」ケースです。縫う前にこの2点を潰します。
準備:動画に出てくる材料+忘れがちな事前チェック
デモでは、ポケット裏に接着芯(アイロン接着の芯地)を貼り、スタビライザーはあらかじめ枠張り済み。固定にはKimberbell Paper Tape(紙テープ)を使っています。ここに、作業の安定度を上げる“事前チェック”を足します。

消耗品&プレフライトチェック:
- 新しい針: 可能なら刺繍用の新しい針に交換してから開始します。針先のわずかな傷でも、糸切れ・毛羽立ち・文字のにじみにつながります。
- 固定用のテープ: 剥がすときに糊残りしにくい紙テープを用意(動画ではKimberbell Paper Tape)。
- 下糸周りの清掃: 下糸(ボビン糸)ケース周辺の糸くずは抵抗になり、テンションの乱れ→裏のループ(いわゆる“ルーピー”)の原因になります。
- アイロン: 接着芯は“しっかり圧着”が前提です。浮きや気泡があると、その部分だけ沈みやすくなります。
注意:機械の安全。 稼働中は指・袖口・ハサミの先端を針棒付近に近づけないでください。フローティングでは、余った布が刺繍枠の下側に入り込むと、意図せず別の層まで縫い込む原因になります。縫い始める前に、刺繍枠の下に余布が噛んでいないか確認します。
なぜポケットに接着芯が効くのか(補足)
刺繍の針目は生地を内側へ引き寄せます。ポケット用のコットン1枚だと、この引き込みに負けて波打ち(パッカリング)が出やすくなります。裏に薄手の接着芯を貼って“複合材”にすると、文字がフラットに乗りやすくなり、細いスクリプト体でも輪郭が崩れにくくなります。
準備チェックリスト(Go/No-Go):
- 触って確認: 接着芯に気泡や浮きがない(浮き=弱点)。
- 枠張りの張り: 枠張りしたスタビライザーを軽く叩くと、パーンと張った感触がある。
- 糸掛け確認: 上糸がテンション部に確実に入っている。
- テープを先に裂いておく: 位置合わせ中に片手が塞がらないよう、貼る分を事前に用意しておく。
Baby Lock Solarisで文字(フォント)とサイズを設定する
この作業は外部ソフトなしでも進められます。Solaris Visionのような機種なら、本体内蔵の文字機能で小さな文字刺繍まで十分対応できます。

手順1 — プロジェクトに合う書体を選ぶ
動画では内蔵の「Exclusive Script」を選択しています。
選び方の目安: 既存のバッグに入っている文字の雰囲気に合わせたい場合は、太さと流れ(筆記体のつながり方)を見て、近い印象のスクリプト体を選ぶと統一感が出ます。

手順2 — 文字を打つ前にサイズを「小(S)」へ
動画でも、最初にサイズを「Small(S)」に切り替えてから入力しています。ポケットのような小面積では、先に小サイズにしておくことで、仕上がりの読みやすさを優先した設定に寄せやすくなります。

チェックポイント: プレビューで「e」「a」などの内側が潰れて見えないか確認します。画面上で潰れているなら、糸ではさらに潰れやすいです。
手順3 — 大文字・小文字を混ぜて文言を入力
動画では「to Someone Special」と入力しています(途中で大文字に切り替え)。

現場のコツ(余白のルール): ポケットは縫製のわずかな歪みが出やすいので、文字をギリギリまで大きくすると“ズレ”が強調されます。左右に余白を残すと、多少の個体差があっても見た目が安定します。
IQ Intuition Projectorで位置合わせ(測らずに“見て決める”)
ここがSolaris Visionの強みです。投影で「縫われる位置」を実物上で確認できるため、定規で測っても起きがちなズレを減らせます。

手順4 — 投影をONにして、縫い位置をプレビュー
動画ではプロジェクターのボタンを押すと、文字がスタビライザー面に投影されます。


手順5 — 押さえの下へポケットを差し込み、投影に合わせて動かす
ここからフローティングが始まります。デザインを無理に回すより、まずはポケット側を動かして、投影された文字が狙い位置に来るように合わせます。
チェックポイント(見た目の水平): ポケット上端(口布・折り返し)に対して、投影文字のベースラインが平行に見えるかを優先します。ポケット自体がわずかに斜めに縫われていることもあるため、定規の数値より“目で見てまっすぐ”を取った方が仕上がりが自然です。
手順6 — 画面の矢印キーで微調整
動画でも、画面の矢印で文字位置を上下左右に動かして追い込みます。ポケットを大きく動かしてから、最後は矢印で微調整すると決めやすいです。
位置合わせの考え方(補足)
この“投影で見ながら合わせる”方法は、小物を正確に枠張りするストレスを大きく減らします。一方で、最終的な精度は「ポケットとスタビライザーの摩擦」と「固定の確実さ」に依存します。
量産目線のアップグレード案: ギフトの単発なら、動画の紙テープ固定で十分成立します。ただ、同じ位置に何十枚も入れる作業では、テープ貼りは手間が増え、固定のバラつきがリスクになります。そういう場面では マグネット刺繍枠 babylock 刺繍ミシン 用 のような治具・フレームで“挟んで固定”する方向に寄せると、段取りが標準化しやすくなります。
フローティング:紙テープでポケットを固定する
フローティングは「生地は枠に挟まず、スタビライザーだけを枠張りして、その上に生地を置く」方法です。枠跡を避けたい素材や、枠に入れにくい小物でよく使われます。

手順7 — ポケットの上下を紙テープで固定してズレを防ぐ
動画では、ポケットの上端と下端をKimberbell Paper Tapeで留めています。ポイントは“動かないこと”と“針の進路にテープが入らないこと”です。

チェックポイント: テープはシワなくピンと張り、シートベルトのように押さえる役割になります。たわみがあると、その下で生地が滑ります。また、投影で確認できる針の動作範囲(安全域)にテープがかからない位置に貼ります。
フローティングが失敗する理由と予防
起きている現象はシンプルで、「針の引っ張り(ドラッグ)が固定の摩擦を上回る」とズレます。起こりやすい条件は次の通りです。
- スピードが高すぎる: 慣性で生地が動きやすくなります。
- 生地が厚い/毛足がある: テープだけでは圧が足りず、保持力が落ちます。こうした場面では マグネット刺繍枠 のようにしっかり圧着できる方法が有利になります。
注意:マグネットの安全。 マグネット刺繍枠を使う場合は、強い吸着力があります。指を挟まないように扱い、ペースメーカー等の医療機器や磁気に弱い媒体から離して保管してください。
実務向け:フローティング時のスタビライザー選び(考え方)
スタビライザーは土台です。素材に合わせて選びます。
- ケースA:伸びない布帛コットン(動画のポケット)
- 推奨: 中厚手のティアウェイ、または薄手のカットアウェイ。
- ケースB:ニット/伸縮素材(Tシャツ・ポロなど)
- 推奨: 伸び止め効果のあるカットアウェイ系。
- ケースC:厚手/凹凸のある素材(デニム等)
- 推奨: しっかりしたカットアウェイ+必要に応じて上面にトッパー。
- 作業量の目安:
- 単発: テープ固定でOK。
- 複数枚: baby lock マグネット刺繍枠 のような固定方法で段取りを揃えると、位置ブレと準備時間を抑えやすくなります。
現場感のある確認(フローティングが不安なとき)
フローティングは「枠に挟んでいない」ぶん不安になりがちですが、スタビライザーがしっかり枠張りされ、テープ固定が確実なら、摩擦で十分保持できます。縫い始める前に“動かしてみてズレないか”を必ず確認します。
刺繍と仕上げ:縫い始めてからの観察ポイント
段取りができたら、あとは縫うだけです。

手順8 — 押さえを下げてスタート
動画では、押さえの下にポケットをセットし、スタートボタンで文字刺繍を開始しています。

運用の考え方(設定の目安):
- スピード: フローティングは固定が命なので、速すぎるとズレのリスクが上がります。まずは安定優先で運用します。
- テンション: 小さな文字は、糸が締まって輪郭が出る方が読みやすくなります。裏面の糸バランスを見ながら調整します。

縫っている最中のチェック(音と動き):
- 見る: ポケットの角がパタパタ持ち上がる、テープが浮くなどの兆候が出たら一旦停止し、固定を追加します。
トラブルシューティング(症状 → 原因 → 対処)
| 症状 | ありがちな原因 | すぐできる対処 |
|---|---|---|
| 糸が絡む(鳥の巣) | 上糸がテンションに入っていない/押さえを下げたまま糸掛けした | 押さえを上げてから上糸を掛け直し、テンション部に確実に入れる |
| 文字が沈む/細く見える | 生地の凹凸や毛足で糸が埋もれる | 必要に応じて上面にトッパーを追加し、コントラストのある糸色を選ぶ |
| デザインが傾く/回る | 固定不足で生地が支点回転している | 一旦停止してテープを追加。量が多い場合は Baby Lock マグネット刺繍枠 のように均一に挟める方法を検討 |
| 縫い始めが乱れる | 糸端が押さえの下に巻き込まれる | 最初の数針は上糸端を軽く押さえ、落ち着いたらカット |
仕上げ:テープをきれいに剥がして確認する
動画では、刺繍後にテープを剥がして仕上がりを見せています。剥がすときは生地を引っ張らないのがコツです。


仕上げ基準:
- テープ剥がし: テープは立てて引っ張らず、寝かせて(自分側へ返すように)剥がすと生地への負担が減ります。
- 糸処理: 飛び糸は先の細いハサミで根元から。
- 裏面: スタビライザーを外すときは刺繍を押さえながら行い、糸を引っ張りすぎないようにします。
自宅工房や小規模運用でも、仕上げの再現性が品質になります。作業姿勢や段取りを整える目的で 刺繍用 枠固定台 を組み合わせ、枠張りや位置決めを“同じ動き”でできるようにする人もいます。
作業完了チェック(納品前):
- 位置: 投影で見た位置に着地しているか
- 歪み: ポケット形状が引きつれていないか
- 可読性: 小さなループ(e/a/o)が潰れていないか
- 枠跡: フローティングで生地表に跡が出ていないか
まとめ
接着芯で生地を補強し、投影で位置合わせを確定し、フローティングを確実に固定してから縫う——この順番を守るだけで、名入れの成功率は大きく上がります。単発でも量産でも、まずは“縫う前に勝つ”段取りを作るのが最短ルートです。
