Hatch Embroidery 2で刺繍デザインを配色変更:糸見本帳(Thread Chart)、パレット管理、Pick&Applyで素早く編集

· EmbroideryHoop
この実務向けガイドでは、Hatch Embroidery 2で刺繍デザインの糸色を確実に変更するための3つの方法を解説します。①使用する糸見本帳(例:Isacord 40)を選んで基準を統一する、②既存のデザイン色を見本帳の実在色(糸番)に近似マッチさせる、③オブジェクトを変えずにパレットへ新しい色を追加する、そして④Pick Color(スポイト)+Apply Current Color(バケツ)で画面上から直感的に部分配色を差し替える手順です。さらに、画面の色と実糸のズレによる糸替えミスや工程の混乱を防ぐためのチェック項目もまとめ、デジタルから実機運用へスムーズに繋げます。
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目次

糸見本帳(Thread Chart:糸ブランド)を先に統一する(Isacord、Madeira など)

配色変更は、モニター上で「見栄えを良くする」だけの作業ではありません。業務用刺繍の現場では、色の決定=段取り指示です。どのコーンを棚から取るか、何回糸替えで止まるか、そしてロゴ案件でブランドガイドラインに合うかどうかまで、すべてに直結します。

このチュートリアルでは Hatch Embroidery 2 の「糸見本帳」と「デザインパレット(Design Colors)」の扱いを、ボタン操作だけでなく“実機で起きること”に繋げて整理します。画面上の色を、刺繍ミシンの糸番・作業指示として破綻なく落とし込むのが目的です。

The initial digital embroidery design displaying 'ALOHA !' text in blue and a red hibiscus flower.
Design preview before editing.

この記事でできるようになること(現場で効く理由)

Hatch Embroidery 2には、目的別に使い分けられる配色変更の流れがあります。

  • 実在する糸ブランドに基準を合わせる:糸見本帳(例:Isacord 40)を選び、色の「物差し」を統一する。
  • 既存のデザイン色を近い糸番に置き換える:曖昧な色名ではなく、糸番ベースの指示にする。
  • オブジェクトを変えずにパレットへ色を追加する:試作用・バリエーション用の色を“手元に並べる”。
  • 画面上でクリックして部分的に色を差し替える:Pick Color(スポイト)とApply Current Color(バケツ)で直感的に編集する。

デジタイズだけをしている場合でも、ミスの芽はここで生まれます。画面では「青」に見えても、作業指示が曖昧だと現場では糸の取り違えが起きます。ファイルが「Blue」としか言っていないのに、棚は「Isacord 3641」で運用している——この“曖昧さ”が、刺繍では不良につながります。

事前準備:見落としがちな消耗品と「作業前チェック」

ソフトは抽象、刺繍は機械作業です。配色変更をする前に、まず物理側の前提を揃えます。

見落としがちな消耗品(物理の“正解”):

  • 糸見本帳(実糸付きカード):モニターの色は信用しすぎない。使用ブランドの実糸サンプルで確認する。
  • 照明(自然光に近い環境):同じ糸でも光源で見え方が変わるため、可能なら窓際などでも確認する。
  • 参照情報:クライアント案件なら、開始前に指定色(社内基準など)を確認しておく。

作業前のロジックチェック:

  • 在庫チェック:棚にない糸番を割り当てるなら、購入する前提を明確にする(曖昧なまま進めない)。
  • 運用前提:単針機は色替え=停止作業。多針刺繍機なら色数に余裕がある。自分の運用に合わせて配色を決めると、後工程が荒れません。

事前チェックリスト(ピクセルに触る前に)

  • 使用ブランドの確認:実際に縫う糸ブランド(例:Isacord 40)を決める。
  • 画面レイアウト:Hatchを開き、Threads dockerDesign Colors が見える状態にする。
  • 目的の明文化:例「赤いハイビスカスを夏向けにオレンジへ」など。
  • バックアップ:元の .EMB を別名保存(Design_v1.EMB)して退避する。
  • 目視監査:200%程度まで拡大し、極小の色片(細い下縫い等)が混ざっていないか確認する。

注意(機械安全): ここではソフト操作が中心ですが、最終的には高速で針が動く機械作業です。後で実機テストする際は、指・髪・パーカーの紐などを針棒周辺に近づけないでください。

The 'Select Thread Charts' dialog box is open, showing a list of thread brands.
Selecting the thread brand.

手順:使う糸見本帳(Thread Chart)を選ぶ

動画では最初に、デザインを特定の糸見本帳へ統一しています。現場で言えば「今日はこの糸棚で回す」と決めるのと同じです。

  1. Dockerを開く:画面右側の Threads docker で Select Thread Charts をクリック。
  2. 不要な見本帳を外す:ダイアログ内で、初期設定の見本帳(例:Royal など)を見つけ、「<」 で外す。
  3. 使う見本帳を追加:一覧から Isacord 40 を探し、「>」 で追加する。
  4. 確定:OKで閉じる。

チェックポイント: Threads docker が Isacord 40 の一覧表示になっていること。以降の色指定は「色名」ではなく「糸番(実在品)」に寄せられます。

期待される結果: 色を割り当てると、Hatchが糸番ベース(例:Isacordのコード)で管理しやすくなり、作業指示がブレにくくなります。

The interface showing the Isacord 40 thread list loaded in the right-hand docker.
Browsing thread colors.

方法1:Threads dockerで既存色を糸見本帳にマッチさせる

この方法は、現場の標準化に強い手順です。色のブロック(赤は赤、青は青)を大きく変えずに、曖昧な色を「ブランドの糸番」に置き換えるのが目的です。

運用が複数人になるほど、「同じ“青”でも人によって選ぶ糸が違う」というズレが起きます。方法1は、そのズレを最小化します。

手順:デザイン色を見本帳の近似色へ置き換える

  1. 対象スロットを選ぶ:画面下の Design Colors で、置き換えたい色の四角をクリック。
  2. 近い糸を探すThreads docker(Isacord 40)から近い色を探す。Hatchは近い候補を上に並べる挙動があります。
  3. 割り当て:docker側の糸色をシングルクリック
  4. 反映を確認:選択中のDesign Colorsスロットに、糸番の定義が移ります。
  5. 全色分繰り返す:パレット内の色を一通り“糸番化”します。

セットアップチェック(標準化)

  • 1色=1コード:使用中の各色が、具体的な糸番になっている(曖昧な色定義が残っていない)。
  • 背景とのコントラスト:想定生地色に対して埋もれないか。
  • 色数の整理:似た青が2つあるなら、同じ糸番に寄せて色替え回数を減らす判断も可能。

チェックポイント: Design Colorsの色味がわずかに変わることがあります。これは見本帳の定義に寄せた結果です。

期待される結果: パレットが「雰囲気」ではなく「ピッキングリスト(糸番の指示)」になります。

Mouse cursor selecting a specific blue thread from the list to replace the design color.
Assigning thread color.

動画で触れている時短:Match All

動画の内容として Match All コマンドが言及されています。選択中の見本帳から、全色を一括で近似マッチさせる機能です。

  • 使いどころ:色数が多く、まずは全体を素早く“糸番化”したいとき。
  • 避けたい場面:ロゴや厳密な色合わせ。自動近似はRGB距離で寄せるため、実糸の印象(温かみ・鮮やかさ)まで保証しません。

品質チェック:画面の色と、縫い上がりの色は一致しない

画面プレビューは便利ですが、糸には光沢や質感があり、ピクセル通りには見えません。

現場で堅い手順は次の流れです。

  1. 方法1で糸番の整った状態を作る。
  2. 作業指示(糸番)を持って糸棚へ行く。
  3. 実物確認:コーン同士を並べ、違和感がないか確認する。
  4. 光源確認:可能なら自然光でも見て、色ブレが大きくないか確認する。

配色が整っても、枠張りがズレれば仕上がりは崩れます。段取り改善の入口として how to use magnetic embroidery hoop のような情報を探す人が多いのは、色と同じくらい「枠張り精度」が結果を左右するからです。マグネット刺繍枠を使うと、締め付けによる枠跡を抑えつつ、素早く安定して固定しやすくなります。

Close up of the Design Colors toolbar updated with new specific thread codes.
Reviewing palette changes.

方法2:パレットに新しい色を追加する(既存オブジェクトは変えない)

既存色を置き換えるのではなく、パレットを拡張して候補色を並べたい場面があります。たとえば葉の緑を数パターン試す、季節バリエーションを作る、などです。

手順:「+」で新しい色スロットを追加する

動画では、パレット末尾にスロットを増やして、Isacordの糸色を入れています。

  1. スロット追加:Design Colorsの右端にある Add Palette Color(+) をクリック。
  2. 糸色を選ぶ:Threads docker(Isacord 40)をスクロールして候補を探す。
  3. スロットへ割り当て:糸色をクリックして、新しいスロットに入れる。

例として 1902 Poinsettia5531 Pear が追加されています。現場で言えば「候補のコーンを作業台に出しておく」感覚です。

チェックポイント: 新しい色スロットがパレットの末尾に増えていること。

期待される結果: 画面上のデザイン自体はまだ変わらず、選択肢だけが増えます(段取りの準備)。

The user is selecting a specific shade '2910 Spruce' from the list.
Selecting green thread.

手順:ダブルクリックで“その場追加(on-the-fly)”

動画では、より速いショートカットも示されています。

  1. Threads dockerで追加したい糸色を見つける。
  2. その糸色を ダブルクリック
  3. Design Colorsの末尾に新しいスロットとして自動追加される。
Adding '1902 Poinsettia' to a new color slot at the end of the palette.
Expanding the color palette.

現場向け:パレットの増殖を管理する

色を増やすのは簡単ですが、使わない色が増えると事故の元です。

  • 目安:実際に使わない色は、パレットから整理する。
  • 順序確認:配色変更後は Sequence docker を見て、同じ色が行ったり来たりしていないか確認する(色替え回数・トリム回数の増加を防ぐ)。

方法3:Pick&Apply(スポイト&バケツ)で画面上から部分的に配色変更

直感的に「この花びらだけオレンジにしたい」と指定できる方法です。一方で、初心者は意図しない小さな要素を拾ってしまうことがあるため、ハイライト表示をよく見て操作します。

Adding '5531 Pear' to the palette manually.
Expanding the color palette.

手順:Pick Color(スポイト)+Apply Current Color(バケツ)

  1. スポイトを選ぶPick Color ツール(スポイト)を選択。
  2. カーソルを動かす:デザイン上をゆっくり移動。
  3. ハイライト確認:カーソル下で輪郭やハイライトが切り替わるのを確認(「今クリックするとこれを拾う」という合図)。
  4. 色をサンプル:狙った要素(例:青い「ALOHA」文字)をクリックし、その色をCurrent Colorにする。
  5. 新しい糸色に切り替え:Threads dockerで新しい色(例:330 Tangerine)をクリックしてCurrent Colorを更新。
  6. バケツを選ぶApply Current Color ツール(バケツ)を選択。
  7. 対象を狙う:変更したい要素(例:赤い花びら)にカーソルを合わせ、ハイライトを待つ。
  8. 適用:クリックして色を流し込む。

チェックポイント: 花びらだけが変わったか、他の要素まで変わっていないか。ミスしたら Ctrl+Z で戻します。

期待される結果: 指定した要素だけが即座に色変更され、他はそのまま保たれます。

Double-clicking a color (Marmalade) in the list to add it 'on-the-fly'.
Quick add shortcut.

「適用」の挙動は2種類ある(混同しない)

Hatchでは、変更の効き方が大きく2つに分かれます。

  • 方法1(全体=Global):Design Colorsのスロット自体を変えると、そのスロットを使う要素が一括で変わる。
  • 方法3(部分=Local):Apply(バケツ)で、同色の要素が複数あっても狙った箇所だけ変えられる。
Using the 'Pick Color' eyedropper tool to sample the blue color from the text.
Sampling color from design.

効率メモ(現場のボトルネック)

カスタム案件ではスピードが利益に直結します。ただし、ソフト側で配色変更が速くなっても、実機側の段取り(枠張り)が遅いとトータルでは詰まります。

magnetic embroidery hoop のような用語は、段取り改善の入口になります。従来のネジ式フープは厚物で締め込みに時間がかかりやすい一方、マグネット刺繍枠は着脱が速く、段取り時間を短縮しやすいのが特徴です。配色バリエーションを増やすほど、こうした差が効いてきます。

The specific petal highlights as the mouse hovers over it, indicating selection ready.
Pre-selection highlight.

なぜ「正確な糸色管理」がマシン刺繍で重要なのか

色管理は見た目の話ではなく、品質保証(QA)の話です。

判断フロー:どの配色変更を選ぶべきか

  1. 厳密な色指定(ロゴ等)があるか?
    • YES: 方法1。該当ブランドのThread Chartを選び、糸番で揃える。
    • NO: 次へ。
  2. 同一デザインの季節・企画バリエーションを作るか?
    • YES: 方法2。候補色を先にパレットへ追加してから割り当てる。
    • NO: 次へ。
  3. 一部分だけ変えたいか?(例:目だけ青)
    • YES: 方法3。Pick&Applyで部分変更。
    • NO: 基本は方法1で標準化しておくと安全。

現場視点の「なぜ」:色は生地条件とも連動する

色は顔料ではなく、素材条件と一緒に評価されます。

  • コントラスト:濃色×濃色は沈みやすい。配色変更で視認性が落ちる場合は、設計側の見直しが必要になることがあります。
  • 糸の種類:このチュートリアルは Isacord 40 を例にしていますが、糸種を変えると印象も変わります。
  • 枠張り:厚手(フーディー等)と薄手(Tシャツ等)では保持の難易度が違います。使用する 刺繍ミシン用 刺繍枠 の選定は、位置ズレや張りムラのリスクに直結します。厚物や扱いづらい素材では、マグネット刺繍枠の方が安定しやすいケースがあります。

スケールの話:ソフトが速くなると、次は物理が詰まる

配色変更が手早くできるようになると、次は実機側の停止(色替え・段取り)がボトルネックになります。

  • レベル1:枠張りの標準化hooping station を使うと、毎回同じ位置・同じテンションで枠張りしやすくなります。
  • レベル2:多針化:色数が多い案件が多いなら、多針刺繍機で停止回数を減らす発想もあります。

品質チェック

熟練者は「デジタルの作業前点検」を挟んで、現場の事故を減らします。

色と順序のチェック(省略しない)

  1. 見本帳の確認:Threads dockerが狙ったThread Chart(Isacord 40)になっているか。
  2. 未使用色の整理:Design Colorsに空スロットや重複がないか。
  3. 順序の整合Sequence docker を開く。
    • 悪い例:色1 → 色2 → 色1 → 色2(色替えが増える)
    • 良い例:色1(まとめて)→ 色2(まとめて)
    • 調整:Sequence dockerでブロックを並べ替えて流れを整える。
The Paint Bucket tool is active, ready to apply the new orange color.
Applying new color.

良い配色変更の「期待結果」

  • 見た目:プレビューが意図した配色テーマになっている。
  • データ:作業指示が色名ではなく糸番(例:1902 Poinsettia)で把握できる。
  • 流れ:順序が整理され、色替えが最小化されている。
The flower petals have changed from red to orange (Marmalade/Tangerine).
Result of recoloring.

トラブルシューティング

配色変更で起きがちな実務トラブルと対処です。

症状 主な原因 対処(低コスト→高コスト)
「花をクリックしたのに茎も変わった」 同じ色スロットを共有している変更(全体=Global)がかかった。 部分変更したいなら方法3(バケツ)を使う。必要に応じて Ctrl+U でUngroup。
「バケツが効かない/何もハイライトしない」 選択できない表示状態、またはツールが違う可能性。 選択できる状態であることを確認し、カーソルをゆっくり動かして輪郭ハイライトを待つ。
「画面の色が派手すぎる/違和感がある」 モニター表示のズレ。 実糸付きの見本帳を優先し、糸番の整合を崩さない。
「枠跡(枠のリング跡)が残った」 従来フープを締めすぎた。 マグネット刺繍枠 の検討。面で保持しやすく、摩擦による枠跡を抑えやすい。
「配色変更後にシワ(パッカリング)が出た」 走行中のズレ、またはスタビライザー不足。 スタビライザーの見直しと、保持テンションの均一化を確認する。

まとめ(結果)

この流れを一通り押さえると、刺繍データの色が「勘」ではなく「管理」になります。

できるようになること:

  1. 統一:Thread Chart(例:Isacord 40)に合わせて基準を固定。
  2. 変換:曖昧な色を、現場で使える糸番データへ。
  3. 拡張:バリエーション用のパレットを安全に増やす。
  4. 部分編集:Pick&Applyで狙った箇所だけ素早く変更。
Using the 'Apply Current Color' tool on the other parts of the design sequentially.
Recoloring multiple objects.

最終チェックリスト(出力前のゲート)

  • 見本帳の最終確認:dockerのThread Chartは、実際に使うブランドになっているか。
  • パレットの衛生:未使用色・空スロット・重複が残っていないか。
  • 順序の最適化:同色が分断されて色替えが増えていないか。
  • 保存名の統一DesignName_Isacord_SummerV1.EMB のように判別できる名前で保存。
  • 枠張り方針:素材に合う刺繍枠を選べているか(厚物・滑りやすい素材はマグネット刺繍枠が有利な場合がある)。

ソフト操作を速くするのがステップ1。糸管理・スタビライザー・枠張りを含めて“現場の速度”に合わせるのがステップ2です。データは速いのに枠張りで詰まるなら、作業性の高い magnetic embroidery hoop の導入検討が、次の改善点になります。

注意(マグネットの安全): マグネット刺繍枠は磁力が強力です。ペースメーカー、磁気カード、記録媒体などに近づけないでください。指を挟むと強い痛みを伴うため、指掛かり(タブ)がある場合はそれを使って着脱します。

Final view of the recolored design with the 'Sequence' docker showing the new color order.
Final review.