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クレイジーキルトの配色を「破綻させない」考え方
マシン刺繍のクレイジーキルトは一見すると自由でランダムに見えますが、仕上がりの格はほぼ配色設計で決まります。特に「複数ブロックをつないで1枚のキルトにする」場合、各ブロックがバラバラに主張すると、全体が散らかった印象になりがちです。
Hazelが強調しているのは、まず“色数を増やしすぎない”こと。テーマとして狙っているのでなければ、原色(いわゆる一次色)を多用せず、グリーン/タン(ベージュ系)/アイボリーのような柔らかい近似色で「同じ系統(色の家族)」を作り、ブロック同士が並んだときに自然に馴染むようにします。

この記事でできるようになること
単なる手順紹介ではなく、同じ品質を繰り返し出すための“段取りの型”として整理します。
- 配色の組み立て方: 複数ブロックが「同じ作品」に見える糸色のまとめ方
- スタビライザーの考え方: 仮止めスプレーでスタビライザーをフロートし、歪みを抑える
- 目視の基準線: シルクデュピオンのスラブ(節)ラインで直角を出す
- 配置精度: 配置縫い(プレースメントステッチ)を“地図”として読み、最初のパッチをズレなく置く
チェックポイント(コメントより要約)
視聴者からは「見るたびに新しい学びがある」という反応があり、特に“見えない下準備”が刺さっています。ITH(In-The-Hoop)キルティングは、スタートボタンを押す前の段取りが結果を左右します。
段取りの小さな差(スプレーのかけ方、枠のテンション、布の直角出し)が、代表的な失敗——ブロックの曲がり、布ズレ(位置合わせ不良)、デリケート素材の枠跡——を防ぐ決定打になります。
「質感のコントラスト」も配色設計の一部
Hazelは過去ブロックの反省として、シルクデュピオンの“光沢面”を隣り合うパッチで続けて使ってしまい、境界がのっぺりして見えた点を挙げています。光の反射が同じだと、布同士が溶けて見えてしまうためです。
解決策は、必ずしも新しい布を買うことではありません。手元の布でも、光沢(シャイニー)と節感(スラブ/マット寄り)を意識して隣接させる、あるいは表裏の使い分けで“見え方の差”を作れます。
補足: 糸色だけでなく、布の小片(スワッチ)も一緒に並べて、反射の強さ(光沢/マット)を確認しておくと、ブロックを量産するときに迷いが減ります。



枠張り:スタビライザーを「フロート」する方法
この工程では 8x8 の枠サイズで進みます。Hazelのやり方は、スタビライザー1枚を刺繍枠に枠張りし、その上にもう1枚を“フロート(浮かせ貼り)”する構成です。
狙いは、土台をドラムのようにピンと張りつつ、シルクデュピオンのようなデリケート素材に余計な圧や摩擦をかけないこと。一般的なクランプ式の brother 8x8 刺繍枠 でも考え方は同じで、土台の安定(テンション)と、布目の歪みを作らないことが最優先です。

なぜフロートが効くのか(現場目線の説明)
ITHキルティングは、最初の配置縫いが“地図”になります。ここで土台がわずかに動くと、その誤差が次のパッチ、さらに次のパッチへと累積し、後半で隙間やシワとして表面化します。
- 土台(Foundation): 下のスタビライザーを枠張りしてテンションを作る=作業台を安定させる
- 補強(Reinforcement): 針落ちが集中する範囲だけ、上にもう1枚足して局所的に支える(枠の端まで厚くしない)
- グリップ(Grip): 仮止めスプレーで微小な滑りを抑える
ブロックが曲がる主因: データよりも、土台が“じわっ”と動くこと(針の引きずりで布が寄る)が原因になりやすいです。
手順:スタビライザーを枠張り+フロート
- 1枚目を枠張りする:
- 中厚程度の Stitch ’n Tear(ティアアウェイ)を1枚、刺繍枠に枠張りします。
- 触感チェック: 指で軽く叩いて、たるみがなく「太鼓の皮」みたいな張り感があるか確認します。
- スプレーして2枚目をフロート:
- 仮止めスプレーをよく振り、枠張りしたスタビライザーの上面に軽くスプレーします。
- 2枚目(少し小さめでOK)を刺繍範囲の中心に置きます。
- 動作: 手のひらでしっかりならします。Hazelは指で「アイロンがけする感じ(finger-ironing)」と表現しています。
補足: フロートする2枚目は、枠いっぱいのサイズである必要はありません。枠張りしない分、刺繍範囲をカバーできれば十分で、消耗品の節約にもなります。
フローティング用 刺繍枠 の考え方に慣れていない場合は、2枚目を「見えない補強パッチ」と捉えると理解しやすいです。


枠張りがボトルネックになったときの考え方
趣味で数枚作る程度なら標準枠でも進められますが、ブロック数が増えるほど枠張りの負担が効いてきます。
- 切り替えサイン: 20枚以上作る/ネジ締めで手首が疲れる/シルクに枠跡が出やすい
- 判断基準: 縫う時間より、枠張りとならしに時間が取られている
- 対策(道具の見直し): 家庭用途でも
マグネット刺繍枠は段取り短縮に直結します(布を強くこすらず固定しやすい)。
注意:マグネットの安全性
マグネット刺繍枠は強力な磁石を使用します。
* 挟み込み注意: 指を挟まないよう、着脱時は指の位置を必ず確認します。
* 医療機器: ペースメーカー等を使用している場合は近づけないでください。
* 電子機器: クレジットカードやスマホ等から離して保管します。
シルクデュピオン:質感と直角出し(位置合わせ)
シルクデュピオンは、光沢とハリが魅力の一方で、伸びがほとんどないため、少しのズレがそのまま“曲がり”として見えます。
そこで使えるのが、布そのものにあるスラブ(節)ラインです。これを定規代わりにして、枠に対して真っ直ぐに置きます。

手順:ベース布を貼って直角を出す
- 上側のスタビライザーにスプレー:
- フロートしたスタビライザーの上面に、仮止めスプレーを薄くかけます。
- シルクデュピオンを置く:
- まずはそっと乗せるだけにして、すぐに強く押さえ込まないようにします。
- スラブラインで直角出し(目視の基準):
- スラブ(横方向に見える節のライン)を見て、刺繍枠の下辺と平行になるように布を回して合わせます。
- ここがズレると、ブロック全体がズレます。
- 中心から外へ押さえる:
- 位置が決まったら、手のひらで中心→外側へ向かってならします。
- 理由: 空気を外へ逃がし、後で針が走ったときの“ふくれ”を防ぎます。


注意:作業時の安全
ミシンのアーム内で布をならすときは、誤作動で針が動かない状態にしてから作業してください。指が押さえ金周辺(針の動作域)に入った状態でスタートすると危険です。
見落としがちな消耗品と事前チェック
動画では大きな流れが中心ですが、安定して仕上げるには細部の準備も重要です。
- 下糸(ボビン糸): 途中で下糸が切れる/なくなると、配置縫いの修正が目立ちやすくなります。作業前に残量を確認します。
- スプレーの場所: ミストが機械周辺に付着しないよう、段ボール箱などを使って別場所でスプレーすると安心です。
また、シリーズで繰り返し枠張りする場合は、作業台の安定性が効きます。内枠・外枠を水平に保ちやすい 刺繍用 枠固定台 を使う人も多いです。
準備チェックリスト(フェーズ1)
- スタビライザー: ティアアウェイ 1枚(枠張り/強めのテンション)+ 1枚(フロート/しっかりならし)
- 接着: 角が浮きにくい(軽く触って確認)
- 直角: スラブラインが枠の辺と平行
- 安全: 針の動作域に道具が落ちない状態
配置縫い(プレースメントステッチ)の読み方
配置縫いは、ITHキルティングの設計図です。Hazelは最初の縫い(ランニングステッチ系)で、後から置くパッチの位置を布に直接マーキングします。

手順:配置線を縫って確認する
- 地図を縫う:
- データを読み込み、最初のステップ(配置線)をシルクデュピオン上に縫います。
- 形を観察する:
- 縫い上がった形が、枠に対して不自然に回転していないか。
- さらに、布のスラブライン(布目)に対しても斜めになっていないか。
- PDF図と照合する:
- Hazelが言及しているように、PDFには各配置に必要な布サイズ/形の図があるため、縫い上がりと見比べて確認します。

つまずきポイント:「曲がって縫えた」はだいたい段取りの問題
Hazelは「そこまで悪くない」と言っていますが、ここは続行判断の分岐点です。
- 簡易チェック: 配置線から枠端までの距離を左右で見比べ、極端な差がないか確認します。
- NGの目安: 明らかに回転していると感じたら、ここで止めてやり直すほうが結果的に早いです。
判断の目安:ITHクレイジーキルトのスタビライザー選び
縫う前に、素材に合わせて土台構成を決めます。
- A:コットン/シルクなど(伸びにくい素材)
- 推奨: ティアアウェイ 1枚(枠張り)+ 1枚(フロート)
- 理由: 安定性と後処理(ちぎりやすさ)のバランスが良い
- B:伸縮素材(ニット等)
- 推奨: カットアウェイ(枠張り)+ 仮止めスプレー
- 理由: 針の衝撃で伸びやすく、ティアアウェイだと保持力が落ちやすい
- C:量産(ブロック数が多い)
- 推奨: スタビライザーを同寸でまとめてカットしておく
- 理由: 段取り時間を削減し、品質を揃えやすい
最初のパッチ布を置く(ブロックの立ち上げ)
配置線が入ったら、パッチを置く工程に入ります。

手順:最初のパッチをきれいに置く
- 向きを確認:
- PDF図を見て、このパッチの上下左右(向き)を確認します(動画ではタン系のシルク)。
- 配置:
- 配置線の上に布を重ね、線を覆うように置きます。
- ならす:
- 手で軽くならしてフラットにします。Hazelはこの段階では“置くだけ”に近く、後で固定用のペン(グルーペン)を使うことに触れています。
- 厚みを作らない:
- 針が通るライン上に、強い接着や厚い固定物を入れないようにします。

現場のコツ:パッチは「少し大きめ」に切っておく
動画でも、布はPDFの指定サイズより「少し大きめ」にカットして準備しています。ギリギリに切ると、後で縫い込んだときに端が足りなくなるリスクが上がります。
- 考え方: 余りは後でトリムできますが、足りない布は戻せません。
量産を見据えた段取り(キルト全体を作る場合)
12枚、20枚、30枚とブロックを増やすほど、作業の“型”が効きます。
- バッチ処理: スタビライザーをまとめて切る日/布をまとめて切る日/枠張りして縫う日、のように工程を分ける
- 枠張りの標準化: 標準の
ミシン刺繍用 刺繍枠から刺繍用 枠固定台のような枠固定台システムへ移行すると、毎回の枠張り精度が揃いやすくなります。
セットアップチェックリスト(フェーズ2)
- 配置線: 見やすい糸色でくっきり入っている
- 照合: 配置線がPDF図と一致している
- フラット: シワ・ふくれがない
- 固定: 置いたパッチが作業中にズレにくい
トラブルシューティング
縫い進める前に違和感があるときは、ここで原因を切り分けます。
| 症状 | よくある原因 | まずやること(応急) | 予防 |
|---|---|---|---|
| ブロックがのっぺり見える | 隣り合うパッチの光沢・質感が近い | 光沢面とスラブ面(マット寄り)を隣接させる | 糸色だけでなく布の反射も一緒に計画する |
| 配置線が曲がっている | ベース布の直角出し不足(スラブライン無視) | ここで止めてやり直す | 枠の辺とスラブラインを平行にしてから押さえる |
| 布がふくれる/シワが出る | 端から押して空気を閉じ込めた | 可能なら持ち上げて中心→外へならし直す | 中心から外へ押さえる手順を徹底 |
| スタビライザーが浮く | スプレーが弱い/接着が甘い | 軽く追加スプレーして手圧でならす | ならし(finger-ironing)を丁寧に行う |
| 枠張りがつらい | ネジ締めの負担が大きい | 休憩を入れる | マグネット刺繍枠 などで段取り負担を下げる |
ここまでの結果(次工程に進む前の到達点)
この準備工程が終わると、次の刺繍(タックダウンや装飾ステッチ)に進むための土台が揃います。
- 配色の統一: グリーン/タン/アイボリーを軸に、ブロック同士が馴染む
- 土台の安定: スタビライザー2層(枠張り+フロート)でテンションを確保
- 直角出し: スラブラインを基準に、ベース布を真っ直ぐ貼れている
- 地図の確認: 配置線で形状と向きを検証できている
- パッチ配置: 最初のパッチを所定位置に置けている
最終確認チェック(作業開始前)
- 枠の状態: 平らで安定し、浮きがない
- ベース布: シワなし、直角が出ている
- 配置線: PDF図と一致している
- パッチ: ズレにくく置けている
- 安全: 手や道具が針の動作域にない
キルトとして最終的にスクエアをつなぐ方法はいくつかあります。コメントでも「スクエアをどうつなぐか」という質問があり、作者は別チュートリアル(Quilting in the hoop)を案内しています。とはいえ、完成度を左右する最大の近道は、各ブロックでこの“準備の型”を崩さずに繰り返すことです。同じスタビライザー、同じスプレー、同じ直角出し——この一貫性が、プロ品質の仕上がりを作ります。
