目次
Sew Art 64とビーンステッチの基本
ビーンステッチ(一般に「トリプルラン」と呼ばれることもあります)は、手描き風の太い線を“自動処理で”作りたいときに便利なアウトライン表現です。通常のランニングステッチが1回通るのに対して、ビーンステッチは同じ針穴を前後に往復するように縫うため、線がしっかり立ち上がり、キルトブロックやタオル、ラフなワッペン表現などで存在感が出ます。
このガイドでは、ソフトの機能説明だけで終わらせず、実際に縫えるデータに仕上げるための流れに沿って解説します。Sew Art 64で、(1)線画素材の選び方→(2)画像の整理(カラーリダクション)→(3)枠に入るサイズ調整とトリミング→(4)重要な Outline Centerline の選択→(5)Height/Lengthの詰め方→(6)PES保存とUSB転送、までを一連の作業として再現できるようにまとめました。

このガイドで身につくこと
- 素材選び: 変換に強い線画の見極め(線が細すぎる場合はビーンよりランニングが向く判断も含む)
- 白黒でも必要な下処理: 見た目は白黒でも、画像内部に“グレーのノイズ”が混ざる理由と対処
- 枠に入れるサイズ設計: 幅 95 mm にする意図(刺繍枠の上限ギリギリを避ける)
- 二重線の落とし穴: 「Outline Border」を選んでしまうミスの回避
- 縫いの質を決める2値: Height と Length が密度感・カーブの滑らかさに与える影響
単発の試し縫いでも、同じデータを何十枚も回す量産でも、再現性が出る“確認ポイント付き”の手順にしています。
画像準備:検索→サイズ調整→カラーリダクション
手順1 — コントラストの高い線画を用意する
出力品質は入力素材でほぼ決まります。動画ではGoogle画像検索で「Horse outline(馬のアウトライン)」のような線画を探し、黒が濃く、線が太めのものを選んでいます。

選定の目安(実務で外しにくい基準)
- 線が太めで途切れにくい: 鉛筆スケッチのように線が細いと、変換後に点線っぽく切れたり、縫いが弱く見えやすいです。
- 黒がしっかり・背景が白: できるだけ「黒/白」が明確な素材が処理しやすいです。
補足(用途の判断): 毛並みなど極細ディテールが多い素材は、ビーンステッチよりランニングステッチの方が破綻しにくい場合があります(動画内でも同趣旨の言及があります)。
注意(権利面): 練習目的ならネット画像で手順確認はできますが、販売や商用案件に使う場合は取り扱いに注意が必要です。コメントでも「商用で使える画像の探し方」への質問が出ています。実務では、利用条件が明確な素材(フリー素材でも商用可の明記があるもの等)を選ぶのが安全です。
手順2 — Sew Art 64に貼り付け→カラーリダクション
Sew Art 64を開いたら、Edit > Paste で画像を貼り付け、すぐに Image Color Reduction(カラーリダクション)を実行します。

白黒画像でもカラーリダクションが必要な理由 見た目が白黒でも、ネット画像(特にJPEG)は輪郭にアンチエイリアスがかかり、ソフト上では多数の“色(グレー階調)”として認識されることがあります。動画でも、白黒のつもりが多数色として入ってくる例が示されています。
- 作業: 色数を大きく減らす(目安として黒/白の2色に近づける)
- チェックポイント: 輪郭が「くっきり」し、場合によっては少しギザギザ(ピクセルっぽく)見える状態は、境界が明確になっているサインです。
手順3 — 枠に収まるサイズへリサイズ→余白をトリミング
リサイズ画面を開き、Lock Aspect Ratio(縦横比固定)をオンにして、幅を95 mm に設定します。その後、Crop(トリミング)で周囲の白い余白を詰めます。


チェックポイント(枠に入るかの現場確認)
- デザイン外周が枠の最大範囲ギリギリだと、機種によっては読み込み拒否や、縫い範囲チェックで引っかかることがあります。
- コメントでも「95×95はどの枠?」「5×7枠で大きすぎて入らない」といった悩みが出ています。まずは“枠の最大値に対して余裕を持たせる”設計にすると失敗が減ります。
枠張り(フーピング)で詰まりやすい点(作業設計の話) 量産になるほど、データ作りより枠張りがボトルネックになりがちです。ネジ式枠はテンションが一定になりにくく、素材によっては枠跡が出たり、歪みが出ることがあります。
- 対策案: 位置を揃えて繰り返す作業が多いなら、刺繍用 枠固定台 のような補助治具を検討すると、再現性が上がります。
- 補足: 枠の締め付け作業を減らしたい場合、ミシン刺繍用 刺繍枠 の中でもマグネット式(マグネット刺繍枠)を選ぶ運用もあります。
準備チェックリスト(変換前の“落とし穴”つぶし)
変換ボタンを押す前に、最低限ここを確認します。
- 画像: カラーリダクションで色数を減らした(白黒のつもりでも実施)
- サイズ: 枠の最大範囲より余裕を持たせた(例:幅95mm)
- スタビライザー: 素材に合うものを用意した(ビーンは糸量が多いので、いつもより1段しっかりめを意識)
- 針・糸: 針の状態(摩耗)と糸の通しを確認した
注意: 厚手素材に無理にネジ式枠を閉めようとすると、枠の破損や締め付け不良につながります。閉まりにくいときは、工程(素材/スタビ/枠の選択)を見直してください。
ステッチ変換:Outline Centerlineを使う
手順4 — ステッチモードに入り、正しいアウトライン方式を選ぶ
ツールバーのミシンアイコンをクリックしてステッチ変換に入り、右側のStitch Mode(Sewタブ)で Outline Centerline を選びます。

ここが重要:2つのアウトラインの違い
- Outline Centerline: 線の“中心”を1本でなぞる(手描き線の雰囲気に向く)
- Outline Border: 線の“外周”をなぞる(結果として二重線になりやすい)

よくあるミス:「二重アウトライン」
誤って Outline Border を選ぶと、アウトラインが二重に見え、スケッチ風ではなく“輪郭が空洞のチューブ”のような見え方になります。

なぜ問題になりやすいか(縫いの負荷) 小さいサイズ(今回のような95mm程度)で二重線が近接すると、狭い範囲に針穴が集中しやすく、生地への負担が増えます。スケッチ風の1本線表現なら、基本は Outline Centerline が扱いやすい選択です。
ビーンステッチ設定:HeightとLengthの考え方
手順5 — Beanを選び、Height/Lengthを設定する
上部ツールバーでステッチスタイルを Bean にし、数値を入力します。ここは「Sew Artの用語」を「縫いの結果」に置き換えて理解すると迷いません。


パラメータの意味(動画の説明に沿って整理)
- Height = 3: Sew ArtではHeightが“Separation(間隔)”の意味として扱われる、という説明があります。ビーンの詰まり具合に関わるため、まずは 3 を基準にします。
- Length = 25: ステッチの長さに関わる値で、ディテールがある場合は 25以下 が推奨されています。
チェックポイント(設定が戻る現象) 動画内で、画面を移動すると数値が初期値に戻ることがあると注意されています。保存直前に、Height/Lengthが狙いの数値になっているか必ず再確認してください。
値の選び方(縫いの見え方で判断)

動画では Length=35 にすると、カーブがカクカク(点つなぎのよう)に見える例が示されています。
- 目安: カーブが多いほどLengthは短め(20〜25)。直線が多いデザインは長めでも破綻しにくいです。



補足:ビーンステッチは糸量が多い(=生地が動くと荒れやすい)
ビーンステッチは同じライン上に糸が多く入るため、生地が動くと波打ち(シワ)や歪みが出やすくなります。枠張りのテンションとスタビライザーの選択が、見た目に直結します。
素材→スタビライザーの考え方(目安)
| 素材 | リスク | スタビライザーの考え方 |
|---|---|---|
| キルト用コットン | 低 | ティアウェイを重ねる、または状況によりカットアウェイも検討 |
| Tシャツ/ニット | 高 | 伸びで輪郭が崩れやすいのでカットアウェイが基本 |
| キャンバス/デニム | 低 | ティアウェイでも運用しやすい |
生地が縫い中に前後に動く感覚がある場合は、枠張りテンションの見直しが第一候補です。運用面では、マグネット刺繍枠 使い方 のようにマグネット刺繍枠の扱いを理解しておくと、一定圧で保持しやすいケースがあります。
注意(マグネットの取り扱い): 強力なマグネット刺繍枠は勢いよく吸着します。指を挟まないよう、持ち手(タブ)を持って着脱し、リングの間に指を入れないでください。磁気に弱い機器・媒体の近くでは扱いに注意が必要です。
運用チェックリスト(最終保存前)
- ステッチ:Bean
- 方式:Outline Centerline
- Height:3
- Length:25
- 再確認: 画面移動後に数値が戻っていないか
- プレビュー:線が途切れず、意図した1本線になっているか
PES保存とUSB転送
手順6 — Brother PESで保存し、設定が分かる名前を付ける
File > Save As から Brother (*.pes) を選んで保存します。動画では設定が分かるようにファイル名へ数値を入れています。

現場のコツ: 後から見返せるように、ファイル名にHeight/Lengthを入れておくと管理が楽です(例:Horse_Bean_H3_L25.pes のように)。
枠サイズの混乱を防ぐ: 複数の枠を使う環境では、brother 刺繍枠 サイズ を手元に置いておくと、読み込み前の確認がしやすくなります。コメントでも「どの枠サイズか分からない」「5x7に入らない」という悩みが出ているため、デザイン寸法と枠の対応を“作業前に”整理するのが有効です。
手順7 — USBにコピーして刺繍機へ
保存した.pesをUSB(リムーバブルディスク)へコピーします。

チェックポイント: Windowsでは、抜く前に「取り出し(Eject)」を行い、ファイル破損リスクを下げます。
縫い上がり比較:設定違いで何が変わる?
データが正しく見えても、最終判断は縫い上がりです。
自分の試し縫いで見るポイント(感覚での診断)
- 音: ビーンは一定のリズムで縫います。急に音が重い/引っかかる場合は針や負荷(密度、素材、スタビ)を疑います。
- 触感: 線が少し盛り上がり、ロープ状に感じるのが狙いです。硬くゴリゴリする場合は、密度やテンションが強すぎる可能性があります。
- 裏面: 糸調子のバランスを確認し、極端に上糸が裏へ引き込まれていないかを見ます。
量産で効いてくる話: 同じ位置に繰り返し入れる作業では、枠張りと位置合わせが時間を支配します。刺繍用 枠固定台 を使うと、毎回の位置ズレを減らしやすく、作業者の負担も下げられます。さらに brother 用 マグネット刺繍枠 のような運用と組み合わせると、締め付け作業のムラが減りやすい、という考え方になります。
トラブルシューティング(症状→原因→対処)
勘で触らず、順番に潰します。
| 症状 | ありがちな原因 | 確認順(低コスト→高コスト) |
|---|---|---|
| アウトラインが二重に見える | ツール選択ミス | 1. ソフト側で「Outline Border」になっていないか確認→「Outline Centerline」へ |
| カーブがカクカク/段差が出る | Lengthが長い | 1. Lengthを20〜25へ下げる <br>2. 元画像の解像感(輪郭の荒れ)を見直す |
| 生地が波打つ/シワが出る | スタビ/枠張り | 1. 枠張りテンションを見直す <br>2. スタビライザーを強める(ニットはカットアウェイ) <br>3. 糸調子を確認 |
| 設定が初期値に戻る | 画面移動でリセット | 1. 保存直前にHeight/Lengthを入れ直して再確認 |
| 刺繍機がファイルを読まない | サイズ不適合 | 1. 幅が上限を超えていないか確認 <br>2. 余裕ゼロで作っていないか見直し(安全域として95mm運用など) |
| 枠跡(枠跡が強い) | 圧・摩擦 | 1. 締め付けを見直す <br>2. 縫製後の仕上げ(スチーム等)を検討 <br>3. マグネット刺繍枠 の運用で圧ムラ/摩擦を減らす方向を検討 |
| 針折れ | 密度/負荷過多 | 1. Heightが詰まりすぎていないか確認 <br>2. 針番手の見直し |
セットアップ最終チェック(プレビュー通りに縫うために)
刺繍開始前に確認します。
- 画面確認: デザインが枠の範囲内に収まっている
- 枠の干渉: トレース機能等でフットが枠に当たらないか確認(brother 5x7 マグネット刺繍枠 使用時も同様)
- 糸掛け: 糸がテンション部に正しく入っている
- ボビン残量: ビーンは糸消費が増えるため、途中切れを避ける
- 周辺: 枠の可動域に引っかかるものがない
この手順でできること(成果物)
この流れで作業すると、「なんとなく」ではなく「再現できる」データ作りに近づきます。
- 扱いやすい素材: コントラストの高い線画を整理して取り込む
- 構造が安定する変換: Centerlineで1本線のアウトラインにする
- 基準レシピ: Height 3 / Length 25 を起点に調整できる
- 管理できる資産: 設定が分かるファイル名でPESを保存し、次回に活かせる
マシン刺繍は、ソフト設定だけでなく、枠張りとスタビライザーで結果が大きく変わります。まずはこの馬のアウトラインで、設定→縫い上がり→微調整のサイクルを作ってみてください。
