目次
Terial Magicとは?
Terial Magicは、Terry McFeelyが実演している液体タイプの布処理剤(液体スタビライザー)です。布に「コシ(ハリ)」を与え、ほつれを抑え、そしてマシン刺繍の観点では、紙のスタビライザー(裏当て)に頼らずに布そのものを一時的に安定化できるのが特徴です。
動画では、柔らかい布が、乾燥とアイロン後に「厚紙/コピー用紙のように」かなり硬く感じる状態へ変化する様子が示されています。
この“硬さ”がポイントです。針の貫通と糸の引き(押す・引くの力)に対して、別の裏当て層で抵抗させるのではなく、布自体が一時的に「安定した基材」のような強度を持つことで、縫製中の変形を抑えます。

実務的に言い換えると、「安定化を省略する」のではなく、安定化を繊維の中に“移して”、仕上げで洗い落とす、という考え方です。
現場のコツ: この方法は布がかなり硬くなるため、量産で「速く・楽に」枠張りしたい場合は マグネット刺繍枠 と相性が良いです。理由はシンプルで、硬い布をネジ締めタイプの通常枠に押し込むのは手の力が要りがちですが、マグネット枠なら上から真っ直ぐクランプでき、硬い素材で起きやすい“押し込み格闘”を減らせます。
なぜ「裏当て」ではなく液体スタビライザーなのか?
Terryの提案は明快です。布を処理→そのまま枠張り→刺繍→処理剤を洗い落として、最終的に柔らかい着用感へ戻す、という流れです。
動画で示されている主なメリットは次の通りです。
- 裏面がきれいで、残りカスが少ない:カットタイプの裏当てはトリミングが必要で、肌に当たるとチクチクしやすいことがあります。処理布方式は洗い落とせるため、残りが出にくいとされています。
- シワ(パッカリング)や歪みが出にくい:枠内で布が動きにくくなるため、仕上がりがフラットになりやすいことが示されています。
- 扱いにくい素材(特にニット)の取り回しが良くなる:Tシャツニットの伸び比較で、未処理はよく伸び、処理後は一時的に伸びが抑えられる様子が示されています。

仕上がりが変わる理由(縫いの力学)
現場でパッカリングが起きる典型は、縫いの力(針の貫通+糸の引き) と 布の抵抗 のバランスが崩れることです。
布を一時的に“紙状”にする液体処理は、X方向・Y方向の抵抗を全体的に上げます。そのため、ニットでも織物コットンのように安定した挙動になりやすい、という理屈です。
もし普段 刺繍ミシン 用 枠入れ の感覚で「ドラムのようにピンピンに張る」枠張りをしている場合、この方法では発想を少し変えます。狙うのは 引っ張ること ではなく、フラットに載せて、面で支えること です。強く引きすぎると、硬化した処理層に負担がかかったり、縫う前に目ズレの原因を作ることがあります。
注意: 安全最優先。スタート/トレース(枠移動)時は針棒周辺に指を入れないでください。電源ONのまま枠内に手を入れるのは厳禁です。高速運転中の針は重大なケガにつながります。
手順:布の処理(スプレー→揉み込み→半乾き→アイロンで完全乾燥)
この章は動画の順番どおり、スプレー、揉み込み、10〜15分の自然乾燥(半乾き)、最後にアイロンで完全乾燥して定着、という流れでまとめます。

Step 1 — しっかり濡らす(「スポンジ感」チェック)
動画でやっていること:
- 飛び散り対策として、布をガラスボウルの中に入れて作業。
- Terial Magicをたっぷりスプレー。
- 裏返して反対面にもスプレー。
感覚チェック:
- 布が重く、ひんやりして「濡れたスポンジ」のように感じる。
- 見た目の色が全体的に均一に濃くなる。
狙い:
- 折り目の奥に「乾いた島」が残らない、均一に濡れた状態。
Step 2 — 揉み込んでムラを消す(揉み・マッサージ)
動画でやっていること:
- 手で強めにくしゃくしゃにして揉み込み、液を繊維に行き渡らせる。
- 広げて、色が薄い部分(乾きムラ)を探す。
- 乾いている箇所に追加スプレー→もう一度揉み込む。
ここが成否の分かれ目: 処理が弱い部分は柔らかいまま残り、そこに針の引きが集中すると、縫い途中で波打ちや膨らみが出やすくなります。
チェックポイント:
- 広げたときに色ムラがない。
- 触感: 指でこすったときの“ぬめり/しっとり感”が全体で同じ。
狙い:
- 実際に刺繍する範囲より外側まで、均一に処理されている状態(動画ではムラ確認と追加スプレーの重要性が示されています)。
Step 3 — 10〜15分だけ自然乾燥(「半乾き」で止める)
動画でやっていること:
- 布を吊るして乾かす。
- 乾かす場所の例として、サンルームやコンロ付近に掛ける話が出ています。
- 目標は 完全乾燥ではなく半乾き。
チェックポイント:
- 音: したたり落ちる感じがない。
- 見た目: 端に水滴が溜まっていない。
狙い:
- 次のアイロン工程で過度に蒸気が出たり、乾燥ムラが出たりしにくい状態。
Step 4 — アイロンで完全乾燥させて定着(「紙っぽさ」チェック)
動画でやっていること:
- 半乾きの布をアイロンで完全に乾かす。
- 乾くと一気に硬くなる。

チェックポイント:
- 紙っぽさ: 端を持って軽く振ると、紙のようにパリッとした反応が出る。ふにゃっとするなら乾燥/処理が不足。
- 平滑性: 反りやシワがなく、フラットに置ける。
狙い:
- 裏当てなしで枠張りできる“紙状のシート”。
事前準備チェック(スプレー前に)
- 作業面: 平らで清潔(ゴミや糸くずがあると、アイロンで押し込まれやすい)。
- サイズ: 枠より十分大きく裁断(枠にかかる余裕を確保)。
- 道具: 飛び散り対策にガラスボウル。
- 安全: 生地に合ったアイロン温度を準備(処理剤ではなく素材基準)。
- 消耗品: 糸切り用の切れ味の良いハサミ。
- ミシン: ボビン周りの清掃(糸くずはトラブルの元)。
枠固定台 を使って段取りしている場合、処理→プレス済みのブランクをまとめて作っておくと、枠張り〜刺繍の流れを止めにくくなります。
伸びるニット(Tシャツ)の枠張りが楽になる
TerryはTシャツニットで、未処理は伸びる一方、処理後は一時的に伸びが抑えられて枠張りしやすくなる点を示しています。

Step 5 — 処理した布をそのまま枠張り(裏当てなし)
動画でやっていること:
- 硬くなった布を下枠に載せる。
- 上枠を押し込んで固定。
- 枠を縦に持って、しっかり張れていること/裏当てがないことを見せています。

チェックポイント:
- 見た目: 布目が曲がっていない(斜行していない)。
- 触感: 中央を押しても沈みが少なく、面で支えられている。
狙い:
- ネジを過度に締めて枠跡を付けるのではなく、適正な圧で安定固定できている状態。

枠張りの力学(手が疲れる理由)
“紙状”になった布は、未処理よりも硬く、しなりにくくなります。ネジ締めタイプの通常枠だと、上枠を押し込む動作に力が必要になり、次のリスクが増えます。
- 枠跡: 繊維をつぶして跡が残る。
- 手首・指の負担: 親指や手首が痛くなる。
- 外れ: 無理な押し込みで、縫製中に枠が浮く/外れる。
マグネット枠に替える判断基準
通常枠で“閉まらない/押し込みがつらい”と感じたら、道具の見直しポイントです。マグネット刺繍枠 は摩擦で押し込むのではなく、磁力で上から垂直にクランプするため、硬い布でも歪ませにくく固定できます。
判断の目安:
- 趣味(Tシャツ月1〜2枚程度): 通常枠+Terial Magicでも運用可能。
- 量産(1ロット10枚以上など): Terial Magic+マグネット枠で、作業スピードと手の負担を両立しやすい。
注意: マグネットの安全。強力な磁石は皮膚を挟むと痛みが出ます。指は必ず持ち手側に置き、リング間に入れないでください。ペースメーカー等の医療機器にも注意。
比較:Terial Magic vs 従来のスタビライザー(裏当て)
動画では、処理布で刺繍したサンプルと、従来の裏当てを使ったサンプルを並べて比較しています。


自分の現場で比較するときの見どころ
テストするなら、次の3点を見ます。
- 外周(輪郭): 位置合わせのズレ(アウトラインと塗りが合わない)がないか。これは縫製中に布が動いたサインです。
- 高密度部: シワ(パッカリング)が出ていないか。もし硬化していても波打つなら、密度が高すぎる/処理ムラの可能性があります。
- 肌当たり: 裏面を腕の内側に当てて、チクチク感やゴワつきを確認。
Terryは、洗濯後に処理したTシャツサンプルが柔らかく、ドレープが戻る様子も示しています。

一方で、従来法ではトリミング後も裏当てが残り、厚みや硬さが残る例が示されています。

判断フロー:処理する?裏当てを使う?
迷ったら、次の順で考えます。
- 素材が伸びるニット(Tシャツ等)?
- YES → Terial Magicで伸びを一時的に止め、裏当てなしで枠張り。
- NO → #2へ。
- 薄くて不安定/ほつれやすい?
- YES → Terial Magicでコシを出し、繊維をまとめて扱いやすくする。
- NO → #3へ。
- 商用の多量ロット?
- YES → 「スプレー→乾燥→アイロン」の段取り時間がボトルネックになる可能性があります。スピード重視なら、従来の裏当て+ 刺繍用 枠固定台 の段取りが速いケースもあります。
- NO → 仕上げの“柔らかさ”重視なら処理布方式が有利。
トラブルシュート
以下は動画で触れている問題点を、現場向けに診断表として整理したものです。
| 症状 | ありがちな原因 | 対処 |
|---|---|---|
| アイロン後に白っぽい/柔らかい部分が残る | スプレー量不足、揉み込み不足でムラがある | 追加処理: 乾いている箇所を特定→そこだけスプレー→揉み込み→再アイロン |
| 端がほつれる | 織りが甘い/裁断の影響 | 端まで処理: 端部にも液が届くようにし、繊維をまとめる |
| ニットでパッカリング | 枠張り時に布を引っ張ってしまった | ニュートラル枠張り: 枠が閉まった後に引っ張らない。マグネット枠で真下にクランプする |
| 針にベタつき/汚れが出る | 半乾きではなく“濡れすぎ”の状態でアイロンした | 乾かし方を修正: 自然乾燥は半乾きまで。必要なら針を拭き取り、次回は水分量を調整 |
| デザインが荒れて穴っぽく見える | 硬すぎ+針の状態が悪い | 針を見直す: 新しい針に交換(ニットはボールポイント、織物はシャープなど素材に合わせる) |

よくある質問(コメントより要約):スウェットのフリースのような厚地でも使える?
コメントでは「スウェットのフリースのような厚手でも使えるか?」という質問がありました。
補足: 厚手フリースはロフト(毛足・膨らみ)が大きく、液体処理で寝てしまう可能性があります。動画は主にコットンやTシャツニットでの実演のため、厚地はまず小さな端布でテストし、必要に応じて従来のカットタイプ裏当てで厚みを支える判断が安全です。
量産で枠張りがボトルネックになりやすい現場では、ミシン刺繍 用 枠固定台 とマグネット枠の組み合わせで位置合わせと作業負担を安定させやすくなります。
運用チェック(縫い始める前の最終確認)
- 乾燥: 100%乾いていて硬い(冷たい/湿った箇所がない)。
- 張り: 叩くとしっかりした反応がある。
- 干渉: 押さえや針棒の動線に枠が当たらない。
- 糸: 糸道がスムーズで、下糸(ボビン糸)の引き出しも問題ない。
- 速度: まずは中速で様子を見る(硬い布はバタつきが出る場合がある)。
仕上がり
Terryの完成サンプルは、枠内でシワが目立たず、比較でも従来の裏当てより「裏面がすっきりして柔らかい」方向の結果が示されています。


成功の基準(品質の見立て)
- 位置合わせの乱れが少ない: アウトラインと塗りが自然に合っている。
- フラット: 枠から外しても波打ちが少ない。
- 柔らかさ: 洗いで硬さが抜け、着用感が戻る。
現場的なアップグレードの考え方(作業を伸ばす)
この手法が安定してきたら、次は「どこが詰まっているか」で道具を選びます。
- 枠張りがつらい(手が疲れる):硬い布の押し込みが負担なら マグネット刺繍枠 が効きます。
- 段取りが遅い:処理済みブランクをまとめて作り、枠張り工程を止めない。
セットアップチェック(再現性のために)
- 枠サイズ: デザインに対して最小限の枠を選ぶ(余り布が少ないほど動きにくい)。
- 保管: 処理済みブランクは湿気で柔らかくなり得るため、乾燥した場所に。
- 段取り: マグネット枠は空の状態で不用意に吸着させない(分離が大変)。
- テスト縫い: 素材が変わるときは端布で確認。
布を化学的に一時安定化することで、「伸び」という機械的な変数を減らし、扱いにくいニットでも安定した刺繍に近づけられます。
