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マイラー刺繍(Mylar Embroidery)とは?
マイラー刺繍は、マシン刺繍の見た目を一気に変える「視覚的な裏技」です。薄い反射フィルム(マイラー)を、低密度(オープン)なステッチの下に“挟み込む”ことで、強いメタリック感やきらめきを出します。金属糸のような見た目に近づけつつ、金属糸で起きやすい摩擦・糸切れ・毛羽立ち(ほつれ)を避けられるのが大きな利点です。
参考デモでは、フリースタンディング(FSL系)の2回枠張りバタフライを作ります。片方はソリッド(不透明)ゴールドのマイラーでアクセサリーのような仕上がり、もう片方はオーロラ(半透明)フィルムをプリント生地の上に重ね、柄が透けて見える“重なり表現”を狙っています。

この技法の原理はシンプルで、ここを外すと失敗します:光が抜ける“隙間”が必要です。通常のサテンや高密度の塗りつぶしは糸で面を覆ってしまうため、フィルムが見えません。マイラー向けは、模様状・間引き状のオープンフィルで、フィルムの反射が見える設計になっています。密度が高いデータで縫うと、フィルムを糸で埋めてしまう/針穴が増えすぎてフィルムがボロボロになり、きらめきが消えます。

マイラーシートとバルーンの違い
初心者の定番の疑問は「誕生日のバルーンで代用できる?」ですが、動画内でも“混同しないで”と注意があります。
実務的な結論:試作で試すのは自由ですが、安定した結果を狙うなら基本はクラフト用マイラーシートを使うのが無難です。バルーン素材は種類がまちまちで、縫製中の挙動(裂け方・伸び・剥がれ方)が一定になりにくいからです。
ソリッド(不透明)とオーロラ(半透明)の選び方
フィルムの種類で見え方が変わります。
- ソリッド(例:ゴールド/シルバー):下の生地をほぼ隠し、鏡面っぽい強い反射が出ます。下地は“見た目”には影響しにくいので、芯として端切れを使いやすいです(動画でも「下に何を置いても関係ないことが多い」と言及)。
- オーロラ/オパール系(半透明):上に“光の膜”を足すイメージで、下の色やプリント柄が透けます。プリント生地と組み合わせると表情が出ます。

現場のコツ(洗える/洗えない問題:コメントより要約) コメントでは「洗えるマイラー/洗えないマイラーがあると読んだ」「キッチンタオルに使ったら洗える?」「Tシャツに使って洗っても大丈夫だった」という話題が出ています。
動画の範囲で言えるのは、マイラーは“水で溶ける素材”ではなく、仕上げや素材差で耐久性の体感が変わるという点です。まずは用途(装飾品/洗濯前提の布製品)を決め、心配なら小さなサンプルで試してから本番に進めてください。
道具と材料
刺繍は準備が8割です。動画では4x4枠を使い、マイラー向けに作られたデータと水溶性スタビライザーでフリースタンディングの形を作っています。

フリースタンディングに向くスタビライザー
動画では「フリースタンディングは当然、水溶性」と明言しています。ここで重要なのは、フリースタンディング用として“支えられる”水溶性を選ぶことです。
チェックポイント:枠張り後、指で軽く叩いて“張り”を確認します。たわみがあると、縫い進みでズレが出やすくなります。
低密度(オープン)データを選ぶ
動画でもはっきり言われている通り、マイラーはマイラー用にデジタイズされたデータが前提です。密度が高い通常データだと、フィルムが見えない/針穴が増えすぎてフィルムが崩れます。
実演では、薄い色(ライラックとイエロー)の糸で、フィルムが透けて見えるオープンな埋め方になっています。

改善の方向性(作業の安定化) 水溶性スタビライザーは素材によっては扱いづらく、枠張りのテンションが安定しないとズレの原因になります。作業を標準化したい場合は、ミシン刺繍 用 枠固定台のような治具で位置とテンションを揃える考え方が有効です。
見落としがちな消耗品と事前チェック
動画に登場する道具(はさみ、スティックのり、水ペン等)を前提に、作業中に止まらないよう机上に揃えておきます。
- はさみ(スニップ):アップリケのトリミング用
- スティックのり:枠内での仮固定と組み付け用
- 水ペン(または水を含ませる道具):水溶性スタビライザーの溶解用
注意:稼働中の刺繍枠内に指を入れないでください。フィルムが浮いたときも、停止してから整えるのが基本です。
事前チェック(プレフライト)
- データ確認:マイラー向け(低密度/オープンフィル)である
- スタビライザー:フリースタンディング向けの水溶性を使用する
- フィルム:デザイン外周より余裕を持ってカットしておく
手順:枠張り〜縫製
この作品は「2パーツを作って、枠内で合体する」流れです。下側の羽→上側の羽→枠内組み付け、の順で進みます。

マイラーを生地の上に重ねる
手順1 — 1回目の枠張り(下側の羽)
- 水溶性スタビライザーを枠張りします。
- 必要に応じて下地の生地を置きます。
- その上にソリッド(ゴールド)マイラーを重ねます。
- フィルムを縫い止める工程〜オープンフィルの工程まで縫います。
ソリッド系は反射が強いため、動画でも触れられている通り、下地は“見た目”に影響しにくい場合があります。

チェックポイント(縫い進み中) フィルムがしっかり縫い止まってから次工程に入っているか確認します。フィルムがズレたまま進むと、後で剥がすときに裂けやすくなります。
期待される状態:糸の隙間からマイラーの反射が見え、金属っぽい輝きが出ている。
マイラーの「剥がし(ティアアウェイ)」
動画の通り、余ったマイラーは縫い目のラインで“ちぎるように”剥がせます。

きれいに剥がすコツ
- 縫い目を指で押さえて支えます。
- 余り部分を、縫い目に沿ってゆっくり引き裂きます。
- 無理に一気に引っ張らず、抵抗がある箇所は角度を変えて少しずつ進めます。
2回枠張りで3D化する(マルチフーピング)
手順2 — アップリケ同様にトリミング
マイラーを剥がしたら、アップリケと同じ要領で外周を整えます。

注意:トリミング時に縫い目を切ると、洗い落とし工程でほつれやすくなります。縫い目ギリギリを攻めすぎないのが安全です。
手順3 — 2回目の枠張り(上側の羽)
- 新しい水溶性スタビライザーを枠張りします。
- プリント生地を置きます。
- その上にオーロラ(半透明)マイラーを重ねます。
- デザインを縫います。
半透明フィルムなので、下のプリント柄が透けて“光の層”が乗ります。


チェックポイント:フィルムを縫い止めた直後に、浮きやシワがないか確認し、必要なら停止して軽くならします。浮いたままだと、後のステッチが不均一になりやすいです。
手順4 — 枠内で組み付け(ITH組立)
ここが2回枠張りの要点です。1回目で作った羽パーツを、2回目の枠内に固定してから本縫いします。
- 中心部にスティックのりを少量つけます。
- 1回目の羽パーツを中心に合わせて置きます。
- そのままミシンで縫い付け、胴体部分で全体を固定します。


補足:動画ではスティックのりを使って中心を仮固定しています。ズレたまま縫い始めると修正が難しいので、縫い始める前に位置合わせを最優先してください。
作業中チェックリスト
- 反射:糸の隙間からマイラーが見えている
- 剥がし:縫い目を支えながら、縫いラインで剥がせている
- トリミング:縫い目を切っていない
- 組み付け:中心のみをのりで固定し、位置合わせできている
仕上げ
縫い上がった直後は、作品が硬く、周囲に水溶性スタビライザーが残っています。ここをどう落とすかで、最終の“硬さ”が変わります。

水溶性スタビライザーの溶かし方
動画では2つの方法が提示されています。狙う仕上がりで選びます。
方法A:ぬるま湯でしっかり溶かす(やわらかめ)
- ぬるま湯に浸します。
- やさしく動かして溶かします。
- 結果:スタビライザーが抜け、やわらかい風合いに寄ります。
方法B:端だけ湿らせる(硬さを残して3D感)
- 水ペン等で端だけ湿らせます。
- 必要な部分だけ溶かして整えます。
- 結果:内部に残ったスタビライザーが乾燥後に硬さを支え、羽を立たせやすくなります(動画でも「全体を浸さず、端だけ湿らせると硬めに仕上がる」と説明)。

目的別:セットアップ選択の判断フロー
材料ロスを減らすために、作業前にこの順で判断します。
- データ選定
- マイラー向け(低密度/オープン)か?
- YES:次へ
- NO:中止。フィルムが見えず、針穴だけ増えて仕上がりが崩れます。
- マイラー向け(低密度/オープン)か?
- マイラー選定
- 金属アクセサリーのような強い反射が欲しい?
- YES:ソリッド系(ゴールド/シルバー)
- プリント柄を透かして見せたい?
- YES:オーロラ/半透明系
- 金属アクセサリーのような強い反射が欲しい?
- 枠張りと安定化
- 単発で楽しむ用途?
- YES:通常の刺繍枠でも可(ただしテンション管理は厳密に)
- 数を作る/位置合わせを標準化したい?
- YES:hoopmaster 枠固定台等で位置とテンションを揃える
- 単発で楽しむ用途?
- 2回枠張り(マルチフーピング)
- 2パーツを同じ位置関係で作る必要がある?
- YES:hoopmaster 枠固定台のような枠固定台で、パーツA/Bの枠張り条件を揃える
- 2パーツを同じ位置関係で作る必要がある?
トラブルシューティング
マイラー刺繍の失敗は「物理的に起きる」ことが多いです。症状から切り分けます。
| 症状 | 主な原因 | すぐできる対処 | 予防 |
|---|---|---|---|
| マイラーが細かく裂ける/ボロボロになる | データ密度が高すぎる、または剥がし方が強すぎる | 縫い目を押さえ、縫いラインに沿ってゆっくり剥がす | マイラー用データ(低密度)を使う |
| きらめきが出ない(鈍い) | 糸がフィルムを覆っている(高密度) | 仕上げ設定での根本改善は難しい | マイラー向けデータを選ぶ |
| アウトラインがズレる | 枠張りテンション不足/縫製中のズレ | いったん停止し、次回は枠張りを見直す | 枠張り時の張りを一定にする |
| 乾いたらフニャっとする | 浸しすぎてスタビライザーを落とし切った | 次回は端だけ湿らせる方法へ | 3D狙いなら「端だけ湿らせる」を選ぶ |
注意:マグネットと安全
刺繍枠 刺繍ミシン 用のようなマグネット式(マグネット刺繍枠)を使う場合、磁力が強い製品があります。
* 挟み込み注意:指を挟まないよう、着脱は必ず両手でゆっくり行います。
作業効率メモ(本数が増えたら)
マイラーや水溶性スタビライザーの枠張りが負担になってきたら、工程の標準化が効果的です。刺繍ミシン 用 枠入れの作業を治具化すると、2回枠張りでも位置ズレのストレスを減らせます。
仕上がり(まとめ)
この手順で、マイラー刺繍を安定して再現できます。
- 素材選び:クラフト用マイラー(ソリッド/オーロラ)を用途で選ぶ
- 土台:フリースタンディングは水溶性スタビライザーを前提に枠張りする
- 縫製:マイラー向け(低密度/オープン)データで、フィルムが見える設計を守る
- 仕上げ:硬さを残すなら「端だけ湿らせる」
“失敗作”と“売れる品質”の差は、機械性能よりも、枠張りの精度と、工程ごとの確認の積み重ねで決まります。
