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ZSKメンテナンスに必要な工具
まず深呼吸してください。フックタイミングは「難しそう・危なそう・高くつきそう」と思われがちですが、実際は幾何学(位置関係)と丁寧さの問題です。原因不明に見える糸切れや糸ヨレを、再現性のある“局所調整”に落とし込めるようになります。流れを掴めば、作業自体は15分程度で回せる内容です。
この手順書では、動画のワークフローをそのまま現場用に言語化します。フック周りの分解、ZSK T8パネルでの主軸位置決め、ロータリーフック先端と針の「紙一枚」クリアランスを作るまでを、感覚的な確認ポイント込みで整理します。対象は zsk 刺繍ミシン の運用者・保全担当です。

現場の工具セット:動画で確認できたものだけを使う
動画では、工具が明確に指定されています。ここは“代用品で何とかする”が一番危険です。精密なネジに家庭用ドライバーを当てると、ネジ頭を舐めて作業が長期化します。
- マイナスドライバー: カバー類やフック固定ネジの作業に使用。
- プラスドライバー: 外装側のネジに使用。
- 2mm六角レンチ: リテーニングフィンガー(バスケットを止める小さな金具)の固定に必須。
- ZSK Stitch Plate Screwdriver(SKU: 601.003.955): 針板(スティッチプレート)用の専用工具。オフセット形状で、針棒ケース周りで手を擦りにくい。
- 細目のエメリーバンド: 主軸(シャフト)の磨きに使用。
現場のコツ: 業務機では「だいたい合うサイズ」は通用しません。保全担当なら、これらをもう1セット用意して「タイミング専用箱」にしておくと、工具の摩耗や紛失が減り、作業の再現性が上がります。
作業前の“見落としがちな準備”
動画に映っていない消耗品の話は、ここでは断定しません。その代わり、動画内で強調されているポイント(見える・触れる・正確に合わせる)を満たすために、作業環境を整えてください。
注意: 機械的危険。 針板、ロータリーフック、針棒の往復動作部は刺傷・挟み込みの危険があります。フック周りに手を入れる前に、現場の手順に従って確実に停止・安全確保を行ってください。針棒を手で下げる際も指の位置に注意します。
作業前チェック(Go/No-Go)
作業を始める前に、最低限ここだけは確認します。
- 工具確認: ZSK専用ドライバー(SKU: 601.003.955)と2mm六角レンチが手元にある。
- 角度ステッカー確認: ヘッド1右側の角度ステッカー(例:203)を目視で確認できている。
- 視認性: フック先端と針が見える照明が当たっている。
中央針(センター)に合わせる
タイミング調整の前に、まず“基準”を作ります。多頭機はギア・カム・シャフトが連動しており、基準がズレた状態で合わせ込むと、別の針位置で破綻しやすくなります。
実行:T8パネルでの手順
- パネルで L4 を押します。
- ヘッド仕様に応じて中央針を選択します。
- 12針ヘッド:針6
- 18針ヘッド:針9
- 緑ボタンで確定します。
- チェックポイント: ヘッドが移動して所定位置に入る動きを目視で確認します。

なぜ中央針なのか(切り分けの基準点)
zsk 刺繍ミシン トラブルシューティング の観点では、中央針(針6または針9)が“基準点”として扱いやすい位置です。端の針で合わせると、ヘッド幅方向のわずかな誤差が別の針位置で症状として出ることがあります。中央で基準を取ることで、全体として破綻しにくい状態に寄せられます。
つまずきポイント: ここを飛ばすと「中央の色は縫えるのに外側の色で糸が切れる/糸が裂ける」といった、再現性の低いトラブルに見えやすくなります。
ZSK T8パネルでサービス画面を開く
次に、機械を“指定角度”に持っていき、そこでフック位置を合わせます。これはT8コントロールパネルのサービス機能を使います。

画面遷移(迷わないための順路)
- R3(Service) を選択します(レンチ/ギアのようなアイコン)。
- L2(Test machine attachment) を選択します。
- Position main shaft を選択します。

数値入力:この角度は“機械ごとに違う”
ここが最重要ポイントです。動画でも強調されていますが、ZSKのタイミング角度に「共通の正解値」はありません。機械固有の値を使います。
ステッカーの場所: ヘッド1の右側に、角度(度数)のステッカーがあります。
- 動画の例: 203
- あなたの機械: 200、204、198など、個体により異なります。
入力: ステッカーの数値を、そのまま正確に入力します(例:203)。


操作:
- Start testing を押します。
- 緑ボタンを押します。

機械は指定角度付近まで自動で回りますが、動画の通り“ピッタリ”には止まりません。最後は手で合わせ込みます。
主軸角度を手動で「.0」まで追い込む
自動位置決めは近似です。最終的な精度は、作業者の手で作ります。
手順:ブレーキ解除→手回し→再ロック
- チェックポイント: 画面表示が目標角度(例:203度)付近まで来ていることを確認します。
- ブレーキ解除: 本体の Brakeボタンを押します。
- 目視: 赤LEDが消灯(動画の合図)。
- 手回しで微調整: 主軸を手で回し、T8画面の表示を見ながら合わせます。
- 目標: ステッカーが203なら、画面表示を 203.0 に合わせます。
- 203.0以外(202.8、203.2など)で止めないこと。
- 再ロック: 目標表示になったらBrakeボタンをもう一度押して固定します。


この工程で分かる“主軸の状態”
チェックポイント: 手で回したときの感触を覚えておきます。
- 良い: スムーズに回る。
- 悪い: ザラつき/引っ掛かりがある。
動画では、主軸にネジ跡などの溝がある場合に細目のエメリーバンドで磨く手順が示されています。引っ掛かりがあると、フックが狙った位置で安定せず、合わせ込んでも再現性が落ちます。
ロータリーフックと針の位置合わせ(ギャップは「紙一枚」)
ここが本題です。上下動する針と回転するフックが、接触せずに最適な位置関係で交差するように合わせます。
分解:作業スペースを作る
- アクセス: アームカバーのローレットノブを外します。
- 針板を外す: 針板固定ネジを外して針板を取り外します。

- リテーニングフィンガーを緩める: 2mm六角レンチでベース側のフィンガーを緩めます。

- フックを抜く: ロータリーフック側の固定ネジを緩め、ユニットを主軸からスライドして外します。

主軸の手入れ(エメリーバンドで磨く)
操作: エメリーバンドを主軸に回し、歯間ブラシのように“フロス”する要領で前後に動かします。 目的: 以前の固定ネジでできた微細なバリ/溝をならし、フックが狙った位置にスムーズに滑る状態を作ります。

位置合わせ:「フック先端」→「針のスカーフ背面」
フックを主軸に戻し、2つの軸で合わせます。
軸1:タイミング(回転角=いつ出会うか)
- 主軸角度は既に固定されています(例:203.0)。その状態で、針棒を手で下げます。
- フック本体を回転方向に調整します。
- 狙い: 矢印で示されるフック先端が、針のスカーフ(針背面のえぐれ)直後に来る位置。


軸2:ギャップ(前後位置=どれだけ離すか)
ギャップは動画の表現通り 「紙一枚」 が基準です。
チェック方法: 針とフック先端の間に紙を当て、抵抗感で判断します。
- 狭すぎ: 紙が破れる/針が押される。
- 広すぎ: 触れない。
- 適正: 紙が“わずかに擦れる”程度で、針が逃げない。

固定: 位置が決まったら、マイナスネジ2本をしっかり締めて固定します。締め込みでわずかに位置が動くことがあるため、締めた後にもう一度「先端位置」と「紙一枚」を再確認します。

復旧と「針板の芯出し」
ここで失敗が出やすい工程です。
- リテーニングフィンガーを戻します(動画では“わずかな隙間”を残すことが示されています)。
- 針板を戻します。
- 補足: 針板ネジは、最初から本締めしません。
- チェックポイント(芯出し): 針をゆっくり下げ、針が針板穴の中心に入るか確認します。擦る場合は針板位置を微調整します。
- 芯が出たら針板ネジを本締めします。

注意: 磁力に関する安全。 強力な磁石を用いる治具・枠(マグネット刺繍枠など)を扱う現場では、磁力による挟み込みや医療機器への影響に注意してください。指を挟まないよう、着脱時は必ず手の位置を確保します。
縫い始め前の最終チェック
- 中央針: 針6(12針)または針9(18針)で基準を取った。
- 角度: 画面表示がステッカー値どおり(例:203.0)になっている。
- 先端位置: フック先端が針スカーフ背面に合っている。
- ギャップ: 「紙一枚」を確認した(軽い擦れ、針のたわみ無し)。
- 固定: フック固定ネジ2本を締結した。
- 針板: 芯出し後に本締めした(針が擦らない)。
切り分け:調整前後のトラブルシューティング
タイミングに見えて、実は別要因のこともあります。まずは症状を整理してから入ります。
フェーズ1:本当にタイミングか?
- 症状:糸切れ/糸が裂ける
- チェックA: 針の状態・向きは適正か? -> NO: 針を見直す。 -> YES: チェックBへ。
- チェックB: 糸道に引っ掛かりがないか? -> NO: 清掃・点検。 -> YES: チェックCへ。
- チェックC: スタビライザー(刺繍用安定紙)が素材に合っているか? -> NO: 見直す。 -> YES: タイミングを疑う。
フェーズ2:調整後にまだ不調なら
- 上糸ループが出る: タイミングよりテンション要因の可能性。下糸側も含めて確認。
- 針がフックに当たる: ギャップが狭すぎ。軸2(ギャップ)をやり直す。
- 目飛びが残る: ギャップが広い、または先端位置が早い/遅い。軸1・軸2を再確認。
生産性の話(段取りの見直し)
フックタイミングは必須スキルですが、止めて作業する以上“停止時間”でもあります。zsk 刺繍機 が機械的に整っているのに生産が伸びない場合、段取り側(枠張りや治具)にボトルネックがあることもあります。
現場では、タイミング不良に見えて実は「枠張りの無理」が原因のケースもあります。厚物を無理に通常枠へ入れて歪ませると、針の逃げや枠跡(枠跡)など別の問題が出やすくなります。高ボリュームの現場で zsk 刺繍枠 を運用している場合、保持具の見直しとして工業用のマグネット枠へ移行する例もあります。
また、単頭では追いつかず多頭化を検討する場合、同じ“精度の作法”が複数ヘッドに効いてきます。SEWTECHのような多針プラットフォームに触れる機会があるなら、保全の観点でも比較材料になります。
よくあるタイミング不具合の症状別メモ
| 症状 | 可能性が高い原因 | 現場での対処 |
|---|---|---|
| 指定角度でピタッと止まらない | 自動位置決めは近似 | ブレーキ解除(赤LED消灯)→手回しで表示を.0に合わせる |
| 主軸の回し感がザラつく | 固定ネジ跡の溝/バリ | エメリーバンドでフロス動作の磨き(動画手順) |
| 調整後も糸が裂ける | ギャップが狭い/針板が芯ズレ | 紙一枚テストをやり直し、針板ネジを緩めて芯出し |
| 目飛びが出る | ギャップが広い/先端位置が早い・遅い | フック先端がスカーフ背面に来ているか再確認し、ギャップを詰める |
仕上げ:最終確認と運用チェック
中央針で基準を取り、ヘッド1のステッカー角度を使って主軸を203.0のように「.0」まで合わせ、フック先端と針スカーフ、そして「紙一枚」ギャップを揃えられれば、再現性のある状態に戻せます。
運用チェック(サインオフ)
- 復旧: カバー、フィンガー、針板が確実に戻っている。
- 糸系: 下糸ケースを戻し、上糸を通し直した。
- 手回し: ブレーキ解除で主軸を手回しし、金属接触音がない。
- 試し縫い: 端材でテストし、糸切れ/目飛びがない。
機械は予測できます。予測できないのは変数です。角度(ステッカー値)、位置(先端とスカーフ)、ギャップ(紙一枚)という変数を管理すれば、縫い品質は安定します。
